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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
技巧そして名工達 の巻

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二百四十二 志七郎、北へ。その二

作中に特定地域や方言を揶揄する様な表現が有りますが、

筆者には方言を馬鹿にする意図は御座いません、

方言には文化的な価値が有るものとして保存するべき物と思っております。

予めご了承ください。

「おお、よう来たのぅ仁一郎、久しぶりだ。で、そっちの小さいのが鬼斬童子だな? 儂が千田院藩主、伊達だて慎之丞まきのじょうだ」


 日暮れ近い時分俺達はその日の内に藩都――千田湊せんだみなとへと着いた。


 何処かの宿にでも一泊して翌日の狩りに備えるのかと思えば、兄上が迷う事無く向かった先は藩主居城で有る三都居みとお城だ。


 門番を務める者も兄上の顔見知りだったらしく、先触れの使者も居ないと言うのに、誰何もされる事無く即座に藩主の元へと案内してもらえた。


 そして顔を合わせる成り儀礼的な挨拶の一つも無く、冒頭の台詞を投げかけられたのだ。


 白粉で白く塗られた顔と権太の眉毛に、総髪棒茶筅と呼ばれる月代を作らない髷、橙に染め上げられた絹の地に金糸で飾り立てられた着物は良く言えば豪華絢爛、悪く言えば毳々しく目に映る。


 羽織を纏って居ないのは俺達が公的な理由で訪ねて来た訳では無く、飽く迄も私的な関係で訪ねて来た客だと言う事を家臣や家族に示す為だろうか?


 派手な上半身と打って変わって、灰色と黒の縞と言う一見すると地味な袴だが、蝋燭の灯りに照らされた布地が見せる艶やかな光沢から察するに、その素材は絹で決して安い物では無い事が見て取れる。


 金箔張りの扇子を手にしたその姿をトータルして見れば、上様と指して変わらぬ装いの筈なのに、下卑た物に見えるのは何故だろうか……。


「は、伊達様に於きましてはご健勝のご様子何よりに御座います。この度は急な訪いにも関わらずお目通り叶いました事、厚く御礼申し上げます。お言葉通り、これに居ますは我が弟に御座います」


 先方が気安い態度を示したからと言って、それにあっさり乗るのは猪山の次代は礼儀知らずだと喧伝する様な物で有る。


 ああいうのは立場が上の者だからこそ許されるのだ。


「お初にお目に掛かります、猪山藩主猪河四十郎が七子志七郎に御座います。お見知り置きの程宜しくお願い申し上げます」


 俺達は正式な儀礼に従い、両の拳を畳に押し付け平伏したまま、そう返答を返した。


「苦しゅうない、面を上げよ。儂と四十郎は同期の桜で竹馬の友、その子等で有れば儂にとっても子も同然……とまでは言わぬが、身内で有る事には変わらぬ。そう鯱張った態度は不要ぞ」


 上下関係に厳しいこの世界幾ら友人の子供とは言え、ここまで気安い態度に出れば『他藩の者に舐められる』と、煩方が口を挟むのが普通だろう。


 だが居並ぶ家臣達の誰一人としてその様な忠言をする様子は無い。


 前世まえに諫言を嫌いそれを為す者を殴り飛ばしたりする様な、時代が時代ならば暗君としか言え無いそんな親分を頂く組を相手にした事があるが、そう言う組織に所属している者には独特の緊張感の様な物が有る。


 少なくともこの場に居る家臣達にはそれらしい物は感じられず、またその様な暴君の類を父上が友と名乗る事を許すはずが無いだろう。


 そんな事を考えながら言われた通り顔を上げると、


「なんだ童子わらしが随分と難しい顔をしておるな。儂の態度に誰も文句を言わん事が不思議だ……と言った所かの?」


 以前に比べれば、考えが顔に出ない様に成ってきたと思っていたのだが、こうもあっさりと考えを読まれると……正直凹む。


「……お前の心を読んだとかそう言う事では無い。この御人は誰に対してでもこうだからな、皆様も今更の事と思っているのでしょう。あとは……」


「江戸弁で話せねぇもんだから、恥ずかしがってるだけじゃて……江戸からの客人相手だと何時もの事じゃ。いい大人が情けない……」


「「すんなごとねぇべ! おらぁちゃんと江戸弁さ、しゃべぐってるっちゃ!」」


 思わず座ったまま転けそうに成ったのも無理ない事だと思いたい……。




「すっかす、流石すすが鳥獣司ちょうじゅうつかす殿だ。きんなの今日だってぇのに、よぐござったごだ」


「ほんだほんだ、流石は音に聞こえす猪山のすぅだっちゃ」


 一度声を出してしまえば開き直れるのか、先程まで固く結ばれていた彼らの口が、のべつ幕無しに開かれ兄上に対する賞賛の言葉が浴びせられる。


 大名本人は基本的に江戸育ちの為、全国何処でも江戸弁――前世で言う所の標準語――で会話が成り立つのだが、地元で育ち参勤等の理由が無ければそこから出る事の殆ど無い家臣達は御国言葉なのが普通だ。


