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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
伊達と酔狂の町人達 の巻

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二百十七 志七郎、家路を辿り狂人の猛りを見る事

 此処最近食べていた様な飛び抜けて美味い……それらに比べれば一段も二段も落ちるが、そこそこ美味いと言っても、まぁ間違いは無いそんな夕食を食べ終わり、そろそろ帰宅する頃合いと相成った。


 支払いの段にも


「此処はオイが持たせて戴くでごわす」


「いえいえ誘ったのは此方なんだから私が払うわ」


「大名の嫡男で有り、この場に居る武家の男児で最年長は俺、ならば銭を出すのは当然俺で有ろう」


「なんの、騒ぎを大きくしたのはそれがしでござるが故、詫びも含めてそれがしが持つのが筋でござる」


 と、誰が払うかで軽く一悶着起こりそうにも成ったのだが、武士の面子、男の面子を主張した仁一郎兄上が払うのが一番角が立たないと合意に至った様だ。


「それじゃぁ、もう少し策を煮詰めてから雑賀様に正式な書状をお送りする事になると思うから、お前さんはそちらの当事者達の顔を立てて、何も無かったって風に振る舞う様にお願いね」


 見世を出るタイミングで母上が毒島関にそう言い含め、彼を送り出してからみんな揃って家路を辿る。


 流石に提灯の明かりが必要なこの時間帯に女子供だけで帰す訳には行かないので、先ずはみんな揃って歌を送って行く事になったのだ。


 当初は義二郎兄上と瞳義姉上の二人で送っていくと言う案も有ったのだが、件の如く兄上を狙う理由が有る輩が江戸中にどれほど居るかも数え切れないと言う状況では、流石に他所の娘さんを預かる立場とするのは不的確だと判断されたのである。


「まったく、せっかく良い芝居を見て色々と良い土産話を得られたと思っていたのに……、仁ちゃんも義っちゃんもコレに懲りたらもう少し自重ってものを覚えなさいね」


 当然ながら、道中は兄上二人に対する母上の説教が延々と繰り広げられるのだった。




「今日は妹が世話に成ったな。歌江よ皆様に御迷惑を掛ける様な事はしなかったか?」


 江戸城東門へと着くと其処には歌を迎えに来ていたらしい桂殿が、門を照らす篝火の灯りで本を読みながら待っていた。


「いいぇ、歌江殿は本当に良い子で、迷惑なんて何にも有りゃしませんでしたよ。むしろ今日はウチの馬鹿兄弟の所為で色々と余計な迷惑を掛けた位で……」


「母上、その件は一応無かった事なのですから……。本人から家族へ伝わる分にはしょうが無いにせよ、そう外で軽々しく口にする事ではござらんでしょう……。すまぬな髭丸、詳細は歌江殿に家で聞いてくれ」


 母上の言葉を遮る為に二人の間に割って入りながらそう言う義二郎兄上だったが、


「誰が禿丸だ……って、え?! お、おい鬼二郎、お前一体何が有った!?」


 桂殿は何時もの定番とも成っている掛け合いが成り立たなかった事に、愕然とした表情でそう問い返す。


「いや……まぁ、色々有ったのだ。先方の面子も有るし、そうそう口外する事では無く成っておるのでな……」


 バツの悪そうな表情で更にそう返す義二郎兄上、


「……どうせまた貴様が余計な喧嘩を売るか買うかしたのだろう、本当に懲りない奴だ。まぁ、俺に協力できる事が有るならば何時でも言え。父上に迷惑を掛けない範囲でならば幾らでも力は貸す」


 対して桂殿は、皆まで言わずとも何時もの事だろう……とため息を一つ付いただけで、その事については飲み込んでくれたらしい。


「彼の一件は兎も角、芝居も夕食もとても楽しかったです。芝居見物は武家の女子に取って必須の社交とも御母様に言われておりますし、また機会が御座いましたらお誘い下さいませ」


