表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
志七郎、南へ の巻

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1252/1252

千二百五十 仁義を聞き知恵比べの始まりを知る事

 斥候役の二人が街道の脇に隠れている推定『伏勢』に対して更に不意打ちを仕掛ける事が出来る位置に到着するのを待って、俺達は推定『敵勢』が待ち構える宿場前の街道をキッチリと隊列を組んで進んでいく。


 先頭は四煌戌に乗った俺、その後ろに動員された猪山藩の衆がお連を囲む様にして守る陣形で、殿しんがりの位置に太郎彦が付いての行軍だ。


 軍と呼ぶには二十人程度では小勢過ぎるとは思うが、こうしてキッチリ隊列を組んで居る以上は行軍と言っても間違いでは無い筈である。


「御武家様の道行き、遮ってまっこと申し訳ありあせん。けれども少々御時間頂き仁義を切らせて頂きたい」


 そうして進んでいく事暫し……聞いて居た通りに地元の与太者や破落戸(ごろつき)の類とは違う、完全武装した一団の先頭に立っていたそれ相応の格を感じさせる鎧兜に身を包んだ男が、軽く腰を落とし右の掌を突き出した所謂『仁義』の姿勢でそんな言葉を口にした。


 騎獣に乗っている者が居ない所から察するに、眼の前の一団に武士階級の者は恐らくは居ないのだろうが、少なくとも先頭に立って仁義を切ろうとしている男は、その辺の武士よりも余程『出来る』類の武勇を持っているのは、その姿勢を見ただけで察せられる。


 対して俺は元服前とは言え正式な武士階級に有る者なので、その道行きを遮った時点で『無礼』が成立するのだが、だからと言って先制攻撃で無礼討ちにする訳には行かない。


 右手の掌を見せての仁義の姿勢は『今この瞬間に敵対する意志は無い』と言う意味合いも有る為、その状態の者を斬ったと成れば幾ら道を遮られたとは言え、無礼討ちが罷り通る程の無礼では無い、と後の詮議で判断される可能性が有るのだ。


 故に俺は四煌戌の背の上でただ黙って顎をしゃくる事で言葉の続きを促した。


「有り難うござんす、手前、粗忽者ゆえ、前後間違いましたる節は、まっぴらご容赦願います。向かいましたる御武家様方には、初のお目見えと心得ます。手前、生国は火元国は西南の端、根子ヶ岳を擁する殺魔藩の生まれに御座んす」


 殺魔藩は彼が口にした通り火元国の本島で最も南の端に位置する藩で、此処は江戸州までは未だ有るとは言え片手の指で数える事の出来る程度の宿場を越えれば、其処には白虎の関所が有ると言う大分東側に位置する辺りだ。


「一所に居を構える事無く、旅の空を屋根として何処に居着く事も無い流離(さすら)いの風来坊に御座んす。稼業の縁持ちまして身の片親と発しますは、風間藩は藩都蛇居庵(じゃいあん)に居を構える樺屋敷(かばやしき)組四代目を継承します大政従います若い衆に御座んす」


 南にも西にも行く先の無い殺魔藩でその土地に居られなくなる様な事をやらかしたのか、それとも口上通りに風来坊な性分故か、流れ流離い大分北東へと進んで風間藩を地元とする親分さんの子分に成ったと言う事だろう。


「……樺屋敷組の大政親分は間違い無く蛇居庵の遊郭を仕切っている親分さんです」


 相手の口上を邪魔しない様に気を付けながらも、俺の近くに居た風間の藩都に行った事が有るらしい者が静かにそう囁いてくれた。


「お察しの通り手前、町人の出故に姓は持ちませぬ名は三郎太、人呼んで『流浪狩るろうがりのサブ』と発します一端の鬼切り者に御座んす。渡世の義理有って頂いた稼業の為に申し訳ありあせんが一つお話を聞いておくんなせ」


 ちなみにこの口上は本来俺達の様な武家に所属する者に対して行う様な物では無く、本当ならば市街地でヤクザ稼業を営む者や、武家に仕えている者ならば下屋敷を預かる中間の者に対する礼儀だったりする。


 なので本当ならば俺達がコイツの口上を聞いてやる義理は無いのだが、世間一般的に『礼儀正しい挨拶』をしている事に間違いは無い為、問答無用にズンバラリンとやってしまうと非常に外聞が悪い結果になる訳だ。


「手前の親分のそのまた親分が懇意にしてます御武家様から流れて来た話の又聞きですんで、御無礼有った申し訳御座いやせん。なんでも御武家様の(あるじ)足る御家から女の赤子が拐かされたのが大凡十年と少し前」


