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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
博打と迷宮探検競技 後編 の巻

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千八十三 志七郎、呪言に呪われ身を捨てて庇う事

 ミケからの忠告をしっかりと聞き入れた後、俺達は改めて先へと進む為の扉を開く。


 その先には迷宮と言うには明らかに広すぎる、何の仕切りも無い大きな空間が広がっていた。


 それだけ広いと壁に取り付けられた松明(トーチ)の明かりだけでは、部屋の中心部が暗く成ってしまう筈なのだが、此処から見えるだけでもそうした暗がりは無く、明らかに天井の方にも照明と成る物が設置されて居る様に見える。


 パッと見た所、魔物(モンスター)もどきの姿は無いが、四階に現れた悪食粘液(スライム)女や幻影(シャドー)静殺魔(ストーカー)女の様に、姿を隠して不意を突くのに特化した魔物が潜んでいる可能性は十分に有りえた。


 故に俺は氣を目と耳そして肌の露出部分に大きく振り分ける事で、可能な限り気配に対する察知力を高めた状態で、ストリケッティ嬢の前に立ってその広間へと足を踏み入れる。


「パセ、ジュゴンゾロヂデ、バンジボベンボグゾズグギング」


 すると何処からとも無く(しわが)れた女性の声で、そんな風に聞こえる声が響き渡り、それと同時に俺の身体を包んでいた氣が一気に霧散した。


 俺は京の都で安倍陰陽頭(いんようのかみ)家の家臣と手合わせした時に、同じ様な現象を経験した事が有る。


 恐らくは先程聞こえた声は何らかの呪を編んだ言葉で、ソレに依って氣が一時的に封じられたのだろう……いや、こうして意識加速状態で思考を回す事が出来る辺り、完全に封じられた訳では無さそうだ。


 完全に感覚的な話では有るが、氣を身体の外側に出すのが阻害されて居る様な気がする……うん、やはりそうだ身体の外に纏ったり放ったりする事で行う氣の運用は無理な様だが、自分の身体の内側だけで完結出来る様な強化は可能っぽい。


 そう言う意味では陰陽術に依る『禁の術』とは効果効能が違う術の様である、あっちは完全に氣の発生自体を封じられたからな。


「パセ、ジュゴンゾロヂデ、バンジボヂバサゾグヂザサグ」


 と、そんな事を考えている間に再び嗄れた声が呪いの言葉と成って響き渡る。


「うわ!? って、え? 何ともない? でも何かが違う気がする」


 ジュゴンと言うのは恐らくは呪言と言う文字を当てるのだと思う、実際あの声が響き渡った瞬間に感じる寒気と身体に覚えた違和感は、ソレが何らかの妖術の類の引き金に成っているのだと理解するには十分な物だ。


 そしてソレはストリケッティ嬢も同じな様で、疑問と戸惑いの声を上げた。


「ストリケッティ殿、恐らくは此の広間の何処かに妖術を使う魔物が居るんです! そして無駄に時間を掛ければどんどん呪言を重ね掛けして来るんだと思います!」


 二つ目の呪言の効果がどんな物かは未だ解らないが、此方に取って都合の良い物と言う事だけは無いだろう。


「パセ、ジュゴンゾロヂデ、ヅジョビバサザゾジョパブグス」


 そうこうしている内に飛んで来る第三の呪言、最初に来る背筋をついっと撫でられた様な寒気以外は、今回も効果の程は解らない。


 智香子姉上に貰った眼鏡(ゴーグル)に異変が表示されず、自動印籠(オートポーション)の中に霊薬(くすり)が胃に転移する感覚が無い事から、状態異常を食らっている訳では無い事だけは間違い無い。


 と成ると考えられるのは、最初の呪言で氣の運用の一部が封じられた様に、俺達の身体能力の一部が封じられたか、或いは減少するとかそう言った呪いが掛けられている可能性だろう。


 能力の低下は火元国に出現する鬼や妖怪の使う呪術の中でも割と一般的(ポピュラー)な物で、ソレに対する対抗策は(イレース)属性の魔法だけで無く陰陽術や聖歌にも存在して居る。


 当然術具でもそうした簡易的な呪いを解除する様な物は存在するが、残念ながらそうした物の在庫は手元に無い。


 作り方(レシピ)自体は俺も智香子姉上に習って居るので、取り敢えず此の塔を踏破(クリア)したら調合しておこうと心に決めた。


「パセ、ジュゴンゾロヂデ、ガギゾヂガゲデゴゴブグス」


 そして来た第四の呪言、此れは即座に効果がハッキリと解った。


 寒気が来た直後に俺とストリケッティ嬢の動きが目に見えて遅く成ったのだ。


「くっ! 未だ敵を見つけても居ないのに、こうまで一方的にやられるのか!」


 江戸州内にはこうした搦め手系統の呪術を使う鬼や妖怪は極めて稀で、今まで相対した事は無かったが、こうして一方的に弱体化を押し付けられると言うのは一寸洒落に成って無い。


