千二百二 志七郎、本願成就し羞恥に死にかける事
アレは……中学校で同級生だった水泳部の清川さん? あっちはサッカー部のマネージャだった虹野さん、彼女達は都内の高校に進学したから卒業後に会う様な事は無かったが元気だろうか?
此方に見えるのは同じ町内に有った不良校の川北高校で女ながらに実力で番を張り、舎弟達にもカツアゲの様な仁義に悖る真似をさせなかった女番長の藤波が居る。
向こうに居るのは俺が通って居た進学校の南川高校の同窓生で露西亜系だったとか聞いた覚えの有る橘さんか?
彼方には大学の排球部で活躍して居た山崎さんが今時見かける事の無い真っ赤な下着の様な体操着姿を披露して居る。
かと思えば、合同捜査の関係で本庁に出向した際に出会った交通執行課の辻本巡査が夏用の薄手の制服姿で腕を組んで胸を強調した格好で此方を挑発的な目で見て居る様に思う。
他にも独逸に捜査研修に行った際に捜査協力をしてくれた踊り子のミルヒシュトラーセ嬢や、米国に行った際に巻き込まれた騒動で行動を共にした軍人のマオ曹長の姿も有る。
……なんだろう此れは、いや何と無く解る、前世で出会った俺の好みに合致する女性の姿を、魂に刻まれた欲望が身体の変化に合わせて思い出させて居るのだ。
芸能界には余り興味は無かったが、雑誌の巻頭辺りに載っていた写真なんかで見る事の有る偶像の水着姿なんかは、思春期の男にとっては色々とお世話に成る代物で、そうした中で見た少女達の姿も脳裏を過って行く。
此れが夢だと気が付いてしまえばこの後に起こる事も大体予想は付くのだが、自分で操作や操縦なんぞ出来ないのが夢の中と言う物だ。
其れこそ夢を自在に操作する事が出来るなら、誰しも好き好んで悪夢なんぞ見る訳が無い。
まぁ今見ている此れは悪夢とは正反対で、記憶の中から蘇って来た自分好みの女性達が、見た覚えの無い艶姿を晒しどんどん肌色の多い姿へと変化し行く、いうなれば淫夢と称するべき物だが……何方にせよ操作出来ないなら同仕様もない話である。
後々に嫌な思いをする事は既に想像が付いては居るが、何も出来ないのだからこの状況を楽しむ方が健康的だろう。
俺の前世は結局、童貞を捨てる事無く三十五年で幕を閉じる事に成ったが、だからと言ってそっち方面に関して完全に無知と言う訳では無い。
自家発電に勤しむ時には夜想曲の名を関した成人向けのネット小説を読む事も有ったし、違法に流通して居た成人向け映像の類を押収した後に検品すると言う仕事をして居た同僚の所へと見学に行った事も有る。
なので夢に見る彼女達がどんどんと過激な姿に成っていったとしても、其れ等は全て俺が前世に見た色々な媒体で得た知識を元にした物では有るが、向こうの世界の日本の漫画なんかの様に大事な所に消しが入ったりはして居ない。
恐らく此処を明確に描いた挿絵が入る様な事が有れば、有害図書指定を食らって回収される事請け合いな姿をした、前世に出会った女性達……此れが自分の意思で妄想して居るのであれば彼女達を穢したと自己嫌悪を陥る所である。
けれども此れは自分で意図した訳では無い夢の中の出来事なのでそんな事を考える必要は無いのだ!
