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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
志七郎、南へ の巻

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千百十一 志七郎、大物の中の小物を見て大物の中の大物と会敵する事

「ドゥルラァァァアア嗚呼!(狼狽えるな偉大なりしムーの民よ!)」


 お連の一撃で切り開かれた道の先、河馬鬼(トロル)とは同族には全く見えない、巨大な卵型の毛皮で覆われた身体を持つ魔物(モンスター)だった。


 後から調べて解った事なのだが、奴は(ボス)河馬鬼と呼ばれる河馬鬼の上位種で、文武に長けた河馬鬼が月夜の晩に月の女神に鳩琴(オカリナ)の演奏を捧げる事で進化する事が出来る種族……らしい。


「グァァアア、グルル、グアグァァアア嗚呼!(蒙昧なる者達に依って、我等が女神は奪われた、ソレを取り戻すこの戦いは聖戦である!)」


 ……俺達この世界の者にはただの怒声や咆哮にしか聞こえないその雄叫びも、聞き耳頭巾の効果に依って全うな言語として聞き取る事が出来ていた。


 その言を信じるならば、奴等河馬鬼達は自分達の信奉する月の女神がこの世界へと攫われた事で、天変地異が元々居た世界を襲い生活出来る状態では無く成ったのだそうだ。


 故に攫われた女神を取り返し、彼女の庇護下で再び繁栄を取り戻す為に、この世界のこの土地を手に入れるのは当然の権利なのだと言う。


 いやまぁ仲間に対しての鼓舞や扇動(アジテーション)の為の言葉だし、此方の都合を丸っと無視した自分達に都合の良い発言が出るのは、前世(まえ)の世界に居た頃に見聞きした某北国の報道なんかでも良く知っているが、他所様の庭先を暴力で奪って良く言うわとしか思えない。


 此れが殴り(カチ)込み仕掛ける前に十分な交渉なんかが有ったのであればまた話は変わって来るとは思うが、この土地の守り神として扱われているケツァルコアトルが瀕死の重症を負う様な事に成っている時点で、とっくの昔に交渉は決裂状態だと言えるだろう。


 下手をすれば……いや下手をせずとも、マトモに言葉が通じず事前の通告も何も無く勝手に橋頭堡を建てて侵略して来て居るのではなかろうか。


「グルルァ! グルルァ! グルルァ!(酒! 肉! 女!)」

「グルルァ! グルルァ! グルルァ!(酒! 肉! 女!)」

「グルルァ! グルルァ! グルルァ!(酒! 肉! 女!)」


 しかも王河馬鬼の鼓舞に対する他の河馬鬼達の反応は此れである……電撃をビシバシ食らい続けているのに元気だな此奴等。


 多分、雷の雨(サンダーレイン)程度の被害(ダメージ)では、奴等の高い生命力に依る回復力を大きく上回る事が出来ず、ちまちま削っては回復され……を繰り返して居る状態なのだろう。


 とは言え、大凡二割程度の確率で発生する『感電』の状態異常(バッドステータス)で、群れで押し潰すと言う戦術をある程度封じる事は出来ている様なので、紅牙と翡翠には引き続き頑張って貰う事に成りそうだ。


「ターよ、聞いていたのと姿が違うが、アレがケツァルコアトルを傷付けた魔物か!?」


 油断無く大剣グレートソードを構え直しながら、テツ氏がそう問いかける。


「いや違う、あの王河馬鬼も決して弱い存在では無いが、ケツァルコアトル様が遅れを取る様な相手では無いのだ。私が見たのはもっと強大で邪悪な死を気配を漂わせた魔物だったのだ!」


 轟続ける雷鳴に負けない大声で返事を返すターさん。


 と言う事は眼の前に居る王河馬鬼よりも強い魔物が最低でも一体は居ると言う事なのだろう。


「ドルォォオオ雄々! ルァ! アア嗚呼!(高貴な我が直接手を下す迄もない! 檻を開け! アーマーンを解き放て!)」


 そんな王河馬鬼の言葉に従って、銅鑼が打ち鳴らされる金属音が雷鳴に負けない音で鳴り響く。


 俺達に対して全く恐れの様な物を見せて居なかった河馬鬼達だったが、銅鑼の音から一歩でも遠くへと逃げる様に雷に打たれながらも此方に背を向けて走り出す。


「どうやら奴等の切り札とでも言うべき魔物が出てくる様だ! あの王河馬鬼、自分じゃぁ戦う気が無いらしい!」


 群れを率いる魔物……大鬼や大妖の様な名前持ち(ネームド)と呼ばれる者達は、基本的に王や将軍と言った立場に有る者達だ。


 故に彼等は極めて誇り高く余程不利な条件が重ならない限り、一騎打ちを挑まれたならば其れを厭う事は無い。


 けれども其れは異世界の神々の尖兵で有り、神々の名代としてこの世界へと攻めてきて居る『侵略者』としての自覚が有るが故に、殊更に正々堂々に拘るのだと物の本に書かれて居たのを読んだ覚えが有る。


