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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
伊達と酔狂の町人達 の巻

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二百一 志七郎、友を誘い導火線に火を付ける事

今回のお話には「身体の不自由な方」や「特定職業」「日本以外の食文化」を揶揄していると取られかねない表現が存在しています。

作品世界観やキャラクターを優先させた結果、それらの描写が発生いたしました。

お気にされる方は読み進めない事をお勧め致します。

誠に勝手ながら御容赦とご理解の程宜しくお願い致します。


「え? 芝居見物ですか?」


 翌日小僧連の面々で稼ぎを精算した後、例のチケットに付いて皆に話して見た。


「戴き物の券だけど余裕が有るから、皆もどうだ?」


 母上は母上で家中以外にも誘いを掛けて見るらしいが、それで人数がオーバーする分には母上が自腹を切ると言うので、彼ら全員が参加するとしても問題は無い。


「手前共も行って良いのですか? 歌さんを誘っている訳では無く?」


「七が歌を口説こうと言うならば、お邪魔虫をするつもりは無いですよ?」


 一度顔を見合わせて、そんな事を宣うマセガキ二人。


 この三人には俺が前世の記憶が有る『過去世持ち』だと言う事は未だ話しては居ないが、彼らは俺を歳下の子供として扱う事は無い、最年長で有るぴんふですらも俺をこの小僧連のリーダーだと認識している節が有る。


 そんな彼らは思春期と言うにはまだ早いが『男女七歳にして席を同じうせず』と言う教育が当たり前の武士で有る彼らは、なんというかこう……色事に付いてマセていると言うか、前世まえの子供に比べて色々と違う感じなのだ。


 数えで(とお)のぴんふや歌は、そろそろ縁談の一つ二つ有っても可笑しくない年頃だと言うのが此方での一般的な感覚の様である。


 女は十四~十五歳辺りが結婚適齢期で、二十を過ぎれば行き遅れなんて社会なのだから、彼らの年頃ならばそういう意識を持つのが普通なのかも知れない。


「家の母上も多分野火の奥方様方も来るのに、そんな訳がないだろ……。そもそも俺はまだ六つ、口説くも何も有ったもんじゃない」


 とは言え……だ、残念ながら俺の感覚的には歌は男女云々以前の子供で有る。


 俺には所謂ロリコンの気は無い。


 読んでいたネット小説ではそう言うヒロインは少なく無かったが、ああいうのはあくまでも読み物として楽しんでいただけであり、そっち方面の性癖が有った訳ではない。


 と言うか恋愛経験事体が前世の俺には無いのである。


 中学高校は超進学校で周りの女子達もそんな余裕は無かったし、大学は大学で高校時代に落とした成績をカバーするのに忙しく余裕が無かった。


 任官してからは色々と痴情の縺れを見る事になり、四課マルボウ配属後は紐付女性(ハニートラップ)が湧いたり……と、色々と面倒な経験を繰り返した結果、偏見だとは解っているのだが現実の女性に興味が沸かなく成っていたのだ。


 肉体的には全く問題無かったしその手の欲求が全く無かった訳ではないが、流石に今のこのお子様ボディにそんな物がある訳も無い。


「そういう事ならば、手前共は断る理由ありませんなぁ」


「ええ母上達が同行するならば、誰彼憚る事は無いですね」


 俺の内心はともかく野火兄弟は間髪入れずにそう答えが帰って来たのだが、一番興味を示していた歌の返事が無い。


 見れば彼女は何か含む物が有るような歯切れの悪い表情で、少し考えこんで口を開こうとしてはまた閉じる……そんな様子を見せていた。


「都合が悪いなら、断っても大丈夫だぞ?」


 そう俺が言うと彼女は慌てた素振りを見せ、


「いえ……私としては行きたいのですけれども……、ちょっとお父様に相談しないと返答が……今、我が家は色々と自粛状態ですので……」


 それから少し考える様な様子でそう答えた。


 彼女の話に拠れば、桂様の同僚に不幸が有ったばかりで、桂家を含めて多くの幕臣達が自粛モードなのだと言う。


 本来ならば今年生まれたばかりの姪っ子の箸初めを大々的に祝う予定だったのだが、それを家族だけの小規模な物へと変えたり、父や兄も酒宴の類に呼ばれても断ったり、母や姉も外出を控えたりしているらしい。


 そんな中で比較的自由に行動出来ているのが鬼切りへと出掛ける事なのだが、それはあくまでも武士の義務として認められる事だからで有り、芝居見物の様な娯楽の為に出掛けるのが許されるのか、は解らないのだと言う。


