表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
市長選挙と陰謀 の巻

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1035/1256

千三十三 志七郎、禁じ手を思い黒幕割って入る事

 前世(まえ)の世界では指関節への攻撃は多くの格闘技に置いて『目突き』『金的』『噛み付き』と並んで禁止されている行為だった。


 何故此れ等が反則とされるのかと言えば被害(ダメージ)の大きさも去る事ながら、双方の技術差を比較的簡単に覆せてしまうと言う点も大きいだろう。


 此方の世界に生まれ変わってから実戦を想定した稽古の中で、其れ等に対する対策や対応も前世(まえ)以上に積む事に成ったのは、鬼や妖怪にはそうした禁じ手等関係無く仕掛けて来るモノが少なく無いからだ。


 では対人で其れ等が使われる事が無いのかと言えば決してそんな事は無い。


 しかし其れ等の手口はどの流派でも対策を講じるのが普通なので、喰らう方が間抜けと物笑いの種として扱われるのが通例なのだ。


 にも拘らずネギトロの奴が安易に俺の首へと手を伸ばして来たのは何故か? 


 恐らくは挑発された事で頭に血が登ったと言う事も有るのだろうが、やはりそれ以上に子供相手と心の何処かに侮りが有ったのが原因だろう。


 指折り目突き金的噛み付きは実力差を覆し得ると言う意味では、普通の子供が大人に対抗し得る数少ない手段の一つにすら成り得ると言う事を、総身に知恵が回り兼ねたが故に忘れてしまったのが奴の敗因だ。


 正直な話、此方の世界に生まれ変わってからの対人戦で、此処まで際どいと言える程の追い詰められたのは初めてである。


 大鬼や大妖に分類される様なモノ相手ならば、今回よりも厳しい戦いは幾つか有ったが、氣も纏えない只人相手に追い込まれる様な無様を晒した事は、多分御祖父様辺りに知られたら死ぬ程弄られるだろうな。


 と、そんな事を考えながら指一本圧し折られた激痛で腰が浮いたネギトロの奴を、氣で高めた腕力で押しのけて立ち上がる。


 ……指一本折られた程度で此処まで騒ぐと言う事は、此奴にとって俺は脳内麻薬(アドレナリン等)ドバドバで痛みすらも忘れる程の闘争相手では無く、一寸した暴力で片付く程度の相手だと思われて居たと言う事だろう。


「氣功使いを相手にした事は有っても火元武士を相手にした事は無かった様だな。次が有るかどうかは知らんが覚えて置くと良い、火元武士は最後の最後まで勝負を投げる事は無い、一瞬でも隙を見せたらその首を噛み千切るかもしれない……とな」


 手を抱えこむ様にして痛みに喚くネギトロを、ネギトロめいたモノに変えてやりたいと言う欲求は有ったが、感情任せに命を奪う様な真似をする程に俺は直情的な人間では無い。


 意識を刈り取れば痛みを感じる事も無いだろうと、慈悲の心を持って確実にソレを遂行するべく蹴り足に氣を込め、頭を蹴球(サッカー)(ボール)の様に蹴り上げようとしたその時だった。


「双方其処まで! 一旦拳を収めよ! この場は市長殿よりこのギウ・ドンが預かった!」


 手下と思しき者達を連れた初老の強面が空に向けて銃声を一度響かせてから、そんな言葉を曰ったのだ。


 ギウ・ドンと言えば今俺達がやり合って居たカイセン兄弟を含めたドン一家(ファミリー)の頭目だった筈である。


 サリー嬢誘拐の指図人であろう彼が、市長からの指示でこの一件を預かると言うのは一体どんな話の流れでそう成ったのか?


「ギウの大親分!? どう言う事だ! 俺達ゃアンタの指示であの雌子供メスガキ(ガラ)を拐ったんだぜ!? そのアンタが軍の連中と一緒に来るってのはどういう了見だ!?」


 蹴りが入る前に止められた事で、気を失う事が出来なかったネギトロが痛みを堪えつつ激昂した様子で自分達の上役の更に上役へと噛み付いて行く。


犯罪組織ギャング同士の抗争ならいざ知らず、堅気(カタギ)の娘さんを拐う様な恥知らずな真似をこの儂が指示しただと? しかも聞けばその娘は学会(アカデミー)に通う学生でも有ると言う。此の街で学会に喧嘩を売るのは御法度なのは常識だろうが!」


