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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
志七郎、南へ の巻

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千百九十二 志七郎、同胞の立場を知り家計を考える事

 代わり映えのしない転送室(ポータルルーム)を出て、冒険者組合(ギルド)の受付付近へと出ると、其処が少なくとも西方大陸(フラウベア)西海岸(ウエスト・コースト)では無いと目と肌で理解する事が出来た。


 西方大陸の西海岸側は比較的温暖な気候の為か、其れ共素材が簡単に集まる為か、殆どの冒険者組合は、切り出した石を組み上げた石材造りの建物だった。


 南方の未開拓地域(フロンティア)に近い地域では、木材も簡単に手に入る筈なのに、石造りの建物が多かった事を考えると、矢張り気候の問題が大きいのだろう。


 対して此処は一目で煉瓦を組み上げた建物だと内側からでも解る作りで有り、空気も明らかに冷たく乾燥した寒冷地特有の其れだったのだ。


 俺が前世(まえ)に暮らして居た地域は殆ど雪なんか降る事の無い場所では有ったが、警察官に成ってから万が一にも雪道を運転しなければいけない時の事を考えて、大学生の内に冬場の北海道まで遠征して冬道安全運転講習を受けに行った事が有る。


 あの時に感じた様な『寒いを通り越して痛い』と言う程の冷気では無いが、冬場の江戸と同等か其れよりも多少寒くすら感じる程に、室内にも拘らず空気が冷たかったのだ。


 ちなみについで言う訳では無いが札幌が誇る冬の祭典、さっぽろ雪まつりは想像して居たよりもずっと楽しい催し物で、現地で食べた成吉思汗は此方の世界の江戸で食べた其れと遜色無い物だったし、必要に迫られたとは言え割と良い観光だった。


 なお事前にしっかりと調べてから行ったので、函館朝市で朝食を食べて小樽を観光し夜はススキノで一杯……等と言う無理な観光計画(プラン)にはせずに済んだ。


 札幌と函館の間って三百(Km)も有るのだ、本州で言うなら南北なら東京仙台間、東西なら東京名古屋間に近い距離で有る。


 北海『道』内だから然程距離は無い……と、印象を持ち易いのだが、広さや人口の面から見れば一つの都府県として見るのでは無く、関東や東北と言った一地方と同等と見るべきだろう。


 と、話が逸れたが兎にも角にも冬場の北海道程では無いにせよ、兎に角此処は寒いと言う事だ。


「あら、今日は随分と寒いわね。時期的にそろそろ雪が振っても可怪しくは無い時期なのに、未だ暖炉(ストーブ)に火を居れてないのかしらね」


 日本人の感覚で暖炉と言うと部屋の壁に設置された煙突直結の火を焚く場所と言う印象が有るが、そっちは英語や其れに近しい西方大陸語(フラウベア)ではファイヤープレイスと呼ばれる物だ。


 対してお花さんが口にしたストーブは、寒い地方で良く使われる暖房器具である薪ストーブと同等か其れに近しい物が、受付近くに比較的大きい物がドンっと設置されて居る。


 しかしお花さんの言う通り、今は未だソレに火は入って居ないらしい。


「此れは此れは赤の魔女様、お久しゅう御座います。今日は支部長に御用事でしょうか?」


 転送室から出てきた俺達を見るなり、受付帳場(カウンター)に居た恐らくは元冒険者と思しき強面の年配男性が、揉み手をしながら精一杯の笑顔でお花さんに北方大陸語(ロドム)で、そんな言葉を投げ掛ける。


 お花さんからは西方大陸語フラウベアと共に、魔法を学ぶ上で必要に成る場合が有るからと北方大陸語も習っては居たが、実際に現地人(ネイティブ)の言葉を聞き取れる事に少しだけ安堵した。


「今回は組合に用事が有る訳じゃぁ無く、錬玉術師(アルケミスト)製造所(ファクトリー)の見学にこの子を連れて来ただけよ」


 ワイズマンシティの冒険者組合では受付に居るのは大体の場合女性だが、其れは精霊魔法学会のお膝元の組合で有るが故に、前衛職(脳筋族)でも相手を外見で無礼(なめ)る様な真似はしないが、此方だと強面のおっさんを置かないと騒動(トラブル)が起こりかねないのだろう。


 そしてそんな受付のおっさんが十代の少女にしか見えないお花さんを相手に、明らかに下手に出ている事で彼女が精霊魔法学会の重鎮と言うだけで無く、冒険者組合員としても可也高い評価を受けていると言う事が解る。


