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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
志七郎、南へ の巻

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千百五十四『無題』

 今日も今日とて火元国を彼方(あっち)へ飛び此方へ跳び、悪の芽を探しては現地の大名に陰ながら密告するなり、一朗を投げ込むなり、時には自分の手で叩き斬るなりして、駄目な義弟が頭を張る幕府の為に働いて居た。


 そんな忙しい日々の中ではどうしても優先順位の低い事は、ついつい忘れがちに成ってしまうのも仕方の無い事だろう。


 と、自分に言い訳をしつつ孫の手下を放り込んだままに成っていた裸の里へと、儂は久々に足を延ばした。


 此処には色々な思い出が有る、良い事も悪い事も……故に理由が無ければ出来るだけ来たくは無いのだが……可愛い末の孫の為ならば仕方無い。


 そんな事を考えながら外との堺に設えられた脱衣所で着物を脱ぎ、金隠し棒を手に里へと入る。


「おお、此れは此れは悪五郎様、お久しゅう御座います」


 里の入口を守る此奴も若く見えるが、氣の昂ぶりに依って老化が遅いだけで、其れ相応に歳も技量も重ねて居る男だ。


「うむ、御主も壮健な様子で何よりだの。で、此の間儂が預けに来た若いのはどうして居る? 御主の目から見て物に成って居るだろうか?」


 住人が皆、裸で暮らす此の裸の里は裸身氣昂法を本気で学ぶ心算で訪れる者だけで無く、若い娘が肌も露わな姿で生活して居ると言う噂を聞きつけて、邪な欲望を胸に抱いてやって来る若い男は決して少なく無い。


 そんな場所の入口を棒の猿と共に守る此の男は、儂程では無いが氣の深奥に此の里の中でも最も近い者だ、故に其の目利きには信用が置ける。


「ああ、あの坊主は兎にも角にも必死だやなぁ。まぁ屋良の兄妹(きょうだい)に前も後ろも狙われてるんじゃぁ、死ぬ気で鍛えるのも当然っちゃぁ当然だがなー」


 にやりと笑みを浮かべながら言った其の言葉に依ると、あの女性(にょしょう)と見紛う様な美貌の小僧は、衆道に傾倒して居る屋良家の長男と女色の気が有る妹に言い寄られているらしい。


 流石に他所から預かった子故に力尽くでどうこうと言う様な事は無い物の、隙あらば尻やら胸やら身体に触れる様な行為が繰り返されて居ると言う。


 そんな事が有る為にあの坊主は色々な意味で危機感が有るらしく、近年稀に見る程に必死も必死で裸身氣昂法を学んで居たのだそうだ。


「もう爆氣功は勿論、三大奥義もしっかり物にした上に意識加速やら瞬動やらの技術も磨きが掛かってまさぁ。皆伝の免状は師範代様からもうとっくのとうに授けられて居りますし何時連れて帰られても宜しいかと」


 志七郎は滞在費も儂が用意し日々の生活に必要な雑用も義弟が行ったが故に二ヶ月程の間修行に専念し奥伝の免状を得たが、あの小僧には其処までしっかりした援助はして居ない。


 故に修行の合間に鬼切りへ出掛け、その銭を使って生活をしながらの修行だったと言うのに、しっかり皆伝まで行けたのは儂が思っていた以上にやる気に満ちていた為だろう。


 先読みに定評の有る儂でも流石に其のやる気の源泉までは、彼に聞くまで想像も出来なかったがな!


 しっかしまぁあの面構えだから、御稚児好き衆道好きに言い寄られるだろう事は想像に硬く無かったが、真逆女色趣味の有る女性にまで言い寄られて居るたぁなぁ。


 儂も色事に関しては真っ当な趣味をして居るとは天地に誓っても言う事の出来ない変態の類である事は自覚して居るが故に、人様の其れをどうこう言う気は無いが……無理やりどうこうと言うのだけは頂けない。


 練武館志学館時代の先輩で、今は両館の館長を勤めている小山内(おさない) 呂利(ながとし)諸田(もろたの) 修道(ながみち)達も幼女に稚児の趣味が有るが、奴等がそうした者達に無体を働いた事は無いと断言出来る。


 アレ等は変態では有るが同時に紳士で有り、己の欲望にも真摯で、太祖家安公が残した『可哀想なのは抜けない』と言う言葉を忠実に守っているのだ。


 そう言う点で言えば(あやかし)性質(さが)に従ったとは言え、女房を力で屈服させて娶った儂は彼奴あやつ等以下か?


