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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
博打と迷宮探検競技 前編 の巻

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千五十二 志七郎、迷宮へと足踏み入れ古代文明に思い馳せる事

 俺が前世に好んで読んでいた幻想(ファンタジー)世界を舞台とした物語には『ダンジョン』と呼ばれる場所が主な舞台と成る物も少なからず有った。


 ダンジョンと言うのは本来は『地下牢』を意味する言葉であり、そうした小説でも原義としては『地下迷宮』と書いてそうルビを振るのが正しい在り方だったのだと思う。


 しかし原義は兎も角として地下でこそ無い物の、俺が今踏み込んだ玉猪竜(ウロボロス)の塔(・タワー)は、以前火元国で潜った新宿地下迷宮と同様にダンジョンと呼んで差し支えない物の様に思える。


 縦横共に大凡三間(約5.5m)程の正方形の通路は少し進んだ先に丁字に分かれて居り、その通路には当然窓等は無く氣を高めて視力を強化しなければ奥を見通す事は難しい……本来ならば。


 この塔の通路にはどう言う訳か真新しい松明に煌々とした篝火が灯されて居り、ソレが等間隔に配置されている事で明かりの心配無く探索出来る状態に成っているのだ。


「話には聞いて居たが、本当に凄いな此処は。流石は古代精霊文明時代の遺産だけの事は有る。此処の中に居る間は外での時間を気にする必要は無いと言う話が事実ならば、当時はソレだけ強大な精霊や霊獣の能力(ちから)が当たり前に使われていたと言う事だろうね」


 古代精霊文明と言うのは、この世界を生み出した『大いなる神鳥(しんちょう)』が、次に産んだ八柱(やつはしら)の大神が世界樹の機能を使い熟す様に成るまでの間に発生したと言う文明の事である。


 この世界の創生神話に依ると、大いなる神鳥が産んだ卵から最初に孵ったのは、世界樹とソレを支える『鉢』とでも言うべき大地で、その後世界樹を育て運営する神々が産まれるのだが、彼等が産まれ育つ前に多くの生き物が神鳥の羽根や糞から産まれ出たと言う。


 そうした神々よりも先に産まれたのが精霊でありソレを宿した霊獣達の為、世界樹の機能では彼等を完全に操作する事が出来ないのだそうだ。


 古代精霊文明と言うのは世界樹の神々に統制されるよりも前に、この世界に発生した知恵有る獣達が産み出した文明であり、現在の人に類する種族(人類)には繋がら無い太古の文明なのだと魔法図書館(スペルライブラリ)で読んだ覚えがある。


 精霊魔法を編み出したのは魔神ガーゼットと言う神は、八大神が作り出した人類が精霊の能力(ちから)を利用する為に『(いにしえ)の盟約』を、当時存在して居た『精霊と霊獣を統べる王』と結ぶ事に成功した事で昇神したのだと言うのは、お花さんの授業で習った事だ。


 しかし精霊達や霊獣達は文字を持たず、当時の事を語らないと言うのも古の盟約に含まれているとの事なので、古代精霊文明に関しては完全に遺物等から想像を巡らせるしか無い為、この世界で考古学と言えばその時代の研究と言うのが主な物らしい。


 ニューマカロニア公国には此の玉猪竜の塔だけで無く、他にも幾つもの『稼働中の遺跡』が有り、そうした場所からの発掘物を所蔵し展示する博物館なんかも有るので、考古学の聖地として売り込む事も可能なんじゃぁ無いだろうか?


「外と内で時間の流れが違うと言うのであれば、相当強力な時属性の力が働いて居ると言う事になりますね。精霊魔法に置いて時属性は最高難易度を誇る属性ですし、精霊魔法学会でも此処を再現するのは不可能でしょう」


 此の塔の名前にも成っている玉猪竜と言うのは、過去に記録されている中で二番目に強力な時属性特化の霊獣で、特に『逆行レトログレード』の魔法が強力で死後一時間経った者すら蘇らせる事が出来たと言う。


 時属性の魔法は効果範囲や効果時間が大きく成れば成る程に、乗算で難易度が上がっていく特性が有る為、今の俺と四煌戌の力でも一秒程度を巻き戻す事は可能だが、一時間戻す事が出来る様に成るのはどれ程成長すれば良いのか想像も付かない程である。


 あのお花さんと古龍エンシェント・ドラゴンの組み合わせですら単体に対する一分の逆行が限界だと言うのだから、同じ時属性の魔法でも空間を操る魔法よりも時間を操る魔法の方がソレだけ難易度が高いと言うが解るだろう。


 そんな時間を操る何らかの魔法が此の塔全体に効果を及ぼして居るとなると、余程強力で時属性に特化した……ソレこそかつて家安公が契約して居たと言う時属性特化の『超時空泰猴(ちょうじくうたいこう)』でも居なけりゃ無理なのではなかろうか?


