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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
志七郎、南へ の巻

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千九十九 志七郎、新たなる出会いと共に南へと旅立つ事

 ニューマカロニア公国での音楽公演と博打勝負を終えた俺達は無事にワイズマンシティへと帰還し、あれから凡そ一ヶ月程の時が経った。


 当然其れ程の期間、只々無為に過ごして居た訳では無い、今俺はお連と四煌戌に焔羽姫達と共に、ワイズマンシティから遥か南に有るテノチティトラン王国と言う都市国家へと向かい旅をしていたのだ。


 ちなみに同行者はお連と霊獣達だけでは無い、ラウ・ミェン氏とギウ・ドン氏の仲介で二人の大人が今回旅路を共にする事に成ったのである。


「お!? 猪河殿、彼処に癒やしの林檎(ヒーリングアップル)がたわわに実った樹がありますぞ? しかし今の時期にあれ程実っているのは少々奇怪しいですな」


 ラウ氏が仲介して同行する事に成ったのはワン・タンと言う名の医者兼薬師で、ミェン一家(ファミリー)の面々からはワン大人(ターレン)と呼ばれている人物だ。


 彼は東方(竜鳳)大陸由来の医術と薬術に拳法を修めた人物で、ラウ氏の弟子と言う訳では無いが西方大陸(フラウベア)に渡った後はミェン一家の道場を拠点として医療活動を行っていると言う。


 そんな彼が俺に着いて来たのは、俺が多少也とも錬玉術を修めて居る事が理由で、西方大陸にしか無い薬種を使った調合法レシピを盗むのが目的だそうだ。


 正直に言って俺が覚えている範疇の調合法は、錬玉術の中でも基礎の基礎と言って良い範囲で有り、聞かれたならば教えても全然問題無い程度の物なのだが、其処は職人としての教示と言う物が有るらしく、教わるのでは無く盗む事に拘りたいのだと言う。


「ありゃぁトレントの亜種だろよ。ぶっ倒せば生ってる果実だけじゃ無く葉っぱに木材と良い銭になるぜ? まぁあの大きさの幹を丸っと次の宿場まで運ぶのは中々に骨だろうけどな」


 もう一人の同行者でドン一家経由で仲介を受けて来たのは、犯罪組織(ギャング)の手駒と言う訳では無く、一家に所属する家庭出身の冒険者で、テツ・カと言う名の戦士(ファイター)である。


 冒険者の中で戦士と呼ばれるのは、武器の扱いに長けた闘士(ウォーリアー)と素手での戦闘技術に長けた武道家マーシャル・アーティスト、双方の技術が一定水準を超えて居ると見做された者だけだと言う。


 彼が同行して居るのは、俺の今回の旅の目的である『人食い(マンイーター)加加阿(カカオ)』や『妖精の珈琲(フェアリーコーヒー)』と言った、下半身に効くと言う食材を手に入れる為である。


 とは言え彼自身が其れ等を求めて居る訳では無く、ドン一家の世話に成った兄貴分であるカイ・センと言う人物が嫁を貰う事に成った為、子供が早く出来る様にと言う意味合いでのお祝いとして贈るのだそうだ。


 ……前世(まえ)の世界の感覚で言うならば、結婚祝いに精力剤の詰め合わせを贈る様な物なのだろうが、俺が警察学校を卒業した頃には既にその手の物を贈るのはセクハラとして訴えられても不思議は無かったが、此方の世界では未だ無問題(セーフ)と言う事なのだろう。


「樹の(あやかし)なら(つらね)の鉞でズバンっと()っちゃいますか? あの太さの丸太は流石に連一人で担いで行くのは無理だと思いますが、皆で協力すればなんとか成ると思います!」


 そんな二人が同道する事に成ったのは俺と霊獣だけで旅立つ積りだった所に、ニューマカロニア遠征で暫く離れて居たお連が、再び俺と長い事離れるのを嫌がったからである。


 過去世の記憶を持ち三十路半ばまで生きた経験が有り、向こうの世界でも有数の治安を誇った日本だけで無く、割と危険な地域での捜査研修を受けた事も有る為に、俺一人ならばどんな所に行くと言っても反対される事は無かっただろう。


 けれどもお連を連れての旅と成ると、何処でどんな悪党に目を付けられて、誘拐だ何だと言った騒動に巻き込まれる可能性が跳ね上がるとお花さんが考え、ミェン一家とドン一家の双方に同行したい者が居ないかと話を持ちかけたのだそうだ。


