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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
伊達と酔狂の町人達 の巻

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二百十六 志七郎、企みを聞き運命に思いを馳せる事

 お忍びの何処の誰とも知らぬ侍同士が酔って絡んで喧嘩をしても、双方が「お忍び」を守っている限りに置いては『家』は関係なく、個人の『尋常な果たし合い』であり、例えそれで人死が出たとしても、なんら問題と成る事は無い。


 連中が『猪山』の鬼次郎と所属藩をわざわざ口にした上で喧嘩を売り、それに対して『お忍び』なのだから『人違い』で流せば良かった。


 どうしても腹に据えかねると言うのならば他人の空似と押し通した上で『尋常な勝負』をするか、もしくはその場は流して置いて後から先方の殿様にねじ込み『貸し』を作る事も出来た。


 それをわざわざ『猪山の鬼次郎』だと肯定した上で『戦争』だなどと藩同士の揉め事にする様な事を言ったのが問題だったのだ。


「結局は志七郎君の口車に乗って『無かった事』でその場は収めたけど、たぶんあの場におった野次馬連中や、瓦版屋辺りに素っ破抜かれて話が江戸中に広がるのは時間の問題やね。そやからさっさと手を打っておかなあかんのよ」


 今回の一件発端は間違いなく先方に有る話だが、酔っ払いの戯言に乗っかったのは此方の失態、謝罪をするならば双方向に『いえいえ此方こそ』と成るのが理想的と言える。


 友好藩同士ならば苦せずともそういう流れを作るのは簡単だろうが、残念ながら猪山と雑貨さいがは因縁浅からぬ政敵とも言える間柄だそうで、先方からの謝罪はまず望めず此方から謝罪しても『そうだお前が悪い』と成る可能性が高い。


 だからと言って何の手も打たねば千代女義姉上の言う通り、面白可笑しく脚色された噂が双方に不利益を齎す事は想像に難くない。


 そこで千代女義姉上が考えだしたのが、猪山の武勇と並ぶ御家芸共言える『博打』と、先方が力を入れている『角力』を合わせた一案だった。


「ウッとこにも、馬蓮ばあす柿布かきふ岡太おかたって三人の『本物』が居はるんや。番付的には毒島はんよりも一枚二枚落ちるけどなぁ」


 単純に同格の者を立てての『賭け』ならば喧嘩の決着を付ける『勝負』と先方は受け取るだろうが、明らかに格下の力士との取り組みに『賭け』を持ち出せば、それは此方からの謝罪と受け取られるだろう、と言うのが千代女義姉上の目論見だそうだ。


「流石にそれじゃぁ駄目よ、こっちから折れてやっても『自分のほうが立場が上に成った』と勘違いする馬鹿の方が世の中多いんだから……。とは言え角力と賭けってぇのは悪く無いわ、毒島関と勝ち負け出来る相手を用意しないと」


 そう異論を唱えたのは瞳義姉上だった。


「そやけど猪山にはお抱えの力士は居はらんやろ? 浅雀も『看板』は兎も角、本物は今は居はらんかったと思うし……誰か心当たりあるん?」


 力士は出身藩の大名がその生活の面倒を見る『お抱え』にするのが一般的で、強い力士を出したと言うのも武家として立派な名誉に成る。


 その為、角力に力を入れている大名が治める藩では事ある毎に角力大会が催され、優秀な成績を収めた者は力士として取り立てると言う事がされるのだ。


 だが力士は例外なくよく食べる、食い稽古なんて言葉も有る通り、その大きな身体を作り維持するのには膨大なカロリーが必要に成るのである。


 それ故に力ある力士を複数抱えるのは家に取って大きな負担となる為、小大名や大名未満の幕臣の所領出身の力士は、高値を付けられて他家他藩に『身売り』がなされる事も決して少なくは無いのだそうだ。


 我が猪山藩はご存知の通り一万石少々の小大名だ、それでも普通の力士を一人二人抱える程度の甲斐性は有る……通常ならば。


 ぶっちゃけて言ってしまえば、一郎翁と義二郎兄上の食事量が並の力士数人分に成る為、あの二人を我が藩で養っている今の状況では、更に大食いを抱える余裕が無いと言う事らしい。


「別に本業の力士じゃなくたって、勝ち負けに成るだけの実力者なら家の家中に一人居るよ。アタシと義二郎様の縁談が本決まりだって、世間様にお披露目するのにも丁度良い機会にもなるさね」


