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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
志七郎、南へ の巻

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千百二十六 志七郎、武芸と魔法と引退後の生活を考える事

「いやー良い冷や汗をかいた、テツ氏は想像以上に強かった」


 あの後お互い二十合撃(ごう)以上の攻撃を繰り返したが、テツ氏は徹底して俺を懐に入れない事に専念していたらしく、互いに決定打を欠いたまま朝食の準備が出来たと呼ばれた為に勝負は引き分けと言う事にした。


 とは言え俺が吐いた言葉に嘘は無い、牽制が主な目的だと思われる大振りの攻撃は、肋骨の二、三本は覚悟しろと言わんばかりの勢いが有った上に、全然見当違いにぶん回して居た訳では無く、油断すれば確実に当たるだろう軌道を描いて振り抜かれて居たのだ。


 体格と得物の長さの差で相手の懐に入らなければ、反撃の機会(チャンス)すら無かった俺も何とか攻撃を掻い潜って数発は入れたのだが、氣を纏わぬ状態で繰り出した鞘入りの打撃ではテツ氏の鍛え上げられた筋肉の防御を抜く事は出来ず痛打を与える事は出来なかった。


 一応、彼が普段身に纏っている鎧の防御力が薄いであろう部分をしっかりと狙って、打ち込む事は出来て居たので真剣での戦いで有れば氣を込めずとも、大きな被害ダメージを与える事は出来て居たとは思うがね。


「そう言うお前さんも大概だぜ? 結局一発も掠らせる事すら出来なかったんだからよ」


 テツ・カと言う男はワイズマンシティを拠点にする冒険者としては若手の部類に入るが、実力で言えば中堅所でそろそろ戦士(ファイター)を卒業して更に上位の職業クラスに切り替わるかどうか……と言う辺りだと言う。


 冒険者組合(ギルド)が認定して居る職業と言うのは、ソレが認められたから新たな能力が身に付くと言う様な、前世まえに読んだネット小説でありがちな物では無く、逆に『身に付けた技能を見て何の職業に該当するか』と言う物である。


 俺が冒険者組合で『サムライ』と認定されたのも『一定以上の近接戦闘技能』と『一定以上の魔法系技能』に『一定以上の調査系技能』を持っていたが故に『一人で何でも出来る者』と認められたからなのだ。


 対してテツ氏の戦士と言う職業は、武器を使った近接戦闘を担う基礎職の闘士(ウォーリアー)と無手での戦闘に通じた武道家マーシャル・アーティスト双方の技術が一人前以上有ると認められた者に与えられる職で有る。


 近接系で鍛えている一般的な冒険者は最初闘士に成って、其処から得意な武器を更に伸ばして『剣士(ソードマン)』や『槍士(ランサー)』と言った専門職を目指すのが普通らしいが、テツ氏は敢えて素手を齧って戦士に成ったのだそうだ。


「まぁ俺ぁ今回の仕事の報酬を使って学会(アカデミー)入学してサムライ目指す積りだったんだが……嫁さん貰っちまったし、仕事の方向性考え直さねぇとなぁ」


 テツ氏の父親はドン一家(ファミリー)には所属して居るが、下っ端も下っ端のドチンピラに過ぎず、母親も一家が経営する激安飲食店で働いて居る料理人で、裕福な家庭の出では無いと言う。


 其れでも相応の武芸を身に着ける事が出来たのは、一家に関わる家庭の先輩冒険者や犯罪を犯して懲役として軍隊に務めて帰って来た者達から習う事が出来たからである。


 だが一家関係で色々と教えてくれる者達の多くは近接職ばかりで、盗賊(シーフ)系統の様な特殊職や、魔法使いの様な知識職は全く居なかったらしい。


 と言うか世界中何処でも必ずと言って良い程に道場の類が存在して割と広く門戸が開かれて居る近接職業に対して、特殊職や知識職の類は師と成る者を見つけて弟子入りする事で初めて其の技術を身に着ける事が出来る徒弟制度に近い性質が有る。


 第一遺跡荒らしを主な仕事にするとは言え『盗賊』等と言う、人聞きの悪い名で呼ばれる職業に、自ら進んで就きたいと思う者は何処かイカれて居ると言えるだろう。


 生まれ育ったのがワイズマンシティだったとしても、精霊魔法学会(スペルアカデミー)に通う為には、決して安く無い入学金や授業料を払う必要が有る為、冒険者を志したとしても最初からソレを目指せるのは裕福な家庭に生まれた者位である。


