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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
志七郎、南へ の巻

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千百七十四 志七郎、英雄を知り対決を目の当たりにする事

 試合が動いたのは四回裏ニャンキーズの攻撃の時だった、そろそろ疲労の色が隠せなく成ってきた投手(ピッチャー)が、暴投(ワイルドピッチ)してしまった為に無死の状態で一塁に走者(ランナー)が出る事になった。


 デッドボールでは投手は打者に当たる様に星型鉄球モーニングスターボールを投げなければ成らない取り決め(ルール)で、自身に当たらないと判断し戦鎚(メイス)を降らずに見送れば悪球(ボール)判定となり、其の一球で塁に出る事が出来るのだ。


 そんな状況に慌てたのか投手の次球は力無い物で有り、打者に当たっても其の一撃で死亡(アウト)判定を取るのは難しいだろう程度の勢いしか無かった。


 ちなみに直撃を受けても三つ数える(スリーカウント)までの間に立ち上がる事が出来たなら、一正球(ワンストライク)として数えて(カウントし)三正球で死亡判定となるのは向こうの世界の野球に近い部分と言えるだろう。


 ついでに言えば悪球の見極めが出来ずに戦鎚を振った上で鉄球(ボール)を打つ事が出来なければ、其の場合にも一正球として数えられるのも野球に近い部分と言えるか?


 兎角、失投からの失投で飛んできた緩い鉄球をニャンキーズの打者は見事に打ち返したのだ。


 しかしレッドブロックスの守備陣も本拠地(ホーム)の試合で格好悪い所を見せたら、後から暴徒(フーリガン)化した応援団(ファン)に襲われる可能性が有るからか、きっちりと意地を見せ重い鉄球でやってるとは思えない素早い連携で本塁(ホームベース)へと鉄球を送った。


 捕手が居ない此の競技(ゲーム)では本塁の確保は、その時その時で鉄球が飛んだ位置に依って内野の誰が入るかが変わる様なので、此れが素早く出来ると言う事は余程しっかりと連携の練習を普段から積んでいると言う事が解る。


 其れも有ってか無死満塁と言う危険(ピンチ)に陥ったにも拘らず、球場を挟んだ反対側に座るレッドブロックスの応援団からは歓声と拍手、そして投手に対する罵声が入り混じった様々な声が上がって居た。


 とは言え野球の(ボール)とは違い、板金鎧(プレートメイル)の上からでも人を殺しかねない重たい星型鉄球を投げて居るのだから、投手の疲労は野球の其れと比べてもキツいだろう事は想像に難く無い。


「「「「うぉぉぉおおお雄々!」」」」


 と、今度は此方側の観客席から大きな歓声が上がる、そりゃ得点する好機(チャンス)が訪れたのだから盛り上がらない方が奇怪しいのだが、其の勢いが一寸尋常じゃぁ無い感じなのだ。


「おー、ありゃ『キング』ジョージじゃん。俺でも知ってるニャンキーズのスター選手だよ」


 其の大歓声の理由を教えてくれたのは、俺達の中では一番デッドボールと言う競技に詳しいテツ氏だ。


 その言に依ればニャンキーズ創設以来最高の強打者で、その名はデッドボールの団体(チーム)が存在しない西海岸側(ウエスト・コースト)まで轟いて居り、冒険者としても伝説(レジェンド)級の偉業を幾つも打ち立てている生きた伝説の一人だと言う。


 曰く、単独で竜種(ドラゴン)を戦鎚で殴り殺したとか、空振りで台風(ハリケーン)が起きたとか、流れ星の正体はジョージの打球だとか、延長九回裏(デッドボールは通常七回まで)の十点差を一人でひっくり返した、グッと力瘤を見せただけで魔物(モンスター)の群れが降伏した。


 ……等など嘘か本当か、というか凡そ十割(100%)嘘だろう、本当の事が有っても可也盛られてるだろうと言う様な話ばかりが、立て板に水の如くテツ氏の口から語られる。


 其れにしても……全身をすっぽりと覆う板金鎧を身に纏って居るのに、どうやってその中身が『伝説の彼』だと応援団やテツ氏が判断して居るのかと言えば、鎧の背中に刻まれた『1』の背番号と添える様に書かれた名前の様だ。


 基本的に団体毎に同じ様な見た目の鎧を身に着けるのがデッドボールの取り決めの一つとして有る為、其処に刻まれた物だけが選手を区別する事の出来る部分と言う事になるが故に、此処を偽るのは幾ら運動競技(スポーツ)と呼ぶには殺伐とした物とは言え認められないらしい。


