千七十 『むd……武光色を知る事
「第一試合の時間と成りました選手入場です、赤コーナー、七十七ポンド、『大草原の道化師』イリィィィイイイスゥゥゥウウウ!!」
四角い輪の直ぐ脇に有る相撲で言う砂かぶりの一等席で、余は楽団を組んだ他の物達と共にその興行を見物して居た。
実況を務める者が集音の術具を握り締め、その名を叫ぶと花道を通って余と然程も変わらぬ歳頃に見える少女が朗らかな笑顔を振り撒きながら両の手を振って、周囲の物に自身の存在を強調しながら輪の上へと飛び上がる。
「続きまして青コーナー、百七十六ポンド、『壊し屋』アニィィィイイタァァァアアア!」
そんな少女の対戦相手として次に呼び出されたのは、虎の容貌を持つ獣人で身の丈は六尺に届くだろう大女である。
双方共に胸と下を覆う程度の此方の大陸で使われている下着と殆ど変わらない出で立ちで臍を晒して居るのだが、何方も其の周りに無駄な肉が付いている様子は無く、特に壊し屋と呼ばれた者は獣人らしい毛皮の上からでも腹筋が割れているのが見て取れた。
そして男として気になるのはやはりその身体付きだ、大草原の道化師と呼ばれた少女が余と然程も変わらぬ歳頃にしか見えぬと言うのに、乳も尻もお蕾お忠とは比べるまでも無くしっかりと膨らんでいる。
女性は鍛えすぎると乳が萎むと言う様な話を以前何処かで聞いた覚えが有るのだが、ガッチリと鍛え込まれて居る筈の壊し屋の胸は、小玉の西瓜程は有るのでは無いかと思わせる程に豊かに実っていた。
此れまで女性の乳や尻の大小とかそんな事は別段気にした事も無かったし、どうでも良いと思っていたのだが、先日あの劇場で『見えそうで見えないだが見える』そんな踊りを見てからすれ違うだけでも視線がその辺に行く様になって仕舞ったのだ。
ソレが悩ましく他の者達に問うと、兄者を含め全員が『ソレは男の性で気にする必要は無い』と言ってくれたので、自分がそう言う事に興味を持つ様に男として一段成長したのだと思う様にした。
正直に言えば女児と男児の身体の違いに、今までも興味が全く無かったと言えば嘘に成る。
女性にはへのこが無いと言う事は知っているし、歳頃に成れば乳が膨らんで来ると言うのも知っているがソレだけで、男児と女児の身体の差に付いて等聞いた所で余には未だ早いと、詳しくは誰も教えてはくれなかった。
余に忠義を示してくれて居るお蕾やお忠ならば、頼めば着物の下の裸体を見せてくれるだろうとは思うが、ソレをするのは彼女達の忠節を悪用する様な物だと思え、そんな事を言った事は無い。
けれどもあの日見た女性の神秘の一部に、余の身体は火を付けられて仕舞ったのだろう。
もしも余が兄者の様に意識加速を自在に使い熟し、更に目に氣を集めて暗視と望遠の両方を併用出来て居たならば、見たい物がしっかりと見えて居たが故に、此処まで火が付く様な事も無かった筈だ。
けれども中途半端に見えたか見えて無いかのあの舞を見てしまったが故に、余は女体の神秘と言う奴に魅せられて仕舞ったのである。
「イリスの鋭いドロップキックがアニタの喉元に突き刺さる! しかし効いて居ない! やはり此の体重差での闘いは無謀だったか!?」
宙を舞うイリスと言う少女の蹴りがアニタと言う虎女に当たると、其の衝撃で双方の胸が大きく揺れる。
「「「ぉぉぉおおお雄々!!」」」
そんな様子に観客が沸く……今ならば解る、此れが男の欲望と言う物なのだろう、未だ雄としての欲求が産まれる程に身体が成熟して居ない余ですら、此れほどに目を惹かれ乳が揺れるだけで魂が震えるのだ。
こんな欲求を抱えたままでソレを解消する事を禁じて優駿を制覇した仁一郎義兄上は本当に偉大な漢だと言えるだろう。
