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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
志七郎、南へ の巻

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千二百四十七 旅籠に逗留し遊郭を思う事

 火元国の『宿屋』に区分される見世は大きく分けて三つの格式で分けられて居る。


 参勤の際なんかで諸大名が泊まったり何等かの役目で江戸を離れた際に幕府の役人が宿を取るのが『本陣』。


 一般の旅客が相応の銭を支払って部屋を借り、食事の提供なんかを受ける事が出来るのが『旅籠』。


 そして共同の台所が設置されており、ソコで使う薪代を支払って雑魚寝で泊まるのが『木賃宿』だ。


 此等は飽く迄も大分類で有りそれぞれの中でも更に格式やら創業年数やらで階級が別けられて居たりもするが、大体はこの三つどれかに分類されると言う


 此処天目山神社門前町は街道沿いの宿場と言う訳では無いが、世界を見渡しても最高峰と言える鍛冶職人達が集まる場所で有り、新たな異世界の魔物モンスターから得られた素材の登録場所だけ有って大名が泊まる事も想定され本陣も営業している。


 とは言え俺達は飽く迄も大名の子弟でしか無く、集められた面子も武士階級なのは俺とお連に従兄殿の三人だけなので、金銭の都合は兎も角として本陣に泊まる資格は無い。


 なのでこの門前町の中ではそこそこ格式の有るとされて居る旅籠屋に泊まっている訳だが、武士階級の俺達と町人階級の者達では泊まる場所が違う。


 俺達三人は旅籠の母屋から独立した離れの建物を充てがわれて居るのに対して、動員された領民達は母屋に有る二畳程の小さな個室がそれぞれの寝床と言う事になるが、部屋の格付けと言う意味合いも有る。


 けれどもソレ以上に大きな理由は夕食後の『お楽しみ』を別途注文する事が可能な部屋かどうかと言う事だった。


 男尊女卑……と言うと聞こえは悪いが、前世(まえ)の日本と比べたら基本的に治安がよろしく無い火元国では、女性が一人で旅をしようなんて考えれば、よほど腕の立つ女鬼切り者か武家の子女でも無い限りは、攫って下さいと言っている様なモンだ。


 其の為、どうしたって旅人の大半は男性と言う事に成り、何処の旅籠も本陣も男性にウケる接待(サービス)を提供する様になるモノである。


 ……早い話が『飯盛り女』と呼ばれる普段は旅籠で給仕なんかの仕事をしている女性を『一晩買う』と言った事が日常的に行われている訳だ。


 コレが旅籠では無く本陣なんかに成るとソレが兼業の飯盛り女では無く、芸事なんかをキッチリと修めた太夫なんかの格を持つ遊女が参勤交代の時期にだけ近場の遊郭から呼ばれて宴席を盛り上げたりする事になる。


 その際に逗留する御大名が若く血気盛んだったり、老いて尚助平心治まらぬ狒々爺だったりした場合には、一晩の御慰みを頂戴する……なんて事もあったりする訳だ。


 そんな訳で『夜遊び』の費用は流石に自腹を切る必要が有るが、山奥の小藩の癖に極々普通に貨幣経済が成り立つ程度には裕福な我が藩の領民達はその程度の小遣い銭はキッチリ持って外へと出てきているのである。


 とは言え護衛と言う藩への税としての動員なので、全員が全員丸っとそうした夜遊びをしている訳では無く、日替わりの交代で離れと母屋を繋ぐ渡り廊下と縁側辺りに寝ずの番をする者が詰める事になっていた。


「太郎彦は別にそっちで遊んで来ても構わなかったんだぞ? 俺だって男だ、こういう場所で遊んだ事をお晴殿にチクらない程度の分別は有るからな」


 お連と言う許嫁を同行させている俺がそうした『遊び』に手を出せば、よほどの馬鹿じゃない限りは後々に禍根を残すだろう事は容易に想像が付くが、国許に許嫁を残して出兵して来た太郎彦はその限りでは無い。


「一応は俺も元服の儀は終わっているし、北の宿場でそう言う遊びをした事が無いと言う訳では無いが……それでもお晴以外の女性に対した興味は無いと言うのが事実だし、お二人の身の安全の為にこうして一緒に居る方が良いでしょうよ」


 生真面目な太郎彦の事だから、前世まえの俺の様に童貞を拗らせて居る可能性を考え、軽くそんな話を振ってみれば返って来たのは惚気にも近い言葉だった。


「あ、それとも志七郎様がお連殿とそう言う事をするのに俺が邪魔だと言うならば、二刻(約四時間)程度席を外して外での護衛に切り替える……と言う気遣いはするが?」


 更にニヤリと嫌味混じりの笑みを浮かべてそんな切り返しをしてくる辺り、主君と家臣では無く遠縁の身内として対応してくれているのが解かる。


「俺は兎も角、お連には未だ早い。彼女は未だ御赤飯も食べて無いからな……ソレに火元国より医療の進んだ外つ国で仕入れた話だが、子供を産むなら最低でも十六歳できれば二十歳(はたち)まで待ってからの方がお産での事故の確率は大きく減らせるらしいぞ」


