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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
偉大なる博徒達の共演 の巻

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千九十三 お清、灼熱の卓上で和了を掴み取る事

 卓の上に漂う熱気は江戸の真夏に感じる日差し等生易しい物と感じる程で、恐らくは此の街の外に広がる灼熱の砂漠の其れと何ら変わらない程の物に思える。


 額から頬を伝い流れ落ちる汗が、決して其れが幻覚の類では無いと実感させるのだ。


 賭場を俗に鉄火場と称する事が有るが、其れは博打に血道を上げる者達の上げる熱気を揶揄する意味合いと、時には賭け銭の取り立てに絡んで刃傷沙汰に至る事もあるからだと聞いた事が有るが、こうして実際に熱さを感じる程の博打は今まで経験した事が無い。


 其れは偏に私と夫が火元国の博打打ちの中でも飛び抜けて強いが故に、本気で熱を帯びて闘う程の相手が居なかったからだろう。


 しかし今こうして一緒に卓を囲んでいる親子は違う、父親である男爵は老獪な打ち手で有りながら、押すべき時にはしっかりと押して危険牌を切る時にも躊躇が無く、しっかりと和了アガリを掴み取っていく。


 対して息子の方はと言えば、天運に愛された我が夫と勝るとも劣らぬ豪運の持ち主で、此処までの対局の中でも既に五回もの役満を和了り、安手の時でも立直(リーチ)していればほぼ間違い無く裏が乗って倍満以上の手となっていた。


 立直すれば必ず裏が乗る……なんて手合は夫だけの話だと思って居たのだが、息子さんの和了った役満の内二回は槓龍(カンドラ)が二枚追加された状況での和了で裏八乗っての数え役満なのだから迂闊に暗槓する事も出来やしない。


 ……でも、だからこそ面白い! 此のひりつく程の熱さを知ってしまったら、もう自分の所の見世で打つ博打では満足出来ないかも知れない。


 博打の熱さと言うのは賭けてる銭多少では無く、如何に強い相手と闘うか……だと言う事を私は暫く忘れていた様に思う。


 対面に座る夫と一緒に成る前は、彼とバチバチにやり合う事で男女の営みにも勝る快感を得る事が出来て居た様に思うが、一緒に成ってからは家族として遊びで卓を囲む事は有っても本気で潰し合う様な勝負はしてこなかった。


 と、そんな事を考えながらも麻雀は進む、長時間の熱を帯びた闘いは相応に体力と精神力を削り、集中力や注意力も段々と散漫に成ってきて居るのだろう。


 実際、目の前に居る夫は勝負を開始した時よりも十は老けこんだ様にも見える……が、眼光は死んで居ない。


ロン、断么ドラ三、七千七百点だ」


 男爵が切った牌に夫が和了を掛けた、黙聴(ダマテン)での両面(リャンメン)待ち赤ドラ三枚手持ちで、断么のみの手がそこそこの点に化ける。


 立直して居ないのは面子の一つが鳴きで作った物だからで、此の場は兎に角早和了を目指したと言う事だろう。


「流石ですな、奥方だけで無く御夫君もまた一廉の博打打ちだ」


 そう言いながら手牌を倒した男爵の手には発と中が三枚ずつに白が二枚と、大三元が何時出来ても不思議は無い様な状態だった。


 ……まぁ男爵の手に無い白二枚は私が抑えて居たので、大三元が完成する事は無かったのだが、其れでも小三元で二飜の役が手内に有るのだから安手でもさっさと和了ると言うのは良い判断だと言える。


「そう言う男爵様の御子息も此の卓に居て他の三人に決して劣らぬ打ち手に御座いますね。真逆あの地獄の振り込みからきっちり取り返して来ているのですから……普通はあんなの食らえば気落ちして投げ遣りに成っても不思議は有りませんよ?」


 洗牌をしながら軽い雑談をするのも麻雀の醍醐味の一つだと言う事で、通訳を挟んででは有るがそんな言葉を投げ掛けて見る。


「倅もゆくゆくは男爵家を背負って立つ身、一度や二度の失敗で簡単に物事を投げ出す様な躾はしておりませんよ。例えどんな絶望的な状況になろうとも家臣や民を背負う身で有る以上は糞を食ってでも逆転の目を狙う事の出来る男に育てた積りだ」


