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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
博打と娯楽と享楽の都 の巻

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千五十『無題』

「どう? 中々の物でしょう、ウチの子達の演奏」


 絞めを飾る太鼓の音が舞台(ステージ)から響き渡る中、私は隣の席に座るニューマカロニア公爵アラビアータ二世にそう声を掛ける。


 演奏が終わった直後の劇場(シアター)に訪れる一瞬の沈黙と、その後に響き渡る万雷の拍手を聞けば、多くの観客は彼等の演奏を高く評価してくれた物だと理解出来たが、今大事なのは公爵の感想だ。


 とは言え個人的な感想を言うのであれば村祭りの主旋律を奏でていた龍笛の腕前は、私が知る最も上手い演者と比べれば二段も三段も落ちると言わざるを得ない。


 猪山藩で暮らして居た頃に毎年一度の収穫()祭に聴く事が出来たあの旋律は、今でも目を閉じれば何時でも思い出す事が出来る。


 勿論、普段から彼は祭りに備えて稽古を積んで居たし、他の曲だって色々と吹いてくれた。


 十五夜と呼ばれる秋の満月を見ながら、鈴虫達の鳴き声と見事な和音(ハーモニー)を響かせたあの夜が有ったからこそ、私はあの人の子を産んでも良いと思ったのだ。


 私達森人(エルフ)を含めた妖精族と呼ばれる種族は、他の人種に比べて音楽的素養に優れて居る。


 彼等を褒めるのは業腹では有るが山人(ドワーフ)達の打楽器(パーカッション)が刻む拍子(リズム)は、神々さえも踊り出すと言われる程に優れた物だ。


 草原を放浪しながら暮らす草人(ノルン)達は、バンジョーと呼ばれる弦楽器とカズーと言う笛を組み合わせた演奏で遠くの仲間達と意思疎通をする。


 そして私達森人は神々の下で奉仕する者として彼等に捧げる聖歌の伴奏を行う為、幼い頃から厳しく演奏技術を躾けられるので、私の様な逸れ森人でも相応に音楽を聴く耳を持ち楽器を演奏する程度の教養は有ると言う訳だ。


 ちなみに私が得意な楽器はピッコロと呼ばれる小さな横笛である。


「東方大陸の楽曲を聴く機会は割と有りますが、更に東の火竜列島から楽器を持ち込む様な者は殆ど居りませんからね、初めて聴きましたが……うん、悪く無い。特に後半の楽曲は祈りを込めた歌でしょうか、其処に篭った思いは我々にも通じる物を感じましたよ」


 このニューマカロニア公国は私の本拠地であるワイズマンシティと同様に、食料自給に問題を抱えて居る。


 とは言え海からある程度内陸に入ったこの辺は塩害の被害が有る訳では無く、乾いた大地と照りつける太陽の所為で農耕が難しいのが原因である。


 とは言えユデルナ砂漠のど真ん中の此処に街が作られたのには当然理由が有る、どう言う経路(ルート)で流れて来た物かは解らないが、此処には冷たい地下水が湧き出るオアシスが有ったのだ。


 神聖マカロニア王国の食文化を色濃く残すニューマカロニア公爵家は、オアシスを中心に開墾を進め小麦を生産して居るのである。


 小麦と言う作物は比較的乾燥に強い植物だそうで、砂漠を開墾するのは流石に無理だけれども、オアシスの周辺全てを使う事で此の街で食べられる分を満たす程度には生産出来ていると言う。


 そしてその農地は全て公爵家の物で、其処から取れた小麦は当然全て公爵家の物で有る。


 公爵家はソレを家臣である各貴族に下賜する事で、自分達の権力を維持して居ると言って良いだろう。


 そう言う意味ではニューマカロニアの主従関係は火元国の石高制に近しい物と言え、米の豊作を願い祈る『田植え唄』に共感を覚えると言うのは不思議では無い。


 まぁワイズマンシティで魚介類を手に入れるのは、肉や野菜に穀物を手に入れるよりも圧倒的に簡単だと言う程度には、此処では小麦だけは手に入ると言う事だ。


「それにしても……御招待したのは確かに余の方だが、真逆貴女が直接此方へと赴いてくれるとは思っても見ませんでしたよ。更に言うならば火竜列島の楽曲を引っ提げて乗り込んで来るとは想像も出来ませんでしたね」


 今日の出し物は『芸神ミューズに捧ぐ音楽祭』と言う物で、周辺地域から優れた演奏者達が集まり音楽の腕を競う年に一度の祭りである。


 その招待はワイズマンシティ市庁舎宛の物と、精霊魔法学会(スペルアカデミー)宛の物の二通が届くのが通例で、学会宛の物は地元の者では無く留学生を参加させるのが恒例と成っていた。


