表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
志七郎、南へ の巻

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1129/1256

千百二十七 志七郎、目玉の木の実を見て自己陶酔症患者に絡まれる事

「アレがガラナの実だ。他の木に寄生する蔓の類で、実は見ての通り目玉の様な気味の悪い姿をして居る。本当に我等の先祖はどうしてアレを飲み物にしようと思ったのか……。まぁ他の魔物(モンスター)も見た目はエグいが食った美味いのはザラに居るがな」


 早朝の稽古と朝食を終え、身体に問題が無いとワン大人から太鼓判を貰った俺は、早速ガララアイと呼ばれるガラナの実が魔物に成ったモノを狩る為に密林(ジャングル)へと出発した。


 ガララアイが出現すると思しき場所は、ウポポ族の縄張り(テリトリー)で有り、本来ならば外部の者を入れる事は出来ないのだが、今回は密林を救った英雄の為と言う事で特別に許可が下りたのだ。


 そして今回特別に許可が下りたのは『外部』の人間だけで、密林の英雄であるターさんは含まれない。


 此れはウポポ族が排他的だとか、スー族との関係が悪化して居るからとか、そう言う理由では無く、俺達外部の人間なら一度行っただけなら再び自力で到達する事は出来ないが、密林で案内人(ガイド)をする事が出来るターさんだと後から勝手に行く事が可能だからである。


 密林ならば割と色々な場所で目にする事の出来る普通のガラナならば兎も角、密林の奥地で有りウポポ族の縄張りの中でも最重要な場所とされて居るガララアイの生息地は、他の部族には絶対に明かす事の出来ない秘密なのだと言う。


 何故ならば、其処がウポポ族の縄張りの守護者である森林竜(フォレストドラゴン)の住処でも有るからだ。


 西方大陸(フラウベア)南部の未開拓地域(フロンティア)には、常日頃から火元国の基準で言う『危険指定妖怪』に区分される様な大型の魔物が、割と日常的に出現する領域(エリア)である。


 そんな中でも精霊信仰の民が集落(コミュニティ)を作って生活を営む事が出来るのは、森林竜が自分の縄張りに入った大型の魔物を排除してくれるからなのだ。


 密林最強の部族であるウポポ族もその例に漏れず、森林竜の縄張りの中に自分達の縄張りを作って生活して居る訳で、万が一にも森林竜が傷付けられる様な事が有れば、部族崩壊の危機が訪れる事に成る。


 無論、他の部族だって簡単に森林竜を傷付ける様な真似をする事は無い、彼等に取って森林竜は精霊と並んで信仰の対象なのだ。


 其れでも絶対は無い為に、基本的にどの部族も自分達を守護してくれる森林竜の寝床は、秘中の秘として他の部族に明かす事は絶対に無いのだと言う。


 そんな訳で今回のガララアイ討伐の案内人はターさんに変わってアヴェナナが務めてくれると言う訳である。


「お、君達は本当にツイてるな。見ろ彼処にスパイスガゼルが居るぞ。奴の角は様々な料理の味付けにも使えるし、煎じれば色々な薬湯にも成る。ついでに肉も美味いし、狩って今夜の飯にしよう」


 ガララアイの生息が疑われる場所は全部で三箇所有るそうで、一番近い所から順に見ていく予定だが、一番奥に有る場所まで行くと想定した場合には日帰りは不可能で、往復で三日は見て置く必要が有ると言う。


 其の為、道中の食事は狩猟民族らしく現地調達が基本である。


 無論、何の獲物も見つからなかった場合に備えて、干し肉程度の保存食は持って来ては居るが、此れは出来れば残して置くべき最後の手段と言う話だ。


 なんせ此処は近くに他の集落なんて無い未開拓地域の奥地も奥地、次に補給が出来るのは何時に成るかも解らない様な場所である。


 万が一にも何かの事件に巻き込まれでもしたら、一番近いウポポ族の集落に戻る事さえ難しく成る可能性も零では無いのだ。


 そんな訳で俺達は、数頭のスパイスガゼルに対して風下から忍び寄って行くのだった。




「ぎゃにゃにゃにゃにゃぁぁぁあああ! にゃんで! にゃんでニャーを追いかけて来るにゃ! ニャーは美味しく無いにゃ! つかお前等ネコ科だろ! 一応遠い親戚だし共食いしようとするにゃ!」


