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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
志七郎、南へ の巻

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千百四十九 志七郎、新たなる目標を知る事

 禁じ手の力で自分を取り戻す事に性k……いや成功した俺は、女王様に御礼を言ってから妖精郷を後にした。


 次に目指すのはテノチティトラン王国から然程離れていない、未開拓地域の中でも浅層と呼ばれている一帯だ。


 人食い加加阿(マンイーターカカオ)はその名の通り、人類(人に類する種族)を襲い喰らう食肉植物なのだが、そうした植物は未開拓地域には割と多く存在して居る。


 にも拘わらず此れが人食い(マンイーター)の名を冠して居るのは、が比較的安全な筈の浅層で生育して居る事で多くの人が毎年犠牲に成るからだと言う。


 しかも此の人食い加加阿のヤバさは異世界からやって来る類の侵略種族では無く、かと言って歳を経た加加阿の木が妖怪化した物と言う訳でも無い、普通に繁殖して増える限りなく通常の植物に近い魔物(モンスター)だと言う事だ。


 そんなヤバい物が何故駆逐されないのかと言えば、俺達が其れを手に入れようとして居る様に、その果実に高い価値が有るからである……其れこそ人の命よりもその実の方が価値が高いと考える者が少なからず居る程に。


『一人の生命は全地球よりも重い』なんて言葉を一国の総理が口にする程に、命の価値が重かった前世(まえ)の世界では、人命よりも国の面子を優先する極一部の独裁国家でも無けりゃ有り得ない話である。


 とは言え周囲の人々も実を手に入れる為、人食い加加阿に生贄を捧げる様な真似はしておらず、奴等の犠牲に成るのは人よりも動物や魔物の方が圧倒的に多く、実際に無辜の民が喰われる案件(ケース)と言うのは生態が理解された近年では極々稀な事らしい。


 それでも尚、人食いの名を冠し続けて居るのは、高値で売れる実を狙って奴等を狩ろうとして戦闘を仕掛けた実力の伴わない冒険者が、毎年一定数喰われて居るからだと言う。


「人食い加加阿は私も一度戦った事が有るけれども、純粋にタフな上に恐ろしく手数が多いから生半可な腕前の戦士では喰われて終わるだけなのだ」


 未開拓地域の深部で暮らす精霊信仰の民達の中でも最上位(トップクラス)の実力を持つターさんでもそう言うのだから、人食い加加阿と言うのはやはり危険な魔物なのは間違いないらしい。


 人食い加加阿は大きな物は三十三尺(約10m)程の背丈にまで成長する根本から無数に枝分かれした木で、近づく生き物をその多くの枝を鞭の様にしならせて打ち据える事で叩き殺すのだと言う。


 鞭と言う武器は大まかに分けて、映画で有名な冒険考古学者が使う一本鞭と呼ばれる物や、競馬の騎手が使う騎馬鞭、そして木や竹に金属なんかで作られた短い棒状の硬鞭と呼ばれる物の三種類に区分する事が出来る。


 此処で言われる鞭の様にと言うのは当然一本鞭の事で、優れた使い手が使えばその先端は音速の壁を越えると言う。


 人食い加加阿の其れも音速を越える事こそ無い物の、ターさんですら見切る事が難しい程の速さで繰り出される無数の枝に依る攻撃を全て避けるのは、余程の達人で無ければ不可能と言える物らしい。


 普通の一本鞭は防具を身に着けない存在に対して圧倒的な威力を誇る物の、硬い防具の上からでは大した被害(ダメージ)に成らない物なのだが、人食い加加阿の枝はその太さに比べて極めて硬く重い為に、鎧の上からでも芯に響く衝撃を通して来るのだと言う。


 ただ倒すだけならば火を放てば誰でも比較的簡単に討伐する事は可能なのだが、其の手を使うと一番重要な実を手に入れる事が出来ず、周辺に火が広がる可能性も高い為に其れをするのは極端に繁殖し過ぎた時に限られるのだそうだ。


「人食い加加阿は実の付いた枝も容赦無く武器にする上に、実は実で硬く重い鈍器としての効果が有るので本気で厄介な奴なのだ。しかも武器として使われた実は中身がグチャグチャに潰れて価値が無くなるから最悪なのだ」


