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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
偉大なる博徒達の共演 の巻

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千九十七 志七郎、長い勝負の決着を見届け白い灰を目の当たりにする事

 一枚ずつ数え上げられていたチップ山、その残り側の山は既に目に見えて小さく成っていた。


 それこそぱっと見れば何方の駒が多いのかは一目で解る程に……だ。


 にも拘わらず、其れを隠す様な事もせずに未だに集計作業が続けられているのは、恐らく此の先に逆転劇にも繋がり兼ねない何らかの演出(サプライズ)が仕込まれているからだろう。


 運動会の玉入れで入った玉を一つずつ投げて集計して行くのは、籠に入った玉が観客から見えないからこそ盛り上がるのだ、結果が見えた勝負事程つまらない娯楽(エンターテイメント)は無い。


 無論、御都合主義で終わる勧善懲悪の物語の様に、過程を楽しむと言う娯楽も存在するが、其れとて過程が不明瞭だからこそ、見えない筋にハラハラドキドキと胸を踊らせるのだ。


 だが結果も過程も全て読めている陳腐な物語を楽しむ事が出来る者が居るだろうか?


 俺が前世(まえ)に好んで読んでいたネット小説だって『テンプレ』と呼ばれる様な、序盤からお約束通りの展開が続く作品は多々有ったが、其れに作者が創意工夫(アレンジ)を加える事で独自の味を作り出さなければ埋もれて終わるだけだった。


 何処で聞いた言葉だったかは忘れたが『期待に応え予想を裏切る』のが最高の娯楽だと言う様な話を聞いた覚えが有る。


 博打と娯楽の殿堂を謳って居る此の街で、最高の賭場を経営してる公爵家が運営して居るのが此の興行(イベント)だ、その程度の娯楽論を知らない筈が無い。


『五十七万九千四百六十二! 五十七万九千四百六十三! 五十七万九千四百六十四! ああっと! 此処で東方より来た麗しき博打打ち(ギャンブラー)の駒が尽きた! しかし未だ賭け札は捨てないで下さい! 集計後の各種特別賞の授与で逆転劇の可能性はあります!」


 ああ、やっぱりな……とは言え観客が騒ぎ出す様な素振りも無い事から察するに、公爵家が主催する様な大会なんかでは割とよく有る展開なのだろう。


『では引き続き男爵閣下の駒の集計を続けます! 閣下の獲得枚数に依っては特別賞を加算しても逆転出来ない可能性もありますのでね!』


 態とらしく嫌らしい声でそう煽る布告(アナウンス)の声……うん、上手いやり方だ。


 俺自身は前世で博打にさして興味は無かったが、捜査四課(マル暴)と言う所属の都合上、余程マイナーな物以外は一通り学んだ物だ。


 そんな中でも競馬や競輪の様な公営賭博に置いては、圧倒的大差で傍から見ても勝負が明確に付いている場合では無く、写真判定が必要に成る様な接戦の時には敢えて時間を掛ける事で、場を盛り上げる様な手法が有ると言う様な話を聞いた覚えが有る。


 他にも『一時の娯楽に供する物』を賭けた有名テレビ番組企画でも、結果発表の際にドラムロールと共に敢えて焦らす様な演出をするのが定番だった筈だ。


 ただ……問題は特別賞とやらの選出基準が不明瞭だと、母上と男爵の勝敗に賭けている者達の反感を買う可能性が有ると言う事だろう。


 博打に限らず遊戯(ゲーム)と言う物は、可能な限り公正・公平(フェア)取り決め(ルール)で争わなければ揉め事と成って激しく炎上するのが常である。


 解り易いのは世界大会なんかが有る度に毎度毎度騒動に成る『誤審』や『買収』と言った『取り決めを歪める行為』だ。


 いや……世界大会に限らず拳闘(ボクシング)蹴球(サッカー)なんかの競技では地元(ホーム)会場と敵地(アウェー)会場は地元が有利とされていた。


 それは観客の声や反応に圧されて審判員が地元有利の判断『ホームタウンディシジョン』と呼ばれる現象が有ると言われて居たからだ。


 此処ニューマカロニア公国は男爵に取って明確な地元で有り、母上に取っては敵地と言って間違いない。


 そんな中で誰かの意図で評価が左右される様な特別賞とやらで勝敗が動けば、その勝敗に賭けている観客が乱暴者(フーリガン)の様に暴動を起こしても不思議は無いだろう。


 特の此のニューマカロニア公国が有る西方大陸(フラウベア)と言う場所は、本国の有る南方大陸(カシュトリス)とは違い公平・公正を何よりも重んじると言う文化風習の有る土地柄だ。


