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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
博打と娯楽と享楽の都 の巻

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千三十九 志七郎、砂漠を進み無事を祈る事

「ぴーちゅん! ぴっぴかぴ!(右から騎兵! 数は十八!)」


 砂漠……ニューマカロニア公国の領土に入ってから、焔羽姫に上空を飛んで貰い索敵をお願いしていたのだが、ソレで解ったのはこの辺りの様な遮る物の無い地形では、彼女の索敵能力は四煌戌の鼻を超えると言う事だ。


 聞き耳頭巾の効果で四煌戌から聞いた話では、彼等の嗅覚と言うのは俺が思っていた程遠くの臭いまで嗅ぎ取れると言う物では無く、飽く迄も風の精霊を操る翡翠の能力(ちから)で自身を常に風下に置く事が出来るからこそ視線が通る以上の距離を把握出来るのだと言う。


 対して焔羽姫の方は十分な成長と訓練の結果、可也高い所を飛ぶ事が出来る上に視覚も人間以上に優れて居り、その視力は軍用双眼鏡に引けを取らず、更には赤外線視力(インフラビジョン)と言う能力が有るそうで鳥なのに鳥目では無い。


 彼女の持つ赤外線視力と言うのはどうやら向こうの世界で言う所の赤外熱映像装置(サーモグラフィ)の様な物の様で、周囲との温度差を見分ける事も出来る為、暗視だけで無く熱された砂の上を走る平熱(36.5℃)程度の者を見分ける事も出来るのだ。


「右からお客さんの様です、数は十八。まぁ多分結果は前回と同じでしょうが……先制攻撃入れますか?」


 そうした訳で街道を行かず砂漠を乗り越える形で近づいて来る『仮称:盗賊』にも、俺達は備えるのに十分以上の時間を得る事が出来ている。


「そぉねぇ……次の宿場まではそんなに距離も無いし、今回は捕まえて今夜の宿代にしちゃいましょうか? 殺すと報奨金がガクッと落ちちゃうから、出来るだけ生け捕りにするのよ。ついでに騎獣も奪っちゃえ♪」


 此方は騎獣に乗っているのは霊獣として召喚する事が出来る俺だけで、他の者達は全員が徒歩(かち)で有る。


 故にお花さんの言う通り十八体もの騎獣を奪う事が出来たならば、此処から先の旅路と帰りの旅程が大きく楽に成る上に、ワイズマンシティに着いたら売り払えば相応の銭に成ると良い事尽くめと言える訳だ。


 更にこうした盗賊団の類は賞金首でなくとも捕縛して、宿場を守る為に駐屯して居るニューマカロニア公国の軍隊に引き渡せば、見せしめの為の縛り首に出来るから……と少なくない報奨金が払われるのだと言う。


「にしても本当に此方の大陸は平和なんだなー、火元国で盗賊やら山賊やらやると成ると鬼やら妖怪やらに食われないだけの腕が無けりゃ出来ねぇもんなんだけどなー」


 近付いて来る敵に備えて隊列を整えつつ、一人がそんな事をボヤく。


 実はこうして盗賊に襲われるのは、今回が初めての事では無い。


 ワイズマンシティの領内で一回、ニューマカロニア領に入ってからは今回を合わせて三回目だ。


 但しどの遭遇の時にも本格的に戦闘に成る事は無かった、馬車の御者台に居る真紅の法衣ローブを纏ったお花さんを見るなり、全員が全員回れ右をして尻に帆を掛けてとんずらぶっ扱いたからである。


 その中でも特に印象に残っているのは


『ひゃっはー! 此処を通りたけりゃ水と金目の者と女を置いて……失礼しました! どうぞお通り下さい赤の魔女様ウイッチ・オブ・レッド


 と言ってやって来るなり逃げ出した、世紀末に多数生息していそうな鶏冠(モヒカン)頭の盗賊で、


『馬鹿野郎! (F.O.E)はちゃんと見てから仕掛けろ! この砂漠だってアレが大昔に暴れたから出来たって噂じゃねぇか! 地平の先まで逃げても死ぬかもしれない奴に喧嘩売る阿呆が何処に居るんだよ!」


 等と逃げながら叫んでいた覚えが有る。


 尚お花さん曰く『冤罪』だそうだが『出来ない』とは言って居なかったのが一寸だけ恐ろしい。


「其処は何時でも何処でも鬼やら妖怪やらが湧く火元国が特別なのよ。多分魔物(モンスター)の出現する地点(ポイント)が火元国全土と他の大陸では同じ位の分布なんじゃぁ無いかしら?」


 火元国全土を見渡せば其れ相応に広い、実際同じ一国の範囲でもワイズマンシティの様な都市国家の領土は、火元国では小~中藩と同程度と言う事に成るだろう。


 しかし西方大陸全土と火元国が有る火竜列島の広さを比べたならば、火元国を十倍所か百倍にはしなければ比べる事すら馬鹿らしい程の差に成る。


 にも拘らず出現地点の数が同程度だと言うのであれば、他の大陸に比べて火元国はとんでもなく過密だと言えるだろう。


「成る程な、だからあんな気合の入って無い連中が鬼に食われる事も無く山賊なんぞやってられると言う訳か。ソレにワイズマンシティに結界石らしき物が見当たらないのに鬼やら妖怪やらが街に湧かぬのも得心が行った」


 此れを電子遊戯(ゲーム)的に例えるならば、火元国は外つ国に比べて魔物との遭遇(エンカウント)率が馬鹿みたいに高いと言う様な感じだろうか?


