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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
博打と迷宮探検競技 前編 の巻

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千五十八 志七郎、二階への階段を見つけ作戦会議する事

 あの通路を塞いで居た首無し騎士(デュラハン)が居た場所へと戻ると其処に奴は存在せず、奥へと進めば上へと繋がる階段が有った。


 やはりあの隠し通路の奥に安置されていた生首は此処に居た首無し騎士の物で、ソレをどうやって突破するかがこの階層を攻略する為の鍵だった様だ。


「最初の別れ道で選んだのが逆であれば、私があの部屋に入り首をどうにかした頃に、君は此処で奴と遭遇し苦労する事無く上へと上がって居た可能性も有る。そう言う意味では私は運が良かったと言えるかもしれないな」


 洋画の様に肩を竦めながら両の掌を顔の横に広げる仕草(ジェスチャー)をしつつそう言うストリケッティ氏。


 確かにその言葉の通り、最初に選んだ道が逆だったならばストリケッティ氏があの象形文字を見つけ、隠し通路へと入り首無し騎士の首をどうにかして居た可能性は高い。


 その場合、俺が此処に付いた時には既に首無し騎士が消滅して居ただろうと言うのも、想定としては間違って居ない様に思える。


 前世(まえ)の世界では『運も実力の内』と言う言葉が割と日常的に使われていたが、この言葉は『実力が伴って居ないのに運良く勝てたと考える者に対する慰め』として使われたり、逆に『努力が実った者が天狗に成らない様に戒める』為に使われたりした物だ。


 実際、この言葉に付いて出典元と語意を調べて見た事が有るのだが、残念ながら俺の手の届く範囲では『コレが正しい出典と語意だ』と断言出来る様な物は見つからなかった。


 しかしこの世界に生まれ変わってからの日々を鑑みるに、人の生き様には努力だけでは如何ともし難い物が有り、ソレを超常的な何かが手を貸す事で乗り越えられたり、そのまま命を落とす様な『運命』とでも言いたく成る様な物が有る様に思える。


 その中でも俺にとって極めて身近な例が仁一郎兄上の優駿制覇だ、アレは兄上自信でも何故勝てたのか全く持って理解出来ない事だったと言う。


『勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし』と言う言葉を残した職業(プロ)野球の名監督が居たが、アレは『剣談』と言う剣術書からの引用なのだと前世の曾祖父さんから聞いた覚えがある。


 ……色々と話がソレたが、一口に運と言っても『運命』と呼べる様な物も有れば、賽子(さいころ)の結果の様な純然たる運と言える物も有ると言う事だ。


 そして勝負の世界では運良く勝つ事は有り得るが、負ける時には必ず何処かに手抜かりなんかが有って『負けるべくして負ける』物なのだという事である。


 何故そんな事を今言及するのかと言えば、確かに最初の通路選択は運に過ぎないだろうが、俺が古代異世界文字とやらが読めたならば、ストリケッティ氏が言った事が丸っと逆に成って居た可能性も有ると言う事だ。


 今の段階で勝ち負けが付いた訳では無いが、この状況は当に単純な運の結果では無く『負けに不思議の負けなし』を体現して居ると言えるのではないだろうか?


「さて……上の階以降はどうします? このまま共闘を続けますか? それとも最初と同じ様に二手に別れて必要が有れば改めて共闘するかどうかを考える事にしますか?」


 単純に此の塔を攻略すると言う点だけで言うのであれば、古代文字の解読や罠に隠し通路と言った仕掛け(ギミック)の類を突破すると言う点で考えると協力した方が楽だと言うのは間違いない。


 けれどもその申し出を此方からするのは気が引ける……何故ならば俺がストリケッティ氏に提供出来るのは戦闘力だけだからだ。


 うん……こう言って見ると俺って戦闘民族猪山人らしい脳筋族なんだなぁ、頭の中でOTZの三文字が思い浮かぶが、流石にソレを実際に体現する様な事はしない様に氣を高めて気を引き締める。


 コレでも一応は刑事としてそれ相応に捜査へと携わり、論理的(ロジカル)な思考が出来る頭脳派だと思ってたんだが……生まれ変わって氣と言う超常の能力(ちから)を手に入れてからゴリ押しする癖が付いてしまった気がするんだ。


 考えて見ればあの文字を見つけた時も前世に見た覚えが有ったんだから、あっさりと流したりしないで氣を振り絞れば思い出す事が出来た可能性は完全に零では無かった筈である。


 なのに簡単に通り抜けてしまったのは、最終的に何が出てきても『氣を纏って強引にゴリ押しすれば何とか成る』と、何処かで高をくくって居る部分が有るのではなかろうか?


