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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
市長選挙と陰謀 の巻

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千二十八 志七郎、現場を確認し忍術を知る事

 武光の案内で向かった先は、ワイズマンシティの中心部に有る『シティ・センター』と言うそのまんまな名前の地区の更に西側の『ダウンタウン』と呼ばれる一角だった。


 ダウンタウンと言うと火元国で言う所の『下町』を思い浮かべるかもしれないが、此方では何方かと言うと繁華街や市街地と言った意味合いで使われる言葉で、その名の通り様々な見世が軒を連ねる此の街随一の人通りを誇る場所である。


 ワイズマンシティは精霊魔法の聖地とでも言うべき所だけ有って、余程小さな路地裏でも無ければ何処の道も土属性の『舗装(ペイプメント)』と言う魔法で固められ、大通りとも成れば更にその上に石畳が敷かれてるのが当たり前だ。


 火元国で石畳が敷かれた道が有るのは神社の参道や武家屋敷の表玄関前位の物で、江戸城前の広場ですら土を踏み固めただけで、雨の日には泥濘んで泥々に成るのが普通だったりする。


 この辺は文化の(レベル)が違うと言うよりは、社会基盤(インフラ)を整備する為に精霊魔法と言う便利な『道具』を使う事が出来るか否かの差だと思う。


 恐らく今後『術者育成の令』で此方に留学した武士が増えていく事で、同じ様に石畳で舗装された街並みが江戸市中にも広がって行くのでは無かろうか?


「此処だ、此処が待ち合わせの場所で、あの紙が貼り付けて有った場所だ」


 其処は表通りから一本入った所では有るが裏通りと言う程狭くも暗くも無い、二番線(セカンドストリート)と表現するのがしっくり来る様な道の一角に設けられた小さな噴水の有る公園の様な場所だった。


 此処は海水浴場(ビーチ)からも然程離れていない場所だからか、水着姿の男女がその辺で買ったと思わしき物を手に木の長椅子(ベンチ)に腰掛け食べる姿がそこかしこに見受けられる。


 正直な所、此処で誰かを誘拐なんて真似をすれば絶対に誰かに目撃される事は避けられず、真っ当な者で有れば直ぐにソレを近くに有る軍の屯所に通報して居て然るべきだろう。


 にも拘らず誰が見るとも解らないこんな場所に無造作に脅迫文を貼り付けたと言うのは少々解せない。


 そう考えると恐らく誘拐の現場は此処では無く、牧場から此処に来る途中の何処かで、此処に張り紙をしたのはサリー嬢から待ち合わせの場所を聞き出しての事なのでは無かろうか?


「此れだけ人の多い場所だ、此処が拐かしの現場と言う事は無かろう。此処に脅迫文を貼り付けたのは誰が見つけて騒ぎに成っても構わぬと犯人達が考えたからだと思えば然程違和感は無い」


 現場を一瞥するなり俺と同じ結論に達したらしいダイゴウジ氏がそう言い放つ。


「確かに……争った様な痕跡も無けりゃ、馬が来た痕跡を見当たらないね。マクフライの孫娘って(こた)ぁ此処まで来るのに徒歩って事は無いだろうし、馬を駆って来ると見るのが普通。此処を待ち合わせの場所にしたのも馬に水をやる為だろうしね」


 そう言うマキムラ女史の言に依ると、此処の噴水は馬なんかの騎獣の為の水場を兼ねた物らしいが、少なくとも此の半日の間に馬が此処を訪れたと言う痕跡は見当たらないらしい。


 俺も前世(まえ)の職業柄、舗装された場所でも揉め事の痕跡を見つける自信は有るが、馬やら騎獣やらが通った痕跡を見つけるなんて真似は出来やしない……が、御庭番衆出身の忍術使い達がそう言うのであれば恐らく間違いは無いのだろう。


 ただ何方にせよ言えるのは今回の一件は場当たり的な犯行では無く、事前に十分な計画を練った上で行われた凶行だと言う事だ。


 サリー嬢は普段から自分で馬を駆り精霊魔法学会(スペルアカデミー)へとやって来て勉学に励んで居るが、此処は学会から大分離れた場所で更に言うならば今日マクフライ氏が街頭演説を行って居た場所からも近いとは言い難い。


「ダイゴウジ殿、今日は午後からこの辺りで誰かの街頭演説の予定は有ったのでしょうか?」


 先程、市長から聞いた話では街頭演説を行う場所は事前に届け出が出されており、市庁舎へ行けば何時誰が何処で演説を行うのかを知る事は出来ると言う事だった。


 市長の側近である二人ならば当然そうした事は下調べとして確認して居る筈だと考え尋ねて見ると、


「いや、今日はこの辺りでの演説予定は無い筈だ。多くの候補者はある程度の距離を開けて市内を時計回りに移動し演説するのが市長選挙の通例と成っているからな。この辺りでの遊説が行われるのは一番早い者でも明後日だった筈だ」


