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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
智香子の工房~大江戸の錬玉術師~の巻

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百五十二 幕間 仁義兄弟二人旅 その二

「この峠を越えれば京州でござる、ほんに長かったでござるなぁ~」


 江戸を旅立ってからおおよそ一月、尋常ならば十日程の道程だと言うのに、義二郎の言う通り随分と長く掛かった物だ。


 それと言うのも……


「お主が近道だ等と言って入った山で大蛇おろちに食われ掛けねば、もう少し早く着いただろうの」


 一口で義二郎をも丸呑みする様な大蛇に不意を打たれ危うく馬を食われる所だった、馬を庇わせた義二郎が実際に丸呑みされ、腹を裂いて出てきたが……。


 腹を裂かれて尚も暴れる大蛇を仕留めるのには中々骨が折れた、あれだけの大妖を手負いで放置という訳にも行かず、止むを得ず討ち取ったがその生命力には恐れいった。


「あれは中々に美味かった、大蛇はやはり蒲焼きでござるなぁ」


 事もあろうにこの戯け者は戦をしたら腹が減ったと、たった今仕留めた蛇を切り刻み串を打ち、火を起こすと焼いて食いだしおった。


 流石に一度で食いきれる量では無かったので、残った肉を宿場の旅籠に持ち込んだのだが、そこで出された蒲焼きは酒の肴としても満足の行く味ではあったが……。


「川を渡れば化蛙にも食われかけ……」


 渡し船の船賃をケチり浅瀬を探して渡れば良い、と言う義二郎の口車に乗り街道を離れた浅瀬を渡っている時にも、深みから唐突に飛び出してきた蛙の舌に馬が狙われた。


 咄嗟に義二郎を盾に使い事無きを得たが、やはり馬を丸呑みにしようと言う巨大な化蛙に義二郎は再び丸呑みである。


 また大蛇の時の様に腹を裂いて出てくると思ったのだが、化蛙の腹の中で暴れている様子は見て取れども中々出てくる気配が無かったので、止むを得ず俺が槍で化蛙の腹を突いて助けてやったのだ。


「あれは美味いというほどでは無かったでござる、もう少し歯応えの有る肉が拙者は好みでござった」


 助け出されて直ぐこのうつけ者は暴れたら腹が減った等と言って化蛙を切り分け、火を起こし焼いて食いおったが、その言葉の通り大して美味い物でも無く俺も義二郎ももも肉を少し口にしただけで、残りは椿丸達の餌にした。


「……谷を渡れば猩々の群れにも食われかけたの」


 川を渡り街道へと戻る途中、大きな谷に掛けられた吊橋を渡る羽目に成った、そしてその吊橋の中ほどに差し掛かると、谷の岩や辺りの木々に隠れていた猩々の群れが姿を表したのだった。


 上空では椿丸達、鷹や鷲が警戒の目を光らせており、俺も義二郎も決して油断はしていなかった、それでもこうして不意を付かれたのだから野生の獣が変じたあやかしと言うのは侮れない。


 馬を守りながら自由の効かぬ吊橋の上での防戦は厳しい物だった、俺も義二郎も無傷とは行かず智香子が用意した霊薬を幾つか使う羽目になった。


「猿の類は流石に食えぬでなぁ、アレの味は解らぬでござる」


 流石の義二郎も人に親しいと言われ、尚且つ太祖家安公に縁の有る『猿』を食うのは躊躇いが有るらしく、その時は腹が減った等とは言い出さなかった。


 俺の詰る様な物言いをどこ吹く風と惚けた返事を返す馬鹿弟に、一瞬なんと言葉を返して良いか解らず、二人の間に沈黙が落ちる。


「……お主ならば、世界中何処へ言っても飢え死にだけはしそうに無いな」


 しばし言葉を探しそう嫌味混じりに言うと


「何を仰る、兄上とて痩せた様には見えませぬが?」


 と即座に切り返して来くる。


 そこに一陣の風が吹き抜ける、風の神なりの悪戯かその風が吹き鳴らす余りにも間の抜けた音に、俺も義二郎も毒気を抜かれどちらとも無く笑い声をあげるのだった。




「兄者! 見えたぞ、アレこそが京の象徴!」


 京へと向かう街道、最期の峠を登り切った所で弟がそんなの声を上げた。


 京には城は無く象徴と呼べるのは帝の御所だが、御所は京の最奥に有り尚且つ広大な敷地は有れども高い建物は無い等、こんな場所からは見える物ではなかった筈だ。


「いやー、大きいのぅ。昨年建てられたばかりのらしいが、お花殿の話では世界樹を除けば世界最大の木造建築物と言う事でござる」


 何を馬鹿な事をと思いながら、子供の様にはしゃいだ声を上げる義二郎の視線の先を見ると、木々の隙間から見下ろす事無くほぼほぼ水平の方向にそびえ立つ建造物が目に入った。


