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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
技巧そして名工達 の巻

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二百五十三 志七郎、気を使い気を使われる事

「馬鹿タレが。幾ら想定外の事が置きたとは言え、孫に損害をおっ被せる様な事をすりゃ、そっちの方がワシの面子丸潰れっちゅーもんじゃ」


 急ぎに急いで一気に駆け抜けた行きとは違い、帰りは数日掛けてゆったり余裕を持って戻る事になった。


 自分達が買い求めた以外にも、伊達様から受け取った報奨の品々や大量の土産物が馬の背に満載され、乗る事が出来ずその手綱を取って歩かざるを得ないと言うのが最大の理由で有る。


 その道中、鎖帷子の一着を俺が買い取る事を申し出た所、返ってきたのが先の言葉だった。


 良かれと思って口にした言葉だったが、言われて見れば目下の者が気を使う事の方が、よほど面子を潰す事に成るだろう。


 前世まえの感覚で考えても、部下を食事や呑みに連れ出して置いて、後から割り勘だの各自払いだのを口にする様な事をすれば、吝嗇ケチな上司と部下から侮られる原因に成り兼ねない。


 逆に上司の側から奢ると言われているのに、部下があからさまに気を使って『一番安い物』を注文する様な事をされてたとしても、上司の側は『俺は甲斐性なしに見えるのか』と面子を潰された様に感じる事も有る。


 それらを踏まえて今回の件を考えれば『幼い孫に玩具を買ってやったら、その子は別ルートで同じ玩具を手に入れており、しかもその子に気を使われて代金を払うと言われた』と言う構図だ。


 しかもその孫が出すと言ってるのが両親からの小遣いでは無く、新聞配達等のアルバイトでコツコツ溜めた物……。


 と考えれば、祖父の側としては居た堪れない気持ちに成るのも無理の無い話だ。


 俺自身、下手に大人としての感覚と価値観を持っているが故に、それに基づいて物事を判断してしまうが、お祖父様や両親からすれば、如何に前世の記憶が有るとは言っても、未だ七つにも成らない孫で有り子なのである。


 配慮に欠けるのは当然問題では有るが、配慮しすぎるのもまた問題が有るだろう。


「そうですね……配慮が足りませんでした。すみ……ごめんなさい」


 短いやり取りの中で、子供としての特権を振りかざす事に忌避感は有ったが、それでもそうするべき時にはそうしなければ成らないと悟り、子供らしい謝罪の言葉を口にした。


「うむ。それに真の銀を編んだ帷子はそう簡単に駄目に成るものでは無い。補修の跡が有ると言う事は、ワシがうたのは恐らく戦死者の物じゃて……。真っ更な物が有るならば予備に残す物でも無い、捌く伝手は幾らでも有るが故心配するでないわ」


 小さく笑いながら俺の謝罪を受け入れたお祖父様は、そう言葉を続け、更に口を開く。


「それにしても、仁一郎は本に懲りぬ男じゃの。祝いの席故と、禁を解いたら又この為体(ていたらく)か……」


 溜息混じりの視線の先には、明らかに宿酔いを拗らせ足取りの重い仁一郎兄上の姿が有った。


 大蟒蛇と有名な兄上は戦勝の宴で呑み比べを挑まれ、お祖父様の許しが出たのを良いことに、千田院の家臣達の多くと杯を交わし、その大半を呑み倒したのだ。


 酒で鬼に転じた兄上の姿を見ていた筈の千田院の方々が、臆すること無く呑み比べを挑んだ事も驚きだったが、自重すること無く酒蔵が空に成り、伊達様が泣きを入れるまで呑み続けたのだと聞いた時には、驚きを通り越して呆れるしか無かった。


