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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
志七郎、南へ の巻

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千二百四十八 『無題』

「あー、勧誘は嬉しいんだが……俺達は完全に永遠の氷河(此処)に封じられた存在で、幾らアンタ等ご自慢の世界樹ユグドラシルとやらの権能(ちから)が凄くても俺達を開放する事ぁ出来ねぇだろうよ」


 先日の休暇で出会った界渡りを成功させたと言う小僧っ子が持ち込んだと言う異世界の魔神の素材。


 ソレは現在進行系でこの世界の情報を其れ等を下賜した魔神達に送って居る事は鍛冶神が見抜いた通りで有り、ソレを利用すれば伝令や情報伝達と言った事柄を司る伝神の権能を持ってすれば向こうとやり取りするのは然程難しい事では無い。


 とは言え時折ノイズが混ざる事から察するに、彼等魔神が封じられていると言う永遠の氷河(コキュートス)と言う場所は、この世界から可也遠い場所に有るのだろう。


 異界からの渡り人に依ると、この世界を含め数多有る世界の数々を総称して『三千世界』と言うらしいが、私が知る限りでも異なる世界の数は三千なんて数字は軽く越え、最早無限に有るのではないかとすら思える程だ。


 まぁこうしている間にも新たな異世界が無数に生まれては滅んで居る……と言うのは昇神した時に研修で習った話である。


 そして異世界の神々が世界樹を狙うのは、無数に有る異世界の多くが世界を成長させていく内に、その世界の神々が手作業で管理する事が難しい程に発展してしまうのが原因だと言う。


 実際、この世界へと攻め寄せる魔物(モンスター)達の大半は、その世界の適正な人口を越えて繁殖した人に類する種族を、界渡りと言う禁忌を越える為に異形のモノへと変異させたモノが割と多い。


 オークやガルーダの様に人類以外の動物をソレに近い形状(かたち)に変異させ知恵を与えて送り込む様な世界も多く、そうしたモノはある意味で此方の世界に食料を供給してくれているといえるので、まぁ有り難い存在とも言える。


 けれどもゴブリンの様に人類を歪め変異させた種は、少なくとも人類が食べる事の出来る食材には成らない……まぁ野生の動物や魔物の食料にはなっているので、全くの無駄とは言わないが邪魔である事に間違いは無い。


 いや異世界からの侵略者を資源として計算して世界を運営すると言う時点で色々と間違っているのだろう。


 魔物は食料だけでなく多くの武具の材料とも成る資源としても活用されており、ぶっちゃけて言ってしまえば他所からの侵略者が完全に居なくなったのであれば、恐らくはこの世界の産物だけで運営を回すのは今よりは多少厳しく成るのは容易に想像が付く。


 他所の世界の殆どはこうした資源の流入が無いのだから、様々な方向で発展が続けば何時かは行き詰まるのは当然の事なのだろう。


 遥か遠い世界からの渡り人出身の神から聞いた話では、他所の世界だと一つの惑星だけで世界は完結しておらず、無数の星々が存在する宇宙と呼ばれる空間を内包した様な場所も有るらしいが、そうした所でも他の星から資源を得るのは中々に難しいらしい。


 きっと上手くやれている世界も有るのだろうが、そうした世界の神々はわざわざウチに手を伸ばしたりする様な真似をする事無く上手にやって行けているのだろう。


 私は世界樹が有る事が当たり前の状態でしか世界の運営に携わっていないので、手作業での世界運営と言うのがどれ程難しいのかは、亡命して来た異世界の神々から聞き取った範囲でしか知らないが可也大変なのはその話だけでも理解は出来た。


 と言うか多くの世界は世界樹が無いと言うだけで無く、神の手が全くと言って良い程足りて居ないのだ。


 世界樹の権能で多くの作業が自動化されたり簡略化されて居るが、ソレでも神の手不足は深刻な問題である。


 この世界の神々は数百を越えて居ると言うのに、ソレでも多くの部署で結構な時間の残業が発生しているのだ。


 他所の世界は少ない所だと一つの世界を運営するのに一柱の神だけで無理矢理回している所もあれば、多い場所では八百万もの神々を動員して人海戦術で世界を安定させている様な世界も有ると聞く。


 いやいや一柱でぶん回してる世界って余程世界の成長を抑制しているか、若しくはその一柱がソレこそ全知全能とかそんなトンデモナイ化け物かのどっちかでしょ!


