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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
技巧そして名工達 の巻

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二百四十五 志七郎、北へ。その五

 咄嗟に振り上げた刀で一匹の牙を去なし、半テンポ遅れて迫る牙を兜で受け止め、最期の一匹が首を狙い斬り付けてきたのを前へと崩れ落ちる様に跳びながら躱す。


 下に向かって叩き付ける様な攻撃を受けながらでは当然綺麗に着地する事は出来ない、だからと言って悠長に寝っ転がっていては次の攻撃で俺の命はあっさりと絶たれる事に成ってしまうだろう。


 それ故、跳び前転の要領で即座に立ち上がり、追撃を防ぐ為刀を大きく横になぎ払いながら振り返る。


 上から急襲してきたのは俺に向かってきた三匹だけでは無かったらしく、兄上の頭上にも時間差で五匹が襲いかかって居た。


「どぅぅぅりゃぁぁぁぁ!!」


 対して兄上は雄叫びを上げながら槍を頭上でブン回し、それらをあっさりと弾き飛ばす。


 無論それをぼうっと見ている暇などない、俺に仕掛けてきた三匹は無傷なのだ、他所見などすればその牙が俺の首を刈るのは時間の問題だ。


 兄上の方は取り敢えず大丈夫そうだと判断し四煌戌の姿を敵を視界から切らぬ様に注意しながら目端で探す。


 どうやら四煌戌は俺達程の脅威とは判断されていなかったらしく、彼らの周りに居るのは特徴的な横牙の無いごく普通の牙狼の様である。


 あれならば放って置いても即座にどうこうと言う事もあるまい、先ずは目の前の敵を片付け無ければ。


 そう腹を決めると、俺は見える範囲の中で最も太い木を探し、それを背にする様位置取りを変える。


 頭上からの強襲も厄介だが、それ以上に危険なのは前方からの攻撃に合わせて、背後から飛び掛かられる事だからだ。


 幾ら氣を纏おうとも体格の差は如何ともし難い、牙の一撃を回避出来たとしても押し倒されでもすれば、その時点でアウトである。


 多数を相手にする時には、先ず囲まれない事が何よりも重要なのだ。


「志七郎! 落ち着いて対処せよ、小奴らは俺が以前仕留めた奴よりは幾分か格下の様だ、其方でも十分に倒せる範疇であろう!」


 と兄上が普段とは違う大きな声でそう叫んだ、一瞬その姿を確認すると後ろから飛び掛かってきた刃牙狼を馬の後蹴りで弾き返している姿が見えた。


「はい!」


 短く返事を返し左手で懐から銃を抜き、俺を取り囲みゆっくりと円を描くように回る、その内の一匹へと銃弾を放つ。


 兄上の言う通り刃牙狼の中でも格下(低レベル)の相手だとしても、それだけで仕留められる程に簡単な敵では無い、それでも銃弾を躱すなり弾くなりする為、挙動を乱す程度の効果は有るだろう。


 狙い誤る事無く眉間へと迫る銃弾を刃牙狼は牙を振り抜き弾き飛ばす、だがそれだけで十分だ。


 可能な限りの氣を込めた刀を素早く振り抜き、更なる氣を押し込め放つ、氣による斬撃『氣翔斬』だ。


 氣を込めた刀で直接斬りつける程の威力は今の俺には未だ出せないが、一匹を仕留める隙を突かれるよりは遥かにマシだろう。


 瞬きする程の時間も掛からずに氣の刃が首を捕らえ、血飛沫を上げながらそれを跳ね飛ばした。




「危険が有ればすけるつもりだったがその必要も無かった様だな」


 一匹目があっさりと討ち取られた事に警戒したのか、二匹目からは少々時間が掛かった事も有り三匹目を仕留めるよりも早く、兄上は五匹を片付け更には四煌戌を狙う牙狼達も追い払っていた。


「最初の不意打ちは兎も角、事前に聞いていた程強くは有りませんでしたね」


 兄上に周囲の警戒を任せ獲物を手早く解体しながらそう言うと


「うむ……鬼や妖怪は同族でも個体差は有るものだが、小奴らは牙狼に毛が生えた程度の力しか持たぬ個体のようだな」


 兄上は目を閉じ周囲の気配を探りながらそう返答を返す。


「それにしても真逆、此方が不意を打たれるとは思いませんでしたね」


 生まれ変わって以来、幾度と無く繰り返してきた鬼切りだったが、完全に先手を取られたのは初めての事ではないだろうか?


