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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
博打と迷宮探検競技 後編 の巻

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千八十二 志七郎、異界の書物を知り外なる神を恐れる事

 図書室を出てミケと名乗ったスフィンクスが居た場所へと戻った俺達は、今度こそ五階を攻略する為に反対側の扉へと向かう。


「ふむ……中々の時間、図書室から出て来ぬからてっきり書物の闇に触れて狂って仕舞ったかと思ったが、どうやら頭はハッキリして居る様だな。ならば此の先に行く其方等に一つだけ忠告をしておこう。此の先に居る人形共は高度な魔法を使う、気をしっかりもて」


 すると彼女は俺達の背中に対してそんな言葉を投げ掛けてきた。


 書物の闇と言うのは、恐らくあの図書室の中に有る本の一部に仕掛けられた罠の類の事だと想像が付いた。


「狂うって……もしかして此処の図書室には魔導書(グリモワール)まで所蔵されて居るんですか!?」


 と、ストリケッティ嬢が凄い勢いで食い付き、先へ進む扉へと向けていた足先を百八十度方向転換しミケに向かってそう問いかける。


 どうやら罠と言う訳では無くそう言う性質を持つ特別な書物が有ると言う事らしい。


「うむ、此の『精霊(コンタクト)との(・ウィズ)契約書(・スピリッツ)』もそうだが、他にも『暗き(アイ)深淵(・オブ・ザ)の眼(・ダーク・アビス)』や『世界樹(ア・バグ)に巣食う(・ネスティング)妖虫(・ザ・ユグドラシル)』なんかも有るね」


「ぶっ!?」


 彼女の言葉を聞いて驚き吹き出したのは、ストリケッティ嬢では無く俺だった。


 ミケの手に有る精霊との契約書と言う書物は、俺達精霊魔法使いが呪を編む時に最初に口にする『(いにしえ)の契約に(もと)づきて』と言う言葉に出てくる『古の契約』を記した原本とでも言うべき物だ。


 流石に彼女の手に有るソレが唯一の原本で有り原書と言う事は無いとは思うが、万が一そうだとしたらソレが改竄されたり毀損された場合には、此の世界の根幹の一つである精霊魔法が丸っと使えなく成る可能性は零では無い。


 精霊魔法学会(スペル・アカデミー)にすら不完全な写本しか無く、契約の抜け穴を探す様な真似をするのは極めて危険(リスキー)な行為だとして戒められているが、もしも彼女の手にあるのが完全な写本ならば、今まで出来なかった新解釈の下で新たな魔法を産み出す事が出来る筈だ。


「暗き深淵の眼って確か第二次魔王大戦の時に、魔王ヤーナが手にして居た魔導書だった筈ですが……真逆本物ですか!?」


 第二次魔王大戦と言う戦争に付いて俺は何一つ知らないのだが、恐らくは過去に異世界から来た侵略者の中でも大鬼や大妖なんて呼ばれる存在よりも更に強大な……ソレこそ六道天魔以上の者が来て大きな戦いに成った事が少なくとも二度有ったと言う事なのだろう。


 火元国を二度揺るがしたと言う大戦(おおいくさ)『主転童子事変』と『六道天魔大乱』その何方も、下手をすれば彼の地を異界の尖兵に制圧され世界樹攻略の為の橋頭堡とされて居た可能性が大きかった戦いだ。


 しかし主転童子も六道天魔も『魔王』と呼ばれる程の存在では無く、世界樹の神々が出張って来る事は無かったと言う。


「残念ながら私の時間は此の塔が建てられた時で粗止まって居るので、外でどんな歴史が紡がれて居るのか殆ど知らないのだよ。ただ此処に有る暗き深淵の眼は原本では無く写本だからね、それと同じ物が外の世界に有っても不思議は無いな」


 ストリケッティ嬢の言葉に出てきた第二次魔王大戦と言う言葉から察するに、過去に最低でも二回は此の世界に魔王と呼べる存在が出現した事が有ると言う事なのだろう。


「まぁ魔導書は異世界法則を此の世界に持ち込む事が出来る禁忌の書物で有り、ソレを読むだけでも異世界の悪神に魂を蝕まれると言う話ですし、次に来る時には気を付ける事にしますよ」


 成程な、魔導書と言うのは妖刀や妖具と呼ばれる呪物と同様に、異世界の神々が此の世界にそのままでは送り込む事の出来ない強い魔物(モンスター)を送り込む為の手段の一つと言う事か。