 昇神するまでは神と言う存在はソレこそ世界の全てを知っていて当然だし、指先一つ振るだけでどんな事でも解決出来る万能の存在だと朧げながらに信じていたが、実際に神になって見れば全知全能とは程遠い縛りだらけの存在に過ぎなかった。


 つか上の方は兎も角、私を含めた下っ端の者達は殆どが公私混同と見做されないギリギリを攻めた私情で、世界樹の権能を使う事に躊躇の無い俗物ばかりで、神と言う至高の存在に相応しい精神性を持つ者なんて本当に極々一部だ。


 永い年月を経て世界樹運営委員会、委員長等と言う分不相応な立場を手にして尚も、実務能力は兎も角として精神的な意味では然程成長出来たとは思っていない。


 一応は自分を知っている者の前では多少取り繕う程度の事は出来る様には成ったにせよ、猫は何処まで行っても猫に過ぎずどんなに偉ぶっても猫としての本質が失われる事は無いのだ。


 そう言う面で言えば猫の王として自由気ままな猫達を統率する親父殿は本当に猫の本質を抑え良くやって行けている物である。


 対して一応は武家の家人と言う立場らしいが、歳が歳だと言う事も有って自由()である事を許されているお袋様が、羨ましいと思わなくも無い。


「……確かに俺達が小僧にくれてやった一部を使って得た情報を、他所に流す事ぁ出来なかねぇ。けれどもそんな事をしたからって俺達が永遠の氷河から解き放たれる様な事も有り得ねぇ。俺達の刑期は文字通り永遠だからな」


 っと……他所事を考えている間にも、伝神ポールは異界の魔神との交渉を続けており、此方の意図を向こう側にはっきりと理解させ、その上でそうした意図は無いと言質を取る。


 神や魔物と呼ばれる様な存在は嘘を吐く事が出来ない、嘘は人類(人に類する種族)だけが持つ特権で有り、ソレ以外のモノが嘘を吐けば其の者の存在自体が揺らぐ事に成るのだ。


 人類にも『嘘は泥棒の始まり』なんて言う嘘を戒める言葉は有る様だが、同時に『嘘も方便』と時と場合に依っては嘘が許される……と言う様な言葉も有り、何処まで行っても嘘と人類は切っても切れない関係に有るんだと思う。


「でもまぁ、俺様も滅んだとは言え一つの世界を背負った事の有る神の成れの果てだ、あんた等が持つ世界樹の有用性を狙う連中の気持ちも分かるし、逆にお前さん達がソレを死ぬ気で守ってるのも理解出来る……だから契約しようぜ?」


 この場に居るのは世界樹運営委員会の要職に有る者達と、通信の実務に携わる伝神ポールだけだが、その誰もが息を呑む音が世界樹の中に広がる電子の海に響き渡った様に思えた。


 私達の様な嘘を吐く事が出来ない存在にとって契約と言うのは凄まじく重い物なのだ……契約に抵触する様な事が有ればその存在自体が消滅する可能性すら有る程に。


 世界樹に守られた我々ですら下手な契約違反を犯せば、彼等と同様に永遠の氷河囚われる事だってあり得るだろう。


 しかしこの状況で向こうから契約と言う言葉を持ち出した以上は、彼等の言う通り求めているのは一時の娯楽だけで、此方から得られるだろう情報なんかに価値を見出していると言う事では無いのかも知れない。


 余計な言質取られる事の無い様に慎重に、けれども場合に依っては此方が何等かの利益を得る事が出来る可能性は零では無いだろう。


 彼等は無数の世界に同様の手法で情報収集の手段を潜り込ませて居ると言う話だし、もしかしたらこの世界を狙う敵対的な世界に関する何等かの情報を引き出す伝手と成る可能性だって有る。


 私は伝神ポールに目配せをしてから、一呼吸置いて頷き返し契約の内容を少しずつつめて行く様に指示をだしたのだった。

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