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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
博打と迷宮探検競技 後編 の巻

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千七十四 志七郎、謝罪を受け入れ衣類貸す事

「す、済まなかった。折角助けてくれたのに手を上げしまって……幾ら子供とは言え半裸で迫られたから、気が動転してしまったんだ。私に出来る事なら何でもするから許して欲しい」


 仮称:悪食粘液(スライム)女を片付けてストリケッティ嬢の所へと戻ると、彼女は俺が手にした鼻血の付いた手拭いを見て、血の気が引いた表情(かお)で謝罪の言葉を口にした。


 恐らくは自分の放った平手撃ち(ビンタ)で鼻血を出して仕舞ったと勘違いしての言葉なのだろうが、ソレを敢えて『貴女の裸で興奮して出た鼻血なので気にしないで下さい』と否定するのもどうなんだろう?


 と言うか前世(まえ)の世界では男が性的な興奮に依って鼻血を出すと言う表現が、漫画なんかでは割と当たり前に描かれていた覚えが有るのだが、健康優良児として三十五年間過ごした当時その手の物を見て鼻血を出した記憶は一切無い。


 確かにそうした興奮を感じると頭に血が登り、頬が紅潮し熱を帯びた様に成る事は有ったが、それと同時に下の方にも可也の量の血が巡る為に性的興奮で鼻血を出すと言う事はそうそう無い、本当に漫画的な表現に過ぎなかったのではなかろうか?


 対して今生(いま)の俺はと言えば息子さんが不健康な状態であるが故に、本来ならば其方に向かう筈の血が行き場を失った結果、比較的破れ易い鼻の粘膜が壊れて鼻血を出すに繋がった……と言った所なだと思う。


 前世の俺は三十路(みそじ)半ばで命を落としたので詳しくは知らないが、もしかしたら歳を取って下が役に立たない様に成った辺りで、そうした興奮を感じると血圧が上がって鼻血が出るなんて事も有るのかも知れないが……詳しくは解らない。


 まぁ何方にせよ漫画の様にはっきり噴出と言える程の鼻血が出れば、出血量的に考えて命にも関わりそうな物だし、痴漢が鼻血で出血多量で搬送されたなんて話も聞いた事が無いので、あの辺の描写はやはり漫画的表現だったと結論付けて良さそうだ。


「いえ、此方こそ緊急だからとお見苦しい姿を晒して申し訳無い。俺の着物では一寸小さいとは思いますが、何時までも裸で居られると俺としても目のやり場に困るので、此方の袴と帯も貸しますので一緒に身に着けて下さいな」


 そんな事を考えつつ俺は自分が脱ぎ散らかした物の中から袴と帯を拾って、本心では死ぬ程見たい彼女の艶姿を出来るだけ見ない様にしながら其れ等を差し出した。


「でも、私が此れを着て仕舞ったら君はどうするんだい? 真逆素肌の上に鎧と言う訳にも行かないだろう?」


 極々一部の魔法的効果を全面に押し出した布鎧の類は例外として、基本的に鎧と言う物は革鎧だろうと金属鎧だろうと鎧の下には『鎧下』と呼ばれる下着の類を身に付けるのは洋の東西を問わず当たり前の事で有る。


 やはり向こうの世界での漫画なんかで描かれる様に鎖帷子(チェインメイル)の類を素肌の上に身に付ける様な事をすれば、皮膚が鎖の間に挟まって切れたり毛が挟まって抜けたりして大変な目に合うだろう。


 同様に金属鎧の類を素肌の上に身に付ける様な真似をすれば、やはり(エッジ)部分で切り傷を拵えたり、直射日光で鎧が熱を持って酷い火傷を負う様な事にも成りかねない。


 では革鎧なら素肌でも平気かと言えばそんな事も無く、靴下を履かずに革靴を履いて丸一日経った後に、ソレがどんな臭いを立てているかを想像すれば概ね理解出来ると思う。


 故にストリケッティ嬢は俺の着物を借りる事に罪悪感にも似た何かを感じているのだと思われた。


「大丈夫ですよ。ソレは一番外側に着ている着物で未だ肌着とその上に着る物は残っているので、此れを着て鎧を纏うので問題は有りません」


 俺が火元国から持ってきた防具は洋服の上からでも身に付ける事は可能だが、一発脱衣(クロスアウト)機構(ギミック)を動かす為には和装である事が大前提の為、鎧の下には着物を着る様にしている。


 そして着物は下に着る物から順に褌、肌襦袢、長襦袢、着物、袴と重ねて着ている為、その中で着物と袴を貸したとしても然程大きな支障は無いのだ。


 着物を留める帯と袴の帯が無けりゃ襦袢を留める事が出来ないが、俺の場合は二丁の拳銃を保持する為に身に着けている拳銃嚢(ホルスター)ベルトで代用出来るのでやはり問題は無い。


