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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
志七郎、南へ の巻

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千二百四十九 採寸済んで荒事の風が吹く事

 無事に素材の登録も終わり採寸も済ませたならば、後は装備の出来上がりを待つだけ……と言いたいが、新規の素材を使っている事も有って完成までは一月近く掛かると言う。


 俺の財布だけでもその間ずっと門前町の旅籠に逗留する事自体は可能では有るが、ソレをすると税としての動員日数を軽く超えててしまう為、受取は江戸の屋敷で……と言う事に成った。


「オラも作刀は未だ任せて貰えねーけど、調整くらいは出来る様に成ってるお。んだから出来上がった(モン)はオラが江戸屋敷までパパッと持ってくから安心するんだお」


 作刀は未だとは言って居たが、最近は先輩の作刀時に相槌を任される程に修行は進んでいるらしい難喪仙(なんもせん)が胸を叩いて輸送と最終調整を請け負ってくれたのが少しだけ心強い。


 ……つか、刀を作る鍛冶師を目指していても防具なんかも作るんだなー。


 いや、前世(まえ)に読んだ戦国時代なんかを舞台にした小説だと、刀鍛冶や鉄砲鍛冶は鍛冶師の中でも花形で、鍋や農具を作ったり修理したりする仕事を見下して居ると言うのは割と良く有る話だった。


 ソレにこの手の仕事ってのは自分の専門の分野には強くても、他の分野は点で駄目なんて話は良く聞くし、優れた刀鍛冶が優れた甲冑師とは限らない筈だ。


 けれども此処は火元国のみならず、世界中から凄腕の鍛冶師達が集まる鍛冶神様の御膝元だし、刀鍛冶一辺倒の教育はしていないのだろう。


 もしかしなくても鍛冶と言われて想像する様な金属の加工だけでなく、皮製品の扱いにまでその守備範囲が及んでいる可能性は限りなく高い。


 流石に市井の職人ならば基礎を一通り学んだ後は何か一つを専門として、その道を極める様な方向で技術を高めていくのだろうが、何せ此処は鍛冶神を目指す世界でも頂点(トップ)と言って間違いない職人達が切磋琢磨する場所だ。


 生半可な仕事をする様な者は当然居ないだろうし、他の職人が持っている技術は当たり前に盗んで自分の者にしていく様な、向上心の塊みたいな連中が集まっているのだから、そりゃ『全部極める』とか無茶を言い出す者も居るのだろう。


 ……と言うか、鍛冶神の昇神条件を詳しく知っている訳では無いが、世界中から鍛冶職人が集まると言う話である以上は、火元刀(ひのもとう)の技術だけを取り扱っていると言う事は絶対にあり得ない。


 今回作って貰うのもお連の防具に関しては割とガッツリの重鎧とでも言う様な様式の代物に成る予定で、説明を聞いた限りでは火元国で広く作られて居る鎧兜よりは、西洋の様式を取り入れた『南蛮胴具足』に近い物に成りそうだ。


 対して俺の方は敢えて部分鎧を組み合わせる様な様式で仕立てる事で、多少防御力が落ちても少しの手直しで成長しても長く着続ける事が出来る様に仕上げる予定に成っている。


 コレが電子遊戯(ゲーム)の世界ならば耐久性の損耗なんかが制度(システム)として組み込まれている物で無ければ、一度仕立てたら後はソレより強い装備が手に入るまで延々と身に着けて居られるが、現実では使えば使っただけ損耗する。


 防具なんかて特にその性能が発揮された時には、傷が付く程度で済めば御の字で、下手をすれば一発で破損し駄目に成るなんて事も有り得る訳だ。


 ソレを成長しても着られる様に……と言うのは『俺は敵の攻撃なんか全部躱してやる!』と言う大言壮語の類として受け止められても不思議は無いのだが、今回のモノに限っては素材を寄越した魔神達の要望に依るモノだと言う。


 どうやって永遠の氷河(コキュートス)に封じられた彼等と連絡を取ったのかは知らんが、恐らくは神仙の術やら世界樹ユグドラシルサーバー権能ちからやらを使えば出来ない事では無いと言う事だ。


 まぁ考えて見れば永く生きて化ける事を覚えた猫又は、一寸修行しただけで世界を超えた伝話が出来るのだから、神々がソレを出来ないと言う方が不思議だと言えるかも知れない。


