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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
志七郎、南へ の巻

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千二百三十八 飲み過ぎの朝に主税と直訴を考える事

 すぱぁん! っと、激しい音を立て、誰かが長屋の引き戸を力一杯に開いたのを、俺は布団で微睡む意識の中で聞き、僅かな危機感を覚えると意識が一気に覚醒していく。


志七郎(ししちろー)! 何時まで寝てるにゃ! 朝ご飯が冷めて硬く成っちゃうのにゃ!」


『怒り心頭に発する』と言う言葉が良く似合う様な勢いで俺の部屋へと怒鳴り込んで来たのは、我が猪山江戸屋敷の台所を預かる睦姉上だ。


 我が家では基本的に朝と晩の飯は屋敷に居る者は、皆揃って頂く事に成っており、長期間不在にすると言う様な時で無ければ、その都度食べないなら食べないと事前に知らせて置くのが取り決めに成っている。


 昨日は千田院で味噌放る物(ホルモン)とネギ塩牛タンに麦酒をしこたま食って呑んで、帰って来たら風呂にも入らずそのまま布団へと潜り込んだので、朝食が必要ないとは伝えていなかった訳だ。


 朝の稽古は絶対に出なければ成らない訳では無いが、朝食の方は知らせて置かなければ、こうして激怒した睦姉上だったり、他の猫又女中だったりに叩き起こされる事に成る。


「……済いません、今起きます。昨日は生まれ変わり振りに麦酒ビールを呑んだモンで、一寸ばかり呑み過ぎちゃいましたよ」


 こう言う時に言い訳をするのは相手の怒に火を注ぐだけだが、単純に理由を説明するのは言い訳の内には入らないだろう、そう判断しそんな事を口にしながら布団を跳ね飛ばして起き上がる。


「あー! 志七郎の阿呆! 着物着たままで寝たにゃ! 皺に成るから駄目だってあんだけ言われてるのに! 仁兄(じんに)ぃの悪いとこは真似しちゃ駄目だにゃ!」


 仁一郎兄上は酒精(アルコール)度数九割(90%)越え超蒸留酒(スピリタス)の類でも一気しなければ、基本的に酔い潰れる様な事は無いとは聞くが、昨日の俺の様に潰れて無くても酔いが回って色々と面倒臭く成る事は有るらしい。


 ソレで動物の世話をサボる様な事は無いが、自分の事に関してはとことん面倒臭く成って、風呂にも入らず着替えもせずに寝る……と言うのは兄上の悪い癖の一つなのだそうだ。


「つか、酒と肉と炭火の臭いでスゲー事に成ってるにゃ! 朝ご飯食べに来る前に着替えて井戸で水浴びして来るにゃ!」


 来た時と同様に荒々しく音を立てて閉められた障子戸に、俺は生まれ変わる前の自分の甥っ子や姪っ子にでも叱られた様な気分に成り、少しだけ凹んだがそのまま不貞寝を決め込む訳にも行かず、言われた通りに着替えを持って井戸へと向かうのだった。




 今日の朝飯は目玉焼きに法蓮草のお浸し、ソレと恐らくは妖怪の類であろう妙に一切れが大きな焼き鮭と豆腐と納豆の味噌汁、それから何時も通りてんこ盛りの麦入りの白米だ。


 コレが庶民と呼ばれる家庭に成ると良く精米された白米では無く玄米が当たり前に成るし、逆に裕福とされて居る様な商家なんかになると麦が抜かれて銀シャリを食う感じになる。


 ただ前世まえの世界で言う所の『江戸患い』こと脚気は、その対策を含めて太祖家安公が幕府に対して警告を遺していた為に、此方の世界では然程多くの発症者は出ていないと言う。


 実際、経済力で言えば下手な大大名を凌ぐ猪山藩猪川家(ウチ)ですら、銀シャリを食うのは何等かのお祝い事の席位な物で、普段は今食べている様に麦の混じった飯を食うのが普通なのだ。


 麦の種類が何なのかとか詳しく考えた事は無いが、前世にどっかへ出張へ行った際に食べた麦とろ飯に使われていた麦飯よりも癖は無く、殆ど白米を食べているのと変わらない味と食感なので見た目以外に違和感は無い。


 ……まぁウチの場合は、家臣から家人まで大体の者が常人の三倍食うのが普通と言う土地柄も有って、銀シャリを日常的に食わせていると藩の財政が酷い事になると言うのも有るんだろう。