「てな訳で私は一寸引っ込むから、誰か御者出来る子は居るかしら? 居たら変わって頂戴な」


 まぁ御者台にお花さんが乗ったままでは折角の獲m……邪悪な山賊達がまた回れ右するのは目に見えているのでその対応は間違って無い。


 特徴的な真紅の法衣(ローブ)を脱げば済むと言う話でも有るのだが、彼女の纏うソレは礼装と言う意味合いだけで無く、時属性を除く全ての属性に対して抵抗力を持つ立派な防具で有り、砂漠の暑さを避ける効果も有る為脱ぐのは万が一の際を考えれば悪手である。


 もしも今回接敵してくる山賊達が気合の入った連中で、俺達だけで捕縛しきれない様な大物だった場合には、彼女に『先生お願いします!』と救援を求める可能性も(ゼロ)では無いのだ。


「では此処は余に任されよ。馬の扱いはお(らん)にも習っているし、馬車の扱いも此方の大陸に来てから学んだからの」


 そう言って御者台に飛び乗ったのは武光である。


 火元国は主要な街道でも必ず峠道が有る事でも分かる様に高低差(アップダウン)の激しい地形であり、馬車で旅をするのに全く向いていない土地だ。


 其の為、車輪の着いた乗り物は江戸市中を走る人力(リキ)車か、京の都を行き交う牛車位の物で、馬車を見かける事は殆ど無い。


 稀に見る事が有ったとしても、ソレは火元国をよく知らない外つ国から来た冒険者が持ち込んだ物で有る。


 まぁ前世(まえ)の世界でも『狭い日本そんなに急いで何処へ行く』なんて標語が有ったが、実際に生活してみれば言う程狭く無いのが日本なんだよな……ただ国土面積の大半が山や森林で平地面積が異様に狭いと言うだけで。


 その辺は割と火元国が有る火竜列島も変わらず、国土の大半は人が住むには適さない険しい山林で、だからこそ異様に多くの鬼や妖怪が出現するとも言えるのだ。


 兎角、火元武士では珍しい御者技術を持ち前の万能の秀才とも言える才能で、短い期間に物にしたらしい武光は、お花さんに変わって御者台に座ると堂に入った手付きで手綱を捌いて見せる。


「よし、此れならば問題無く襲って貰えるで御座ろう。では皆、気を引き締めて行けよ、賊にだって二つ名持ちの達人が混ざっていないとは限らぬ。ソレに相手は騎兵との事だ、歩行武者が騎兵に勝てぬとは言わぬが騎乗突撃は脅威なのは間違い無いで御座る故な」


 今回の楽団に選抜されたのは俺と武光を除いて全員が第一次渡航団の者達で、彼等の多くは幕臣家子弟の中でも腕に覚えのある者達で構成されており、第二次渡航団の様に年少の者は含まれて居ない。


 故にお花さんも安心して賊を返り討ちにして騎獣を戦利品にしよう等と言い出したのだろう。


 ……ただまぁ、今回のこの対応を見ると『あの一朗』が江戸で蛇蝎の如く嫌われる乱暴者(あばれもの)に成長した原因の一端が見えた気がするな。


 魔物との戦いが日常で有り命の値段が安いこの世界では、貴族だ何だの権威よりも『強い奴』が偉いのだ、山賊盗賊なんぞが大手を振って生きて居られるのも奴等が多少也とも強さを持つからだ。


 ならば『弱さに甘んじる者』から奪うのは強者の権利と言っても絶対的な間違いでは無いのだろう。


 ただソレを繰り返して行けば結果的に自分よりも更に強い者に叩き潰されても文句を言う資格は無い、故に火元武士は道理を重んじ『弱き者より奪う』様な下衆な真似をしないのだ。


「おー見えてきた見えて来た、いい感じに勢いに乗って突っ込んで来てるな。此れは結構気合入ってる賊じゃねぇか? 皆、気を抜かずにきっちり生かさず殺さずでとっ捕まえるんだぞ。それと騎獣(あし)には傷を付けない様に気を付けろよ」


 砂煙を上げ駆けてくる騎兵の群れが氣を使って視力を強化しなくても見えて来た頃、誰かが呑気な調子でそんな言葉を口にすると、


「「「「応!」」」」


 肉食獣の様な笑みを浮かべ異口同音に返事を返す武士(もののふ)の群れ、俺はそんな様子に寧ろ賊達の無事を祈らずには居られないのだった。

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