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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
志七郎、南へ の巻

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千百七十七 志七郎、便所の事情を知り大地に立つ事

 アシャンティ公国を出航した船は順調に海を渡り、予定通りの十日でポートハリスコの港へと入港する事が出来て居た。


 懸念して居た便所(トイレ)の問題だが、俺達の乗った船は南方大陸(カシュトリス)の産物を西海岸側(ウエスト・コースト)地域へと運ぶ輸送船であると同時に、少数では有るが旅客を乗せる個室を持った客船でも有る商船だった。


 其の為、荷物と雑魚寝の安い船賃しか払って無い者達は兎も角、相応の額を出して個室を借りれば、催した際にも個室備え付けの『おまる』で用を足し、其れを海に捨てると言う形だった為、お連のあられもない姿を他人に見せる様な事には成らず胸を撫で下ろす。


 なお個室を借りて無い野郎連中は大でも小でも、船の端からぶら下げられた縄の先に付けられた板に座って、尻を海に向けて直接するのが此の船の取り決め(ルール)だった。


 小ならば甲板から立ち小便でも良いのでは無いか? と、船に乗るまでは思って居たのだが、考えて見れば風を切って海原を走る船の上だ、幾ら前世(まえ)の世界の様に機械仕掛けの動力を備えて居らずとも甲板の上は相応の風が吹いている。


 そんな所で立ち小便なんぞすれば、風に煽られた小便が自分に掛かるだけならば未だしも甲板を汚す事になるのは容易に想像が付いた。


 故に最大の妥協案があの縄付き便座とでも言うべき板切れなのだろうが……ぶっちゃけ安全性の『あ』の字も無いアレを試したいとは思わず、俺も催した際には恥を偲んで個室でおまるを使う羽目に成ったのだ。


 なおテツ氏やワン大人(ターレン)は一々催す度に俺達を個室から追い出して『する』のが面倒だった様で、素直に縄便座を使って居たが、


「……海に落ちるのが怖くは無かったのだろうか?」


 船を降りる際に何気無くそんな事を呟いた。


「あんなん慣れだ慣れ、冒険者長くやってりゃ船旅の一つや二つする事に成るのは当たり前の事だからな」


 するとテツ氏があっさりそんな言葉を口にする


 曰く、何処を旅するにせよ長旅に成るならば海なり川なりを船で移動するのは当然の事で、そうした船の殆どは今回の船の様に便所が付いているなんて事は無く、個室でおまると言うのも割と贅沢な部類に入る物だと言う。


 故に長く冒険者として生活を続けているので有れば、何処かで縄便座を経験する事は有るのだそうだ。


 と言うか、縄の先に座って用を足せる板が付いている事すら無く、甲板から垂れ下がった縄だけを頼りに船に足を掛けて『する』様な船だって多いと言うのだから、今回の船は本当に贅沢と言える物……らしい。


東方(龍鳳)大陸から西方大陸(フラウベア)へ渡る際に乗った船でも同じ様な物だったからな。とは言え流石にお前達の様な子供がアレでするのは危険が過ぎると言う物だし、素直におまるを使って正解だったと思うぞ」


 同じく長い船旅を経験した事の有ると言うワン大人が乗ったその時の船も、客船の類では無く商船に相乗りさせて貰う形で西方大陸を目指したが為に、便所の様な設備は無く縄便座が船の前方に吊り下げられていただけだったそうだ。


 聞けばちゃんとした便所が付いている船と言うのは、此の世界だと豪華客船の類位な物で、其れだって便座から直通で壁の外へ管を通し出した物を海に其の儘捨てると言うだけの簡単な構造の物だけらしい。


 つまりしっかりと出した物を流す機能まで付いていた寅女王(クイーンタイガース)号の便所は、此の世界に置いて船に取り付けられる物としては最先端且つ最高峰の贅沢な物だと言う事である。


「御前様が個室を取ってくれて本当に有り難かったです。(つらね)はあんな周りから見える様な所で御不浄をするのは恥ずかしくて耐えられません……本当に有難う御座いました」


 縄便座で用を足している者の姿を船旅の間の何処かで目撃したのだろうお連は、自分がそうして居る姿を想像してしまったのか、血色の良い肌をいつも以上に紅潮させながら、俺に向かってお礼の言葉と共に深々と頭を下げた。


