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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
激戦!? 妖刀狩り の巻

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百九十一 三家連合、手詰まりに苦しみ、志七郎打開する事

「おおっと、大事な事ぁ忘れてた。折角手に入れた巣穴を行き成り焼け出されんのは勿体ねぇやな。ちょっくら失礼するよ」


 余裕を見せるつもりだろうか、野附子魔は戯ける様な口調でそう言いながら俺達に背を向け、秋元が蹴倒した行灯から燃え広がりつつ有った炎を踏み付け、身体から滴り落ちる粘液を飛ばし火を消し出した。


 徐々に消えゆく火に照らしだされたその姿は、頭と腕こそはっきりと有る物のそれらを含めた全身がドス黒い粘液で構成された、丸でスライムか何かの様に見えた。


 身の丈と言って良いかは今ひとつはっきりしないが、畳から頭の天辺までの高さは六尺(約180cm)を軽く超えており、比較的天井が高めに取られたこの建物と背中を大きく丸めて居るからこそ(つっか)えて居ないが、真っ直ぐに直立すれば頭が天井に届くのは間違いないだろう


 その様子を見る限り、炎は奴にとって何の痛痒を与える物でも無いらしく、見る間に炎は鎮圧されていく。


 無防備に晒された背に斬り掛かる者は居ない、既に対峙している状況でそれをするのが卑怯だから、という訳では無い、炎が消されることが此方にとっても有益だから、と言う事でも無い。


 では何故か?


 答えは簡単で有る、余りにも無防備過ぎるその背中は、明らかな誘いで有り、それに乗る事が危険だと誰しもが理解していたからで有る。


「……あの手の粘体系のばけものには、ただいたずらに刃を突き立て切り裂いても無意味、最低でも斬鉄ざんてつを成せる程に氣を込めねば効果は有りませぬ」


 当然ながら不意に相手からの攻撃等が有っても動ける様、その背中に警戒の視線を注ぎつつ笹葉がそう口にする。


 斬鉄とはその名の通り鉄をも切り裂く事が出来る程に得物に氣を纏わせる、氣を用いた闘法の一つで有る、やっている事事体は基本中の基本なのだが、そこまで濃密な氣を武器に通すのは中々に難しく、氣功使い成らば誰でも出来ると言う程の事では無い。


 幸い此処に居る者達は若手武士の中でも有数の使い手ばかりで、斬鉄を使いこなす事が出来ないのは俺位の物で、前衛を受け持つ三人は皆静かに頷き得物に氣を込め始める。


「「「「ぅおん!」」」」


 不意に今まで数歩離れた所で大人しく待っていた犬達が揃って吠え声を上げた。


「不味い! 煙を吸うな! 下がれ! 毒だ!」


 その声に秘められた意味を理解する事の出来た仁一郎兄上が、左の袂で口を覆いそう叫ぶ。


「ありゃまぁ……気が付かれちまったか。流石に楽に殺させちゃぁくれねぇか」


 火を消すと言うのも確かに目的の一つでは有ったようだが、真の狙いは己の身体から滴り落ちる毒液を火に焚べる事で、毒煙を発生させる事だった様だ。


 その毒煙はかなり重いらしく足元にじわじわと溜り、少しずつ範囲を広げていた。


 見れば毒煙に晒された畳は炎に焼かれた範囲外の物も、長年放置された廃屋の様に腐れ落ちている。


 前に居た二人の足元にも僅かに毒煙が触れていた様で、袴の裾が朽ち始めていた。


 未だ踝程度の高さにすら満ちては居ないが、長くその場に居続けるのは危険だと言う事はそれだけでも十分に解る。


 だがだからと言って此奴をこのまま放置して下がる事が出来ないのも事実だ。


 俺達が引けば奴はこの楼閣を根城に、更に多くの命を奪うだろう事は目に見えている。


 ほんの少しの間火に晒されただけでこれだけ強力な毒ガスを発生させるのだ、建物の外から炎を放ち焼き殺すと言うのも悪手だろう。


 援軍を待ち数で押し切ると言うのも難しい、時間を掛ければ掛けただけ、奴の毒が建物に満ちていくのは目に見えている。


 ただ触れただけで物を腐らせ朽ちさせるのだ、そんな物を吸い込めばどうなるか解った物では無い。


 ここまで来たならば先手必勝等とはもう言えないが、それでも少しでも早く仕留めねば成らない事だけは間違いないだろう。


「ああ、そうそう……俺がこうして現世うつつよに出て来れた訳だがよ、あのヘタレた入れ者が斬って殺した数が百八つを越えたからだ。お前らが此奴をへし折りたいなぁ、誰かを助けたいからだろうが……一寸遅かったかも知れねぇぜ?」


