表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
志七郎、南へ の巻

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1195/1256

千百九十三 志七郎、久方振りに会い大陸を知る事

 俺の姿を見つけて声を掛けて来たのは、練武志学両館での同級生で北方大陸(ロドム)に錬玉術を学ぶ為に留学してきて居る幕臣森本家の獅子丸殿だった。


「獅子丸殿、久し振りだな! 所で酒場の方から出てきた様だが……真逆とは思うが酒毒に嵌まり勉学を怠っている様な事は無いだろうな?」


 獅子丸殿は火元国を出る直前に行われた幕府からの奨学金を受ける為の試験で、ギリギリの成績を叩き出していた筈だ。


 しかも俺と同い年で有る以上は未だ未だ酒に現を抜かす様な真似をするのは早すぎる。


「あら……水が豊かな火元国じゃあるまいし、此方じゃぁ安全に飲める水を確保する方法なんて限られてるから、薄めた麦酒(ビール)を子供でも飲料水の代わりに飲むのが普通なのよ」


 と、そう思って注意の言葉を口にした積りだったのだが、其れを否定する言葉がお花さんの口から飛び出した。


 錬玉術でも水を素材とした調合法(レシピ)は幾つも有るし、何なら海水から清水を作ると言う調合法すら存在している。


 其の事を考えたならば錬玉術師(アルケミスト)製造所(ファクトリー)に留学して来ている者ならば、普通に飲料水を手に入れる方法は幾らでも有ると思ったのだが、どうやら此処では綺麗な水よりも麦酒の方が圧倒的に『安い』らしい。


「いや、拙者はどうも此方の麦酒は好みに合わぬ故に、喉を潤すならば専ら牛乳を口にする事が多い位で御座るよ、江戸の其れとは違い此方の牛乳は甘みが有って美味しい上に、腹を下す様な事も殆ど無いで御座るからな」


 前世の日本でも飛鳥時代当たりには牛乳や其れを加工した乳製品を帝や公家が口にする事も有ったと言うが、何時の頃からか『牛乳を飲むと牛に成る』等と言う迷信が広まって居たが故に其れ等が廃れたと言う話が有った。


 けれども此方の世界では向こうの世界の現代に比較的近い時代から来たと思わしき家安公が、牛乳や乳製品は身体の成長に良いと言ったとかで、江戸から少し離れた千田院辺りでは大々的に乳牛の飼育が行われて居たりする。


 一応江戸州内にも幕府の御用牧場が有り、其処で絞られた牛乳は上様に献上され幕府高官の家には下賜されて居るらしいが、猪川家(うち)の様な江戸市街の外側を固める大名家や、江戸城内に屋敷を持っては居ても家格の低い森本家なんかではお溢れに預かる事は無い。


 其の為、江戸で比較的安く牛乳を含めた乳製品を口にしようと思えば、当日絞りの物では無く一日二日は経って居る千田院産の物を口にする事に成るのだ。


 其れでも猪川家では冷却用の術具や氷を使った冷蔵庫何かを使う事が出来るので、冷えた牛乳を飲む事が出来るが、そうした物すら無い一般の武家や庶民は運が悪けりゃ中たる事も有る牛乳を飲むしか無いと言う。


「成る程、此方だと牛乳も良い物が安く手に入るのか、俺達が留学したワイズマンシティでは精霊魔法で生み出された水が一般庶民にまで出回って居るから飲水に困る事は無いが牛乳は手に入ら無いんだよなぁ」


 風呂上がりには良く冷えた牛乳を愛飲してた身としては、西方大陸へと渡る船旅の最中から此方、ずっと牛乳断ちをし続けている状態で有る。


 個人的には成長期の加爾叟謨(カルシウム)接種の為に牛乳を飲みたいのだが、残念ながらワイズマンシティの領地に有る唯一の牧場は馬の生産牧場で有り乳牛の飼育はして居ない。


 お花さんのお屋敷や精霊魔法学会(スペルアカデミー)の食堂で出される料理には、牛酪(バター)乾酪(チーズ)が使われている事も有るが、其れ等は先ず間違い無く他の都市国家からの輸入品なのだろう。


「火元国って恵まれてるんだって外つ国に出て初めて実感したで御座るよ。まぁ噂に聞く死国では其処らを掘った所で水は出ず、塩水ばかりでうどんを茹でるにも難儀するとは聞いた事が御座るがな」


 火元国の南部に有る死国と呼ばれる半島地域は、世界的に見ても狭い地域に多くの戦場(いくさば)が密集して居ると言う火元国の中でも特に其れが多い激戦区と呼んで間違い無い地方である。


 其の上で手に入る水の量が少ない事から稲作も難しく、狭い生存圏で麦を育てるしか無いと言う環境故に饂飩文化が発展して居る場所……らしい。


「死国にも行った事は有るけれど、ちゃんと川は有るし大陸に有る砂漠何かと比べたら、本気で飲水にも困ると言う程では無いわよ? まぁ彼処で稲作が難しいのは水以上に鬼や妖怪の害が多過ぎる所為だと思うけれどね」