「まぁ……女冒険者が苦労する事の七割は便所だって言うからなぁ。野郎は其れこそ何処でだって出来るが、女は周りに仕切りの無い場所でするのにゃ流石に抵抗あるわな」


 お連の態度に苦笑いを浮かべつつ、そうするのも無理無い事だとテツ氏が補足する様な言葉を口にする。


 そもそも論として街中だとしてもしっかりとした便所が整備されて居る国と言うのは、実は外つ国では割と稀で、小国に成れば成る程に街中でも其処らの物陰で……とか、室内でおまるを使って出した物を窓の外に無造作に捨てるなんて事が横行して居るらしい。


 火元国の場合、野郎の小便は兎も角として大きい方に関しては、人里ならば必ず堆肥を作る為の肥溜めが有り、其処に放り込む為の(かわや)がどんな田舎の村にも必ず有るし、街道沿いを旅しているならば宿場に付けば当然其れ等は整備されて居る。


 そうした設備を使わずに用を足す事が有るとすれば、戦場(いくさば)深くに踏み込んでいる状況で、一旦便所と言う訳にも行かない様な緊急事態位な物なのだ。


 対して外つ国の冒険者の多くは、そうした施設が整備された都市に居る時は兎も角として、旅路の間は基本的に立ち小便に野糞が当たり前と言う生活をする羽目に成る。


 野郎ならば何方も然程気にする程の事では無いだろうが、女性とも成ると話は大分変わって来る訳だ。


 世の中には色々な趣味の人間が居るが、女性の排泄する姿に殊更興奮すると言う性的嗜好を持つ者が居る……と言うのは、前世(まえ)に無修正の(ブツ)を取り締まる仕事をして居た同僚からも聞いた覚えが有る。


 覗き等と言う行為をするのは恥知らずの屑だ……と前世の価値観と感覚では思ってしまうが、国や地域、時代等に依っては覗きは雅な趣味として受け取られるなんて事も有ったと言う。


 正直、覗かれる側からすれば堪った物では無いとは思うが、残念ながら此の世界の神々が定めた天網と呼ばれる最上級の法の中に覗きを取り締まる様な項目は無いし、多くの国で覗かれる様な場所で覗かれて困る行為をする方が悪いとされていたりするのだ。


 故に女性冒険者がそう言う行為をする際には、態々天幕(テント)を張ったり仲間を見張りに立てたり……と色々と大変なのだと言う。


「俺は姉貴も冒険者やってるが、男女混合で徒党(パーティ)を組んだりすると、その辺で揉めて大喧嘩に成って結局解散なんて話はゴロゴロしてるらしいぜ?」


 戦士や格闘家と言った身体を張る前衛職は体力的にどうしても男性が多く成るが、個人差が有るとは言え男よりも女性の方が魂力が高い傾向が有る為、精霊魔法使いや錬玉術師と言った術者の類に就いて居る女性冒険者と言うのは結構な数が居るらしい。


 女戦士が全く居ないとは言わないが、重装甲を纏い大きな武器をブン回し敵の攻撃を一身に受ける前衛職はどうしたって男の方が多く成る。


 其の為、女性だけで徒党を組むなんてのは早々簡単に出来る物では無く、女性が冒険者として活躍したければ、余程の幸運に恵まれ無い限り男女混合で徒党を組む事に成る訳だ。


 そして若い男女が長期間一緒に行動していれば何事も無い訳も無く……下の問題と色恋沙汰で徒党が破綻(ブレイク)するなんて事は、巷に有り触れ過ぎて探すまでも無い話らしい。


 ちなみにテツ氏の姉は比較的珍しい女戦士だそうで、大剣の扱いはテツ氏よりも上手だと言う。


 世の中何事にも例外ってのは居る物だよなぁ……と、その話を聞いて俺は思わずお連を見る。


 彼女は長じれば義二郎兄上とすら力比べが出来るであろう腕力の才能を持つ代わりなのか、人並みよりも多い魂力を術に変換する才能である『魔力』が低い為に、精霊魔法使いとして大成する事は無い……とお花さんに断じられて居るのだ。


 腕力で彼女を従わせる積りはサラサラ無いが、夫婦喧嘩で一方的にねじ伏せられる将来は嫌だなぁ……と、そんなくだらない事を考えながら、俺達は船からポートハリスコへと降り立ったのだった。

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