 ……なんとなーく話が見えて来たぞ? 拐かされた赤子ってのはどう考えてもお連を指して居るんだろう。


 んで富田藩の者が直接的に彼女を奪うなり害するなりすれば、当然ソレは現在彼女を保護している猪山藩と(いくさ)の引き金になる行為である。


 けれども此処で町人階級の八九三者に負けて奪われた……となれば、武に依って立つ者で有る武士としての面子は丸潰れで、ソレを理由に合戦だなんだ等と言い出すのは武家社会では極めて恥ずかしい行為になる訳だ。


「そちらに御座す御姫君は、骨川筋右衛門様の一人娘である連姫れんひめ様に相違御座いやせんですね? 手前、去る筋から拐かされた姫君の奪還を言い付けられておりやす。御武家様でも年端も行かぬ者に無体はしとうござんせん」


 猪山藩猪川家……もっと言ってしまえば御祖父様や父上からすれば、外道である骨川家現当主強右衛門の魔の手から救い出したお連では有るが、先方からすれば本来手元に置いて育てる筈の娘が拐かされたと言うのも決して間違いとは言い切れない。


 与太者破落戸を使ったと言うのだって、四方八方伝手を使って手を尽くした結果……と言い張るには丁度良い手筋と言えるだろう。


 此処で忍軍の類を使っていないのは、忍術使いの類は野良と幕府に直接仕える御庭番衆を除いて、全ての忍軍が陰陽寮の傘下に居る事に成っているので、陰陽頭(いんようのかみ)猪川家(ウチ)の身内である以上、情報が流れるのが目に見えて居るからだと容易に想像が付く。


「不法に拐かされた子供を本来有るべき場所にお返しするのが、武家だろうが町人だろうがはたまた手前の様な風来坊の河原者だろうが、どう考えても筋の通る話で御座んす。不埒な人攫いの汚名返上の為にも御姫(おひい)様を此方に引き渡しておくんなせ」


 あー、うん成る程、そ~来たかぁ……。


 コレ素直に応じてお連を引き渡すのは論外として、突っ撥ねても鬼切り手形に記載された親の欄に骨川家の先代である筋右衛門様の名前がキッチリ明記されて居る以上は、他所への外聞と言う点で此方の失点になるのは確定的になる奴だ。


 割と真面目にこの筋書きを書いた奴は、御祖父様と同等とまで言い切る事が出来るかどうかは定かでは無いが、少なくとも知恵比べを挑む気概と覚悟と知能が有る輩と言う事である。


「……そんな事を河原者如きに言われて『はい分かりました』と素直に応じる様じゃ猪川家の家名に泥を塗る様な物だわな、当然お前さん達も荒事で散る覚悟は出来ているんだろう? おい! お前等! 寝ぼけた戯言抜かす連中を畳んじまいな!」


 ……正直言ってコレじゃぁどっちが悪者か解ったモンじゃねぇと言う感じだが、どちらにせよ泥を被る必要が有るので有れば、ノリに乗ってしまった方が良いだろうと判断しての台詞だ。


 此処で『斬れ』と言わず『畳んじまいな』と言う言葉を選択したのも、最低限殺さずに事を済ませろと言っている訳だ。


 各地の大名は領地を経営する都合上、世界樹(ユグドラシルサーバー)に対して一定の閲覧権限を持つ端末……多くの場合水晶玉や鏡なんかを持っている為、此処でしらばっくれてもお連が鬼切り手形を使えば嘘は一瞬でバレてしまう。


 残念ながら俺は未だ公務に携わる事の無い子供なので、何処まで詳しい情報が見れるのかまでは知る(すべ)は無いが、誰かの鬼切り手形が使われたと言う痕跡は大名家の権限で見れる範疇に有るとは聞いて居る。


 解り易いのは何等かの理由で『仇討ち』が認められた場合、その相手が最後に鬼切り手形を使った場所の情報は、各地の役場に問い合わせれば割と簡単に開示されると言う。


 つまり骨川家はお連が猪山藩内で鬼切りをしていた事を知る術は当然有った訳だし、彼女が西方大陸フラウベアへと行って居た事も知っていても不思議は無い。


 ……ただ、彼女を転移で帰国させた後、白虎の関所は俺が持っている『出入御免状』を使って手形(あらた)め無しで超えたので、手形を使う事無く江戸を出たのだがどうやって今この場を突き止めたのだろう?


 そんな疑問が脳裏を過ぎるが、取り敢えず今は『町人階級の者達の揉め事』と言う体裁を取り繕う為に、俺は四煌戌をお連の横へと下がらせ動員した者達を前へと押し出すのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いつも楽しく拝読しています。 ようやく出そうで出なかったジャイアンがw のびさんと骨川さん出ていつかと思ってようやくでしたねw 殺魔藩... 魔境なのか、そこの武士が強いのかどっちだろう? ふと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