 此のワイズマンシティは飲み水や煮炊きの為に使う火等、社会基盤(インフラ)の大部分を精霊魔法が担って居る。


 其の為、精霊魔法使いの供給元である精霊魔法学会(スペルアカデミー)は、大魔法使いと言う規格外の戦力を別としても此の街で暮らす者で有れば絶対に敵に回す訳には行かない組織なのだ。


 其の為、先日俺達が会ったテン・ドンの様に学生と揉めたと言うだけでも、自分達の面子は別にして一方的な謝罪をしなければ成らないと考えるのが普通だと言う。


 と言うか犯罪組織側としても身内の者を全うな仕事に就けたいと思うならば、学会に通わせるのが一番手っ取り早い方法の一つでも有るので、そう言う意味でも学会と事を構えるのは悪手以外の何物でも無い。


「じゃぁウーの親父やサラウの兄貴は何で上からの指示だなんて言って、あの子供を拐わせた上に俺達に足止めまで命じたんだよ!?」


 お連が相手取り、互いに一進一退の攻防を繰り広げて居たサーモンが、動揺した様子を隠す事も無く問う。


「その『上』とやらは本当にドン一家としての上役……つまりは儂の事を指して居たのか? ソレをお前達はしっかりと確認出来て居たのか? あの男は確かに此の街では儂の配下として活動して居ったが他所にも伝手が有る男だったからな」


 ギウ曰く、ウーと言う男は此のワイズマンシティだけでなく、他所の都市国家にも伝手が有る男で、そうした手広さを含めて重用して居た部分も有ると言う。


 しかし過去の実績に対して信用する事は有っても、一家の為だけに滅私奉公すると信頼する事が出来ない人物でも有ったらしい。


 犯罪組織とは言ってもドン一家は、麻薬(ヤク)の密売の様なド直球(ストレート)な犯罪に手を染める事は無く、地域の治安を守る為と言う名目で場所(ショバ)代を集ったりする……と言う様な組織だと言う。


 まぁそうした場所代を納めない見世相手に嫌がらせの類をしたりする事も有るらしいので、所詮は犯罪組織は犯罪組織でしか無い……と言う事なのだろうが。


 ソレでも彼等は彼等なりに地元の事を考えて行動して居り、そうした活動の一環としてポテ党への支援活動が含まれているらしい。


「今回拐われたのは我等が支持するポテ党の党首の孫娘で、脅迫の内容も彼に対して市長選挙から下りろと言う物だぞ? シーフー党のハガー市長の娘を拐ったと言う方が未だ話が分かるわ」


 パッと見る限りギウと言う男がカイセン兄弟の一人と素手での(ステゴロ)勝負をしたならば十中八九カイセン兄弟側が勝つだろう、ソレは老齢だとかそう言う以前の問題として身に宿した暴も武も圧倒的に彼等兄弟の方が上だからだ。


 けれども何でも有りの殺し合いと言う舞台(ステージ)で見るならば、ギウが負ける姿が想像出来ない、ソレ位には漢としての貫目が違うのが目を見ただけでよく分かる。


 ……アレは間違い無く必要だと判断したならば、躊躇する事無く人を殺める事が出来る男の目だ。


「ソレは……此の一件をミェン一家がやった事だと押し付けて、ハガーの奴を落選させる手だって親分は言ってましたぜ!?」


 ダイゴウジ氏に一方的にボコボコにされていたらしく、青痣だらけの顔でそう問いかけるテッカ。


「……ウーにはミェン一家との折衝も任せて居た、此処最近奴等と(ウチ)の若い連中で一銅貨(ナイト)にもならん様な下らない理由での揉め事が増えていたからな。縄張り(シマ)稼ぎ(シノギ)の奪い合いなら兎も角、余計な怪我で稼げないんじゃぁ話にならん」


 どうやらウーと言う男はドン一家の中でも弁が立つ方だった様で、ギウからの信頼も厚く敵対組織であるミェン一家との和解に向けた交渉も任せて居たらしい。


「もしもミェン一家との交渉が上手く行かずに何らかの報復に出るにせよ、先ずは儂に報告するのが筋だがそうした話は一言も此方の耳には入って居らん。この状況ではウーの奴が何らかの理由で一家を裏切ったとしか思えんのだよ」


 上の者の為に身体を張って居た筈なのに、更に上の者から梯子を外された形に成ったカイセン兄弟や、川から上って来た下っ端連中は呆然とした表情を浮かべ膝から崩れ落ちたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