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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
志七郎、南へ の巻

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千百五十一 志七郎、死地に踏み入り分前を鑑みる事

 右斜め上から振り下ろされる枝の軌道上に刃筋を立てた刀を置き、断ち斬ると同時に軽く振り払う事で切り離された枝が身体に当たらない様に弾き飛ばす。


 間髪入れず左脇腹へと向かう枝に対しても同様に対応して自身を守る。


 本来火元(日本)刀と言う物は只々鋭さだけで斬る物では無く、当てた後にきっちり『引く』事で西洋の『押し斬る』刃物とは違う鋭利な斬れ味を生み出す物だ。


 故に今の様に其処に置くだけで相手が勝手に斬れて行く、と言うのは元来の用途では無いし、刃毀れの原因にも成りかねない下手糞な扱い方と言える。


 其れでも尚、問題無く人食い加加阿(マンイーターカカオ)の枝を斬り払い続ける事が出来るのは、ひとえに刀へと流し込まれた濃密な氣の恩恵が有るが故だ。


 斬った際の手応えから察するに、人食い加加阿の枝は同じ太さの鉄の棒より硬いと言う事は無いが、同じ太さの中身の詰まって無い鉄(パイプ)を打ち据えれば圧し折る事が出来る位の強度は有りそうである。


 其れが目にも止まらぬ……と言う程では無いが、相応の速さで四方八方問わず不規則にブン回されているのだから、その中へと足を踏み入れ実を手に入れる事の困難さは、事前に想像して居た以上と言えるだろう。


 ぶっちゃけ俺も錬風業と錬水業を修めたからこそ、こんな事をつらつらと考える余裕も有るが、何方かの練度が少しでも足りて無けりゃ問答無用で先程の木の下に転がっていた白骨死体の仲間入りをしていた筈だ。


 不幸中の幸いと言えるのは、複数の枝が完全同時に俺に当たる様な軌道で飛んで来る事は略々(ほぼほぼ)無さそうだと言う事である。


 此ればかりは薬湯のお陰で成長期に入ったとは言え、未だに前世(まえ)の身長と比べて圧倒的に小さな子供の身体で有る事が幸いしたと言える。


 前世の身体だったならば頭上を通り過ぎて行った左からの横薙ぎの一撃と、右下から脇腹当たりに飛んで来た一撃の何方かを捌き切れずに貰って居た筈だったのだ。


 まぁ恐らくは前世の時代の警察官として鍛え抜かれた身体に今纏って居る程の濃密な氣を合わせれば、当たらざるを得ない方の部分の防御力を強化する事で耐える事は十分に可能だったとは思うがね。


 と、十本少々の枝を払った所で真上から実の生った枝が真っ直ぐに俺の頭目掛けて振り下ろされた。


 目らしき物は何処にも見当たらないにも拘わらず、迷う事無く振り下ろされたのは一帯どう言う仕組みなのか?


 そんな疑問が脳裏を過ぎるが、其れは其れとして刀を頭の上で横一文字に構えて実と枝が繋がる根本を狙って受け止め斬り払う。


 上へと跳ねた実は誰かが受け止めてくれると信じ、俺は次の実を目指して歩を進めるのだった。




「いやー大量、大量、真逆七つの実を全部綺麗に手に入れる事が出来るとは思っても見なかったのだ! 枝も殆ど斬り払って居るから此処でまた実が生るのは多分二年位先になるのだ」


 打ち掛かってくる枝の殆どを斬り払い、連接棍(フレイル)の様に襲い掛かる実も全て綺麗に捌き切り、皆の所へと戻って来た俺にターさんは感心しきりと言った様子でそんな言葉を投げ掛けて来た。


 聞くと人食い加加阿の場合一つの実から加加阿の種子、所謂加加阿豆は百~百五十程度取れるらしい。


 そして一枚の板猪口齢糖(チョコレート)を作るのに必要な加加阿豆は大凡三十粒程だと言う事なので、実に依るブレ幅で割と増減は有るにせよ最低でも二十三枚は作れる計算になる訳だ。


 俺の息子さんを元気にするのに必要な猪口齢糖の量がどれ位になるかは未知数では有る物の、市場に出る場合には基本的に十三匁(約50g)程度の板猪口齢糖一枚単位で取引されて居ると言う話なので、恐らくは其れを一、二枚程度食べれば効果が有るんじゃなかろうか?