 道場に通うのだって無料と言う訳では無いが、魔物(モンスター)の害が頻繁にと言う程では無くとも、其れ也に有るこの世界では誰しも武の一つは齧るのが当たり前な為、余程の名門でも無ければ誰でも学べる程度の額にするのが普通だと言う。


 テツ氏の場合そうした安いはずの道場にすら通えない程に貧乏な家庭だったが、ドン一家と言う犯罪組織(ギャング)で有ると同時に互助会としての側面も持つ組織の中で、剣術と格闘術の双方を学ぶ事が出来たのだそうだ。


 後は普通に冒険者として実績(キャリア)を積み重ね、ある程度貯蓄が溜まった時点でソレを元手に何らかの街の仕事に就くと言う事を想定していたらしい。


「精霊魔法を……特に水の魔法が使える様に成れば、ワイズマンシティでは食いっぱぐれる事ぁ()ぇかんな。なんならニューマカロニアに移住したって良いしな」


 海から採れる物と牧場で育つ物以外に碌な資源も無く、水すらも魔法に依存して居るワイズマンシティやニューマカロニアと言う都市国家では、精霊魔法を使った『水売り』が安定した職業の一つとされて居ると言う。


 水属性に限らず、燃料と成る物が少ない為に火を使うにも精霊魔法を使う事が出来る様に成れば、料理を作る際にも色々と経費(コスト)が下がったりもする。


 気温が高い日が多い両都市国家では風属性の需要も有るし、土属性は建築現場なんかで役に立つ。


 複合属性を扱う事が出来なくても、精霊魔法が使える様に成れば街で生活する上でも仕事の選択幅が大きく広がるのだ。


「俺みたいに切った張ったしか出来ねぇ奴が引退した後に就ける仕事なんざぁ、ワイズマンシティじゃどっかの見世の用心棒位なモンだし、ソレも爺に成っちまえば続ける事は出来ねぇからな。やっぱ魔法を学ぶのが将来的にも安定なんだよ」


 そーいや火元国では町人階級の鬼切り者は引退した後どうやって生活して居るんだろう?


 特に江戸っ子は『宵越しの銭は持たねぇ』って気質の者が割と多いし、鬼切り者を生業にする様な者は街での仕事には向かない者が大半なので、引退した後街仕事に就くと言う選択肢も無い気がするんだ。


 武士階級の場合は引退……と言うか隠居した後は、子や孫の世話に成るのが当たり前と言う感じだが、町人階級の者達も其の辺は同じなのだろうか?


 まぁ前世(まえ)の世界でも年金制度が施行されたり、核家族化が進むまでは『老いては子に従え』と言う言葉の通り、年老いた親の面倒を子供が見ると言うのは割と普通の光景だった筈だ。


 実際、俺の実家も曾祖父さんと爺さんを親父とお袋が同居で暮らして居たが、曾祖父さんも爺さんも痴呆の類は患っていなかったし、定年後も剣道を続けて居た事で身体の方も衰えず介護の類を必要としなかったが、ソレが必要ならばお袋は大変だっただろう。


 ……収入と言う面でも曾祖父さんも爺さんも公務員だったお陰もあって、厚生年金込みで結構な額の年金が出ていた筈だし、剣道道場の門下生から入る月謝も決して少ない額では無かった筈だ。


 そう言う意味でも前世の俺の家は恵まれて居たんだなぁ……いや、今生だって御祖父様は殺しても死ななそうな人だし、父上だって未だまだ元気だし兄上が家を継いだ後は、順当に隠居生活に入ったとしても母上と一緒に賭場荒らしとかしてそうだし心配は無いな。


 寧ろ問題は俺じゃね?


 いや、お連を嫁さんに貰って、彼女の実家である富田藩骨川家を簒奪すると言う計画を御祖父様と上様が企てて居るのは知っているが、其れとは別に浅間様から命じられた『死神さん』の真名を探す旅もしなけりゃ成らないんだよな。


 んでも藩主と言う立場に成ったならば、俺が一人で旅をするのでは無く、家臣を使って情報を集めるとかそう言う方法を取る方が良いのだろうか?


 はたまたお連の言う通りに早目に子供を作って、その子が元服したら速攻で藩主を押し付けて、隠居してから旅を始めると言う手も有るな。


 とは言え、お連の身体の事を考えるならやはり彼女が二十歳(はたち)に成る前に子供を産ませる事はしたく無い。


 ……取り敢えず火元国に帰ったら御祖父様ときっちり相談しなけりゃならないな。


 と、そんな事を考えながら肉マシマシの朝食を食らうのだった。

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