 兄上達の会話が一段落したのを見計らい、今度は歌が母上に向かってそう言った。


「そうね、今度は奥様に義姉おねえ様もご一緒しましょうね。ではお二人とも桂様にくれぐれも宜しくお伝え下さいまし」


 色々と思う所は有るが……といった風に小さくため息を付いてから、普段通りの優しい笑顔でそう返し、踵を返す。


 当初は下りの船の数倍する船賃を払う必要が有るので、帰りはゆっくりと歩いて行く予定だったが、日の長いこの真夏に提灯が必要に成る時間帯で有る、悠長に歩いていては帰り着くのは夜半を回る事に成るだろう。


 家及び我が家預かりの身で有る瞳義姉上だけならば然程問題にはならないだろうが、箱入りで世間擦れしているとは言い難い浅雀の奥方に、嫁入り前の御嬢様で有る所の千代女義姉上も居るのだ、そんな時間まで連れ回せば大きな問題と成る事は目に見えている。


 それ故帰りも足の早い船を雇って乗って行く事に成るのだが、行きとは違い事前の予約なんぞして居ない。


 前世まえの都市圏ならば、その辺の大通りに出れば流しのタクシーを拾うのは然程難しい事では無かったが、バスとタクシーを兼業している様な立場の船を捕まえるのにはそれなりの時間と手間が掛かる様に思えた。


 かと言って定期船を乗り継いで戻るのには俺達の人数が多すぎだ。


 それらの問題をどうするのかと思って居たのだが、最寄りの船着場へ着くとすぐに母上が


「船を二艘、東上町まで出してちょうだい。急ぎだから御足は弾むわよ」


 と割増料金を匂わせて声を上げただけで


「俺っちの船に乗ってくんな!」


「ばっかやろ、お前は次の路線当番じゃねぇか! あっしが出しやすぜ奥方様!」


「てやんでぇ! ワシの船は大船じゃからな、一艘で全員運んじゃるわい」


 と、何人もの船頭が自分達を売り込んできた。


「急ぎだから、足の遅い大船じゃぁ困るのよ。出来るだけ足の早い船が良いわ」


 そう言って、幾人もの船頭の中から比較的体格の良い二人を選び出し指名した。


 江戸城のお堀端に有るこの船着場から俺達の済む北東外縁部――東上町へは、川の流れに逆らって進まねばならない『上り』なので、大した力を使わずとも速度が出る下りとは違い、櫂を漕ぐのにも大きな力が必要に成る。


 その為力が強そうな者を選んだのだと思ったのだが……


「お前さん達は氣功使いだろう? 沈まぬ程度に全力で行ってちょうだいな。早く付いたならその分だけお礼にゃ期待してちょうだい」


 母上は何を基準にしたのやら、氣を纏ってすら居ない船頭達を氣功使いと見破って指名した様だ。


 そして選ばれなかった連中にとっても『氣』と言う町民にとっては尋常ならざる力が条件と有っては、納得せざるを得なかった様で儲け話に群がっていたのがあっという間に引けていく。


「そんじゃぁ、全力で飛ばしてっから落ちねぇ様にしっかりと掴まってくんな」


 朝同様二艘に別れて乗り込むと、俺達の乗った方の船頭はそう言って氣功使い特有の長い吐息を響かせ始め……櫂を握った。


 直後、後方に大きく爆発する様に水面が弾けた。


 ただ漕いだだけで発生する物では無い、恐らくは櫂を通して氣を水中に放ちその衝撃を利用して船を発進させたのだ。


 そんな派手な真似をしてもう一艘に影響が無い訳が無い……と心配したが、どうやらその必要は無さそうである。


 もう一艘を操る船頭も殆ど同じタイミングで同様にロケットスタートを決めて居た様で、二艘は並んで川面を滑る……と言うか飛ぶようにして進んでいた。


 堀や水路の様な人工の河川はほぼ真っ直ぐでは有るが、他にも進む船も居れば目的地に向かうには曲がったり自然の河川に入る必要も有る。


 それらを最小限の動きで躱し、曲がり角では船が岸にぶつかるよりも早く櫂を叩きつけ強引に曲がって行く。


「……何人足りとも、俺の前は走らせねぇ」


 どこかで聞いた覚えの有る呟きを口にしながら、船頭は据わった目で行先を見つめながら更なる氣の爆発を響かせて船を加速させるのだった。


 ……船頭ってのはこんなスピード狂ばっかりなのか?!

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