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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
志七郎、南へ の巻

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千百八十六 志七郎、新たな書を賜り大魔法の危険を知る事

「先ずは此れを渡して置くわ、真逆私に言われるまで此れを取りに来ないとは思って無かったんだけれども……まぁ、貴方は自分から無理をする様な性質(タイプ)の子じゃないとは思って居たけれど」


 溜息混じりにそんな言葉を吐きつつ、執務机の中から取り出され此方へと差し出されたのは、鍵の付いた日記帳にも見える一冊の本だった。


「他人の呪文書(スペルブック)を勝手に読むのは重大な作法マナー違反では有るけれど、読まれる様な隙を見せた方にも重大な瑕疵が有る行為と言えるわ。此れから教える魔法は生半可な者に知られては成らない禁術だから鍵付きの呪文書が必要なのよ」


 俺がお花さんに師事する様に成って最初に与えられた呪文書には、彼女の許可の下で多くの呪文を書き写して来たが、確かに転移系統の魔法はソレに近い物すら含まれて居なかった。


 此れは単純に俺程度の技量で扱うのは危険過ぎるが故に、此方に見せる事の無い別の呪文書に記しているのだろうと思っていたのだが、彼女の言に依ると誰にでも簡単に教えて良い魔法と、絶対に外に漏らしては成らない禁術に指定されて居る魔法が有るのだそうだ。


「転移系統の中でも一番簡単な『視界転移ヴィジョン・テレポート』だって、使い方次第で誰でも簡単に暗殺者に成れる訳だしね。時属性の魔法は使い方次第で人間程度なら即死させれる物も幾らでも有る訳だし……」


 視界転移と言うのはその名の通り視線が通る範囲内に瞬間移動すると言う魔法で、望遠(テレスコープ)と言う光属性の魔法と組み合わせる事で、可也遠くまで一気に移動する事も出来ると言う。


 視線が通りさえすれば壁なんかを無視して移動出来ると言う関係上、硝子(ガラス)窓や覗き穴の様な物の向こう側へと転移し、サクッと殺して再び転移で逃げる……なんて真似も簡単に出来てしまう為、転移系の魔法はそう簡単に教えては成らない物と成っている訳だ。


 ……うん、糞ヤバいな転移魔法、最下級の視界転移ですらソレなのだから、お花さんの様に一度でも行った事が有る場所ならば殆ど何処へでも一瞬で転移出来る程の大魔法使いに対して、世界中の王侯貴族が敬意を払うのは当然の事と言えるかも知れない。


 実際にやるかどうかは別として出来ると言う事だけで、ソレが使える者に対して一定の配慮をしなければ酷い事に成る……と考えるのが普通の判断だろう。


 この辺は武力を背景とした外交と同じ様な物で、そもそも相手が力を持っていると認めなければ交渉の(テーブル)に着く事すら出来ず、強い力の前に屈服させられるだけなのだ。


 向こうの世界の日本だと平和呆けが過ぎたのか、そうした基本的な事からすら目を背け、自衛隊の強化に反対する様な(やから)が政治家にすら居たが、力を持たない者と交渉をしようとする者は居ない。


 国同士の話で解り辛ければ暴力団員(ヤクザ)に絡まれ、周囲に目撃者と成る者が誰も居ない状況で『話し合いで解決しましょう』と見るからに弱い者が言った所で暴力団員が聞く耳を持つ訳が無いと言えば通じるだろうか?


 運が良ければ土下座し財布の中身を丸っと差し出す事で痛い目に合う事を避けられる可能性は有るが、相手が聞く耳を持たなければ丸っと裸に剥かれて混凝土(コンクリート)の靴を履かされ海へドボン……とかそんな感じに成るだろう。


 まぁ昨今はそんな雑な仕事はせず、企業舎弟の自動車整備工場なんかに死体を持ち込み、強力な溶剤で骨も残らず溶かして処分するとか色々と巧妙化して居り、行方不明者の内どれ位の割合の者がそうした闇に消されて居るかは正直考えたくも無い。


「貴方がその手の行為に手を染めるとは思わないけれども……基本的に城館の類には転移避けの術具が備え付けられているから、転移する場所には気を付けるのよ? 大体の場合は魔法を封じる構造に成った牢屋に直行する羽目に成るからね」


 先程受けた説明にも有ったが転移系統の魔法や術は、精霊魔法の専売特許と言う訳では無く、大概の術に含まれている物である。


 と成れば当然、暗殺を警戒しなければ成らない者達は、ソレに対する対抗手段を用意する物で、転移系魔法を阻害する術具と言う物は錬玉術が編み出されるよりも可也昔から研究されて作られていたと言う。