「「「「キ・ン・グ! ナンバー・ワン! ア・スター!」」」」


 周囲の客席に居るニャンキーズの応援団達が声を揃えて歌い始めたのは、恐らく前世(まえ)の世界で言う球団応援歌とか選手個人の応援歌とかそんな感じの物なのだろう。


 とは言え代打として伝説級の選手が打席に立つ此の状況で、疲弊した投手に続投を命じる程レッドブロックスの監督は勝負を投げて居た訳では無い様で、向こうも投手が小丘(マウンド)を降りる。


「「「「うぉぉぉ! レーブロック! レーブロック!」」」」


 変わりに出てきた投手が背番号の見える位置まで進んだ時、相手側の観客席からも激しい歓声が巻き起こった。


 英雄と戦う事が出来るのは英雄だけと言う事か、どうやらレッドブロックス側も切り札に等しい投手を小丘へと送り出したらしい。


 無死満塁の状況で代打に立つのも、火消しとして小丘に立つのも、凄まじい重圧(プレッシャー)に晒される事は容易に想像が付く。


 俺は剣道を小中高と曾祖父さんの道場だけでやっていて部活動には参加していなかったので、大会の類には警察官に成った後の警察内での其れにしか出た事が無いが、所属署の代表として参加する団体戦なんかだと相応の重圧を感じた覚えがある。


 恐らくは職業(プロ)運動競技選手が試合の際に感じる其れは、命を賭けた闘いにも等しい物が有るのでは無かろうか?


 俺自身は何処かの団体を贔屓にしたりして運動競技の類を観ては居なかったが、熱心な応援団は試合内容に依っては暴徒化して選手の乗った大型車(バス)を取り囲む……何て事をやらかす連中の話も聞いた事が有る。


 日本では流石に其処まで大きな事件になる事は少なかったが、海外にまで目をやれば野球よりも蹴球(サッカー)でそうした暴徒化した観客に依る事件は毎年何件かは起こって居た様に思うのだ。


 そんな事を考えている間にも『28』と言う背番号を背負った投手が自身の調子を試す様に軽く肩を回してから、鉄球を手に大きく振り被って……投げた!


 初球は……戦鎚を振る事もせず土手っ腹に深々と突き刺さるが、どうやらきっちりと腹筋を引き締めて受ける体制を取って居たのか、キングと呼ばれた漢は小揺るぎもせずに本塁を跨いだ位置で仁王立ちしたままである。


「ストライク!」


 審判の声を聞きながらキング・ジョージは、自身の頭を右手の人差し指で軽く突付くと言う挑発的な態度で投手を見やる。


 アレはどう考えても頭を狙って来いと言う道化芝居(パフォーマンス)だろう。


 頭を狙うのは命中した際に打者を倒す事の出来る確率も高くなるが、同時に胴体に比べて的が小さい為に悪球となる可能性も高まる両刃の剣と言える。


 一撃で意識を刈り取る事が出来ずとも、胴体に三回ぶち当てれば死亡判定を取れるのだから、其方を優先すると言うのも選択肢の一つなのだろうが、其れをさせない為の挑発か……其れ共逆に頭狙いを打つ自信が有ると見せる事で其処を狙い辛くする為の行為か。


 うん、こうした駆け引きは向こうの野球ならば打者と捕手の間で行われる物なのだと、野球は漫画や小説なんかで得た知識程度しか知らない俺は思うのだが、此の競技では完全に投手と打者の間で行われる物らしい。


 そしてその挑発が通った結果かどうかは投手の頭の中でも覗かないと解らないが、二投目は真っ直ぐ顔面を狙って投げられた。


 恐らくキング・ジョージの眉庇バイザーの下の目は笑って居ただろう、素早く半歩身体を横へとずらすと下から上へと掬い上げる動きで戦鎚を振り抜き、鉄球を天高く大きく打ち上げたのだ。


 其の儘立って居れば当たる筈の鉄球を避けるのは、打者側の反則で一発死亡判定の行為なのだが、きっちり鉄球を打ったのであれば話は別である……見逃せば悪球となる球を無理やり打っても問題無いと言うのと取り決め的には同じ様な物だろうか?


『打球にご注意下さい! 観戦は自己責任です! ファールボール、ホームランボール、何方に当たっても誰も責任は取りませんよ!』


 俺の中でそんな疑問が首を擡げている内に、打球はどんどんと遠くへと伸びて行き……そんな放送(アナウンス)が球場に響き渡るなか、鉄球は見事に打席真正面の観客席へと落ちて行くのだった。

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