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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
博打と娯楽と享楽の都 の巻

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千三十七 志七郎、芸事に精を出し新たな旅路に着く事

 火元国の武士に限らず為政者階級の者には様々な教養が求められる物である。


 ソレは為政者足る者として民衆の手本と在らねば成らないと言う事でも有るが、幾ら魔物(モンスター)達から民を護るのが最大の仕事だとは言え、武辺一辺倒の乱暴者では下々の者が着いて行くには怖すぎる……と言う本音も有るのだろう。


 そんな訳で俺達も留学中も芸事の稽古は欠かさない様にして居たのだが……うん、ぶっちゃけ武光の奴が万能の秀才(チート)過ぎて兄貴分としての威厳がズタズタである。


 俺は猪山太鼓一本で頑張って稽古して居るのに、彼奴は太鼓の他に竹で作られた横笛の『篠笛』や(つづみ)に三味線等々、色んな楽器を興味が赴くままに他の留学生から習って居るのだが……ソレ等の殆がきっちり身に成って居やがるのだ。


 ちなみにこの意見は、武光に楽器を貸して教えた連中の大半が自分と同等かソレ以上の所まで、あっという間に駆け上がって来た事で同じ様な思いを抱いて居たりする。


 ……俺は未だ奴が上様直系の孫で、父親も次期将軍に内定して居た程の人物だから、アレが持っている才能の幅が尋常じゃぁ無くてもそう言う血筋なんだろうと諦めが付くが、貧乏旗本の三男坊と言う設定を信じてる者は気が気じゃないだろう。


 で、何故急にこんな話が出てきたかと言うと……


「ほら、また太鼓が拍子を外したわよ! 他の楽器は太鼓の拍子に合わせて演奏するんだから、太鼓が下手糞じゃぁ全部が駄目になるの! もう一回最初から!」


 何故かお花さんが火元国の楽器とソレを演奏出来る者を集めて、御囃子隊を結成し二週間後に、ワイズマンシティの西に有るニューマカロニア公国の劇場で披露させる……なんて事を言いだしたからだ。


 その理由云々は聞いては居ないが、しっかりとした演奏を披露する事が出来たならば少なくない手当が出ると言う話から、割と多くの留学生たちが自慢の腕を披露する為に集まって居たりする。


 まぁ銭を稼ぐだけならば冒険者として魔物を狩りに出掛ける方が余程儲かるし、この辺に出る魔物に遅れを取る様な者は留学生には居ないので、銭が必要ならばそっちで稼げば良いだけなのだが、火元武士に取って楽器は女性(にょしょう)にモテる為には必須だったりするのだ。


「大太鼓は太鼓隊の軸で御座る、ソレが振れてしまえば全てが振れる事になる。御前崎殿、貴殿は太鼓を得手とする者の中でも特に優れた腕前を持つと信じられているが故に、大太鼓を任されたのだ、自信を持って確実に拍子を刻むで御座るよ」


 俺を含めて四人居る太鼓隊の中で最年長でありながら、最も大きな太鼓を叩く役目を御前崎と言う御家人家の者に譲った、塩沢と言う名の旗本家の四男がそう言って彼の肩を軽く叩く。


「やはり大太鼓は俺では無く塩沢殿が叩いて下さいよ! 俺の様な小普請組の家の小倅が、旗本家や大名家の皆さんの音頭を取るなんて恐れ多いですって!」


 純粋な太鼓の腕前だけを言うならば、間違い無く御前崎殿が一番で、俺も此方に着いてからは彼に銭を払って太鼓の指導を受けていたりする。


 鬼熊の皮を使って作る猪山太鼓は他の地域の太鼓よりも強い打撃が必要な分、音の伸びや大きさが段違いで、ソレを活かす様な演奏をしようと思えば相応の技術が必要になるが、俺は未だ基礎から一歩踏み出した段階で、流派を云々する所まで行って居ない。


 なお彼の流派は『足柄流太鼓』と言う物で、猪山流太鼓も実は足柄流から派生した流派なので、習うには持って来いの人材だったのだ。


 けれどもどうやら御前崎殿は割と小心者と言うか何と言うか、家柄とかを可也気にする性分の様で、自分が叩いた太鼓の拍子(リズム)に従って他の者達が追従すると言う立場が怖いらしい。


「戯け! 武士足る者、芸事で在ろうと己よりも上手な者の指示に従うのは当然の事、其処に家柄を持ち出す事こそ恥よ! なぁ! 皆の衆、御前崎の太鼓に従うのは屈辱だ! 等と抜かす愚か者は居るか?」