「な……!? 馬鹿な……」


 思わず漏れる驚愕の声、無理も無いと思いたい。


 帝が住まう京の都に、御所を見下ろす様な建物が有ろうはずが無いのだ。


 ……だが待て、義二郎はあれが未だ新しい建造物だと言ったのだ、アレが新たな御所ならば不敬な事など何も無い。


「あれが大名でも公家でも無く一商人が建てたと言うのでござるから、あきないの力という物は侮れぬ物でござるなぁ」


 しかし義二郎の次の言葉が、俺の推測を否定する。


「……商人だと? たかが商人が帝を見下ろす不敬を犯していると言うのか! いや帝だけではない、京に別邸を持つ武士その全てを見下ろす等思い上がりも甚だしいわ!」


 俺が激昂しそう吐き捨てると、義二郎は予想していた通りの反応有難うと言わんばかりの脂下がった笑顔で口を開く。


「アレを建てたのは太祖家安公から幕府や朝廷の御用商人、綾重あやしげ屋でござる、無論双方の許可を得た上で建築された物でござるよ」


 その言葉を聞いて少しは頭が冷えたが、こんどは何故そんな事まで義二郎が知っているのかと、新たな疑問が首を擡げる。


「出立前に信三郎から借りた『京散歩人』の新年号に紹介されていたでござるよ」


 流石に十八年、義二郎が生まれた時から兄弟をしているだけ有って、言わずとも俺の考えは解ったらしく、そう言いながら懐から一冊の書を取り出す。


「この書に拠れば、京に住む全ての者がより良い生活を送る為、また帝の懐の深さを世に示す為、更には諸外国に火元国の技術力の高さを示す為、三年と三ヶ月の時を掛けて建てられた物だそうな」


 道中幾度も読み返して居たのだろう、書を開き該当箇所を指し示しながらその内容を諳んじて見せる。


 なるほど、そういう名目ならば理解できなくも無い、だがあの建物一つでどうすればより良い生活とやらを成し遂げることが出来るのか。


 あれだけの高さが有れば、物見櫓代わりとしては十分過ぎるとは思うが、京は火元ひのもとの術者たちの総本山『陰陽寮』が有り、高度な結界と多くの術者達に護られて居るため、鬼や妖怪の被害は皆無に近かった筈だ。


「地上八階地下二階その広大な延べ床面積の全てが現金掛け値無しの見世であり、彼処へ行けば手に入らぬ物食えぬ物は何一つ無い、いわばあの建物全てが巨大な萬屋なのだそうでござる」


 手に入らぬ物は無いとはまた大きく出たものだ、この火元国だけでも津々浦々所変われば品変わる、ましてや最近は外つ国からの渡来品も少なからず流通する様に成って来た、その全てを網羅する萬屋などあり得ない話だ。


 古今東西売り文句と言うのは大きく誇張するのが尋常の事、話半分に聞いておく物だ、ソレが解らぬとは我が弟ながらまだまだ子供よな……そう思い軽く窘める言葉を口にするよりも早く義二郎が更に口を開いた。


「なんでも火元国の津々浦々だけで無く、世界中それこそ四大陸に世界樹、それどころか特産名産が有る地ならばほんの小さな村々にすら使用人を送り込み、更には『転移』の使える術者を数多く抱え、その言葉を有言実行しているそうな……」


 なん……だと……!?


 もしもソレが本当ならば一商人等と言う小さな者では無い、国内でしか発言力を持たない大名などよりも、ずっと大きな影響力を世界に対して有していると言う事では無いか?


「……それほどの力を綾重屋は有しているというのか……」


 外つ国では士農工商等という身分制度が無く銭の多寡が身分を決める、そんな場所も有るらしいしそこで力を着け幕府転覆等と言う事も決してあり得ない話では無いのではなかろう。


「綾重屋だけで運営している訳ではござらぬよ、あの建物は幾つもの商家が鎬を削る舞台だそうでござる。幕府朝廷に顔が利くから綾重屋が筆頭を務めているに過ぎないらしいので、兄者の心配は流石に穿ち過ぎでござる」


 肩を竦め顔を振りながらそう言う義二郎の態度は気に食わぬが、上様も帝も愚かで無し俺が考える程度の問題には相応の対応をしているのだろう、そう思い直し最期に気になった点を尋ねる事にした。


「……して、あの巨大萬屋は如何なる名で呼ばれているのだ?」


 すると、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに得意満面の笑顔を浮かべ義二郎が口を開く。


「極東に有りて世界の全てが、奇妙奇天烈摩訶不思議なる品々が何でも揃う、その名も奇天烈百貨店!」


 丸で自分の手柄の様な口振りなれど、その言葉と一言一句違わぬ文章が手にした京散歩人に記されている事に気付かぬ俺では無かった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「極東に有りて世界の全てが、奇妙奇天烈摩訶不思議なる品々が何でも揃う、その名も奇天烈百貨店!」 ちょいちょい挟んでくるこーゆーの凄い好きです。
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