「それは……確かに相談が必要ですね。あ、桂様は忙しいでしょうけども……そこに暇そうにしている桂殿が……」


 そう言ってりーちが指差した先にはヅラのハ……桂髭丸殿が居た。


「いや、別に暇そうにはしてないでしょう。何らかの御役目が有るんでしょう? あんな顔をしてるんだから……」


 ぴんふの言葉通り桂殿は眉間に皺を寄せて瓦版らしき紙切れを覗き込んで居る、その様子は暇潰しに娯楽紙を読んでいるソレではない。


「お兄さま、何を読んでいるのですか?」


 仕事中ならば邪魔をしては行けないそう考えての事だろう、歌は遠慮がちに彼に声を掛ける。


「ぬ……? おお、小僧連に歌か。今日の稼ぎは終わりか? ん? ああコレか……新たに出回っている瓦版だが……鬼二郎を悪様に書き立てて居るのだ……」


 そう言って桂殿が差し出した瓦版に目を通して見る。


『天下に名高き鬼二郎、無様を晒し利き腕無くし、哀れ隻腕飯も食えず』そんな見出しから始まった瓦版は、足で茶碗を持ち上げ箸も使わず茶碗に顔を突っ込む熊の様なむさ苦しい髭の男、そんな絵が描かれていた。


 ……色々と突っ込みたい所の有る一枚だが、考えてみれば猪山藩(ウチ)だって御用商人を通して都合の良い瓦版を発行させているのだ、政敵とでも言える相手が此方に対するネガティブキャンペーンを打つのは当然だろう。


 特に昨年辺りから此方、俺が絡んでいる事だけでも色々と成果を上げ過ぎており方々(ほうぼう)から妬みや嫉みを買っていると言う事は以前に聞いた覚えが有る。


 石高だけ見れば弱小もいい所の猪山藩が大身を差し置いて……と言う感情が様々な場所で渦巻いて居ても何らおかしな話では無いのだ。


 隣接大大名で有る浅雀藩がこうして友好的なのは、水利権を抑えていると言う事も有るだろうが、それ以上に母上が浅雀の姫だったという事が大きい。


 実際、幕府開陳以前は浅雀周辺を治めていた大名と、猪河家ウチは幾度と無く武力衝突をしていたらしい。


 家安公に拠る各藩の領地確定後も、浅雀藩の藩主は度々猪山を狙い騒動を起こしていたそうで、野火家が浅雀藩を預かる様に成ったのは比較的最近の話だという。


 加増に伴う領地替えで野火家が浅雀に入り、功を上げても領地替えを固辞し続けた猪山に対して友好政策を取った御蔭で京と江戸を結ぶあずま海道がやっと安定したのだそうだ。


 当然領地替えを強行された事の有る藩や減封を喰らった藩等は、先祖代々の土地に居座り続ける猪山藩に良い感情を持たない事は想像に難くない。


 恐らくはこの瓦版もそんな相手が繰り出した策略の一つだろう。


「同じ犬食いをするにしても、わざわざ足を使わなくても左手で持てば良いでしょうし、兄上は左手で普通に箸を使えます。それに食事の手伝いをしてくれる人が今は居ますから、こんな無様な事には成ってないですがね」


 多少の怒りを感じなくは無いが、御祖父様や一郎翁の悪名を鑑みるにそれ以上の事をしてきたのだと思えたので、俺は激する事無くそう切って捨てる事が出来た。


「……まて、鬼二郎に飯の介助だと?! アレがそんな恥ずかしい事を大人しく受け入れるタマか?!」


 俺の言葉に激しく動揺を顕にする桂殿。確かに二十歳も近い男子で有る彼らならば、例え怪我を負っていたとしても『あーん』なんて事は恥ずかしくて難しい事かもしれない。


 相手が看護師の様な職業の相手ならば、仕事と割り切る事も出来るかも知れないが、それ以外の相手の手を借りるのは、男としては避けたいと思うだろう事も理解出来なくは無い。


「ええ、当初は嫌がっていた見たいですが、相手が姐さん女房っぷりを上手く発揮してくれた御蔭で、今の所は上手く行っている様です」


「な!? あ、あの朴念仁の戦闘狂に姐さん女房!? あ、ありえん! こ、コレは幕府転覆の前触れか!?」


 桂殿が上げたその言葉は流石に問題あり過ぎたらしく、辺りに居た鬼切り者達の視線が一斉に彼を射抜くのだった。

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