表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
伊達と酔狂の町人達 の巻

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

214/1256

二百十二 志七郎、芝居見物を終え絡まれる事

 緞帳が降り、改めて小屋の中に灯りが灯されていく。


 うーん……どうもあの結末は納得が行かないと言うか……、何と言うかこう……腑に落ちないと言うか……、前世まえのネットスラングで失礼ながら『もにょる』そんな感じだ。


 これは俺が『ハッピーエンド至上主義』とでも言うような前世の日本の……それも『チーレム』なんかが持て囃されたネット小説を好んで居たからかもしれない。


 そもそもその手の作品を特に好んでいたのは、現実で起こる事件の大半が『めでたしめでたし』で終わらないが故に、せめて物語位はそう有って欲しいと言う願望が有ったからだと思う。


「おょ? 志七郎、何を妙な顔をしてるでおじゃるか? 多少の粗は有ったが、中々に良い芝居だったではおじゃらぬか」


 芝居慣れしているらしい信三郎兄上にとっては満足の行く内容だった様である。


「うーん、手前は芝居見物は初めてですが……こういう『めでたくなし、めでたくなし』な終わりが普通なのですか?」


 俺と同じくこの結末が腑に落ちないと感じているのはりーちで、


「子供向けの紙芝居や草子物だと、綺麗な結末が多いですからねぇ。武家物語の類だと主人公が主君の為にその身を賭して忠義の為に死する、のを結末とする様な物も多いですし、来世での再会を示唆してる分穏当な結末だと思いますよ?」


 逆に信三郎兄上同様、あの終わりに理解を示しているのはぴんふで有る。


 理解派の二人に拠れば『仇討物』は主君や夫の仇を打った後に「お側に参ります」と自害して果てる結末が大半なのだと言う。


『仇討物』として前世でも有名だった『忠臣蔵』でも討ち入りを行った者達は最期には皆切腹していた記憶が有る。


 仇討を完遂して『めでたしめでたし』と成るのは『親の仇を子が討った』パターンの更にその子が『武士』で有る場合が大半なのだそうだ。


「まぁ、物語の好みや趣味は十人十色ある物でおじゃる。其方等の様に大団円が良いという者も居るじゃろうが『人の不幸は蜜の味、人の幸せ砂の味』と言うような者の方が多いのではなかろうかの?」


