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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
志七郎、南へ の巻

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千二百四十三 合戦の概要を語り少女の成長を噛みしめる事

 火元国が戦国とも呼ばれる乱世の時代はとうに過ぎ去り、当代の上様が七代目の征異大将軍でその治世は歴代将軍でも最も長い六十年を少し過ぎた程になると言う。


 ソレまでの将軍様も最も短かった初代である太祖家安公で二十年で代替わりしていると言うのだから、幕府が開かれてから今年で既に二百年を少し回った程の時が過ぎて居る。


 その間、(いくさ)即ち合戦と呼べる様な戦いは、鬼や妖怪を相手とした物は相応に有る物の人対人のソレが行われた事はたった一度切りで、ソレも二代目である禿河増輝(ますてる)公の頃に旧六道天魔配下残党が暴れた時位の物だと言う。


 鬼や妖怪の被害が日常に存在するこの世界ではその地を統治する大名家が壊滅し、人の住む場所から魔物(モンスター)縄張り(テリトリー)へと成ってしまう……なんて事も二度や三度等と指で数え切れる程度の事では無く何年かに一度は何処かで起こっている話だ。


 諸藩の大名はそうした事が起こらない様に、家臣を鍛え装備を整え日々訓練を積み上げさせては居るが、時には並の侍では手に負えない様な大鬼や大妖が徒党を率いて襲い来る事もある。


 一朗翁が討伐した大鬼や大妖はそうした藩を潰す程の戦力を持った者達で、本来ならば幕府主導で複数の藩から手勢を集めて討伐軍を起こして当たる様な相手だった訳だ。


 件の討伐行も当然ながら一朗翁が途中で失敗した時には幕府が軍勢を率いて大々的な討伐が行われ、その際に功の大きかった者が新たな藩主としてその地に封ぜられて居た事だろう。


 けれども一朗翁が当時問題と成っていた其れ等を全て一人で片付けてしまった事で、空いた領地が出来てしまったのだが……ソコは別の論功行賞の結果で褒美として、幾つかの小大名を封じる形に成ったのだそうだ。


 兎角、鬼や妖怪を相手にした戦は日常とは言わずともそれ相応に有れども、明確に謀反だなんだを理由にした人対人の戦を現在の武士で経験した事の有る者は誰一人として居ないと言う。


 無論、すわ一大事と言う時に備えて、多くの武士達は勿論の事鬼切り者や町道場に通う町民達に、鬼や妖怪から田畑を守る為に武芸を磨く農村に住む者達だって、普段の稽古の中で対人戦の訓練を怠っている訳では無い。


 ソレに戦と言う程の規模では無い、俺も一度は経験している果たし合いの類を、一生に一度も経験しない武士は逆に稀有と言っても過言では無いだろう。


 なんせ挑まれたならば受けて立たねば家名に泥を塗る……と言う蛮族地味た精神性こそが武士が武士足る所以なのだから、挑まれたならば穏便に済ませたり逃げる帰るなんて選択肢は無いのだ。


 と、そんな訳で個人戦や小集団での小競り合い程度ならば経験した事の有る者も相応に居るのだが、藩を丸ごと一つ……ソレも大藩を相手取っての大戦(おおいくさ)ともなると禿河幕府始まって以来の大騒動である。


 一朗翁がお栗さんを見合いの席から奪った時も、一歩間違うと猪山藩対富田藩で戦に成っていた可能性は有るが、ソコは御祖父様が責任を取って隠居し一朗翁が大鬼や大妖を相手に大立ち回りをする条件で和解したのは穏便に済ませた内には入らないのだろうか?


 まぁ武士と言うのは蛮族では有るが同時に為政者でも有る為に、政治的に有利と見れば一時の汚名を飲み込んだ上でソレを雪ぐ機会得る……と言う判断を下す事も時には必要だと言う事だと思う。


 戦闘民族猪山人だの脳筋民族猪山人だの世間では色々と言われている我が猪山藩だって、喧嘩程度ならば売られれば買うが御家同士の戦となると流石に一寸待て……と踏み止まる程度の理性は持ち合わせて居るのだ。


「……戦ですか、本当に戦になるんですね。(つらね)の為に人が死ぬんですね?」


 そんな現在の火元国の状況を少しでも学んだならば、戦と言う言葉がどれほど重い物なのかは、よほどの幼子じゃ無ければ当然の様に理解出来る。


 自分が戦の火種になる……と言われて、どれだけの者がその重圧に耐える事が出来るだろうか?


 多くの者は『そんな事知らない、俺の所為じゃ無い』と、自分の責任だったとしても知らぬ存ぜぬを決め込むだろう、ましてや自分の所為でないのならばソレを背負い混む事から逃げ出す方が普通だと思う。


「……コレを言うと御母様に悪いとは本当に思うんですが、お前様には正直に連の気持ちを言います。見た事も会った覚えも無い御父様の仇討ちよりも、今生きている人達が傷付かない方が大事だと思うんです」


 この言葉を聞いた瞬間、俺の目から一雫の涙が溢れた……悲しい訳では無い、むしろ嬉しいのだ。


 多分、猪山藩に引き篭もって母親を含めた限られた者達としか接しない生活を続けて居たならば、恐らくは言われるがままにただただ首を縦に振るだけの人形の様な娘のままだっただろう。