 間髪入れずに答えが返って来る。


 と成ると考えられるのは、武光との待ち合わせ場所を何らかの方法で事前に知った上で被害者を拐ったか、若しくは被害者を拉致した後に何らかの手段で待ち合わせの話を聞き出してから脅迫文を張ったかの何れかだろう。


 前者ならば情報の出本を探る必要性は有るにせよ未だマシな方で、後者の場合には既に彼女の身に何らかの危害が加えられている可能性が出てくるぞ?


 普通に考えれば、脅迫するべき相手であるマクフライ氏に直接届く様に、事務所へと投書するなり演説会場で割竹に挟んで差し出すなり良い方法は幾らでも有る筈だ。


 にも拘らず、あんな脅迫状を誰の目にも見える様なこんな場所に張り出す様な真似をしたのは一体どんな裏が有っての事なのか?


 ……いや、今はそんな事件の裏側を考えるよりも虜と成っているサリー嬢を無事に救出する事を第一に考える時だ。


 と、一旦事件の背景を考えるのを止め、優先すべき事項を改めて心に思い浮かべた、その時だ。


「武光様! お言いつけ通り周囲を探って参りました!」


 普段纏って居る氣とソレにより強化された感覚でも気配を捉える事の出来ない程の『隠形の術』で身を隠しこの場へとやって来たらしいお忠が姿を表した。


「お忠! どうだった? サリーの居場所は掴めたか?」


 そんな唐突とも言える彼女の出現に驚く事無く問い返す武光、恐らくはお忠がこうして現れる事に慣れて居るのだろう。


「申し訳有りません、彼女本人を見つける事は出来ませんでした。しかしこの場から去る足跡を辿った所、此処から然程離れていない場所に有る缶詰工場の厩にサリー殿の愛馬が繋がれて居るのを発見致しました。其処に居らずとも何らかの手掛かりは有る物かと」


 石畳で舗装された此の街で足跡を辿るなんて真似が出来るのかとも思ったのだが、ダイゴウジ殿やマキムラ殿がこの場に有る痕跡を見抜く事が出来たのと同じく『見抜きの術』と言う忍術を用いたらしい。


 見抜きの術を使うと人の目には映らない様な物がハッキリと見える様に成るそうで、話を聞いた限りでは熱源撮影機(サーモグラフィカメラ)や暗視撮影機を通した様な視界に成り、着目するべき部分がぼんやりと光って見えるののだそうだ。


 そんな便利な術が有るならば火元国の犯罪捜査はもっと進んで居ても良い様にも思えるが、コレで見つける事が出来るのは雑多な『痕跡らしき物』と言うだけで有り、その中から本当に必要な物を見つけ出すには勘と経験を積み上げる必要が有るのだと言う。


 故に未熟者が使う見抜きの目は色々な物が良く見える様に成り過ぎる事で、逆に無関係な痕跡に拘ってしまったり、無数に有る痕跡らしき物に目を奪われて、本当に大切な痕跡を見逃してしまう事も有るのだそうだ。


 その辺は前世の犯罪捜査でも大量の遺留品に目を奪われた結果、本当に大切な物が埋もれてしまい結果として迷宮入りしてしまったと言う様な事件が過去に有ったと聞いた覚えが有るので、やはり魔法や術が万能と言う訳では無いと言う事なのだろう。


「そう言う事ならば、其処を調べるのは俺に任せて貰おう。其処が監禁場所で無かった場合、派手に押入れば人質に危害を加えられる可能性が高まるからな。俺が忍び込んで調べて来よう」


 お忠の言を聞きそう言い出したのはダイゴウジ殿だ、彼は間違い無く彼女よりも上手な忍術使いなのは間違い無い。


 彼ならば誰にも見つからずに忍び込み内部を調べ、若しもサリー嬢が捕らえられて居たならば単独で救出する事も出来るだろうし、其処が監禁場所で無かったとしても何かの手掛かりを得てくる事も可能だろう。


「……同門の先達とお見受け致します。私が確認出来た事をお伝え致しますので、後は宜しくお願い致します」


 産まれは多古八忍衆の出では有るが、妖怪宝箱から救出された後は御庭番衆の者に忍術を学んで居たお忠は、ダイゴウジ殿の立ち振舞から同門の上位者だと見抜くと、そう言って跪いたのだった。

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