 四煌戌の索敵範囲を上回る敵を相手にした事は無く、先に見つけた成らば後はぴんふと歌が狙撃する事で削り、間を詰められる頃には相手は大概満身創痍だった。


「……地表近くに風を吹かせたのだろう? 木の上に居る可能性に考えが及ばなんだのは手落ちだったな」


 少し考える様な間の後、そんな言葉が返ってくる。


 兄上の言う通り周囲から上空へと空気を逃がす事で地表近くの匂いを集める、と言う意図で『微風』を吹かせたのだが、今回の場合それが裏目に出たのだろう。


 相手が草叢にでも身を潜めていれば、その匂いは風に乗って届いただろうが、逆に木の上に居た相手に俺達の匂いを届けてしまったらしい。


「俺達が今仕留めたのは、見張りか偵察か……どちらにせよこの先には、強く多くの本隊が居る事は想像に難くは無いな……。事前の予想より多くの素材が手に入った事だし、引くのも手では有るが……」


 弱い個体だとしても、素材の特性としてはそうそう大きく劣ると言う事は無いらしく、首領格(ボス)一匹分の牙を想定していた所で八匹分の横牙が手に入ったのだから、確かに十分過ぎる成果と言える。


「ですが本隊や首領を仕留めずに帰ると、更に被害が広がるんじゃないでしょうか? 人に被害が出無ければ良いと言う事でも無いでしょう」


 畜産を営んで居る者が少なくないらしいこの周辺で被害が出続ければ、首を括らなければ成らない様な者も出るだろう。


 流石に俺達だけで全ての決着を付ける等と、思い上がった事を言うつもりは無いが、援軍を呼びそれと同行する程度の事はしても良いのではないだろうか?


「……下位個体とは言え刃牙狼が先発隊に居たのだ、最悪首領は剣牙狼かそれよりも更に上位の(ばけもの)である可能性も有る。お前の言う通り、完全に頬被りする訳には行くまい、最低でも伊達様にはお知らせせねば……」


 刃牙狼よりも更に上位で有る剣牙狼は牛や馬並の体躯を持ち、牙だけで無く爪も安い鎧ならば簡単に貫くのだと言う。


 それよりも上位の種と言うのは記録には無いらしいが、絶対に居ないとは言い切れない。


 戦場では『何が起こっても奇怪しく無い、あり得ないと言う事こそあり得ない』ので有る。


 どちらにせよ想定以上の敵が居る可能性が出て来た以上は、地元の藩主で有る伊達様に報告し、伊達家主導で討伐隊を出す必要が有るだろう。


 それに俺達の参加が許されるかどうかは解らないが、討伐隊が来るまでの間の警戒役を買って出る分には、文句を言われる事も有るまい。


「牙は引っこ抜けましたし、毛皮と肉や内臓は少々勿体無いですが置いていきますか……。追撃が来れば事ですし……」


 取り敢えず森の外まで下がり、鳩便で援軍を要請しそれが来るまで防衛警戒に当たる、と方針が一致した。


 刃牙狼の横牙は一本一本が六寸《約18cm》程も有りそれが八匹分で一六本、それだけでも結構な荷物に成るし、通常の牙狼の物と扱いの変わらない牙もわざわざ剥ぎ取る必要は無いだろう。


 刃牙狼の毛皮は綺麗に処理をすれば少なくとも一匹辺り一両、肉は然程美味しい物では無くそれでも一貫文には成る、内臓も様々な霊薬の材料に成るらしく新鮮なまま持って帰れば良い値が付く、だがこの状況で悠長にそれらを解体している暇は無いだろう。


 向こうの偵察隊を仕留めた事で此方を脅威と見なし追撃が無ければ良いが、そうそう都合よく事が運ぶ訳が無い、物事は最悪を想定して動くべきなのだ。


 欲の皮を突っ張らせた所で損をすると言うのは、前世まえ今生いまも変わりはしない。


 鞍の後ろに載せられた荷物籠にそれらを放り込み、俺達は急ぎ足で森の外へと転進図るのだった。

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