 恐らくは魔王ヤーナと言うのは、暗き深淵の眼と言う魔導書を使いその魂を魔物に喰われ、無数の魔物を引き連れ世界樹を狙い大戦と呼ばれる程の戦いを繰り広げたのだろう。


「成程、今は魔導書はその様に言い伝えられているのか……うむ、時の流れと言うのは面白い物だ。少なくとも此の塔が建てられた頃には魔導書は気の弱い者の精神を蝕む事は有るが、ソレは書が持つ強い妖力(ちから)故とされていたのだがね」


 そんな言葉から始まったミケの話に依ると、古代精霊文明期と呼ばれていた時代には、魔導書と呼ばれる書物は決して珍しい物では無かったと言う。


 何せ出来たばかりの此の世界には独自の文字や文化と言う物は無く、異世界から魔物が持ち込んだ三千世界共通語(コモン・ワード)で書かれた魔導書だけが書物と呼べる様な物だったらしい。


 知識の守護者であるスフィンクスは当然の様に、其れ等を収集し溜め込んでいた個体も居たのだそうだ。


「我々スフィンクスは書物に書かれた事柄に影響されるような繊細な精神構造では無いのでね、魔導書の危険性は理解出来なかったが霊獣の中でも一部の心弱き者や、此の塔に挑んで来た者のが魔導書で狂ったのは何度か見た事は有るのだよ」


 手にした精霊との契約書をパタンと音を立てて閉じ、此方を見てそう言ったミケは続けて再び口を開く、


「だが、君が言った様に異世界からの尖兵に成り下がった者は見た事が無い。まぁソレは此の塔が閉じた世界で有り、異世界からの干渉を受ける事の無い場所だから……と言う可能性は十分に考えられるがね」


 図書室でストリケッティ嬢が読んでくれた此の塔の取り扱い説明書だと言う書物に拠れば、古代精霊文明期にも異世界からの侵略者と言うのは存在して居たそうで、そうした魔物達が持っていた書物が魔導書なのだと言う。


 界を渡る為に既に魔物と成っている者達にとっては魔導書は決して危険な物では無く、俺達精霊魔法使いが自分が使い易い様に改定した呪文を記録して居る呪文書(スペルブック)と用途としては変わらない物だったらしい。


 但し魔導書を持つのは可也強力な妖術を使う様な化け物としか言い様の無い魔物だけで、そうした者が放つ妖氣が染み付いて居り、ソレに中てられ気の弱い者は狂って仕舞うと言うのがミケの認識なのだと言う。


「成程な、つまり此の塔の中だからこそ狂う程度で済んで居るが、外ならば魔導書と言う物がストリケッティ殿の言う通り、妖刀や妖具の類の様に魔物に身体を乗っ取る様な危険物の可能性は零では無い……と言う事か」


 つまり魔導書と言う物はどう転んでも危険物なのは間違い無いと言う事だろう。


 読むだけで気が狂う様な書物と言うのは、前世(まえ)に読んだネット小説の中でも、特に『クトゥルフ神話』と呼ばれる創作神話をモチーフにした作品では、必ずと言って良い程に出てきた覚えが有る。


 ……思い返して見れば界渡りの際に遭遇した『蛸神(クラーケン)』と言う『外なる神』の存在を鑑みると、三千世界の何処かにはクトゥルフそのものが存在して居る可能性も有るし、何なら蛸神こそがソレと言う可能性すら有るのでは無かろうか?


 俺が蛸神の姿を見たら気が狂うとか紗蘭達も言っていたし、割と可能性は高い気がしてきた。


 と成ると此の世界の魔導書と創作神話の中に出てきた魔導書も、三千世界の何処かでは同一か有るいは近しい物だと言う可能性も有るんじゃ無いか?


「……もしかして此の先に出ると言う強力な魔法を使う人形と言うのは、魔導書を持つ魔物をモチーフに作られた存在と言う事だろうか?」


 少しだけ考え込んだ素振りを見せたストリケッティ嬢は、引き攣った表情(かお)でミケにそう問いかける。


「うむ、一体は確かに世界樹に巣食う妖虫を持っていた魔物をモデルにしたと聞いて居る、とは言え私は此処から動く事は無いので実際にその姿を見た事は無いのだがね。時の止まった此の塔の中では食う為の物を探す必要も無く此処に留まれるのが本当に有り難い」


 ……言われて見れば、此の塔に入ってから大分時間が立つと言うのに、腹が減ったとか喉が乾いたとか感じて無かったな。


 気が付くと途端に気持ち悪く感じるが、恐らくはそうした感覚も含めて実際に『止まって居る』のだろう。


 俺とストリケッティ嬢は思わず自分の腹を抑えながら顔を見合わせたのだった。

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