 糞を食ってと言う言い回しは、意訳なのか其れ共本当にそうした言葉を男爵が口にしたのかは解らないが『武士は犬ともいへ、畜生ともいへ、勝つ事が本にて候』と言う火元の武士が心掛けるべきとされて居る言葉と通じる物を感じ取る事が出来た。


 彼等もまた博打打ちで有ると同時に(まつりごと)に携わる貴種としての誇りも持ち合わせて居るのだろうと、感じ入り次の局は私が取る! と改めて気合を入れる。


 山牌を積み上げ終わり次の親が賽を振る間に、手元の点棒を確認する……思ったよりも多くは無い。


 手持ちの点棒を越える負けーー箱割れと成った分もしっかりと帳面に記録され、負債(マイナス)が無くなるまでは立直が出来なく成る取り決め(ルール)なのだが、御子息は件の三面龍(トリプルロン)以降も腐らずに打ち続けた事で、大分点棒を取り戻していたのだ。


 立直のみでも大概裏が乗って点が伸びると言う豪運の者が、箱割れで立直が禁じられると言うのは割と大きな不利の筈なのだが、その状況でも細かい勝ちを重ね続けて来たのは今回の『半荘』や『一荘』ですら無い無制限勝負だったからだろう。


 猪山藩下屋敷(ウチ)は基本的に東場~南場を打つ半荘毎に精算する取り決めだが、実家の麻雀(あさめ)野火(のび)家では東→南→西→北の一荘丸っと打つのが主流だった。


 御子息があの三面龍で被った被害は半荘で精算した場合でも一荘で精算した場合でも、取り戻す事は難しかった筈だ。


 普通の取り決めならば自分の親番以外には勝ちを積み重ね様としても、勝てば勝つ程に場が進んで仕舞う為に安手を積み重ねると言う手は使えないのである。


 けれども今回の取り決めは武光達が塔とやらの攻略を終えて帰って来るまで、時間も場も無制限で打ち続ける事が出来る為に、普通の麻雀とは違う打ち回しで勝負出来ると言う訳だ。


 ……と、配牌が終わったので手牌を確認すると、うん悪くは無いかしら?


 速さを求めて鳴いても良さそうだし、自摸(ツモ)が良ければ打点を上げる事も出来そうだ。


 此の局は家の旦那が親で一牌目を切る、切ったのは客風牌(オタ風)の北、鳴きが入る事無く男爵が次の牌を自摸り殆ど考える素振りも無く手牌を切る。


 出たのは八萬で、手牌に六七萬が有る今ならば鳴いて順子にすると言う選択肢は有るが……うん、此処は早上がりを目指して鳴くよりは、打点を伸ばす為に自摸に期待しよう。


 そう考えて引いて来たのは……八萬! 良し! 一歩手が進んだ! そして切るべきは九索だわね。


 音を立てて河へと牌を叩きつけると、即座に御子息が次牌を自摸る。


 小さく一つ舌打ちしてから其の儘自摸牌を切った様子を見ると、夫の様に殆ど常に無駄自摸の無い引きが出来る程の豪運と言う訳では無い事が解った。


 それでも此処までの対局で数えを含めて役満を五回も和了って居る相手だ、今の時点で既に大きな手が入って居ても何ら不思議は無いし、警戒するに越した事は無いだろう。


 そんな感じで二巡、三巡と進んで行く内に手牌はどんどん最終形へと近づいて来る、そして四巡目の私の自摸……で、来た!


「立直!」


 待ちは二五萬の両面待ち、雀頭アタマの三筒がドラなので、此の時点で立直断么平和ドラ二で五翻が確定、一発や裏ドラが乗れば更にドン! だ。


「済みません、追いかけます、立直!」


 私の立直に怯む事も無く、下家の御子息が追っかけ立直を掛ける……が、


「立直棒は要らないわ、龍! 立直一発断么九平和、裏は……無しでドラ二。六飜で跳満の一万二千点よ」


 其れは私の当たり牌の五萬だった、自摸和了か一発もしくは裏が乗ってくれれば御の字と思っていたのだが、一発で御子息直撃出来たのは何時勝負が終わっても不思議では無い此の時点では最良と言って良い結果だろう。


 点棒を受け取り其れを箱へと入れ、次の局の為に再び洗牌しようとしたその時だ。


 勝負の終わりを告げる銅鑼(ゴング)がけたたましく鳴り響き、(しー)ちゃん達が帰って来たのを知らせるのだった。

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