 まぁ女鬼を娶る際にも同様に力を見せる必要が有る事を考えれば、嫌がる女性を無理やり手籠め……と言うのとは違う……筈だ。


 儂の記憶が確かならば、志摩と言ったか? あの小僧は陰間茶屋に売られる将来を避ける為にこそ泥に身を落としたと言う話だった筈だし、尻を狙われていると言うのは確かに必死に成るには十分な理由だろう。


 けれども女性に前を狙われて其れを厭うと言うのは……もしかしてあの若造も儂や先輩達と同じ様に特殊な相手にしか勃たない性質(たち)なのやもしれぬ。


 もしもそうならば儂は孫の家臣と言うだけで無く、同じ悩みを抱えた男の先達として、彼奴に手を貸しても良いかもしれないの。


「取り敢えずアレが皆伝まで言っていると聞いて安心しておるよ。そろそろ他所の土地では寒く成ってくる季節故な。錬水業を叩き込むにゃ丁度良い頃合いだ」


 四錬の業は可也古い時代、未だ氣を扱う術が一般的とは言い難かった頃に試行錯誤の中で生み出された技法では有るが、裸身氣昂法と言う一流派を為した錬風業と、酒精を氣に変える錬火業以外は殆ど廃れたと言って良い状態だった。


 世間様から見れば異様に頑健な者が多い、と言うか頑健で無ければ生きる事すら難しい猪山と言う土地の血を引く者の中では、身体が弱いと言われても仕方なかった儂はそうした埋もれた技術を古書から探し出し再発見する事に一縷の望みを掛けるしか無かったのだ。


 酒に弱けりゃ男としても弱いと言う風潮の有る火元国で錬火業は完全に廃る事は無く、かと言って一般的な技術として流布されて居た訳でも無く、知る人ぞ知る技術……と言った感じだった為、水や土に比べれば割と簡単に学ぶ事が出来た。


 錬風業も当時は未だ御留流で裸の里自体が隠れ里に近い形だった為に、其れを学ぶのは簡単な事ではなかったが、幾つもの功績を此の地を治める大名に譲った上で説得に説得を重ねた結果、向こうから頭を下げて学んで下さいと言わしめる事が出来たのだ。


 問題は其処から先だった……錬水業も錬土業も何方も其の名と存在自体は古書にも記載が有ったのだが、その修業方法に関しては一切情報が残って居なかった。


 そんな中で氣の深奥を覗き込む事を望み、儂と一緒に苦難の道を歩む事を選んだ一人が、今目の前に居る此奴の父親だったのだ。


 裸身氣昂法の師範や師範代は代々坂東家の娘が勤めるが故に、坂東家の男児(おのご)は分家を起こすのでなければ割と好きに生きる事が許される。


 此奴の父親はそうした自由を得られる身であったが故に、儂と共に水と土の業を確立する為に様々な荒行を行ったものだ。


「うへぇ……ありゃキツいなんて物言いじゃァ足んねぇのを、あんな子供(ガキ)にやらすたぁ相変わらずの悪党だぁねぇ」


 錬水業は必ずしも寒い時期に学ぶ必要は無い、要は滝に打たれ水と空気に含まれる氣の素と成る物の流れを掴む事が出来れば良いのである。


 けれども散々儂等が試行錯誤した結果、寒い時期の方が其れを感じ取るのが容易であると言う結論に至ったと言うだけだ。


 当然、此の男も其れを検証する為に儂等が色々と叩き込んだので、冬場に行う滝修行の辛さは知っている訳である。


「悪党とは人聞きが悪いのぅ。儂等は御主に(わざ)を授ける際にも可能な限り簡単に成る様、様々な試行錯誤をしっかりと此の身で行った上でやらせて居ったのだぞ? 何処ぞの下手な道場の様な根性論だけを押し付ける様な真似は一切しなかったと言うにの」


 気合と根性で見て盗め食らって覚えろ、等と言う教え方をする道場は火元国を見渡せば其れこそ星の数程の存在する、儂等の様に論理立てた教え方をする者の方が少数派と言えるだろう。


 まぁ氣の扱いと言う物自体が『感覚を掴め』と言うしか無い物で有る以上は、ある程度は苦難を味わって貰うのは仕方が無い事なのだ。


「まぁ俺がまたやれって言われてる訳じゃぁ無ぇし……あの坊主なら今頃は広場で稽古してるんじゃねぇかな? 今日は屋良家の兄貴の方が暇してる筈だし連れて行くならさっさとしてやるのがあの子の為だろうさ」


 ……衆道に全く興味の無い身としては、尻を狙われる恐怖は理解出来る為、その言葉を聞いて儂は一刻も早くあの小僧を連れ去る事を決め、里へと足を踏み入れるのだった。

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