 豹堂の家中で角力が強い……どう考えても『彼』だろう、と言うか『彼』しか居ない。


「……どうやら、その方向で動いて良さそうだねぇ勝負自体は勝っても負けても私が悪いようにはさせやしないさね。其処の馬鹿二人の説教は帰ってからゆっくりとするとして……今日の所はゆっくりとしようかね。皆も後はゆるりと食をたのしみましょう」


 二人の義姉達が考えた案を母上が承認し実行する事を決め、兄上達への処罰云々も後にすると宣言し母上はようやく茶菓子へと手を伸ばした。




「それにしても猪山の皆さんは本当によく騒動に巻き込まれますねぇ……一緒に居れば退屈する事だけは無い、とお兄様が言っていましたが……」


 母上達の企みも一段落した所で、歌がそんな言葉を漏らした。


 言われてみれば、俺が『俺』と成ってから既に二年近くの時が経っているが、その間だけでも両の手で足りない程の騒動を見聞きしている。


 これがこの世界の普通なのかと思えば決してそんな事は無いそうで、奉行職と言う騒動の始末を担当している桂様ですら、日常的に起こる小さな事件は兎も角、歌の耳にも入る様な大騒動に関わるのは精々年に一回二回の事だそうだ。


浅雀藩ウチでも、母上達の仲が安定してくれた御蔭で、そうそう余計な騒動は置きなく成りましたね」


「そそ、前は私達が一緒に居るだけでも、それぞれを担ごうとする家臣達が揉めそうに成ってたけれども、アレ以来は兄上の見合い以外にゃぁそうそう大きな騒ぎはないな」


 りーちにぴんふの言葉からも、やはり猪山藩ウチが極端に多くの騒動の中に居る事が解る。


 正直俺としては『浅間様』に命じられた事を成す為に旅立つその日までは、ゆっくりと静かな生活をしていたいと思うのだが、如何せん騒動の方が俺や猪山の面々を狙い撃つ彼の様に寄って来ている様に思えた。


「……そらそうでおじゃる。神の加護を持って生まれた者は、その加護をより活かせる様に成長する為に、無数の試練が与えられると言われておじゃる。それが七兄弟全てなのだから、騒動が起こらぬ方が稀有という物でおじゃ」


 子供たちの話を聞いて、そう口を挟んだのはソレまで静かに何やら冊子の様な物を読んで居た信三郎兄上だった。


 ある意味気持ち悪い程に相好を崩し『グフッグフッ』と怪し気な笑い声を漏らしながら、(ページ)をめくっていたが、一通り目を通して満足したらしく、それを脇に置いてこちらへと顔を向けたのだ。


 そんな信三郎兄上に拠れば、神の加護は生まれながらに何らかの技能を持つと言うだけで無く、その技能を用いて天下に名を轟かせ、場合によっては新たな神と成り得る……そんな存在なのだそうだ。


 そして、そんな神候補生とでも言うべき加護持ちには、越えられるかどうかも怪しい様な酷い試練が人生の中で幾つも襲い掛かってくる運命に有るのだと言う。


「麻呂達は良くも悪くも何を成すにも猪山藩と言う後ろ盾が有るのでおじゃるから、ほんに幸運な事でおじゃる。町民百姓の家に生まれた加護持ちの中には己が加護持ちで有ると言う自覚も殆ど無く、試練に巻き込まれ散る者も決して少なくないと聞く……」


 加護持ちは血筋に関係なく生まれる事が有り、親がその意味を理解して居ない様な場合、その言わば『試練体質』とでも言うべきその特性が時に不幸を呼ぶ事も有るのだそうだ。


 武神の加護を受けて生まれた百姓の子で有れば、当然の様に『武』を必要とする事体に巻き込まれる運命に有ると言えるが、その時が来た時に得物を手にしているかどうかは怪しい所で、生まれてからソレまで稽古らしい稽古をした事も無いなんて事もあり得る。


 分かりやすいケースとしては『彼』の住んでいる農村に『鬼の大群が雪崩れ込む』なんて事が有るだろう、そうなった場合本人は兎も角、周りの家族は堪ったものではない。


 とは言え加護を持っている者が居るから試練として鬼を送り込んだ、という訳では決して無く、鬼が出る未来を知った武神がその地に加護持ちを送り込んだ……と言う事なのだそうだ。


 神々の中には未来を見る権限を持つ者も居るらしく、その予言を元に神々はこの世界から少しでも不幸を無くす為の努力をしており、加護持ちはそれらの不幸を少しでも少なくする為に過酷な運命を生きる、言わば神々の手駒なのだ。


 と信三郎兄上は歳の割に達観した瞳で宙を見つめながらそう言って茶をすすった。

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