「見た所、東方大陸系の顔立ちですし……もしかして錬金術師製造所に留学して来てる本物の侍と同郷の方ですかい?」


『本物の侍』と言う言い回しをするのは、冒険者組合が定義するサムライが近接、遠距離、魔法の類の三本柱を過不足無く習得して居る者を指す言葉で、語源で有る火元国の侍とは別物と言う認識だからだろう。


「ええ、この子は精霊魔法学会に留学をする事を優先したから此方に来なかったけれども、錬玉術も相応に使い熟す器用な子なのよ。此方の大陸に来る用事が有ったからついでに見学させて置くのも勉強に成ると思って連れて来たのよ」


「ああ、それじゃぁ其奴は此方で活動してくれるって訳じゃぁ()ぇんですな。本物の侍は有能な奴ばかりで此処の組合に居た若い連中にゃぁ良い刺激に成ってくれてんですけどねぇ」


 心底残念そうな表情(かお)を見せながらそう言うおっさんは、お世辞の類を言っている様子は無い。


「火元国の侍が褒められるのは同郷の者として嬉しいのですが、其程この地の冒険者と違う物なんですか?」


 前世に大学で習った独逸語に近い感じの北方大陸語でそう問いかけると、


「お前さんは随分と綺麗な発音で此方の言葉を使うな、火元人は一年近く此方に居ても言葉に慣れて無い感じの奴が多いのに……まぁ強さの点では並の冒険者じゃぁ束に成っても敵わねぇのは当然ちゃぁ当然だわな、何せ全員が氣功使い(フォースマスター)なんだからよ」


 先ず俺の発音が綺麗だと関心された上で、外つ国では氣功使いが希少だと言う『当たり前』に着いて言及される。


「その上で此方に来てる奴は錬玉術を齧ってる事で冒険者組合の基準でも立派にサムライな奴が殆どだし、何よりも礼儀もしっかりしてりゃ道徳心(モラル)も異様に高くて売られた喧嘩以外で騒動を起こさねぇ連中だぞ? 若い連中の憧れに成ってる奴も居るしな」


 北方大陸へと留学して来た者達は、全員が幕府を……火元国を代表して先進技術で有る錬玉術を学びに来たと言う思いが多かれ少なかれその胸には有る筈で、其れ故に『旅の恥は掻き捨て』なんて真似をする者が出て居ないのだろう。


 そもそも旅の恥は掻き捨てと言う言葉自体が『旅先では自分の事等知っている者は居ない』と言う前提で好き勝手振る舞う事を指す言葉なので、家名や肩書を背負った状態での旅路で其れを行うのは下の下である。


 其の辺の事を向こうの世界の日本人は丸っと忘れて泡沫経済(バブル)で儲かって居た時期に海外で色々とやらかした……と言う様な話を、海外に捜査研修で出かけた際に色々と聞いた物だ。


「そして何より錬玉術に必要と成る素材を自分で狩りに行った際には、余った素材はしっかり組合に卸してくれる上に、儲けを溜め込む様な事をせずパーッと酒場や娼館で豪遊する所も人気が出る秘訣だわな」


 ……成る程『越しの銭は持たねぇ』と言う江戸っ子気質の気っ風の良さも、毎日が命懸けである冒険者の新人から見れば憧れの対象と成り得る事な訳か。


 余った素材をサクッと売却して居ると言うのは、火元国の武士ならば己の武具は基本的に自分で討伐した魔物(モンスター)の素材で誂えると言う暗黙の了解を考えれば、一寸腑に落ちない点を感じた。


 けれども一寸考えて、実家であれば素材を取り置く為の蔵が有るから即座に必要無い物でも貯めて置く事が習慣付いて居る者でも、此方にはそうした貯めて置ける場所が無いと言う理由だろうと言う事に思い至る。


 んで留学に掛かる費用は幕府持ちと成っているから、素材狩りで手に入れた銭は丸っと小遣い銭に出来る為に、パーッと御大尽をやって浪費しても生活に困る様な事は無い……と。


 俺の記憶が確かなら、此方へと留学して来ている者は比較的家格の低い家の子弟が多く、火元国で鬼切りをして収入を得ても、其の全てを自由に出来ると言う程に家計に余裕の有る者は少なく、取り置く素材以外の物を売り払った収入は家に入れて居た筈だ。


 そうした者達が家計や家族を気にする必要が無い状況に成った事で『(たが)が外れた』遊びをして居る者も居るかも知れない。


「お!? 鬼切り童子殿では御座らぬか、貴殿は西方大陸へと行った筈なのに、何故此処に居るので御座るか?」


 と、そんな事を俺が考えていると、待合室兼酒場へと続く扉から姿を表した者が此方の姿を見るなり驚きの叫びを上げたのだった。

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