 多少なりとも俺達が引く様子を見せたためか、野附子魔は口元を歪め――恐らくは笑ったのだろう――そう挑発的な言葉を口にした。




 今までで一番早かったのではないか? もしかしたら野附子魔が出てくる前の、秋元(なにがし)をも超える速さで、桂殿の放った居合の一撃が野附子魔を真一文字に両断した。


 十分な氣を練り込んだであろう一撃は、溢れだす氣が輝きすら放って居る様で、光刃が描き出した軌跡がその場にはっきりと見えた。


「おおっと、アブねぇアブねぇ……流石にそんだけの氣を叩き込まれちゃぁ……痛いで済まねぇ所だったぜ」


 だが野附子魔は己の身体を一時的に切り離す事で桂殿の一撃を躱したらしく、何の痛痒も無いと言った風情で笑いながら拳を振り上げる。


 その場にただ呆然と居れば当然反撃を貰っていただろうが、桂殿程の強者が残心を忘れる事は無く、奴が粘液に塗れた拳を振り下ろす前に素早く後方へと飛び退っていた。


 桂殿が間合いの内に入ったのはほんの一瞬の事だった、だがそれでも奴の身体から立ち上る毒気に中たるには十分な時間だったらしく、着地も満足に取れずに倒れ転がった。


「ちょ……冗談じゃねぇし! テメェまでくたばったら洒落に成らねぇし!」


 近い位置の床には既に毒ガスが蔓延しており、倒れ伏したままでは桂殿が危ない。


 直ぐにそれに気付いたのだろう、清一殿はそんな言葉を吐きながら、慌てて桂殿の身体を担ぎ上げる。


 どうやら桂殿は意識は未だあるようだが、身体が弛緩し満足に動けない状態の様だ。


「近づくだけで、これじゃぁ……」


 打つ手が無い……。


 此処でアレを打倒しなければ、この一件での犠牲者が一桁は増えるかも知れ無い。


 だがあの粘液で出来た身体は多少の攻撃等ものともせず、近づけば毒気に中てられる。


 余程の氣が篭っていなければ、銃や弓矢での攻撃も効果は薄いだろう。


 後考えられるのは何らかの『術』に拠る攻撃がどれだけ効果的か……。


「古の契約に基きて、我猪河志七郎が命ず……」


 単独属性の下級魔法成らば不安定では有るが使えなくも無い、四煌戌の負担を考えればそう何度も撃つ事は出来ないが、効果の有無を見極める程度ならば問題は無い筈だ。


「清浄なる蒼き力……集い集いて眼前の敵を撃ち貫く魔弾を成せ……」


 火の属性で焼けば毒煙を誘発する事に成る、風の刃で切り裂くのも効果は薄そうに思える。


 残るは土か水だが水は『浄化』を司る属性でも有る、毒を浄化すると考えれば効果がありそうなのは此方だろう。


 愛銃を眼前に構え照準を合わせる。


「銃弾に続いて……放て水弾撃!」


 引き金を引き絞り、銃弾が飛ぶのに合わせ命ずる。


 慣れた術者ならば、目視だけで対象を指定し魔法を仕掛ける事も出来るのだが、俺のような初心者は銃や弓矢と言った飛び道具を使い、その射撃に合わせるのが誤射無く魔法を使う簡単な方法なのだ。


 手にした刀にも氣を乗せきる事が未だに出来ていない俺が、銃弾に氣を乗せる事等出来る筈もなく、撃ちだされた銃弾は野附子魔の身体を貫きはした物の何のダメージも与える事は無かった。


 だがそれは予想していた通りの事、本命は銃弾よりもワンテンポ遅れて御鏡が吐き出した水風船程度の大きさの水弾だ。


 放たれた銃弾を普通に見る事が出来る程に氣を込めた瞳だからこそ、水弾が奴の身体に飛んで行くのが見て取れるが、普通ならば一瞬で相手がずぶ濡れに成ったように見えるだろう。


 未だ強い力を使いこなす事の出来ない四煌戌では、攻撃魔法と呼ぶには余りにも脆弱な物に過ぎないが、それでもまともに当たれば大の大人を蹌踉めかせる程度の威力は有る。


「ぐぁぁあ!」


 液体同士がぶつかり合い激しく飛び散る音が響いた、そしてその音に紛れて野附子魔が苦悶の声を上げるのがたしかに聞こえた。

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