 だが今回の奴等は『信奉する神が奪われた』と言う状況故か『誇りに掛けて戦う』のでは無く『どんな手を使ってでも領地を奪う』と言う感覚で奴等は此処に来ているらしい。


「GyaoooooooooooN!(自由だぁぁぁあああ!)」


 そんな咆哮と共に魔物の骨を組合せたと思しき檻の中から、鰐の頭に獅子の上半身そして河馬の下半身を持った巨大な化け物が姿を表した。


「奴だ! 奴がケツァルコアトル様を傷付けた化け物なのだ!」


 首に付けられた金属製の首輪と其れに繋がる何本もの鎖を見れば、奴が上げた咆哮に含まれていた自由と言う状況とは程遠いとは思うが、檻の中に押し込められた状態よりはマシなのだろう。


 アーマーンと呼ばれていた魔獣は、檻を開けた河馬鬼を一口で噛み砕き飲み込むと、鎖を伸びる範囲の限界まで引きずりながら暴れまわる。


 十では足りない程の河馬鬼がアーマーンの暴力に巻き込まれあっさりと命を落とすが、其れに対して王河馬鬼は眉一つ動かす事も無い。


「グオッグルルル、グルルガァ嗚呼!(出せば喰われるのは解ってただろう、さっさと引け!)」


 どうやらアーマーンと言う魔物は王河馬鬼の統率下に有ると言う訳では無い様で、届く所に居た河馬鬼は容赦無く喰われて行く。


 このまま放置すれば奴等は勝手に壊滅してくれそうな物にも見えるのだが、流石に鬼に区分される魔物だけ有って其処まで馬鹿では無いらしい。


 首輪に繋がった鎖の内何本かが引かれ、逆に何本かが緩められた事でアーマーンの暴れる方向は此方へと向かって来る。


 不幸中の幸いと言えるのは、アーマーンと王河馬鬼や河馬鬼を同時に相手取る必要は無いと言う事だろう。


「来るぞ! ケツァルコアトル様を傷付けた程の魔物だ! 周りの雑魚は我が部族の戦士達が追って抑えに回って来る! 俺達は全力であの化け物を打ち倒すぞ!」


 最後方で後ろからの追撃に備えて居たアヴェナナ氏が、そんな叫びを上げながら手にした投槍器(アトラトル)に槍を乗せ投げ放つ。


「GruuuuuuuuaaaaaaA!(飯だァァァあああ嗚呼!)」


 獅子の前足で勢い良く地面を蹴り、俺達の方へと巨大な鰐の口を開けて突っ込んで来るアーマーンの大きな舌にアヴェナナ氏が放った投槍が突き刺さるが、何の痛痒も感じて居ない様子でそのまま飛びかかって来る。


「四煌! 雷嵐(かみなりあらし)中断! 奴に麻痺(パラライズ)を!」


 火と風の複合である雷属性から、水と土の複合である毒属性へ使用する魔法を変更を指示した。


 属性の組合せ的に雷属性と毒属性を併用する事は不可能では無いが、其れをすると四煌戌が完全に行動を止めて仕舞う事になる為、どれか首を一つだけでも自由(フリー)にして置く必要が有ると判断したのだ。


 俺自身の魂力がもう少し育って、焔羽姫を含めた多重召喚と複合属性の併用が出来る様に成ったならば、彼女に雷属性の魔法を任せて四煌戌に他の魔法を使わせると言う戦術も取れる様になるだろう。


 しかし試しても居ない技術を戦場でいきなり使う程、俺は考え無しでは無い。


「うおぉぉん!」


 麻痺は通れば巨大な魔物でも動きを止める事が出来、仲間と共に戦って居る状況ならば、その状態異常を維持するだけでも大きな貢献となる。


 故に未知の敵を相手にするのであれば、取り敢えず仕掛けて置いて損の無い選択肢の筈だ。


 御鏡が吠えアーマーンが一瞬毒属性が放つ紫の光に包まれるが、残念ながら効果を発揮する事は無く、そのまま突っ込んで来る……が、


「どっせい!」


 鉞を担いだままで一瞬腰を落としたお連が、相撲の立ち合いの要領で爆発的な勢いで跳ね上がり、アーマーンの下顎を上へとかち上げる。


 その一発では打ち倒す事こそ出来なかったが、此方へと向かう勢いを殺し仰け反らせる事には成功していた。


「今だ! 目を潰せ! 大物を相手にする時には先ず目を穿つんだ!」


 ターさんがそう叫びながらアヴェナナ氏と同様に投槍器を手に槍を放つのだった。

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