 故に彼ら二人は護衛依頼を受けた冒険者と言う立ち位置では無く、それぞれの目的の為に同行する冒険者と言う立場で、俺達に接してくれていると言う訳である。


「いやいや、幾ら街道沿いを進んでいると言っても、全員で大荷物を抱えての移動じゃぁ襲ってくれって言ってる様な物だろ。どうやらアレが此方を襲って来る様子は無い様だし、態々此方から仕掛ける必要は無いんじゃないか?」


 推定:妖木樹(トレント)亜種に実っている癒やしの林檎と言う果実は、其の儘食べるだけでも自然治癒力を活性化し、掠り傷程度ならば即座に治ると言う天然の霊薬だが、其れを加工する事で割と簡単に霊薬が作れる錬玉術でも薬師の調合でも便利に使われる素材だ。


 妖木樹の木材は以前お連に送った装飾品を作った時の様に、術具の素材としても使える上に建材としても通常の木材よりも優秀な点が多い為、綺麗な状態の丸太ならば恐らく十両(約百万円)程度の値は付く筈である。


 葉っぱや枝も果実や木材程では無いが、霊薬の材料に成ったり精霊魔法を増幅する杖を作る材料に成ったりと引きの有る素材で、アレを倒して手に入る素材を全部売ったならば、軽く一財産に成るのは間違いないだろう。


 けれども火元国の街道とは違い、今進んでいる道は一定の距離進めば必ず宿場があると言う様な作りには成っておらず、次の宿場に付くまで最低でも一回は野宿する必要が有るのだ。


 そんな道中を全員で重たい丸太を抱えて進むなんて目立つ真似をすれば、街道近くまで出てきた魔物は勿論の事、なんらかの理由で移動して居た其処ら辺の悪党まで襲って来る可能性は跳ね上がるだろう。


 幾ら世界樹(ユグドラシルサーバー)のお陰で、照会すれば過去に犯罪を犯した事が一発でバレる世界だとは言え、世に犯罪の芽が尽きる事は無い。


 ……と言うか、火元国でもそうだが田舎に成れば成る程に治安は壊滅的に悪化するんだよな。


 どんな時でも御天道様は見ているから見られて恥に成る行為はしない……と言う、前世の世界の日本だけで通用する価値観は、当然ながら此の世界では何処でも通じる物では無い。


 現場で証拠を上げる事が出来ずとも、世界樹の情報を現地の捜査機関が得る事が出来れば、犯人を罪に問う事が出来る此の世界だが、そもそも都市部以外の場所では捜査機関と呼べる物が存在しないのだ。


 村と呼べる様な場所ならば村長辺りが、そうした捜査権とでも言うべき物を持っている事も有るが、数戸程度が纏まって居るだけの集落なんかならば、其処を通り掛かった旅人を相手にした山賊行為何かが起こっても表沙汰に成らずに終わる事の方が多いのである。


 元警察官としては非常に不本意では有るが『バレなければ犯罪では無い』と言う戯言は、何処の世界でも罷り通ってしまう真理と言う事なのだろう。


 実際、前世の世界の日本でも警察に届け出が出された行方不明者は、日本全国で年間八万人前後と言う数字が計上されて居るが、その全てが自ら姿を消したと言う訳では無く、調べれば事件性が有る行方不明者と言うのも居る筈である。


 殺人、誘拐、失踪、その区別無く行方不明と一括りにされるが、基本的に事件性を示唆する証拠が無ければ警察は行方不明者の捜索をする事は無い。


 解り易い例が某国に依って拉致された可能性の有る『特定失踪者』と言われる人達だろう、彼らは丁度俺が大学を卒業した年に相手国が拉致を認めた事で表沙汰に成ったが、其れまでは一部の政党すら『拉致は無い』等と言って居た程に行方不明者の扱いは軽かった。


 ……此れを言っても言い訳にしか成らないとは思うが、警察と言う組織は基本的に常に人手不足で、明確に事件だと判断出来る事に対して注力し始めて成果が出せる程度でしか無い。


 其の為、事件性の有無が判断の付かない失踪者を捜索する余裕等、警察と言う組織には無いと言える。


 稀に大々的な捜索が行われ其れがニュースとして報道されるのは、明らかに本人の意志で失踪したと言えない場合に限った事なのだ。


 故に今回の俺達もしっかりと自衛をしていなければ、地元民の手で闇に葬られても不思議は無いと言う訳である。


「もう三日も進めばテノチティトラン王国の首都に付く筈だし、アレは諦めてサクサク進むのを優先しよう。其の先の未開拓地域に踏み込めば稼げる素材は腐る程手に入る筈だしな」


 二人の年長者に対して俺はそんな言葉で説得を試みると、無事に彼等の心を動かす事が出来た様で、お連も含めて全員が妖木樹亜種を無視して進む事に合意したのだった。

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