「上の階に出る魔物(モンスター)次第……って所ですかね? 首無し騎士を倒せるのが前提みたいな所だと私の得物では通用しないと言う事になりますからね。逆にアレが特別な存在だったと言う事に成れば別れた方が探索の効率は良く成るんじゃないですか?」


 最終的な勝負の行方は飽く迄もこの塔の上に有る『宝玉』を手に入れ、先にニューマカロニア公国の賭博場(カジノ)に戻った者が勝ちと言う取り決め(ルール)しか無い。


 ただ塔の中で魔物に倒された場合には、無事な状態で砂嵐の外に排出されるらしいが、対人で倒された場合にどうなるのかまでは保証されて居らず、宝玉を手に入れた後に奪うと言う選択肢は余り取りたい物では無いな。


 ……前世に培った警察官としての俺の倫理観は、此方の世界に生まれ変わり無数の鬼や妖怪は勿論の事、人間すらも斬った事が有る今でも完全に失われた訳では無く、相手が悪と断じ切る事が出来る状況でなければ己の利の為に人を斬る事等出来やしない。


 相手が犯罪組織(ギャング)下っ端(チンピラ)で刃物片手に女性を襲う様な下衆の類ならば、死なない程度に半殺しにするのに躊躇する事はもうは無いけどね。


 ストリケッティ氏が全力で戦っている姿は未だ見て居ないが、その立ち振舞いから見て取れる体幹の安定性や、塔に入ったばかりの時に木乃伊(ミイラ)女を相手に見せた投擲術から察するに鎧袖一触と言える程に楽勝の相手では無い。


 手加減して倒せる相手で無いと言う事は、後に残るのは殺すか殺されるかと言うぎりぎりの戦いだ。


 斬らずに倒す為に峰打ちで何とかすると言う選択肢も無い訳では無いが、刃を立てるのに比べるとやはり空気の抵抗なんかが有って、普段通りの太刀筋で刀を振る事は出来ないし、不殺を意識すると却って撲殺してしまう可能性が高く成るだろう。


 と成ると、やはり何処かで相手を出し抜いて宝玉を手に入れる必要が有ると言う事だ。


 まぁ……俺達の勝負は飽く迄も母上達の博打(ギャンブル)勝負に金貨百万枚の追加点(ボーナス)を加えるだけの物なので、俺が負けても母上が男爵にソレ以上勝っていれば問題ないんだけどな。


「では取り敢えず、上の魔物相手に一当て二当てしてみて、相手の強さ次第で対応を変える事にしましょうか」


 向こうの申し出はお互いに取っての妥協点と言える物だったので、俺は渡りに船と言わんばかりにソレに乗っかる事にした。


 どうやらこの塔は前世に読んで居たネット小説に出てくる地下迷宮(ダンジョン)の類の様に、階層が変わったからと言って環境が変わる様な事は無く、一階と略々変わらない光景が続いて居る。


「早速来ましたね……今度の敵は虎の獣人族(ビーストマン)!?」


 二階へと上がり少し進んだ所で、通路の角から虎の容貌に女性らしい肉体を持った獣人? らしき者が姿を現した。


 獣の容貌を持ち身体の大部分に毛皮を持つ獣人族は、この世界に生きる人類(人に類する種族)の一つで魔物と言う訳では無い。


 けれども同様にこの世界には(ウチ)の御祖母様の様に化ける事を覚えた『変化』と呼ばれる獣由来の妖怪も存在して居るし、眼の前に居るのが獣人族なのか魔物なのかを一目で判別する事は難しい……


「いや、奴は獣人族じゃぁ無い! 手が五本指では無く爪の有る肉球だ!」


 が、注目すべき点を知っていれば見抜く事は不可能では無い。


 獣人族は人類に区分されているだけ有って、元と成っている獣が肉食獣だろうが草食獣だろうが鳥類だろうが魚類だろうが、五本の指を備えた手と足が有る。


 以前、精霊魔法学会(スペルアカデミー)の食堂で見かけた人間(サイズ)の介党鱈や鯛に手足を生やした様な姿の魚人も区分としては獣人族で、手足が有ると言う点で例外では無かった。


 蛸に近い姿のヌル族と言う魚人系獣人族に区分されるワイズマン学長も、身体の表面が粘液らしき物に覆われていると言う差は有れども、手はしっかりと五本指だった筈だ。


 対して今目の前に迫る虎の容貌を持つ女怪は、鋭い爪が生えた肉球を此方に振りかざして襲いかかって来て居る以上、獣人族では無いと断言出来る。


 俺の言葉に素早く反応したストリケッティ氏は一瞬の躊躇の後、腰に下げた短剣(ダガー)を素早く三本、両目と喉に目掛けて投擲した。


 其れ等は狙いを誤る事無く、奴の持つ天然の防御力に阻まれる様な事も無く三つの急所を同時に貫き、そのまま身体が崩れ塵に成って消えたのだった。

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