 とは言えソレを作る為の素材はそう簡単に用意出来る様な物では無く、王侯貴族の城館か政商と呼ばれる様な豪商でも無ければ手に入れる事は出来ない物なのだそうだ。


「今の段階の貴方でも間違い無く(しゅ)を編んで、しっかりと時間を掛けて魔力を込めれば、遠駆要石(ポータルストーン)通信網(ネットワーク)を利用した転移なら十分可能だとは思うけれども、転移系は失敗して事故ると危ないからしっかり段階を踏んで習得して貰うわ」


 言いながらお花さんはもう一冊、鍵の付いた呪文書を懐から取り出すと、その鍵を開け頁を開いて俺の前へと置く。


 成る程ね、通常の精霊魔法の習得手順通り、先ずは自分の呪文書に其れを写本する所から始めろと言う事だな。


「えーと……視界転移の呪文は……此れか」


 呪文書は羊皮紙……いや、羊では無く何等かの魔物の皮を使った物なので魔皮紙(まひし)とでも言うべき物で作られた術具の一種で、見た目以上に(ページ)数が多く、一冊に大量の呪文を書き記す事が出来る様に成っている。


 その代わりと言う事なのか栞や付箋の様な物を挟む事が出来ず、無理に挟むと呪文書を閉じた際に其れ等は粉々に砕けて消えてしまう。


 其の為、呪文書の何処に何の呪文を書き込んだのかは自分で覚えるか、巻頭乃至は巻末に索引をキッチリ書いて検索性を高める様な工夫が必要に成るのだ。


 今回手にしたこの鍵付き呪文書も同様の術具の様なので、巻頭の四頁に目次を書き込む為に開け、五頁目に視界転移の呪文を書き写して行く。


 ん? 此処の文章可怪しく無いか? このままだと視線の先の何処に転移するのかの指定が無いから、精霊や霊獣の解釈次第ですぐ目の前に転移したり、逆に視線の先に有るのが石壁なんかだと『壁の中に居る』状態に陥る羽目に成るぞ?


「お花さん、此処の呪文なんですけれども座標の指定はどう組み込むんでしょうか?」


 素直にそう問いかけると、彼女は十代の少女が魅せる様な『花が咲いた様』と形容するに相応しい笑みを浮かべ、


「あら、ちゃんと自分で気が付いたわね。其処は感覚共有を使う事で霊獣や精霊に自分の視界を共有した上で、距離を口頭で指示するか目印に成る物を指定するのよ。其れに気が付かないで適当な魔法の使い方をすると早死するからね」


 そんな物騒な言葉から始まった彼女の言に依ると、俺の想像通りただ単純にこの呪文を読み上げただけだと、『精霊や霊獣が観ている何処か』に跳ばされたり、自分の視界内でも距離を誤って変な場所に転移したりする羽目に成ると言う。


 付け加えると水や空気の様な流動性の高い物ならば押しのけて転移する事が出来るが、石や木の様な『簡単に其の場から動かせない物』が有る場所に転移した場合には、術の系統に依って反応が変わるらしい。


 例えば神々への祈りを通して世界樹(ユグドラシルサーバー)権能(ちから)を借りる聖歌の場合には、障害物が有る場所への転移が起こった場合には『世界樹から失敗(エラー)』が通知されるだけで何も起きないそうだ。


 対して世界樹の権能が生まれるよりも古くからこの世界に存在する精霊達の権能に依る精霊魔法の場合には安全装置の様な物は働かず、効果が強行された上で同じ場所に複数の物が存在すると言う矛盾を世界樹が解消する為に働いて転移者が『居なかった』事にされる。


 更に聞いた話では錬玉術の原型である丹術と呼ばれる東方(龍鳳)大陸の術の場合には、核熱撃ニュークリア・ブラストと言う強力な時属性の精霊魔法を使ったのと同じ様な大爆発を引き起こす事に成ると言う。


 どう言う原理でそうした差が生まれるのかは解らないが、転移系統の魔法は不用意に扱えばヤバい事に成ると言う事は十分に理解出来た。


「じゃぁ転移魔法の前提技術である感覚共有に付いて教えるわ。ちゃんと付いて来て頂戴ね」


 新しい技術を全力で学ぶ意識を植え付ける為の脅しなのだとは理解しつつも、剣呑な話を聞いた直後だけに俺は居住まいを正して彼女の言葉を傾聴するのだった。

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