 娯楽が多様化した前世でも、他人の不幸程面白いネタは無い……と公言する人は確かに一定数は居たし、そういう話を扱ったメディアは常に需要が有った。


 そう考えれば、決して理解出来ない話では無いかもしれない。


 とは言え、俺の好みでは無いというのは間違いないが……。


「さて……そろそろ出る準備をするでおじゃるか……、女子衆よりも遅く成れば何を言われるかわからぬからの……」


 正直名残惜しい……と言うかずっとこの場に居座り次の公演も見ていたいと、顔にははっきりと書いて有ったが、そう言って信三郎兄上は立ち上がる。


「ご歓談中失礼します、御方々御一行様をご都合が宜しければ楽屋へご案内する様仰せつかりました、如何でしょうか?」


 兄上に続いて俺達全員が立ち上がったのを見計らってか、畏まった様子の若い衆がそう声を掛けて来た。




「よかったんですか? 多分先方は七を呼んでいたんでしょうに」


 結局楽屋へは母上達と信三郎兄上だけが向かい、俺達小僧連は若草町を見て回る事にした。


「あの様子だと、信三郎兄上が暴走するのが目に見えてるからね。俺としてはこの辺を見て回る方が楽しそうだと思ったし……それに……」


「腹が減ったで御座るな!」


 俺の台詞の後を続ける様にそんな声を上げたのは当然義二郎兄上だった。


「……あの幕の内は確かに悪ぅ無かったけど、殿方にゃぁ確かに物足りなかったかもしれへんなぁ。仁様も何ぞ召し上がるん?」


 その言葉を受け千代女義姉上がそう問いかけると、


「……この近くに見知った甘味屋が有る、そこで団子でも食うか」


 と仁一郎兄上も同意した。


 そしてその見世へと向う為、歩き出して直ぐの事だ。


「おい、お前! 猪山の鬼二郎だろう?」


「たかが辻斬り如きに片腕奪われる様な武士の面汚しが、よくもまぁ天下の往来を恥ずかし気もなく、女子供連れて歩けるな!」


 と行き成りそんな事を言いながら行く手を塞いだのは、義二郎兄上と勝るとも劣らないそんな体躯の着流し姿の男を後ろに控えさせた、此方同様にお忍び装束の四人の侍だった。


「……何処の何方かは存じ上げぬが、人違いでは御座らぬか? 見た所貴殿らもお忍びの様子、例え知った顔でも素知らぬ振りをするのが、通例で御座ろう?」


 努めて冷静にそう兄上が受け流しそう言うが、


「あにお! たかが一万石少々の小大名の小倅の、それも片腕落としの雑魚が大大名である雑貨藩さいがはんの藩士に口答えするってぇのか!」


 どうやら男達は日も高いというのに酔っているらしく、刀に手を掛けそう怒鳴り返した。


「女連れらからって、粋がってんじゃねぇぞ! 残ったもう一本の腕も落としてやろうか! ああ!」


「鬼も切れない様な腰抜け相手に腕を落とされる様なへっぽこが、女連れで芝居見物たぁ良い気なモンだよなぁ! けどよ……俺達ゃお前らと違って天下の大大名家の家臣、恥も礼儀も知ってるからよ……女を置いてけば、見逃してやるぜ?」


 ……突っ込みどころ満載の台詞を吐きながら凄んで見せるが、正直言って先ほどの芝居よりも迫力を感じさせず、怒りを通りこして呆れしか感じる事が出来なかった。


 はっきり言って、こいつら三下チンピラの類にしか見えないのだ。


「お主等、酒は呑んでも飲まれるな、と言う言葉を知らぬのか? 此処で引くならば酔った上での戯れ言と流してやろう。だがこれ以上我が弟を愚弄するならば……戦争ぞ?」


 だがそんな彼らを相手に静かに怒ったのは仁一郎兄上で有る。


 無理も無いだろう、義二郎兄上が隻腕と成った事を最も気に病んでいるのは彼なのだ。


 温厚……と言うか基本的に他人と関わりあう事を厭う兄上は、自身に向かって何を言われようとも気にする事は無く、大概の事は冷笑一つ浮かべるだけで流してしまうタイプである。


 その兄上が本気で怒りを露わにし『戦争』と言う言葉を口にすればそれは比喩では無い。


「ああ!? なんでぇ! 雑魚に庇われた腰抜け兄貴も一緒かよ! しかもこっちも女連れたぁなぁ。普通は自分を庇って弟が不具に成ったなんて事が有りゃ恥ずかしくて表を歩けやしねぇよなぁ」


 酔っぱらい共は、地雷原でタップダンスを踊っている自覚が有るのか無いのか……


 自分達が信じたい物しか理解せず、喧嘩を売る相手を間違えている事を理解して居ないチンピラ風情、そんな彼らの自信の源、それが彼らの後ろに控えていた男だった様だ。


「こんな武士の風上にも置けねぇ奴相手に刀を抜くのも恥ずかしいや、おい! 悪五郎、お前が相手してやれや」


 悪五郎と呼ばれた着流しの男は、彼は俺達に向かってどうこうする事は無かった。


「……こんな人目の多い所で暴れりゃ、雑賀の殿様にお叱りを受けるのは此方の方でごわす。それに先達ての辻切りの件を此処で斯様に罵るのはお勧め致しかねる……此処は東町の管轄、くだんの事で腹を召した柴様の管轄でごわすからな」


 そう言って彼が視線を向けた先には、騒ぎを聞きつけてケツ持ち(ヤクザ者)達を率いて走ってくる御用聞きの姿が有った。


「御武家様方、申し訳ねぇがこの若草町での刃傷沙汰は止めて貰いやすぜ! あっしは今は亡き柴様より十手を預かる五兵衛次郎ってなもんだ! 新たな御奉行が赴任されるまで、この辺の治安を乱す訳にゃぁ行かねぇんでな!」


 そう十手を振りかざし声を上げた初老の親分さんの眼は、雑貨のチンピラ共とは比べ物に成らない気迫が篭っており、格が違う事は一目で見て取る事が出来た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