 恐らくは此の塔の名前に成っている玉猪竜でも厳しいんじゃ無いかな?


「私は精霊魔法を学んだ訳では無いので詳しい事までは知らないが、少なくとも博物館の展示を見る限りでは、古代精霊文明の遺産と言うのは世界樹の神々ですら同じ事が出来るか怪しい品が大半で、その殆は神宝(しんぽう)級の品物だと言う話だね」


 神宝はその名の通り神々が一定の功績を為した人類に与える事の有る宝物で、俺が兜の下に身に着けている『聞き耳頭巾』も其の類の品で有る。


 世界樹の神々にとっても希少な神宝は担い手が命を落としたりした際に、神々の手で回収されるが其処まで貴重でも無い品物は普通に放置され、時折騒動の原因に成ったりする事も有ると言う。


 火元国ではそうした野良神宝とでも言うべき品物は、朝廷傘下の神宝院(かむたからのいん)と言う場所に納められ管理されているが、外つ国でも場所に依っては同様の保管場所が有るそうで、ニューマカロニアの博物館も其の一つなのだそうだ。


 と、入り口から然程も入って居ない場所で、軽い情報交換をして居ると奥から殺気混じりの気配が近付いて来る。


「どうやらのんびり話が出来る時間は終わりの様ですね、此の気配は先ず間違い無く此処を護る魔物(モンスター)でしょう」


 俺はそう言いながら腰の得物を抜き臨戦体勢へと入るが、それと殆同時にストリケッティ氏が腰にぶら下げた短剣(ダガー)を一本抜きざまに投擲した。


 ……!? 速い! お忠が手裏剣を足に付けた術具の入れ物(ホルスター)から抜いて投げるよりも間違い無く速かったぞ?


「きゃぁぁぁあああ!」


 どうやら投げた短剣は狙いを誤る事無く魔物に傷を与えた様で少女の物と思しき悲鳴が上がる。


「……相手がどんな姿をして居ても油断しては駄目だよ。愛らしい少女と見紛う姿をした魔物は世の中に腐る程居るのだから」


 そう言ってから駆け出したストリケッティ氏は、悲鳴の主である全身に包帯の様な布を巻き付けた少女にしか見えない魔物の身体に突き刺さった短剣を掴むと、ソレを一度グリっと抉ってから引き抜き喉元へと改めて突き立て直す。


 ……信三郎兄上の所に妾として嫁いで来た女鬼は、兄上との戦闘の際に身体に障壁(バリアー)の様な物が張られ傷付く事は無かったそうだが、目の前に居る魔物の身体にストリケッティ氏の短剣は完全に突き刺さっていた。


 ソレが示しているのは、あの魔物が女鬼の様に『世界を超えた婚活』とでも言うべき物をする為にこの世界へと来ている存在では無いと言う事だ。


 仮称:木乃伊(ミイラ)女とでも言うべき魔物は、一連の攻撃で力尽きたらしくそのまま倒れ込むと、丸で塵芥を固めて作って居た人形の様に人の姿を留める事無く崩れ去る。


「さぁ此れからが本当の探索の始まりだ。今後の進路の事が有る以上は君に勝ちを譲る訳には行かない……宝玉は私が手に入れる。流石にこの場で君を始末して不戦勝に持ち込む様な卑怯な真似はしないけれども……幾らこの塔で死者は出ないとは言えね」


 事前に聞いて居た話ではこの塔に掛けられた魔法の効果に依り、万が一塔の中で死んだとしても其の死は巻き戻されて無かった事に成り、単純に塔の外へと放り出される事に成るらしい。


 但し其の場合には塔に辿り着く事の出来る満月の夜を過ぎた時間に放り出される事に成る為、月が一巡りするまでは再入場する事は出来ないのだと言う。


「勝負の取り決め(ルール)ではソレ明確に禁止してないんですよねぇ……。まぁお互い勝ち方に拘らなければ成らない立場ですし、卑劣な真似はしないだろうと家の母上も其方の父君も信用してくれていると言う事なんでしょうけれども」


 そんな言葉を交わした俺達は、少し進んだ先の丁字路で左右に別れそれぞれの道を探索し始めるのだった。

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