千八十九 志七郎、卑猥なる物を見つけ白い物に塗れる事
金龍が座って居た巨大な玉座の後ろにある階段を登り、俺達はとうとう玉猪竜の塔の屋上へと辿り着いた。
此の塔が現世に出現して居る満月の夜には、遠くからでは絶え間なき砂の嵐に隠され、近くに拠れば塔の壁が邪魔で見る事の叶わぬ其処には、随分と御立派な黄金に輝く像がそそり勃って居た。
前世の世界でも田舎の方に行けば道の端に道祖神と呼ばれる同様の形の石像が祭られていたりする事も有ったし、子宝を授けると言う神社の御神体はやっぱりコレと同じ様な木像だったと言う例も有る。
……要するに其処に有ったのは、明らかに怒張した男児の象徴を象ったと思しき金の像だったのだ。
こうした物が見られるのは何も日本だけでは無い、仏教の興った印度では今も大黒天の原型である破壊神の象徴として『シヴァリンガ』と呼ばれる男性器と女性器を模した物が信仰の対象とされて居ると聞いた覚えがある。
他にも古代埃及や古代希臘なんかでも、勃起した男性器は一部の神の象徴として描かれたり、象ったりした物が有ったと言う。
俺の様な専門分野以外は割と無知だと自覚の有る者ですら、記憶の中から此れだけの物を捻り出せるのだから、恐らくは洋の東西を問わず古代と呼ばれる様な時代には普遍的に存在した物なのだろう。
事実、多くの生き物は男女の営み無くして子孫繁栄を為す事は出来ない、故に大地の母神が信仰の対象と成るならば、当然その対と成るだろう父神もまた信仰の対象と成って当然と言える。
職業柄宗教に明るかった友人の言に拠れば、古代の信仰の大半は人の手でどうする事も出来ない『自然現象を擬人化した神』を崇め奉る事で、少しでも災害の被害を減らし実りを豊かにと祈る物だったと言う。
成れば自然現象その物と言っても過言ではない精霊をその身に宿す霊獣達が、神々では無く子孫繁栄の営みを象徴する物として此れを信仰の対象としていても何ら不思議は無い。
と、そんな感想を持った俺に対して、嫁入り前の妙齢女性であるストリケッティ嬢は顔を真赤に染めて、どうしても目に入るだろう金色に輝くソレから目を逸らしては、ちらりちらりと宝玉の在り処を探して視線を彷徨わせて居る。
「ストリケッティ殿、アレが有る以上は宝玉の在り処は探さずとも解りますよ」
宝玉は金龍の睾丸その物だと言って居たのだから、ソレが安置されて居るだろう場所は、当然ながら眼の前に聳え立つ煩悩の化身……その根本に有る陰嚢を象った部分に有る筈だ。
火元国でも外つ国でも身分の有る家に生まれた女性は、輿入れ前に男女の営みを経験する事は無い。
いや、絶対に無いかと言えば必ずしもそんな事は無いだろうが、夫婦の間以外でそうした行為が有ったと解れば、ソレだけで離婚の理由に成るし、場合に依っては姦通の罪に問われる事すら有る。
対して男の方は結婚前に女郎屋にでも行って童貞を捨てて置かねば、一人前の男と見做されない風潮も有ったりする辺り、自由恋愛絶対主義とでも言う様な状況だった前世の日本では考えられない様な男尊女卑と言えるかも知れない。
とは言え、向こうの世界ならば遺伝子鑑定でもしなければ、不義の子やら『托卵』やらがバレる様な事は無いが、此の世界では両親の情報が世界樹に記録される為どう頑張っても初祝を受ける際に必ずバレる、故に向こうの世界よりも貞淑さが女性には求められる訳だ。
まぁ初祝で両親がハッキリするからこそ身分の無い下々と形容される者達は、割と好きに行為に及んで子供が出来たら取り敢えず共同体の子供として育てられ、父親が解ってから祝言を上げるなんて事も横行していたりする辺り下は割と緩いらしい。
この辺は確実に血脈を後世に受け継ぎたいと考える身分の者と、日々生きているだけでもめっけもんと言う様な地位の者の違いと言う事なのだろう。
ちなみに多くの冒険者と呼ばれる者達は大体後者の立場で有り、荒事を仕事にする明日の命も知れぬが故に飲む打つ買うは派手な者が多く、女性冒険者も貞節とは程遠い生活をして居る者が割と居るらしい。
ストリケッティ嬢も冒険者として相応の経験は詰んできた様だが、男爵家の娘と言う立場が有るが故にそうした乱痴気騒ぎに身を委ねる様な事は無かったのだろう。