 当然ながら学生だけを派遣する様な事は無く、毎回教授の誰かが引率として一緒に来るのだが、私を含めた『色の魔法使い』が来る事は殆ど無い。


 何故ならば色の魔法使いは学会が抱える最強戦力であると同時に、独自で学会に類する機関を設立する事も不可能では無い人材だからである。


 そんな人物が学会誘致の為に様々な工作を繰り返して居るニューマカロニア公国に来る様な事が有れば、公爵はソレこそ学生を人質に取ってでも自国に学会設立を強要するなんて可能性は零では無い。


「ちなみにあの子達は全員が優れた氣功使い(フォースマスター)のサムライよ。半端な戦力で彼等に手を出せば火傷じゃぁ済まないでしょうねぇ」


 牽制と言うには少々直接的な表現では有るが、私が口にしたその言葉に公爵は顔色を変え、


「赤の魔女ウイッチ・オブ・レッド……余を脅す積りか? 下手をせずとも外交問題にも成る発言だぞ?」


 君主としての威厳を秘めた声でそう返す。


「あら、脅す積りならば、サクッと砂漠に隕石(メテオ)の一発でも叩き込んでるわ。態々こうして話し合いの出来る状況を作って上げただけでも穏当な対応でしょう? 私が本気に成れば此の程度の街、一時間も掛からずに焦土に出来る訳だしねぇ」


 本気でソレをするつもりは無いが出来るか出来ないかで言えば、出来ると断言出来るだけの力量が私には有る。


 火元国の様な幾つもの藩の集合体である『大国』を単独で焦土にしろと言われたら無理だと断言出来るが、西方大陸(フラウベア)に無数とも言える数が有る都市国家の様な小国が相手ならば一人で皆殺しも決して出来ない事では無い。


 一発で戦場をひっくり返す事も不可能では無い戦略級魔法を無理なく使用出来る腕前が有るからこそ、最上級魔術師エルダーウィザードの称号得る事が出来る訳だし、色の魔法使いは更にその上に君臨する者なのだから出来て当然とも言える。


「此の街もワイズマンシティ同様に社会基盤(インフラ)を精霊魔法に頼っている事は良く知っているし、ソレを出来る人材の供給を学会に握られていると言う状況が気に入らないのも理解出来るわ。でもだからと言って学生に手を出されて黙っている訳にも行かないのよ」


 先日発生したマクフライ市議の孫娘に対する誘拐事件の黒幕が、彼だと言う決定的な証拠は何一つ無い。


 しかし今回の招待状に添えられた『学生が誘拐される様な危険な街では無く、学生の安全が保証された我が国に学会を移転してはどうか』と言った一文を目にすれば、疑うなと言う方が無理が有るだろう。


「はてさて何の事ですかな? ただ余は其方の街で学生を対象とした誘拐事件が有ったと言う話を耳にしたが故に、学生により良い安全な学びの場を……と提案しただけに過ぎませんよ。実際ワイズマンシティと我が国の治安は比べ物に成りませんしね」


 ……確かに国内の治安と言う意味では、ニューマカロニア公国はワイズマンシティよりも圧倒的に良いと言える。


 なんせ我がワイズマンシティは一街区に一つの犯罪組織(ギャング)が居ると言って良い程に犯罪組織塗れで、親としての目線で言えば安心して留学させる事の出来る都市国家だとは口が裂けても言う事は出来ないと言う自覚は有るのだ。


 では何故そんな街に学会が根を下ろし、其処に居続けるのかと言えば、ワイズマンシティが『民主主義国家』だからと言うのが一番大きい。


 火元国と言うある程度安定した君主制国家を見た今では、民主主義が絶対的に素晴らしいとは言わないが、君主制の国に学会が移った場合に私達がその国の君主から『戦力』として利用される可能性が極めて高いと言うのも事実である。


 もしもニューマカロニア公国に学会の全てを移したならば、彼や彼の子孫が学会の力を使って西方大陸制覇に乗り出さないと誰が保証する事が出来るだろう。


「それでも私達の返事は何時も変わらないわ。初代学長ワイズマン氏が作ったワイズマンシティと学会は常に共に有る、それだけよ。ただ此の国にも卒業生は相応に居るのだから其方で魔法使いを育成する事を止める積りも無いけれどもね」


 と、私がそう言い切った所で舞台の上では次の演奏者達が準備を終え、再び劇場内は大音響に包まれたのだった。

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