 ……こんな話は当然、お連本人に聞かせる様な事でも無く、彼女が母屋に有る浴場へと行って席を外して居るからこその下世話な会話だ。


 なお外つ国で仕入れたとは言ったが、実際に前世の世界で学んだ保健体育の知識で、少なくともワイズマンシティではこの程度の事すら世間一般には知られて居ない話だった。


「母上が七人もの子供を生んで尚も健康体を維持出来たのは、初産が二十歳を過ぎてからだったってのは割と大きな要因の一つなんじゃねぇのかなぁ」


 猪山藩の江戸屋敷(ウチ)には半ば(チート)と言っても過言では無い伝説の産婆であるお宮が居るので、お産の事故と言うのは江戸屋敷ではほぼ起きる事は無い。


 とは言え産後の肥立ちの悪さから身体を壊したり……と言う事が全く無いかと言えばそう言う訳でも無いと言う。


 やはり若年妊娠や高齢出産は、幾ら狡産婆の権能(ちから)を持ってしても、それ相応の危険性(リスク)を伴うモノらしい。


「成る程な、我が猪山藩は妊神で在られる天蓬大明神様が氏神として住まわれている事も有って、その手の問題は他所と比べると可也少ないとは聞いて居たが、全く無いと言う訳では無いからなぁ……」


 天蓬大明神様って妊神……つまりは妊婦の守り神なのか、なんてーかそう言う方向の権能って何と無く女神様のモノとばかり思っていたが、考えて見れば前世の世界でも産婦人科で働く男性医師は居たし、決して奇怪しい話では無いのかも知れないな。


 神仙の術……世界樹ユグドラシル・サーバーに直接接続(アクセス)してこの世界の事象を書き換える事の出来る神々とて、ソレを行うにはそれ相応の対価コストが掛かるが故に、幾ら権能の範囲内とは言え絶対万全と言う訳では無いらしい。


 特に猪山藩猪川家の祖で有り氏神でも有る天蓬大明神様は、妊娠中の妊婦を守り出産時の事故を限りなく零に近づける事は、お宮に授けたと言う技術と最悪の場合は神仙の術でなんとかする事が出来るが、産後の肥立ちに関しては管轄外なのだと言う。


「所で……太郎彦はさっきシモの意味でも元服を済ませたと言ってたけど、相手はどんな娘さんだったんだ?」


 武家階級では無い猪山藩の庶民ならば、元服の試練を終えた後に近場の旅籠で飯盛り女を相手に童貞を捨てるのが定番だと言う話はどっかで聞いた覚えが有る。


 優駿制覇まで童貞を守りきった仁一朗兄上は兎も角、義二郎兄上や信三郎兄上は未だマトモだった頃の富田藩でそれ也の格式有る遊郭で、太夫とまでは行かないが『格子』や『天神』等と呼ばれる太夫に次ぐ格の遊女で童貞を切ったと聞いた。


「俺が元服の儀に挑んだ時には、もう富田の遊郭は駄目に成ったって話を聞いてたから、風間藩の方に行ったんだが……あっちは遊郭って程整備された見世は無かったんだよな。だから仕方なく旅籠で飯盛り女を買ったんだよ」


 先代までの富田藩は銘酒の産地として有名で、酒が入れば当然の様に気が大きく成った男達は、財布を開いて女が欲しくなる……と言う様な感じで、藩内に幾つもの遊郭が整備されていたらしい。


 直ぐ隣にそんな藩が有り、同じく大藩とは言え商業よりも農業と尚武に力を入れている風間藩では、藩都は兎も角として地方にまで遊郭の類は整備されていないと言う。


 富田藩は大藩とは言え大きな街道に面して居ない為、ソコを訪れるのは富田藩に用事が有る者達だけだったのだが、地方に幾つも遊郭を整備するだけの集客力が往年の『富田の銘酒』には有ったと言う証左といえるかも知れない。


 恐らくは何代も何代も積み重ねて来た試行錯誤の結果生み出されたであろう銘酒を、たった一代……もっと言ってしまえば数年の苛政で駄目にしたのだから、骨川強右衛門(すねえもん)と言う男に内政の素質は全く無かったと見える。


「まぁお晴に比べたらどんな女も下の下に成ってしまうが、あの旅籠に居た中では一番綺麗な胸をしてたとは思うね」


 と、そんな感じでお連が風呂から出てくるまで、俺達は思春期の男らしい下世話な話で盛り上がったのだった。

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