……と、自分で自分を納得させた所で股間に粘ついた冷たい感触を感じ、俺は目を覚ましたのだった。
「うわぁ……やっちまった」
目を覚ますなり下着の中に感じる嫌な感触に俺は思わず死にたく成る。
だがしかし此れは俺の身体の成長と言う点で言えば間違い無く良い兆候だ。
前世に初めて夢精を経験した時には、そうした知識が無かったので病気か何かかと大慌てしたし、良い年をして寝小便に近い事をしてしまった……と、今回と同じ様に死にたく成ったが其れが正しい成長の過程の一つだと理解して安心した覚えが有る。
今回は人食い加加阿の猪口齢糖が想定通りの効果を発揮したならば、恐らくこう成る事も有るだろうと、事前に想定して居た結果の一つなので慌てる様な事では無い。
まぁ其れとは別にこの股間にねっとりと張り付いた冷たい感触は死にたく成るんだけどな……。
其れでもまぁ、今の身体は未だ下の毛が生えて揃って居ないから後始末がし易いからマシと言えばマシだろう。
前世の時には発毛の方が先で精通が後だったから、初めての其れは下着だけで無く下の毛にもねっとりと絡みついてちり紙だけで始末する事が出来ず、結局朝から風呂場を使う事に成って速攻で親バレしたもんだ。
男の其れですらアレ程に死にたく成る様な羞恥だったのだ、家族や近所に住む親戚なんかと赤飯を炊いて祝うと言う女性の其れはどれ程の恥辱なのか……。
そんな事を考えながら俺は寝台から降りて下着を脱いで、懐紙を良く揉んで柔らかくしてから息子さんが起こした粗相の始末をする。
一発出したと言うのに誇らし気に勃ち上がった姿を見せる息子さんの様子を見るに、西方大陸へと留学して来た目的の一つは無事に達成された、と断言して間違い無いだろう。
泊まり込みに備えて持って来た荷物の中から変えの下着を取り出し其れに履き替え、汚れた下着と敷布に毛布を手にして水場を目指す。
とは言え此処に有る水場と言うのは、水捌けを良くしてある場所程度の意味で、実際に水を汲む事が出来る様な場所では無い。
街の何処を掘っても海水に近い塩水しか出ないワイズマンシティでは、洗濯に使う水すらも精霊魔法に頼る必要が有るのだ。
「古の契約に基づきて……」
と言う訳でサクッと四煌戌を召喚して汚れた物を水洗いしようと思ったのだが……
「アイヤー! 男の子が洗濯とか駄目駄目ヨ! 水仕事は女の仕事ネ! ……てか、貴方赤老師のお弟子さんネ? 何処か身体悪くしたか?」
そんな俺を見つけたミェン一門の頭領で有るラウ・ミェンの娘、パイ・ミェンが声を掛けて来たのだ。
「いえ、一寸扱うのが難しい霊薬を使ったので、念の為ワン大人の世話に成っただけですよ。其れに此れは俺が汚した物なので俺が洗うのは当然の事ですから気にしないでください!」
……他の洗濯物なら未だしも子種で汚れた物を身内でも無い女性に洗濯させるとか、本気で気不味いとか言う範疇を大幅に超えてるだろ!
故に彼女の介入を避ける為に少し強い否定の言葉を口にしたのだが、
「……あー、そ~言う御年頃アルね。其れはワタシ見たいな綺麗なオネェさんには見られたく無いし、洗われるのは困るネ。でも大丈夫ヨ、此処男所帯で若い弟子も沢山居るネ。ワタシそ~言うの慣れてるヨ」
……色々と察したのか、ニヤニヤと表現するのがしっくりと来る笑みを浮かべて、俺の手から洗濯物を奪い取る。
氣をブン回して抵抗すれば躱す事は容易では有るが、其処まですると逆に楽しまれてしまいそうなので素直に……では無いが奪われる儘にしたのだ。
「赤老師のお弟子さんなら精霊魔法は当然使えるネ? 洗濯に使う水をたっぷり出して此方の瓶を一杯にしてくれると嬉しいヨ」
成る程な、俺の洗濯物を奪ったのは要するに無料でたっぷりと水を買う事が出来ると判断したからか。
この街では殆ど全ての社会資本が精霊魔法前提で成り立って居る、水が欲しいと思えば水属性の精霊魔法を使える者から水を買い、火が欲しければ燃料を買うよりも火の精霊魔法を使える者を雇う方が安いまで有る。
彼女の父親で有るラウ氏が営む帝王餐庁でも、恐らくは火力担当の精霊魔法使いを雇うなり、彼自身が覚えるなりして居る筈だ。
にも拘らず俺に水を求めると言う事は、帝王餐庁が抱える精霊魔法使いは水属性が扱え無いのか、其れ共私生活に使う分の水は別枠と言う扱いで金銭が掛かるのか……。
何方にせよ俺に取っては羞恥心を人質に取られた様な物である以上、逆らうと言う選択肢は封じられたも同然で有る。
俺は四煌戌に命じて水瓶が一杯に成るまで水作成の魔法を使うのだった。
11月1日は朝から出掛ける用事が有る為、前日は早く寝る必要が有り執筆時間が取れません
その為、次回更新は11月2日深夜以降となります、ご理解とご容赦の程宜しくお願いいたします