 実際、俺が其れ等を身に纏い鎧を付け直して行く姿を見てストリケッティ嬢は軽く溜め息の様な物を吐き、


「……そう言う事ならお言葉に甘えて借りる、本当に君は未だ幼いのに紳士的なんだな。もしも君が後五歳歳を食って居たら私でも惚れていたかも知れないな」


 ド直球(ストレート)に恋愛対象外と言われた事に一寸だけ心臓に痛みが走るが、常識的に考えて高校生位の女性が小学校中学年の男の子相手に、本気(ガチ)の恋愛感情を持っているのを見聞きすれば、お巡りさんで無くとも一人の大人として心配するのは普通だろう。


 いや……年齢差だけを見るならば別段不思議は無いと言って良いし『姐さん女房は金の草鞋を履いてでも探せ』なんて諺が有る位には、年の差婚は昔から歓迎されていたと言う事では有る。


 けれども其れは飽く迄も『何方も相応の年齢に成ってから』の話と考えるべきでは無かろうか?


 その歳頃で男女を入れ替えて『高校生男子が女子小学生と付き合う』としてみれば其処に漂う犯罪臭の強さは一目瞭然である。


 だが同じ五歳差でも三十歳と二十五歳で有れば世間的にも全く問題は無く、寧ろ多くの者が祝福し結婚する事が出来る歳頃に成るだろう。


 結局の所、大事なのは年齢差では無くその時に自分の意志で責任が取れる年齢なのかどうかと言う事だ。


 そう言う意味では俺の感覚からすると彼女の年齢でも、恋愛は兎も角結婚云々と成ると一寸早い様にも思えるのだが、此の世界では洋の東西を問わず十四歳前後が成人年齢で有り、女性の場合は二十歳はたち過ぎれば生き遅れである。


 一部の冒険者本気勢の様に一生を冒険に費やす覚悟を決め、結婚とか全然考えて居ないと言う様な例外を除けば、彼女の歳頃ならそろそろ嫁入り先を探すか婿入してくれる人を見つける必要が有る筈だ。


 ……成程な、彼女が此の勝負に自分の行く末を賭けたと言う話の理由(わけ)が理解出来た。


 彼女は男爵家の三番目の子供で有り、嫡男が何の問題も無ければそのまま男爵家は兄が継ぐ事に成るが、万が一その嫡男が跡取りを設ける前に、早逝してしまった場合に備えて予備と成る子供が必要に成る。


 本来ならば二番目の兄が部屋住みの立場で其れを務める筈だったのだが、御家騒動をやらかして処罰されて仕舞った為に彼女が予備の役目を担わなければ成らない訳だ。


 正直な所、前世の日本人としての感覚では受け入れ難い話だが、嫡男が結婚し子供を設ける前に亡くなった場合、予備である次男が家督と共に嫁さんも受け継いで血筋を残すと言うのは、この世界では割とよく有る話である。


 けれども予備が女性の場合にはその手は使えず、未亡人と成って仕舞った妻は実家に送り返され、改めて婿入りしてくれる男性を探す必要が出てくる訳だ。


 ……此処で問題になるのが、男性は多少歳を食った所で下さえ元気ならば、或いは霊薬の類を用いれば割と何時までも子供を作る事が可能なのに対して、女性は余り歳を重ねてからだと母子共に健康体で出産を終える事が出来る可能性が極端に落ちると言う事である。


 もしも跡継ぎである嫡男とその妻が中々子宝恵まれなかった場合、彼女は何時までも家に縛られ自身の問題でも無いのに『行かず後家』と世間から後ろ指指される立場に成る可能性が有る。


 そうなる前に他所に嫁に行ったとしても、やはり嫡男夫婦が子宝に恵まれなければ、ストリケッティ嬢の子供を本家の養子にする等して血を繋ぐ必要が有る以上は、愛着の無い寧ろ嫌悪感すら抱いていると言う帝国に何時までも縛られ続け無ければ成らない訳だ。


 ……個人的にはどうにか彼女を自由にしてあげたいと思うが、勝負事を投げ出してまで其れをするべきか、もしも勝ちを譲られたとして其れは彼女の矜持を傷付ける事に成らないか、そんな事がぐるぐると脳裏を駆け巡る。


「えっと……こんな感じで良いのかな?」


 と、俺が思考の迷路を彷徨っていると、着替えを終えたらしいストリケッティ嬢が声を掛けて来る。


 振り向いて見ると其処には、男物の着物を纏い丈の短さからキュロットスカートの様に成った袴を履いた、見紛うこと無き少年的(ボーイッシュ)な美少女の姿が有ったのだった。

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