 だが其処は本人の実力こそが物を言う価値観に染まった火元武士、家柄に忖度して自分より腕前が上の者を押し退けようとする馬鹿は居ない……と、塩沢殿が周りに問う。


「当然だろう、武芸だろうが芸事だろうが上手い者が良い立ち位置に付くのは当たり前だ。『家柄は(まつりごと)の時にだけ口にせよ』と太祖太閤も言い残しているからな」


 三味線を手にした武光が勝手に周りを代表した彼の様な言葉を口にしたが、家安公の語録からの引用を否定出来る火元武士等居る筈も無く、其れに否を唱える者は当然出て来ない。


 俺の記憶が確かならば『家柄は政の時にだけ口にせよ』と言うのは、戦いの場で家柄を口にした所で相手が忖度してくれる訳も無いと言う様な格言で、芸事に関しての言葉じゃ無かったと思うんだが……まぁ直系子孫が引用したんだからヨシッ!


「と言う訳で御前崎殿が大太鼓を打つ事に異論を持つ者は居らぬ、実際此方に留学している者の中で太鼓の師範免状持ちは貴殿だけなのだから、もっと自信を持って拍子を刻むで御座る」


 と、塩沢殿が改めて御前崎殿にそう言うと、彼は覚悟を決めた表情で頷いた後、


「では、最初からもう一度通して行きます! 今度こそ失敗しないようにするので、皆さんお願いします!」


 そう声を張り上げてから、腹に響く大太鼓の音を高らかに奏でるのだった。




 そんな感じで練習する事一週間の後、俺達はワイズマンシティを旅立ちニューマカロニア公国を目指す事になる。


 公演は二週間後と言う話だった筈だが? と疑問を持つ方も居るだろう、答えは単純な話でワイズマンシティからニューマカロニア公国までは徒歩で凡そ一週間の距離が有るからだ。


 徒歩で一週間掛かるなら騎獣を使えばもっと早く着くのだが、残念ながら二十人程の楽団全員を乗せる事が出来るだけの馬を買ったり借りるのは金銭的な問題だけで無く、そもそもそんなに貸馬が居ないと言う点で無理だった。


 それでも楽器を積み込み疲れた者が交代で乗る事が出来るだけの馬車が、お花さんの個人所有として有っただけマシと言える。


「ちなみに鬼切り童子殿のワン公で風の行軍(ウインドマーチ)を掛けて全力で走ったならば、どれ程の時間で向こうに着くで御座るか?」


 馬車に四煌戌で並走して進む俺にそう問い掛けて来たのは塩沢殿だ、彼は初回の船で留学してきた先輩組で、風の精霊と火の精霊の二体と既に契約して居ると言う、俺達霊獣持ちを除けば留学団の中で上位に入る成績を打ち立てている。


「んー、今の此奴等なら道中何の問題にも巻き込まれずに全力疾走させれば、多分三刻半(約七時間)位で着くんじゃぁ無いでしょうかね?」


 人の歩く速度が凡そ時速一里(4Km)で道中には凡そ十里(約40Km)毎に宿場も其れ位毎に有る為、其処で一泊するを繰り返して六~七日で向こうに着くと言うのだから、距離としては凡そ六十里(240Km)


 四煌戌に風の行軍を掛けた状態で長時間維持出来る速度の最大で走らせれば、大体一刻で十七里《約70km》程は進める筈なので、其れ位の時間になる計算だ。


 時速にして35kmと言う数字は、通常の馬が安定して長距離を移動する際に行われる常歩(なみあし)の時速6.6kmからすると極めて速いと言えるだろう。


 常歩の馬は休憩を適切に取れば一日に50~60Km移動すると言う事を考えれば、自動車程では無いがソレでもこの世界の乗り物としては大分速い方である。


 とは言え上には上が居る物で、(ラム)の契約して居る輝一角獣(ライト・ユニコーン)が風の行軍を使えば、時速60Kmで無理なく一日中かっ飛ばせるらしい。


 自動車に慣れていると60Kmでは然程速いとは思えないかもしれないが、競走馬の平均的な速さが其れ位らしいので、巡航速度でソレと言うのはやはり速いのだ。


 兎にも角にも徒歩(かち)の者も居る以上はソレに合わせた速さでゆっくりと行くしか無い。


「よーし、忘れ物は無いわね? 最後の確認をして問題なければ出発するわよ!」


 そんな事を話している内にお花さんがそう言って皆を振り返り全員が頷くのを見て、俺達は新たな旅路へと着くのだった。

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