 其処で行われている公営(公爵家運営)賭博(ギャンブル)で不正が行われた事が表沙汰になれば暴動で済めば御の字、下手を打てば先程の罵声(ブーイング)にも混ざっていた『革命』と言う言葉に真実味すら出てくる可能性も有る。


 ……西方大陸にはニューマカロニア公国の他にも王を戴く国は幾つも有るが、その殆どは国王と言ってもその国の建国者の子孫と言うだけで直接的な権力は持たない、言わば前世の日本や英国の様な立憲君主制の国だ。


 その原因とも言えるのが此の大陸に蔓延る公平・公正こそが正しいと言う価値観なのだろう。


 中には此のニューマカロニア公国の様に南方大陸の影響が色濃く出て居り、君主の権力が強い国も無くは無いが少数派だ。


 そしてそうした多くの共和国も最初から共和制を敷いて居た訳では無く、歴史の中の何処かで『革命』や『維新』とでも言うべき物を経験して居るのである。


 其れが此の国で今日明日にでも起きないと断言する事は、恐らくは世界樹(ユグドラシル)の神々ですら不可能な事だろう。


『五十七万九千八百六十四! 五十七万九千八百六十五! 此れが最後の一枚……五十七万九千八百六十六! 五十七万九千八百六十六枚で決着(フィニッシュ)です!』


 布告の声と共にけたたましく叩かれる銅鑼(ゴング)の音で、一旦は勝負が終わった事が告げられる。


『では続きまして、各特別賞の発表に移ります。特別賞は麻雀での戦績を踏まえ、四人の選手個人を賞する形で発表され、其々の賞に付随した賞金が駒としてチームに配分されます』


 会場に小太鼓を連打する音が響き渡る中花道を通って、テレビ番組で賞金を手に入れた時なんかに渡される様な紙幣を模した大きな板が運び込まれて来た。


『敢闘賞……ファルファッレ男爵閣下! 金貨一万枚を加算します! 最優秀選手賞……猪河夫人(マダム・シシカワ)! 二万枚の加算です! 舐めてる奴で賞……猪河閣下ミスタ・シシカワ! 一万五千枚を減算します!』


 敢闘賞と最優秀選手賞は、まぁ何となく理解出来る……けれども舐めてる奴で賞ってなんだ!? しかも個人賞なのに減算って……まぁ兎に角、男爵側が一万の加算、母上の方は五千枚の加算って事だよな?


『ニューマカロニア公爵賞……ファルファッレ卿! 一万枚を加算致します』


 只でさえ負けて居た所に追加の加算で更に差が開き、此れで逆転の目を無く成っただろう、そんな風に思ったのだが客席の方では賭け札を紙吹雪の様に投げ捨てる者達の姿は無い……いや馬券紙吹雪って日本だけの文化だったか?


『次が最後の特別賞となります、南方大陸帝国特別賞……猪河夫人! 本来ならば帝国特別賞は皇帝陛下よりの下賜なのですが今回は帝国外の方の為、特例措置として賭博場(カジノ)からの支払いで金貨二万五千枚を加算致します!』


 ……えーと? 五十七万九千四百六十四に二万を足して一万五千を引いて其処に更に二万五千を加算すると六十万九千四百六十四?。


 対して男爵の方は……五十七万九千八百六十六に合計二万枚の加算だから五十九万九千八百六十六枚? と言う事は、


『逆転! 見事に逆転! 男爵閣下敗れる! ニューマカロニア賭博王決定戦の勝者は猪河夫人! 遥か東の彼方からの客人まれびとが、麗しき博打打ちが勝利を其の手に掴み取りました!』


 一瞬の沈黙の後、爆発した()の様な大歓声と共に、男爵の勝利に賭けて居たであろう者達が投げた賭け札と言う名の紙吹雪が会場に舞う。


『なお各勝負の勝利者投票券換金及び払い戻しは本日の日付変更までと成って居ります。会場にいらっしゃるお客様方も窓口が混雑して居る場合には、時間を置いて換金を行って下さい! 本日は長丁場の観戦誠に有難うございました!』


 大歓声に両手を振って応える母上は実年齢より十は若く見えたが、徹夜の麻雀勝負に付き合わされた父上は二十は老け込んだ様な姿で白く燃え尽きて居るのだった。

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