 一本の人食い加加阿に付く実は五~十個程度と決して多く無い上に、鈍器として使われた実でも繁殖には問題無いらしく、寧ろ積極的に叩きつけて来るらしい。


 では実に依る一撃だけに注意すれば良いかと言えばそんな事は無く、前述した通り枝から繰り出される攻撃だって生半可な鎧では止める事の出来ない衝撃を伴う為、其れ等を捌きながら実の付いた枝を断ち斬る腕前が必要なのだと言う。


「最初から全部バッサリ叩き斬る方向で行くのは無しなんですか?」


 鉞と言う樹木系の魔物を相手にする際に有利が取れると言われている得物を使うお連がそんな事を問う。


 恐らくは枝分かれする前の根本を氣を込めた一撃で終わらせようと言う話なのだと思うが……。


「確かに氣功使い(フォースマスター)が全力で鉞を叩き込めば根本から断ち斬る事も不可能じゃぁ無いかもしれないのだ。けれども其れをやると多分実を綺麗に回収するのが難しく成るのだ」


 人食い加加阿の実は鈍器として使われる程に硬い物だと言うのに、その中に詰まっているパルプと呼ばれる果肉は極めて繊細で、倒木の際に地面に落ちただけでもグズグズに崩れ、その後の加工に影響が出てしまうのだそうだ。


 俺は猪口齢糖(チョコレート)の作り方に詳しくは無いそれでも知って居る限りでは、一般的な珈琲豆と同じく重要なのは果肉では無く種子……所謂加加阿豆の筈である。


 にも拘わらず果肉が崩れた実では駄目だと言うには相応の理由が有るのだろう。


「かー! 鞭の枝に連接棍(フレイル)の実ってか? 噂にゃ聞いてたが本気マジで厄介所の騒ぎじゃねぇな。しかも一撃でズバンっとやっちまうのも駄目だって? 道理で人食い加加阿を使った猪口齢糖に馬鹿みたいな値段が付く訳だぜ」


 テツ氏曰く、人食い加加阿の豆を使った猪口齢糖はその確かな媚薬効果と滋養強壮効果が確認されており、西方大陸(フラウベア)内だけで無く南方大陸(カシュトリス)からも引きが有る品で、金銭で手に入れようと思うと阿呆程の金貨(ギル)を積み上げねば成らないと言う。


 多くの冒険者が人食い加加阿の餌食に成るのも、未開拓地域浅層と言う実力が伴わない者でも狙える場所に生育するが故に、一攫千金を夢見た者が無謀な挑戦を行う結果とも言えるらしい。


「つまり素早く振るわれる無数の鞭の中に混ざった連接棍を見極めて、交差法(カウンター)の要領で実の付いた枝を切り落とし、其れが地面に落ちるよりも素早く受け止めなければ成らないと、うん……そりゃ生半可な腕前じゃぁ手に入れる事が出来ない訳だ」


 聞いた情報を纏め其れが十分過ぎる程に厄介な内容だった事に俺は思わず溜息を漏らしながらそんな言葉を口にする。


 ただ莫大な値段で取引されて居る物だと言うのであれば、其れを定期的に手に入れる様な方向で活動する冒険者が居ても不思議は無いと思うのだが、何故安定供給されて居ないのだろう?


「ぬぅ……人食い加加阿の危険性と有用性は、東方(龍鳳)大陸の医学界でも耳にしていたが其れ程に恐ろしい魔物だとは」


 ワン大人(ターレン)も冷や汗と思しき物を流しながらそんな言葉を口にした。


 ……あれ? もしかして氣を扱う事の出来ない只人の冒険者だと、余程の実力者じゃなけりゃ実を手に入れるのは不可能で、其処までの実力が有る者ならば他にもっと効率の良い稼ぎ方が有る……とかそう言う話か?


 氣の扱いに精通した者ならば意識加速を使う事で、無数の攻撃を捌いてその中に混ざった実を切り落とす事も不可能では無いと思えるのだが、其れ無しでやるのは無理な話じゃね?


「なぁターさん。ターさんはどうやって人食い加加阿の実を手に入れたんだ?」


 唯一の戦闘経験者であるターさんにそう問い掛ける


「残念ながら私は実を手に入れる事は出来ず、這々の体で逃げ出す事しか出来なかったのだ。実を上手く手に入れる者は年に数人と言った所で、そうした者達も二度と御免だと言う程度には難易度の高い仕事なのだ。まぁ君は(フォース)が有るからなんとでも成る筈なのだ」


 と、返って来たのはそんな無情な言葉なのだった。

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