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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
志七郎、南へ の巻

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千二百四十五 動員された行軍を指揮し改名の難しさを考える事

 義二郎兄上が火元国へと戻った際に行われた大宴では、猪山藩からも多くの食肉を国許から江戸へと運ばせた。


 その際に人足及び護衛として動員されたのは、大半の者が一目で『混ざり者』や『半妖』等と言う蔑称で呼ばれる様な者達だった。


 ソレは猪山藩が古くから鬼や妖怪の血を取り入れてきた『異形の者』が藩主から民草に至るまで、満遍なく存在する『混ざり者の藩』である事を忘れかけていた江戸の者達に誇示するのが目的だった……と聞いて居る。


 御祖父様に父上と二代続いて見た目で解かる異形の者が藩主に成らなかった事で、その辺の事情が近隣の藩は兎も角少しでも離れた藩や江戸では、既に忘れられ掛けていたと言うのだ。


 故に猪山百鬼昼行(ひゃっきちゅうこう)等と瓦版にも書かれる事になった様に、異形の者を特に集めた動員を行った訳だが、移動中の旅費や江戸に居る間の滞在費なんかは兎も角、彼等に対して賃金の様な物は一切支払われていない。


 動員は年貢とはまた別の賦役と呼ばれる税の一種として扱われる部類の物であり、普通の藩ならば治水の為の普請(工事)やら、大名家や家臣達の屋敷の修繕なんかを『手弁当』で行わせる行為を指す。


 故にこの間の百鬼昼行と呼ばれた動員の際も、旅費や江戸での滞在費用なんかは猪河家が面倒を見たが、個々の人員に対しては報酬と呼べる様な物は支払われていない。


 ……せっかく江戸へと上がった彼等が相応に『遊ぶ』程度の銭は出したが、ソレは彼等に対する報酬と言うよりは猪山者は貧乏人揃いで碌に遊びもしない、等と言う風評が立つとソレはソレで藩の体面に関わるので必要経費の範囲である。


 こう言ってはアレだが前世(まえ)の日本では恐らく知らない者がいないだろうイジメっ子の台詞である『お前の物は俺の物、俺の物は俺の物』と言う言葉は、封建社会の領主にとっては其の物ズバリで正しい言葉なのだ。


 それ故に江戸へと上がった領民は『領主のモノ』で有り、其れ等が見窄らしい姿で飯も食うや食わずで、遊びの一つも出来ない様では領主が自分自身の身の回りにすら気を使えない男と見做される訳である。


 外へと出せばそうした経費が余計に掛かるので動員が行われるのは、雑兵を動員しなければならない様な合戦でも無ければ、基本的には領内で完結する事になるのだ。


 そう言う意味で先日の百鬼昼行は確かに国許から大量の肉類を運ぶと言う実益面も有ったが、小藩では有るが猪山藩は異形の者達の土地で有り、武勇に支えられた財力が有ると言う対外的な主張(アピール)だったとも言える。


 と、なんで今に成ってそんな事を語って居るかと言えば……


「志七郎様、次の宿場までの物見に出して居た者が戻りました、見える範囲で不審な者の陰等は無いとの事です」


 お連を連れて天目山の鍛冶神様の所へと装備を作って貰うと言う話を父上に通した所、護衛と言う名目で前回の動員に参加していない普通の人間寄りの領民が二十名程、集められ俺の下に付けられたのだ。


 ちなみに今、報告をしてくれたのは今回の動員団のかしらを若年ながら拝命する事になった再従兄(はとこ)の猪牙太郎彦である。


 未だ元服前では有るが藩主の傍系血筋の子で有り、武勇も下手な大人に勝ると言う事実が有る彼は、本来ならば武士で有り家臣枠なので動員に参加する必要は無いのだが、前回の動員に弟が参加していた事に負けてなるか、と参加を決断したらしい。


 そんな訳で動員衆の中で唯一の武士階級と言う事も有って若年ながらも彼が頭を張る事に成った訳だ。


「うむ、ならば進むとしよう。一番大事はお連の身の安全、俺の事は二の次で良い、その上でお前達も余計な怪我等を負わぬ様に注意して進むのだぞ」


 父上から領民を預かっている以上は俺も元服前とは言え、一部隊を預かる殿様として振る舞う必要が有る……と考えているからこそ、普段とは違う言葉遣いに成っているが、ぶっちゃけ前世に部下を連れて仕事していた時の感覚で話したい。


「志七郎様、そう鯱張った口ぶりじゃなくても大丈夫ですよ。まぁ俺の方は再従兄では無く配下としての参加なので、相応の礼儀は必要になりますが……上に立つ者は恥ずかしい振る舞いさえ無ければ問題有りません」