 無事に仕留めたスパイスガゼルを精霊魔法を使って手早く冷やして、血抜きを含めた解体を終わらせてから、もう暫く先へと進みそろそろ晩飯の準備をしようかと言う頃合いに成って、今日の寝床を探し始めた頃だった。


 密林には似付かわしくない綺麗な純白の猫が、巨大な黒豹に追いかけられている姿が遠くに見えたのだ。


 もろに人の言葉を口にして居る辺り、あの猫は恐らく猫又か其れに近しい妖怪の類なのだろう。


 ならば妖術の類を使えば野生の獣位簡単に追い払えると思うのだが、どうやら切迫し過ぎてそうした事にすら頭が回って居ない様子である。


「一寸行ってくる。お連とワン大人は其の儘晩飯の支度をしておいてくれ」


 ……仕方ない、知らない猫だとしても人の言葉を解する者が、目の前で喰われるのを黙って見ているのは寝覚めが悪い。


 焚き火の上で中華鍋を降る二人にそう声を掛け、俺は立ち上がると懐の拳銃を抜いて駆け出した。


 最初にするのは取り敢えず何方にも当てない様にしつつ、双方の間を通る様に狙った威嚇射撃だ。


「ぎゃにゃー!? にゃんにゃのにゃ! こんな所で鉄砲とかニャーを三味線にでもする積りかにゃ!?」


 銃声に驚きの声を上げて仰け反り足を止めた白い化け猫と、銃声等気にする事も無く目の前の獲物に齧り付こうとする黒豹……選択を誤ったと気が付いた俺は、脚に氣を込めて大地を蹴るとその勢いの儘に鞘に入ったままの刀で黒豹の横っ面をを打ん殴った。


「Gruuuuuaaaa!(痛ってーな!)」


 殺さない様に手加減をして打ん殴ったのは、食べる訳でも無いのに生き物を殺すのは良くないと言う、現地の風習に従ったからだ。


「失せろ! 次は殺すぞ!」


 変じた訳では無い普通の動物だろう黒豹に俺の言葉が通じる訳は無いが、人に対して威嚇する時と同様に殺気に氣を孕ませた殺氣とでも言うべきモノを放ちながら、そう言葉を放てば動物にだって十分な威嚇効果は有る筈である。


「Gyanyaaaa!(畜生、覚えてろ!)」


 三下珍比良の様な捨て台詞を吐いて逃げていく黒豹を見送って、俺は小さく溜息を吐いてから逃げていた白猫へと視線を移す。


「良くぞニャーを……このネフェルミウ様を助けてくれたな人間よ、全く秘境探索が楽しいとか聞いて来て見たら……本気で死ぬかと思ったのにゃ」


 ネフェルミウと言うらしい白猫は、安堵のため息を吐いてから二本足で立ち上がるとふんぞり返ってそう言った。


「お礼にニャーを好きなだけ愛でる事を許してやるにゃ! この世界で最も美しい猫で有るニャーを愛でる事が出来るなんて、お前はなんて幸運な人類なのにゃ!」


 ……うん、此奴はただの化け猫では無く酷い自己陶酔症(ナルシシズム)を患った可哀想な猫らしい。


「礼には及ばない、目の前で言葉を解するモノが喰われるのを見ると、寝覚めが悪いと思っただけだから」


 この手の手合に関わると碌な事が無い……と言うのは前世(まえ)の経験から来る勘の様な物だ。


 其れに従い俺は手短に話を切り上げて皆の所に戻ろうとするが……


「ゑ!? 一寸待て人間! 此のネフェルミウ様の美しい毛皮をもふもふしたいと思わないのか!? お前、感性が死んでるんじゃ無いか? ……決めた! 休暇が残ってる間、お前に付き纏ってニャーの魅力を教えてやるにゃ!」


 うわぁ……なんか面倒臭い奴を助けてしまったらしい。


 いや猫が嫌いだって訳じゃぁ無いぞ? 前世では猫より犬派では有ったが、猫が嫌いだった訳じゃぁないし、偶には友人が経営して居た猫喫茶に遊びに行ったりもしていたしな。


 ……まぁ猫の魅力ってのは、その勝手気儘な気質に有るとも言うし、着いて来ると言っても其の内飽きるだろ。


 そんな事を思いながら俺は、足元に絡んでくるネフェルミウに足を取られて転ばない様に注意しながら、皆が野営の準備をして居る場所へと戻るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