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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
決戦! 兄と義兄 の巻

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百十七 対決! 鬼二郎と出世魚 その四

 観衆のどよめきの中にかき消されそうな程小さな物ではあったが、肉を打つ音が聞こえてきた。


 繰り出されたのは拳と蹴り、二人は周囲に乱立する刀や槍を一瞥する事も無く肉弾戦を選択したのである。


 義二郎兄上が打ち下ろした拳は鈴木の、鈴木が振り上げた足は兄上の、それぞれの頬に狙い誤る事無く突き刺さっていた。


「おーっと! 両者共に武具を手にする事無く、己の身を武器とし鋭い一撃を繰り出したぁ! しかし、だがしかし浅い! 相打ちとは言えどちらも然程痛手を追った様子は見受けられません! それにしても二人は何故武器を取らなかったのしょう」


 義二郎兄上と鈴木、体格は兄上の方が圧倒的に大きい、兄上が繰り出したのが蹴りだったならば、鈴木の攻撃が突きだったならば、そのリーチの差を考えても今の一合撃で勝負がついていたかも知れない。


「まぁ理由は色々と有るじゃろうが、まず真っ先に上げるべきは互いに武器を選ぶ暇も惜しんだと言う事じゃろう。次に挙げられるのは、義二郎の意地とそれを読んだ清吾の判断と言った所かの?」


「といいますと?」


 アナウンサーに水を向けられた父上がそう解説を始めた。


 礼子姉上の婚約者を決める一連の騒動の中で、義二郎兄上が戦った相手は皆、素手で叩きのめされている、相手が刀を抜いているにも拘わらずだ。


 兄上にとっては余程の強者つわものでもない限り、武器を抜く必要も価値も無いと言う事らしい。


「清吾の強さは義二郎が一番良く知っておる、その上で尚武器を取らぬのは意地というしか有るまい。そして清吾は清吾で義二郎の性格を良く知っておる、それでも相打ちなのだから読み合いで上回る事の出来なかった清吾がやや不利と言えるかの」


 そんな父上の言葉が続いている間も、二人は止まる事は無く闘いは続いている。


 以前一郎翁に言われた事だが、俺や鈴木の様な『考えて戦う』タイプの者は、相手に主導権を握らせず、詰将棋の様に相手を追い詰めて行くのが正しい戦い方だと言う。


 だが、目の前で繰り広げられているのは逆で義二郎兄上が一方的に攻撃を繰り返している。


 これは現状の戦いが無手で行われていると言う事が最大の原因だ。


 初手で解ったとおり義二郎兄上の突きの間合いと、鈴木の蹴りの間合いはほぼ同等、兄上が遠間での戦いを選択すれば、一方的な戦いに成るのは当然の事である。


「猪河様の仰る通り、戦況は明らかに鬼二郎有利、鬼二郎が一方的に攻撃を繰り返しています!」


「いや、だが清吾も中々やるものよ。よぅ見てみぃ、アレだけの乱撃に晒されながら、まともに入ったのは双方とも初手の一撃だけじゃ。それに……気づかんか?」


「え……? あ! な、なんと鬼二郎の猛攻を物ともせず、七光が、鈴木清吾が一歩、また一歩と間合いを詰めています!」


 その言葉の通り、義二郎兄上の繰り出す突き蹴りを鈴木は丁寧に捌き躱し、その度に少しずつではあるが二人の間が狭まっていく。


 ぱっと見る限りでは兄上の攻撃は軽快な連続攻撃に見える、だが実際にはどの攻撃もダメージを与えるには至らない。


 逆に鈴木の方はその攻撃が来ると解っている様に対応し、さらに間を詰める余裕さえ有る。


「この攻防、主導権を握っているのは攻撃をしている義二郎では無い、必要に応じて捌き躱しわざと隙を作り攻撃を誘っておる清吾の方じゃ」


 だが父上の言葉とは裏腹に兄上は笑みを深めこの状況を楽しんでいる様に見える、むしろ鈴木の方が一杯一杯と言った顔色だ。


 無理も無い、彼等程の力量ならばたった一発対応を誤るだけでも勝負が決まりかねない、誘導されているとは言え攻撃を繰り返す兄上よりも、防御し続けている鈴木に掛かるストレスの方が半端では無く大きいだろう。