 どうやら俺の放った言葉は此方の世界でも年嵩の者しか話さない様な、古めかしい言い方に成っていた様で、太郎彦は軽く苦笑しながらそう言って普段通りの言葉使いで良いのだと言ってくれた。


「あ、そう言うもんなんだ。じゃぁさっきと言う事自体は変わらんが……守るべきはお連の身柄が第一だ、俺は自分の身くらいは自分で守れる、他の者達も無駄な怪我をする様な事だけはせずに進もうか」


 と、改めて宣言して行軍? を再開した訳だが……正直言ってお連の身の安全がどうこうと言うのはあんまり心配していない。


 なんせ今回の旅では騎獣に乗る資格を持つ太郎彦が、お連の騎獣としてしっかりと調教された熊を、自分の熊と一緒に連れてきて居るのだ。


 そして当然俺は四煌戌に乗っている訳で……下手な牛より大きな三つ首の犬に、これまた調教されて居るとは言え下手に刺激すれば手痛い被害を受けるであろう熊に跨った者が二人、そんな面子にちょっかいを出す様な輩は然う然う居ないだろう。


 そんな訳で野盗の類なんかは警戒対象として想定しておらず、有るとすればお連の叔父で有り現富田藩主である骨川強右衛門(すねえもん)の手の者と言う可能性だ。


 動員二十余名と上記したがその中で猪山藩の領民は実際には十九名で、今回は武士の枠組での参加では無いが武士階級の再従兄殿の他に、御祖父様の手の者と言っても良い忍術使いが二名参加していたりする。


 何処かの忍軍に所属している訳では無い所謂『野良』と呼ばれる忍術使いの一家の者では有るが、その頭は御祖父様や上様が義兄弟と認める人物である以上、これ以上に信用出来る者は居ないと断言して良いだろう。


 彼等の一族も主だった面子の住処は猪山藩内に有るそうで、領民達からは藩主を退いて尚も上様の為に奉公している御祖父様が私的に使う為の手勢と言う様な認識で、普段の交流こそ薄い物の猪山藩の仲間と言う様な感覚ではあるらしい。


 当然ながら先行して物見……現代的に言うならば『偵察』をして来たのは卵丸(たまごまる)と言う名前らしい忍術使いの一人だ。


 ……個人的には何時までも一人前に成れなさそうなその名前に憐憫を感じなくも無いが、彼等の一族は『音読みでランと読む字に丸を付けて訓読みする』と言う命名の仕来りが有るそうで卵がランと読める以上は仕方が無いと言う事なんだろう。


 前世の日本でも『キラキラ(DQN)ネーム』と言われる様な命名をされた子供が、学校なんかで読み間違い……と言うか『読めねーよ!』を乱発された挙げ句、改名手続きに着手するなんて事が増えて居たそうだが、こっちの世界での改名は簡単じゃないんだよな。


 いや向こうの世界でだって改名は早々簡単に出来る様な手続きでは無く、色々と面倒な条件が揃わなければ御役所もソレを認める事は無いとは聞くが、こっちの世界では改名しようと思えば幕府や朝廷を通り越して神々の承認が必要となるのだ。


 武士階級の者で尚且つ家長がソレを認めるならば、その家が祀っている氏神様なんかを通して、その家が先祖代々溜めて来た奉納点と呼ばれる神々への貢献を評価した数値を消費する事で改名を行う事は不可能では無い。


 その他にも礼子姉上の婚約者である義兄(あに)上が清吾と言う名から伏虎と言う名に改名した時の様に『神々が見ている』様な状況で、それ相応の『実績』を見せた時にやはり家長が申請したならば神々の承認が降りる事も有る……と言う位だ。


 とは言え伏虎義兄上のアレは奇跡にも近い様な希少案件(レアケース)で、公衆の面前で神の声が降ってくる様な事は火元国どころか世界を見渡しても数年に一件有るか無いかだろう。


 世界の端っこに有る火元国の江戸と言う一地方都市で起きた事で有り『一朗だから仕方が無い』がある程度定説化している人物の『やらかし』だからこそ、大きな噂として世界の潮流に乗っていないだけで他所で同じ事が有ったならば伝説に成っている筈だと言う。


 神々が管理する世界樹(ユグドラシルサーバー)に登録された名前を変更すると言うのは、この世界ではそれほどまでに重く難しい事なのだ。


 と、言う訳で永遠にヒヨッコ未満の扱いを受けそうな卵丸の将来に南無……と心の中で唱えつつ、俺は四煌戌の横でやっと怯えた様子が抜けて来た熊に跨ったお連に視線をやり、彼女を頷いたのを確認してから


「よし、それじゃぁ今日の進行は次の宿場までだ、あと少しと気を抜く事の無い様に……出発!」


 そう一団に命じ行軍を再開するのだった。

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