 テツ氏も兄貴分の為に持ち帰る分と、自分の嫁さんを喜ばせる為に使う分、そして嫁さん自身に食わせる分も考えれば、実一つでは足りなかった可能性の方が高い。


「兎にも角にも後は折角綺麗に手に入れた実を傷付ける事無く、慎重に持ち帰るだけなのだ。先ずはスー族の集落(コミュニティ)に戻ってケツアルコアトル様から甘い吐息(スイートブレス)を貰って、其れから実を開けて見るのだ」


 今回の実の中にどれ位の加加阿豆が詰まっているかは割って見ないと解らないのだが、収穫した実は直ぐに割ってはならず、暫くの間中のパルプと呼ばれる果肉が潰れない様に大事に扱い発酵するのを待つ必要があるのだそうだ。


 鈍器として活用された実は内部でパルプが崩れる事で、何故か上手く発酵しなくなるのだと言う。


 俺も猪口齢糖作りに付いては全くの素人で、加加阿豆を取り出す為に発酵が必要な事すら知らなかったが、恐らくはパルプとやらが崩れる事で雑菌が入るとか、酵素が壊れるとかそうした事が原因に成るのでは? と、想像を巡らせて見る。


 が、所詮素人の浅知恵に過ぎず、そうした事を口にしたとしても、其れに対する対策が出て来る訳でも無い。


 其れでもまぁ取り敢えずワイズマンシティに戻ったなら、自室に置いて来たノートPCに入っている百科事典を開いて見て、其れらしい対応方法なんかが無いかは調べて置こう。


「ターさん的にはあの木を見て何個手に入れば上等と考えて居たんだ?」


 頭の隅に帰ってからやる事を押しやって、俺はそんな事を問いかけて見る。


「正直な話、あの王河馬鬼(ボストロル)を討ち取った手腕から見て、一個も手に入らない事は無いとは思って居たが、二つ三つ潰さずに手に入れば上等と思っていたのだ」


 あの時は鎧を脱ぐ事無く爆氣功を使った訳でも無いので、今回と比べたならば本気度が全然違うのだが、脱いだら強く成るなんて言うトンデモ現象は見た事が無ければ想像も付かない話だろうし妥当な所だろう。


「七つも有れば結構な量の種が取れる筈だし、其れをちゃんとした猪口齢糖職人(チョコレイター)の所に持ち込めば可也の量の猪口齢糖が作れる筈なのだ。全部自分達で消費するも良し、少しは売りに出すも良し、私は飽く迄も案内人(ガイド)なので取り分は主張しないのだ」


 詳細な年齢は聞いて居ないので、実際にターさんが何歳なのかは解らないが、見た目からは二十代半ばか行って居ても三十代前半だと思われるし、彼の家には嫁さんは居ても子供の姿は無かった事から、彼も全く欲しく無いと言う訳では無いのだろう。


「俺が飛ばした実の内、ターさんは幾つ受け止めたんだ?」


 筋目で言えばターさんの言う通り、案内人として雇われ案内料を支払う以上は、彼に取り分を主張する権利は無い。


 其れでも河馬鬼やアーマーンと一緒に戦った戦友と言って間違いない間柄である以上は、全く無しと言うのも人情味に欠けると言う物だ。


つらねは二つ取りました! 後はテツ様が一つで、ワンのお師匠様が二つ、ター様も二つ受け止めて居た筈です」


 未だ意識加速が出来る程には氣の扱いに熟達して居ないお連では有ったが、他の者を気に掛ける余裕を持つ事は出来て居たらしく、誰がどうやって受け止めたのかを話してくれた。


 此れでターさんが零だったならば諦めて貰う他無かったとは思うが、二つをしっかりと受け止めて居る事を考えれば、彼の取り分を完全に零にすると言うのは無しだろう。


「どれ位の量の猪口齢糖が幾ら位の支払いで出来るのかは解らないが、他所に売る位ならターさんにも分前を渡しても良いと俺は思うんだがどうだろうか?」


 猪口齢糖が必要なのは俺とテツ氏だが、此の旅での活躍を鑑みればお連やワン大人(ターレン)にも取り分は有って然るべきだ。


「俺はソレで構わないぜ。元々兄貴の結婚祝いに贈る予定の分に加えて、自分と嫁さんが口にする分が手に入るなら予定通りって話だしな」


 テツ氏は兄貴分の夫婦に渡す二枚と自分と嫁さんが食べる二枚の四枚を最低でも確保出来れば、其れ以上の余剰分には然程関心は無いらしい。


「私の取り分は考えずとも宜しい。今更、更に子供が欲しいとも思わぬしな。其れでも取り分としてくれると言うのであれば、寧ろ金銭に変えて貰った方が有り難い」


 対してワン大人は妖精の珈琲の実フェアリーコーヒーチェリーだけで十分過ぎる程に活力は得たとの事で、猪口齢糖そのものは必要無いのでその分は誰かが買い取る方向になりそうだ。


「私にも分前をくれると言うのであれば、腕の良い猪口齢糖職人を無料(ロハ)で紹介するのだ」


 ……ターさんは人食い加加阿の種子を扱う事の出来る猪口齢糖職人に心当たりが有るらしく、彼がそう言った時点で取り分云々は決着を見せたのだった。

七月一日は免許証の更新等の用事が有り出掛けなければ成らない為、執筆更新の時間が取れません

其の為、次回更新は七月二日深夜以降と相成ります、ご理解とご容赦の程宜しくお願いいたします

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