 鈴木に主導権が有ると父上は言ったが、それも兄上が後ろに下がらなければ、と注釈が付くはずだ。


 決闘場リングの中央付近で足を止めての攻防である、兄上の後ろにはまだまだ十分な広さが有るし、下がれば乱立する武具を利用する事も簡単な筈だ。


 しかし兄上はその選択をしない、下がれば、そして先に武器を取れば、無手での勝負に自ら負けを認めた事になる。


 勝負が次の段階に進む、と言う意味でそうする事は有り得るだろうが、少なくとも今この瞬間にその選択をする兄上では無いだろう。


 そんな俺の考えは間違っていなかった、攻守が逆転した、鈴木が十全に攻撃出来る間合いに入ったのだ。


 いや、完全に逆転した訳ではない、双方が打撃を繰り出している、兄上が一方的に攻撃されているのではないのだ。


 状況は此処に来て五分に戻ったと言えるだろうか。


「なんとも凄まじい攻防! これ程の近間で、双方がこれ程までに激しい攻撃を繰り返しているのに、一撃足りともまともに入りません! これが天下に名高き猪山の! その双璧たる者の攻防か!」 


 アナウンサーの興奮した声が上がる、きっとその言葉はこの場に居る全ての観衆の代弁だったのだろう。


 そして勝負が動いた。


 兄上の繰り出した右のボディブローを左肘で叩き落とし、その反動を利用して繰り出された左掌底が兄上の側頭部を撃ちぬいたのだ。


 当然ながら只の掌底では無い、十分に氣を練り込んだ一撃だ、これが並み程度の相手ならばその一撃で意識どころか、命をも刈り取とっていただろう。


 そんな攻撃をまともに食らえば如何な義二郎兄上とて只では済まない、兄上の身体はサッカーボールか何かのようにあっさりと吹っ飛んだ。


「決まったぁぁぁぁ! 鬼二郎の巨体が宙を舞いました! 無数の打突の中で一撃、たった一撃で勝負が付いてしまったか―!」


 端から見れば確かに決着となっても可笑しくはない、そんな一撃に見えた。


「いや、まだじゃよ。ありゃ躱せぬと踏んで被害を最小限にする為に義二郎自ら跳んだんじゃ」


 父上の言葉の通り、空中であっさりと体勢を整えた兄上が足から綺麗に着地する。


 その顔にはダメージらしきものは痕跡すら見当たらない。


「じゃが、これで勝負は次の段階へと進むわい。今の隙は武器を選ぶには十分な時間じゃったな」


 と父上の言葉通り、兄上に気を取られて居る間に鈴木は一振りの刀を手にしていた。


 対して義二郎兄上もまた、着地した地点の直ぐ側に刺さっていた刀に手を伸ばす。


 兄上が刀を手にした時点で、鈴木は自らの刀を身体の影に隠すような構えを取っていた、前世まえの剣道ではまず見かける事の無い脇構えだ。


 前世の剣道では画一化された竹刀を使うので、刀を隠すと言う情報戦としての意味は失われていた。


 だがこちらの世界では刀の長さや質等にはバラつきが有る、今日の勝負はソレが顕著に出るルールである、だからこそ多少なりとも時間を掛けて刀を選んだ鈴木が有利であり、それを隠すのは上手い手だろう。


 対する兄上は手にした得物を検分する事も無く、静かに頭上へと振りかぶる、上段の構えである。


「脇構えの鈴木清吾に対して、鬼二郎は上段の構え、これは後手に回った鬼二郎が構えだけでも有利を取ろうと言う事でしょうか?」


 剣術における五行では脇構えは『金行』上段の構えは『火行』、火剋金の関係で上段の構えが有利とされていた。


「いや、そうではなかろう。義二郎は元々上段を得手としておる、清吾がソレを知らぬ訳も無いからな、構えの有利不利よりも得物の有利不利が大きいと清吾は見たのじゃろう」


「成るほど、まだまだ鈴木が主導権を握っていると言う事ですね。さて、無手での攻防は激しいの一言に付きしたが、此処から勝負はどのように推移するでしょうか」


「無手とは違い刀はたとえかすり傷でも血が出る、流血はそれだけで体力を奪うからの……どちらも慎重にならざる得ないじゃろ……、此処からは静かな闘いに成るぞ」

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