 けれどもお連は此度の留学だけでなく、南方地域へと旅した中で見た人々の生活の営みを見聞きし、自分自身の考えを持つに至ったのだ。


 多分、今生に生まれ変わって一番嬉しかったのは、お連がこうして『自分の考えを持ち、ソレを主張してくれる』と言う風に成長してくれた事かも知れない。


「けれども悪五郎様が策を練って動いて居ると言う事は、幕府に取っても決定事項と言う事ですよね? なら連はお前様のお役に立てる様に立ち振舞います。前藩主の忘れ形見として国盗りの旗頭になれと言うのであれば、そう命じて下さいまし」


 揺るぎ無い強い意志を宿した瞳を此方へと向け、そう言い切ったお連。


「無辜の民を傷付ける様な戦をする訳じゃぁ無い。九郎……熊爪の従叔父上が弟子に取った奴が言っていた話だが、今の富田藩では九公一民なんてえげつない税を掛けた上で、他にも色々な理由を付けて民を苦しめる悪政が行われているんだ」


 火元国で農村部に掛けられる税は四公六民から五公五民程度が一般的で、ソレ以上の税を課して居る藩は然程多くは無い。


 全く無い訳では無いのは、平地面積が広く一つの農家が持つ田畑がやたらと広い地域なんかだと、多少税収を高目に設定しても農民達が生活に困らない程の農地を持つ富農地域なんかだ。


 逆に小藩で農作に向いた土地が少なく鬼や妖怪を討伐したり、山菜の採取なんかが農民の主な収入源……と言う様な藩でも『オラが村の殿様に立派なおべべを着せたい』と農民達の方から指定の税率以上の米が上納されて居る……なんて藩も有ると聞く。


 前者の代表格と言って良いのが猪山藩や富田藩の直ぐ隣に有る剛田家が治める風間藩だ。


 風間藩は猪山の様に異形の者が多いと言う訳では無いが、上位の武士から身分の低い小作農の水呑百姓まで、全般的に体格が良く田畑を耕す効率も他藩を凌駕していると言う。


 下手をすると馬や牛に鋤を引かせるよりも、人間がソレをした方が効率が出る……と言うのだから、もしかしたらお連の母親は風間藩の系譜なのかも知れない。


 猪山藩の四公四民二義と言う税率も決して緩い方とは言い難いが、四方を戦場(いくさば)に囲まれその何処に行っても食える鬼や妖怪が狩れる事から、生活状況は他所と比べても大分良い方だと聞く。


 ……ソレに猪山藩で税が掛けられて居るのは表作の米だけで、裏作の麦や水田にすればもっと米が取れるのに、他の作物を育てる為に畑として利用している土地の多さを考えれば、実質の税収としては天国とまでは言わないが、他所より可也楽な暮らしが出来る場所だ。


 猪山藩で暮らす武士階級では無い農民も、他所へ行けば直ぐにでも一端の侍として取り立てられるであろう武勇を誇るにも拘らず、他所で一旗上げよう……と出ていく者が極めて稀なのは、地元の方が確実に食うのに困らないからである。


 ただでさえ常人の三倍食うのが当たり前の猪山人が、他所の藩に一般的な俸禄で仕えたとしても、その俸禄だけではまず間違い無く自分の食い扶持すら賄う事は難しい。


 と為れば、今まで同様に鬼や妖怪を討伐して家政を回すと成ると、今度は武家の者として主家から御役目を賜った際にあっという間に財政が破綻する……と言う訳だ。


 ちなみに猪山藩に仕える家臣は俸禄其の物は他所よりも安いが、江戸に上がった際にはきっちり三食屋敷で面倒を見るし、国許に居る時には御役目が無い時に鬼や妖怪を叩き切ってその肉を保存食に加工でもしておけば食いっぱぐれる事は無い。


 そして余った加工肉は藩で唯一外部との公益が認められている御用商人の悟能屋へ売りに出せば、決して高い額面では無いがソレでも買い叩きと言う程安い値付けをされる事も無いので、多少俸禄が少なかろうがそう問題になる程では無い訳だ。


「この戦は世直しの為の戦だ、悪政に苦しむ無辜の民を悪い殿様から開放して上げるんだ。だからこそ幕府も今回の件を俺達に任せてくれると言う話に成っている訳だしな」


 自分を正義だと定義した時、人間は最も獰猛でエゲツ無く汚い一面をさらけ出すと言う。


 俺はそう成らない様に……と法の守護者足る警察官だった頃から、常にソレを意識し続けて来た積りだ。


 今回の件でも、現藩主の骨川強右衛門(すねえもん)が悪政を敷いていると言う事実と、前藩主の忘れ形見であるお連を押さえていると言う二つの大義名分が有るからこそ、強右衛門を討伐し悪政に苦しむ富田藩を開放すると言う名目が通るのである。


 けれどもどんなに綺麗事を並べても合戦と言う力尽くでの解決法を選んだ時点で、絶対の正義は我々には無い。


「富田を開放し悪政に苦しんで来た民を救い癒やす事が出来たなら、多分きっとソレがこの件に関して唯一の正義と言えるんじゃないかな?」


 正義の反対は悪では無く往々にして別の正義が有るものだ……が、民草を踏みつけにして圧政を敷く正義なんてものはきっと無い筈だ。


 半ば自分に言い聞かせる様にして、俺は御祖父様の企てをお連に説明していくのだった。

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― 新着の感想 ―
どこぞの江戸初期に一揆をされて、本人は斬首された大名は、実質12公−2民だったそうですよ。 リアルさんはリアリティ無くて困りますね。
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