輪の上で繰り返される打撃の応酬の度に、震える乳と尻に弾ける汗は男を熱狂させるには十分な物だ、そして同時に此の興行が只色事を売りにして居ると言う訳では無い事も理解出来た。
火元国の鬼や妖怪を殺す為の武術とは違う、自身の『強さ』や『凄み』を見せつける為の武が其処には有るのだ。
「おーっと! イリスが丸でジャングルジムの様にアニタの身体を軽々と登って行く! そしてヘッドシザース・ホイップ! 決まったぁぁぁあああ嗚呼!」
輪の上では打撃戦から組討へと動きが変わる、イリスがアニタに対して体格差を物ともせずに投げを打ったのである。
輪の中に広がる白い敷物の帆布を大きく揺るがし痛々しい衝撃音が響き渡る。
そして投げられたアニタが立ち上がるよりも早く立ち上がったイリスが、体格差の不利を覆す為に寝技へと持ち込む。
「「「ぉぉぉおおお雄々!!」」」
汗で濡れた女性の肌と肌が組んず解れつする様に、余も含め多くの男達が再び興奮の声を上げる。
火元国では寝技を教える流派は決して多くは無い、得物を失った時の最後の手段や相手を組み伏せて鎧兜の隙間に馬手差しで突き刺す為に、組討の技術を教える道場は今でも有るが、地面に寝っ転がって関節や首を絞めるなんて悠長な真似は戦場では不可能だからだ。
しかし外つ国の冒険者の中には組技士と呼ばれる専門の職業が成立する位には、一般的な戦闘方法の様で有る。
鬼や妖怪……外つ国では纏めて魔物と呼ばれるが、そうしたモノを相手にするのに寝技がどんな役に立つのかと言えば、今目の前で行われている様にある程度以上の腕前が有る組技士は体格の差を覆して関節や絞め技を成立させるのだと言う。
特に驚きなのは人よりも圧倒的に巨大な魔物ですら、関節を極められると身動きが取れなく成ると言う事実である。
冒険者の徒党に置いて組技士は強力な魔物を足止めし、他の仲間達が攻撃し易い様にしたり、被害の立て直しを図る為の時間を稼いだりする、壁役に類する活躍をする物らしい。
「腕ひしぎが……決まらない! 腕を取られかけたアニタがそのパワーを活かして強引にうつ伏せに逃げる! 此れは立ち上がるか……いや! 未だだ! 背後に回ったイリスが腕を首に回しスリパーホールドの体勢に入った!」
輪の上ではうつ伏せに成ったアニタの胸が敷物との間で潰れ、更にその背中でイリスの胸が潰れているのが此の位置からだとはっきりと目に入る。
女性の乳と言うのは斯様に柔らかく姿を変える物なのか……。
幼い頃に母上のソレを目にした事は有る筈だし、なんなら口に含んで乳を飲ませて貰った事も有る筈だが、残念ながらそうした記憶は余の中には無い。
まぁ赤子の頃の事をはっきりと覚えて居る者はそうそう居らぬと聞くしソレが普通なのだろう。
特に余は父上の不名誉な死の関係で、幼い頃から母上に甘える様な事の無い様に躾けられ育ったが故に、恐らくは他の子供よりも母上との触れ合いは少なかったのでは無いかと、兄者と小母上を見れば何となく理解出来る。
「おーっと! 此処でタップが入った! ギブアップだ! 勝者はアニタ! 大草原の道化師が見事な寝技で壊し屋のパワーを封じ込めました!」
けたたましく打ち鳴らされる銅鑼の音と共に、勝ち名乗りが為され勝者であるアニタが立ち上がると、その腕を裁定者が持ち上げる……その時だった。
激しい試合の中で薄手の布で作られた衣装には限界が来ていたのだろう、アニタの胸を覆って居た布が破れ落ち、決して大きくは無いが余の目から見ても愛らしいと思える様な乳が転び出たのである。
「「「うぉぉぉおおお雄々!!」」」
ソレを見た余も含めた男達は血走った目でソレを見つめ下を大きくし、此の試合最大の大歓声を張り上げたのだった。