 遠国おんごくだったり自他共認める田舎ならば、それが当たり前と開き直る事も出来るのだろうが、千田院は俺達が一日で来れた様に、江戸から遠く離れていると言うほどでは無い。


 また千田湊は北前船の寄港地の一つでもある為、江戸からの来訪者は比較的多い地域と言えるだろう。


 周辺諸藩に比べ文化的にも経済的にも恵まれ発展している千田院は江戸と大差ない都会、と言う自負が有るのだが、参勤で江戸へと上がった者の大半が『言葉の壁』に打ちのめされるのだと言う。


 彼らの故郷でその言葉をどうこう言う者は居ないが、江戸へと上がればそうは行かない。


 他藩それも相手の落ち度や弱みを血眼に成って探す政敵達からは、必ずこう言われるのだ、『なんだあの田舎者丸出しの連中は……』と……。


 それを口にする者は必ずしも自分達よりも格上の相手とは限らない。


 むしろ大大名であり、多くの文化人を輩出してきた千田院よりも田舎と言える様な地の者達が大多数だろう。


 それが言葉ひとつを取って嘲りを受けるのだから、堪ったものではない。


 そんな背景が有るが故に、伊達家中では江戸弁に対して強い劣等感を抱く者が少なく無いのだそうだ。


「それにすてもたった二人で、すかもおぼこさ連れて『ずんがろー』ば狩ろうたぁ、流石はあの一郎の弟子(です)だっちゃや!」


「ほんだってやぁ、此処らのもんじゃぁずんがろーどこっかがろーでもしっこむぐすぺ?」


「んだなぁ、がろーはおっかねぇだおんな」


 経済的にも文化的にも発展しているが故の問題はもう一つ有る、農業や漁業と言った当たり前(・・・・)の産業だけで十分な実入りが有る千田院藩では、鬼や妖怪を積極的に呼び込む(・・・・)必要性が薄く戦場と呼べる場所が殆ど無いのだ。


 その為、千田院藩は町人階級の鬼切り者も殆ど居らず、武士達ですら江戸に上がった際の割当分位しか鬼切りに出る事は無く……はっきり言ってしまえば火元国中でも下から数えた方が早いほどに弱い(・・)のである。


 では何故そんな弱い者達が大大名の一角を担う事が出来ているのかと言えば、武力を持たずとも有り余る財力を持ち、他藩との外交に優れているからだ。


 幕府はもとより、風間藩や芋野藩と言った武勇を誇る藩、更には江戸に有る幾つもの道場に対して少なくない『友達料』を払い、用心棒代わりにしている……と言うのは噂に過ぎないが、その噂が抑止力に成っていると言うのは事実だろう。


 ちなみに猪山藩ウチも武勇を誇る藩では有るが、友好関係は兎も角友達料等と言われる様な銭は受け取っていない、と言うのは兄上から聞いたので間違い無い筈だ。


 とは言え今回の様に強い鬼や妖怪が絶対に出ない訳では無く出る時は出る。


 他藩ならば多くの犠牲を出してでも、討取るか百歩譲っても人里に被害が出ぬ様防衛を行わねば、領地を護る大名としての面子が立たないのだが、稀とは言え此の地に出るのは何故か需要の高い物ばかりで、他所から遠征が来ても不思議では無い物ばかりなのだ。


 今回もつい数日前に発見されたソレを倒す者を、募集する為に文を認めている、丁度その時兄上からの問い合わせを受け取ったのだそうだ。


「さて、お二人は明日にでも早々に刃牙狼じんがろうを討取りに参るのであろう? 部屋は用意させてあるが故、飯と風呂が済んだらゆるりと休まれるが良いて……。かのあやかしは中々に手強いと聞くでな」


 手にした扇子で膝を打ちながらそう言い放ったのは、食事と風呂の準備が整ったのを見計らっての事だったのだろう。


 その言葉の通り、食事と風呂を待たされる事無く済ませ、その夜は早々に床へと案内されたのだった。



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