 と、そんな訳で天目山門前町を後にして江戸への帰路へと付いたのだが……


「志七郎様、次の宿場手前に何やら怪しい風体の連中が複数の組に別れて(たむろ)しているとの事です」


 比較的治安の悪い峠道を何の問題も無く超えたと思ったら、物見からの報告を受けた太郎彦が割と深刻そうな表情(かお)でそんな報告を持ってきた。


「怪しい風体の連中……その辺の与太者とか破落戸(ごろつき)程度なら、この面子をどうこう出来る様な事は無いだろう? 態々報告して来るって事は徒事(ただごと)成らない連中と見て間違い無いって事か?」


 鬼や妖怪が跳梁跋扈するこの世界では幾ら天下泰平の時代と言われて居ようとも、旅をすると成れば当然の様に鎧兜を身に纏い、長柄や弓やらを背負って行くのは極々普通の事である。


 けれどもソレは飽く迄も旅人や宿場を拠点に活動している鬼切り者の話で、胡乱な輩が宿場をハズレた場所に複数で屯していると成ると、どう考えても『特定の誰か』を襲撃しようと企てていると見る他無い。


 ソレでも尚武の気質強き猪山の者ならば、生半可な者が相手ならば笑いながら弾き返す程度の事をしてくれる筈だし、斥候役を務めてくれている大叔父貴の郎党ならばその辺の程度を見誤る事は無いと思う。


「ええ、先ず間違い無く名うての使い手が複数名居る上に、中には半妖と思しき風体の者も居るとの事。猪山藩ウチ以外にも半妖が住まう土地は幾つか有りますが、大概は態々外に出る様な事はしませんからね。どう考えても厄介事です」


 猫又や雪女郎のように人に混ざり暮らす妖怪が居り、そうした者と情を交わして婚姻関係に成る事は、火元国を見渡せば決して珍しい話では無い。


 けれどもソレで一目で見て異形異貌の者と分かる半妖への差別が無く成るかと言えば話は別だ。


 京の都よりも東では目に見えた差別と言うのはあまり無いとは聞くが、先日我が猪山藩が行った百鬼昼行の時に江戸中の瓦版屋がソレを面白可笑しく書き立てた様に、全くそうした意識が無いと言えば完全に嘘になる。


 その所為も有ってか、今回の面子の様にパッと見てそうと判らない様な者達は兎も角として、一目見て『混ざり者』と蔑称を持って呼ばれる様な者は、例え田畑を継げない次男三男で有っても江戸へと出稼ぎに出る事を選択する者は少ないと言う。


 ソレでも江戸程の大都市ともなると江戸で生まれ育った半妖と言うのは相応に居るので、言う程好奇の目を集めるのはソレこそ百鬼昼行の様に大規模に集まった時くらいのモノだ。


 しかしソレが一寸江戸州から外に出たならば、目立つ者は不躾な目で見られる程度ならば未だマシで、下手をすれば地廻り連中に目を付けられて色々と面倒な事になる事もあると言う。


 街道沿いの宿場ならばそうした騒動(トラブル)は日常茶飯事と言えるし、地廻りの親分さんなんかも扱い方を心得て居る物だが、だからと言って好き好んで騒動の種に成る為に地元を離れる者は然う然う多くは無い。


 ましてやソレが徒党を組んで宿場の手前で誰かを待っている様な者や、その周辺に身を隠して屯している者達が居ると成れば、どう考えても誰かを襲撃する準備をしている様にしか見えないだろう。


「総員戦闘準備、但し得物に手は掛けても先に抜く様な真似はするなよ? 飽く迄もこっちが防衛側だって言う状況を作って置かないと、どんな手口で嵌められるか解ったモンじゃねぇ」


 仮にも武士の子弟である俺や太郎彦が居るこの集団に対して突っかかって着た時点で、ズンバラリンとヤッた所で無礼討ちと言い張れば罷り通り可能性は高いが、相手方に御祖父様と知恵比べを挑める様な策士が居る可能性は零では無い。


 先に殴らせてからなら正当防衛を主張出来るのは、こっちの世界でも向こうの日本でも似たようなモンだ。


 そう腹を括って俺はそんな指示を出して全員の顔を見渡してから、改めて推定『敵』が待つ街道の先へと歩を進めるのだった。

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