「江戸では手に入らぬ、銘酒の数々。呑まずに帰るは酒呑みの名折れ……」


 口を開くだけでも辛いのだろ、青い顔をした兄上がそう言葉を返すが……。


「全くもって、先だっての醜態の反省が出来て居らぬの……。禁美酒の刑期を延長せねば成らんな……、限度ちゅーもんを考えぬかこの大戯けめが」


「ぬぁ!?」


 呆れに満ちたお祖父様の言葉を聞き、唯でさえ悪かった兄上の顔色は、蒼白を通り越しドス黒い物に変わるのだった。




「志七郎君、やっと帰って来たのー! 頼まれてた物は無事に出来たのー!」



 その後、途中の宿場で一泊し、何の波乱も無く関所を超えて江戸州へと入り屋敷へと戻ると、母上に帰参の挨拶をするよりも早く、そんな言葉が飛んで来る。


 その声の主は連日の徹夜で憔悴しきり、昨日の仁一郎兄上よりも余程顔色の悪い、だがやり遂げた者特有の疲労と達成感に満ちた表情で、ピースサインを掲げた智香子姉上だった。


「あ、姉上。只今戻りました。で、頼まれていた物とは?」


 興奮した様子で迫り来る彼女の様子に少しだけ押され気味に成りながらも返事を返すと、


「にゅふっふっふっふ! お師匠(ししょー)はあっしにゃぁ未だ無理だって言ってたけれども、出来たの! 出来ちまったのよー! しかも二人の手を借りずあっしの力だけで!」


 ……徹夜続きのハイテンションと言うだけでは無く、普通成らば成功しない様な調合に成功したと言う、喜びが混ざり合い尋常では無い精神状態と成っている様だ。


「な、何が出来たんですか? 特に頼んで居た物は無かったと思いますけれど……」


「なーに言ってるの! 四色の鬼亀の甲羅を全部混ぜた『黒の刃金』なの。兄弟子あにさんも失敗しちまったってーのに、あっしは成功させちまったのよ!」


 ……そう言えば、お花さんに『時』属性の武器は未だ作らない様に言われた後、姉上達にその話をするのを忘れていた。


「刃牙狼の牙よりも良い素材を獲って来たなら、コレと合わせて使えばきっとすんげぇ刀が出来るの! 猪山の錬玉術は火元一ぃぃぃいいい! なの!」


 巾着から取り出した漆黒の地金(インゴット)を天に向かって掲げ、喜びの舞でも舞う様に俺の周りをクルクルと踊りながら、そんな言葉を口にする。


「あー……姉上、申し訳無いのですが、現状では時属性の武器は便利過ぎて俺の成長を阻害すると言う事で、作らない方が良いと言う事に成ったんです……」


 あまりのハイテンション振りに、これを言うのは少々気が引けたが、作ってもらった物を使わなかった事を後から知られるのも具合が悪いだろう。


「……本気(マジ)で?」


 ピタリと動きを止め、錆び付いた人形が無理矢理動く嫌な音が聞こえそうな程にぎこちない様子で振り返った彼女の表情はこれ以上無い程に真顔だった。


「誠に申し訳無いのですが、マジです……」


 俺が忘れている間にも、彼女達は試行錯誤を重ね只管に苦労して居ただろう事は、姉上の姿を見れば想像に難くは無い。


 ソレが完全に無駄骨だったと言うのだから、その衝撃は計り知れない物が有る。


 しかもその原因が伝え忘れなのだから、俺の責任は決して軽い物では無い。


 力尽きた様に四つん這いに成った姉上にどんな言葉を掛けるべきか……、少なくとも謝罪しなければ成らない事は間違いないだろう、そう思い俺が口を開きかけた時だった。


「地金は腐る物では無い。今の段階で必要と成らずとも、追々の事を考えれば決して無駄には成らぬ」


 厩へと馬を入れに行って居た仁一郎兄上は、姿を表わすと同時にそんな事を言ったのである。


「……の? あっし等の苦労は無駄じゃ無かったの?」


 一縷の望みを示された姉上が、縋るような瞳で兄上を見上げそう問いかけた。


「うむ、今日明日の事ではなかろうがきっと役に立つ日が来るはずだ。難しい仕事を成功させたのだ、何時か必ず報われる日が来よう。さ、今日はもう休め……疲れで折角の可愛い顔が台無しだ」


 自信有り気にそう言う兄上の表情は、道中の宿酔いに苦しんでいた情けない物とは打って変わって、長兄らしい頼りがいの有る物に見えた。


「……そろそろ歳暮を送るにも良い時期だしな」


 ぼそりと、小さく呟いた言葉の意味は良くわからなかったが……。

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