……もしかしたら『心に決めた人』とやらに操を立てて居るが故に、そう言う事をしてこなかったと言う事も考えられる。
何方にせよ彼女が『初心な生娘』だと言う事は、あの金精大明神を目にした時の反応から大体察する事が出来た。
そんな彼女が巨大な逸物の根本を弄る様な姿を見たいと言う欲望が無い訳では無いが、前世の職場で性的嫌がらせ駄目絶対と教育された理性が待ったを掛ける。
正直に言えば幾ら作り物とは言え自分の物以外のソレに触れるのは、余り嬉しい事では無いがソレでもまぁ彼女にやらせるよりはマシだろう。
そう判断して俺は自身の身の丈どころか義二郎兄上の身の丈をも越えるだろう巨大な逸物の根本へと歩み寄る。
……近くで見るとスゲー写実的に作り込んで有るな此れ、浮き上がった血管とか尿道? と思しき部分とかしっかりと凹凸が付けられているのはどういう拘りだろう。
此方の世界で流通して居る張形の類を目にした事は無いが、前世には違法なアダルトビデオを制作して居る現場に踏み込んだ際に比較的写実的と言えるソレも見た事が有るが、此処までしっかりと作り込んで居る物は見た事が無い。
ぶっちゃけ写実的過ぎて金龍がその吐息で他の生き物の逸物を固めて張形にした物とすら思えるのだが、流石にそんな事は無いだろう……多分。
兎角、大事なのはこの黄金の竿では無く、その根本に有るだろう宝玉の方だ。
普通の生き物ならば棒が一本に宝玉が二つ収まった袋が付いている物だろうが、此処に勃って居る物の根本には同じく黄金に輝く大きな丸い球状の祭壇らしき物が鎮座していた。
此方も此方で表面に刻み込まれた其れはよく見なくても女陰を象った物なのは、三十路童貞の儘身罷った俺でも理解出来る程に写実的である。
細かな作りを説明して行くと夜想曲を冠する投稿小説の世界に突入しそうなその中に、白く輝く大振りの林檎程の大きさの球体が有った。
手を伸ばし其れに触れるとどうやら固定されて居る訳では無い様で、ひっぱれば簡単にすぽんと取り外せる。
「さて……宝玉は手に入りましたが、俺としてはこの勝負を分けとしたいと思うのですがどうでしょう?」
今回の踏破に置いて俺は自分一人だけで其れを成したとは思わない、ストリケッティ嬢の協力が無ければ何処かで罠に引っ掛かって死んで居ただろう。
そしてストリケッティ嬢が単独で挑んだとして、初見で踏破出来たかと言えば恐らくは其れも無理だったと思う、残念ながら彼女には一部の魔物を突破出来るだけの戦闘能力が無かったからだ。
「正直な所、私も貴方の協力無しで此処まで来れたとは全く思って居ません。貴方が手を貸してくれなければスライムに装備を喰われた時点で手詰まりでしたからね」
今彼女の身を覆う着物は此方の物な訳で、彼処で俺が手を貸さなければ全裸に無手で迷宮を行かねば成らなかったのだから、確かに手詰まりと言う表現がしっくり来る。
「私個人の意見としては、引き分けでも貴方が大分此方へと譲ってくれた結果だと思えます。とは言え此方も全く貢献して居ないと言う訳でも無いとは思うので、其れを受け入れるのが正しいんでしょうね」
不甲斐ないと深い深い溜め息を吐きつつそう言うストリケッティ嬢、この勝負に自身の進退が掛かっているにも関わらず、そう言って分けを受け入れる辺り、矢張り彼女は高潔な性質の好ましい女性だと言えるだろう。
「此のの勝負が分けで終わったならば、後はお互いの親の博打勝負の結果次第ですし、俺達は出来る事はやったと言う事で良いのでは無いでしょうか?」
そう言って俺が差し出した宝玉に微笑みながらストリケッティ嬢が手を伸ばしその手が触れた瞬間……俺達は白い光に包まれてその場から消えたのだった。
今年も一年、拙作をご愛顧頂き真に有難う御座います
本年の更新は此の回にて一旦終了とし、三賀日開けるまでお休みを頂きたいと思います
次回更新は1月4日深夜を予定しておりますが、体調等の理由により前後する場合がございます、予めご理解とご容赦の程よろしくお願い致します
来年も大江戸? 転生録をお楽しみ頂ければ幸いです、其れでは皆様良いお年を