 伝聞では無く実際に其の目で其の土地を見てきたお花さんの言に拠れば、死国で稲田を作るのが難しいのは、極狭い人間の生息圏に田んぼをると、魔物(モンスタ-)から防衛する際に泥濘(ぬかるみ)に足を取られる事で守るのが難しく成るからだと言う。


 人間が足を取られると言うならば魔物の側も……とも思ったのだが、どうにも死国に沸く魔物は飛行能力が有ったり、泥田坊の様な田んぼに特化した魔物なんか出るそうで、下手に稲作をすると逆に其れが命取りに成る土地柄なのだそうだ。


 ちなみに麦畑には麦畑で土畑坊(どはたぼう)と言う妖怪が沸くそうなので、死国は猪山藩以上に農作業すらも命懸けの生活なのだと言う。


「……拙者は未だ此のシュテルテベーカーから然程遠くまで出た事は御座らぬが、外つ国と言うのは本当に厳しい土地なのだな。此処から北に行けば行く程に寒さは厳しく成ると言うし、大氷壁は一度見に行きたいとは思うが厳し旅路に成りそうで御座るな」


 北方大陸は人類(人に類する種族)の中でも妖精族や魔族が多く、人間は大陸最南端の港街で有る『シュテルテベーカー』と、大陸の中央に有る神殿都市『ルイス・アン・グリム』の二箇所に集住して居るらしい。


 そして獅子丸殿が口にした大氷壁と言うのは、北方大陸でも北部の方に有る、魔族だけが生活して居ると言う『ナイトメアソーン』と言う国とその他を分け隔てる巨大な氷の壁だそうで、其の雄大な景色は厳しい旅をしても一見の価値が有る物だと言う。


「彼処まで行くのは大変よ? 距離的にも龍尾(たつのお)藩から竜頭島を徒歩で目指すのと同じ位には離れているわ。騎獣が居れば行って行けなくも無いとは思うけれども、留学期間と勉学の事を考えるとお勧めは出来ないわね」


 龍尾藩は火元国を前世の日本に無理くり当て嵌めるならば沖縄県に当たる地域で、竜頭島の方は北海道に当たる島だ、一応龍尾藩の方が沖縄本島よりも大分『本土』に近い場所に有るとは言え、粗々(ほぼほぼ)日本縦断に近い距離が有るのはご理解頂けるだろう。


 北方大陸最南端の此処シュテルテベーカーから、最北部では無く中部寄りの北部近い場所までで其の距離が有ると言うのだから、此の大陸はどれ程大きいのだろうか……。


 いや、地図では見た事有るし実際デカいのは知ってたよ? でも前世の世界で一般的に使われていた正角円筒(メルカトル)図法の地図って高緯度程長さや面積が過大で、見た目通りの広さじゃ無いんだ。


 対して此方の世界は球状の星では無く、実際に四角形の卓状世界で有り、地図上で示された長さや広さは其の儘で通用してしまうと言う差が有る。


 世界に名だたる大国の一角で有る露西亜(ロシア)は確かに大きいは大きいのだが、実際の広さは日本人がよく見る地図程実は巨大では無い。


 そうした知識が頭の何処かに有った所為で、此方の世界の地図でも北方大陸と南方大陸(カシュトリス)は過大に描かれていると心の何処かで思って居たのだろう。


 ……え!? マジで! 南方大陸とか濠太剌利(オーストラリア)よりも倍近く広いって事だぞ?


 俺の記憶が確かなら濠太剌利大陸自体が日本の約二十倍とか言う広さだった筈だ。


 北海道がでっかいどーなのは、公私共に何度か行った事が有るので良く知っているが、其れを含めた日本全土よりも圧倒的に広いのが濠太剌利である。


 火元国が割と前世の日本と似た様な文化を持ち、日本各地に対応する()の様な食文化や土地柄だったから勘違いして居たが、此方の世界と向こうの世界で必ずしも全てが鏡の様に対応して居ると言う訳では無いのだ。


 実際、南方大陸語は濠太剌利の公用語で有る英語に近い西方大陸語では無い。


 向こうの世界でも此方の世界でも深く学んだ訳では無いので、確実に対応して居るとは断言し兼ねるが、どちらかと言えば仏蘭西(フランス)語に近い響きの単語が多かった様に思う。


「うへぇ……其処まで遠いとは……とは言え彼の地で無ければ手に入らぬ素材も有ると聞くし、矢張り可能ならば一度は行って見たい物で御座るなぁ」


 距離の壁を突きつけられて尚もそう言う獅子丸殿は、どうやら順調に錬玉術師としての思考回路が出来上がりつつ有る様に見えるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