「居ました! 左の奥です! くっ! 一寸の距離が遠い!」


 この呪言を放って居ると思わしき敵を見つけたストリケッティ嬢が、そう叫びながら腰に吊るした短剣(ダガー)を抜き撃ちの要領で投擲するが、普段の半分も届かぬ距離で失速し床へと落ちる。


 多分、今まで受けた呪言の中に射程距離の低下か筋力の低下辺りの効果が有る物が含まれていたのだろう。


「ザシド」


 ぼろぼろに朽ちた法衣(ローブ)の様な物と、その下に拘束具と思しき鎖を纏った、白を通り越して青白い不健康そうな肌色の少女は、先端に髑髏が付いた杖を頭上に掲げると、そんな短い(しゅ)を編むと、排球バレーボール程の大きさの火球を撃ち放つ。


 狙いはどうやらストリケッティ嬢の様だが、今の彼女は俺が鎧下として使っている着物を着ているだけで、防具らしい防具は身に付けて居ない。


 そんな状態であの攻撃をマトモに食らえば、即死は無くとも着物が駄目に成る可能性は十分に有る。


 対して此方は鬼亀の甲羅をあしらった刃牙狼(じんがろう)の皮を使った革鎧で、基本となる四属性に対して『無効』までは行かないが『半減』の効果は付いている、となれば当然の判断として俺はその射線へと飛び込みストリケッティ嬢を庇う。


 此れは相手が好みの女性だから良い格好をしたいとかそう言う意味合いでは無く、戦力を意地する為には当然の判断故の物だ。


 こうした攻撃魔法を耐える時には、氣を身体の外に壁の様に纏うのが一番効果的な防御手段なのだが、氣を身体の外に出せ無い以上は人が元来持つと言う十種の能力(ちから)の内の一つ『魔力』を最大限に高める。


 魔力は精霊との親和性を示す能力だと言われており、高い魔力を持つ者程強い精霊や霊獣と契約出来、同時に魔法や妖術の類に対する抵抗力も高まるとされて居るのだ。


 実際、今食らった火球は精霊魔法で言えば火属性を二重に掛け合わせた『フレイム』を冠する魔法と同等位の威力は有っただろう。


 何の対策も無しにマトモに食らったならば、俺の体格では恐らく熱傷性休克(ショック)の症状を起こして命を落として居ても不思議は無い熱量だった。


 けれどもソレを防具に依る半減で威力を軽減した上で、氣で魔力を高めた俺には露出部分に一寸した軽い火傷を負う程度で済み、その被害(ダメージ)も自動印籠が起動して胃に転移した霊薬が癒やしてくれる。


「ザスド」


 間合いを詰める間に再び奴が短い呪文を口にすると、今度は細かな氷と思わしき輝きの混ざった竜巻が俺達に向かって放たれた。


 複合属性である氷は俺の防具で軽減する事は出来ないが、魔力の強化に依る被害軽減は十分に効果が有る。


「ストリケッティ殿、俺を盾にしてください! 此方は防具と氣が有るのであの程度の術では被害を受けません!」


 先程の火球とは違い今度の魔法は明らかに範囲攻撃だが、俺を盾にすれば多少は彼女に行く被害は減らせるだろう。


 そう判断して体格差の有る彼女が俺の陰に入れる様に少しでも身体を伸ばす。


「済まない!」


 女性の身で鬼切りを生業にする女鬼切り者は男に庇われるのを嫌う者と、逆に庇われて当然と考える者の両極端が多いと言う様な話を火元国で聞いた事が有るが、ストリケッティ嬢はその何方でも無くその場の合理的な判断を下せる性質(タイプ)女性(ひと)らしい。


「ディスドグェg」


 氷の嵐を突っ切り、後少し進めば奴に斬り掛かる事も出来る、そんな距離まで近づいた所で次の呪文を放とうと杖を振り上げた。


 しかしその呪文は最後まで紡がれる事は無かった、ストリケッティ嬢が放った短剣が奴の喉を的確に貫いたのだ。


 俺が斬りつけるまでも無く勝負は付いた……と、判断するのは未だ早い。


 奴は人の形をして居るとは言え作り物の魔物もどきなのだ、完全に命を獲ったと確信が持てるまで油断する訳には行かないのだ。


「メギンドセセゾ」


 やはり倒し切れて居なかった!


 奴の喉を貫いていた短剣が抜け落ち、ソレが地面に落ちるよりも早く、新たな呪言が紡がるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここではリントの言葉で話せ(定型文) カースメーカー♀いいですよね。
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