 反収、一反の土地から取れる作物の収穫量を示す数字の上では麦よりも米の方が圧倒的に多い筈なのに、麦の方が安いのは市場が求める需要の差も有るのだろうが、火元国では余程環境が悪い場所でも無い限りは二毛作が行われていると言うのも大きいんだと思われた。


 年貢として毎年徴収されるのは表作の米だけで、裏作として行われる麦には基本的に税は掛からない。


 極稀に裏作にも税を掛ける様な藩も有るそうだが、そう言う場所は大体は表作の年貢だけで遣り繰り出来ない様な小藩で、農民達も『オラが村の殿様』を支える為に……と理解している所が多いと聞く。


 中には今の富田藩の様に悪政に因る重税と言う案件(ケース)が無い訳では無いが、多くの場合そうした悪政に対しては他藩の大名を通じた直訴が行われ、幕府が介入する事に成る為そうそう起こる事では無いらしい。


 富田藩の一件がそうならないのは、件の地が火元国の背中とでも言うべき位置に有り、参勤で江戸へと上がる他藩の大名が通る道から外れていると言うのも大きな原因の一つだろう。


 通常、直訴の際には大名行列が道を行くのを遮らない様にしつつも、完全に無視出来ない様に直訴状を先端を割った竹に挟んで持ち、護衛の武士に差し出す……と言う礼儀作法がしっかりと定められて居るのだ。


 本来直訴と言うのは、地元の大名の頭越しに訴状を他藩の大名を通じて幕府へと差し出す行為で有り、地元藩主の体面を潰す事に成る為に直訴を行った者は、例えソレが正当な申し立てだったとしても死罪と成るのが確定している大罪である。


 民主主義国家である前世まえの日本人としての価値観を持つ俺からすれば、言論の自由は無いのか!? と吠えたく成る様な法度では有るが、此処は民主主義で動いている国では無く幕府が各地の大名に統治を委ねている封建社会なので仕方が無いと言えば仕方無い。


 本来なら何か上に物申したい事が有る場合には、農村部なら庄屋とか村長なんて呼ばれる人、市街地ならば大店(おおだな)と呼ばれる様な商家達が名を連ねる寄り合いと呼ばれる組織なんかに話を持ち込み、ソコから上に向かって順繰りで話を上げていくのが筋なのだ。


 直訴と言うのはそうした筋目を外して、いきなり上の上へと話をぶん投げる行為で有り、ソレを(おおやけ)に認めると成ると一種の独立国家である藩の統治を認めた幕府に対する体制批判とも成りかねない。


 こう言ってしまうとアレだが、独裁国家で独裁者を批判する様な行為をすればどうなるか……と言う奴だ。


 例えソレが真っ当な申し立てで幕府が乗り出すべき自体だとしても、ソレはソレで有り筋目を外した直訴の罪自体が消えるモノでは無く、身内への連座こそ無いと定められて居るモノの当人の死罪は免れない。


 言論の自由が保障された自由主義国家で生きた事の有る身としては、正直言ってドン引きする様な話だが、直訴に至る者の心情としては文字通り『命に代えても家族の為に』と言う状況なのだろう。


 とは言え此方の世界は気候や天候が世界樹(ユグドラシル)の神々に依って完全に管理されており、前世の世界の江戸時代以前の様に度々飢饉が発生する様な事は無いので、余程の悪政を働かない限りはソコまで追い詰められる事は先ず無い……筈なんだよなぁ。


 ちなみに前世の世界だとそうした不正の糾弾以外にも、直上の長を相手に出せば握り潰されそうな訴訟の類なんかを、代官やお寺の坊さんと言った本来定められた筋目を外した相手に出す行為も『直訴』に区分され、此等を数に入れるならば日常茶飯事だったらしい。


 その上で直訴即処刑と言う様な事も無く、余程の無礼を働いたとか、訴状の内容が嘘八百だったとかそう言う事が無い限りは『本来定められた方法で訴える様に』と口頭注意くらいで済むのが普通だったと言う。


 そう言う点で言えば、直訴は確定死罪とされて居る此方の世界は、本当に命が軽いんだよなぁ。


 鬼や妖怪と言った魔物(モンスター)との戦いが日常に有る世界だからこそ、向こうの世界よりも指揮命令系統が重視されるのかもしれないが……。


 その辺外つ国ではどーなってんだろ? 今日はこの後ワイズマンシティに跳んで西海岸流侍道(ウエスタン・サムライ)の稽古を受ける予定だし、一応は民主主義国家で有るあの国はどうなのかを師範に聞いて見るかー。


 なんて事を考えながら俺は、飯とおかずを3回程お代わりして朝食を終えたのだった。

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