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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
市長選挙と陰謀 の巻

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千二十五 志七郎、政治に疑念を抱き内政干渉を厭う事

 ……成る程な、市長の話を聞いて俺はシーフー党の意見が何となくだが理解出来た様に思える。


 極めて端的に要約してしまえば『精霊魔法学会(スペルアカデミー)のお陰で此の街が繁栄して居るのだから、学会の為に移民を受け入れよう』と言う事だ。


 何故移民受け入れが学会の為なのかと言えば、学会で教鞭を取る者の大半が他所の私塾の様な場所で基本的な魔法を覚え、更なる研鑽と探求の為に学会の門を叩いた者達だからである。


 此の街では精霊魔法が日常的に使われており、身内にソレが使える者が居なければ金銭を払ってソレを使える者を雇わねば生活が成り立たない……そんな街なのだ。


 故にある程度の魔法が使えれば仕事は幾らでも有るし、逆に身近に有る生活必需品と言う感覚が強すぎて、地元出身の学会生は学会の教師と成るのに必要となる博士号(ドクター)を取る程に深く魔法を学ぶ者は少ないらしい。


 なので移民の受け入れに否定的な市政を行えば学会が他所へと移転を考える可能性も有り、その際に下手をすれば世界でも上から数えた方が早い戦力で『最後っ屁』を食らわせて行く事も有り得る……とシーフー党は代々考えて来た様だ。


 実際『学会のお陰で繁栄した街の癖に』と怨みを抱いてそうした事をしそうな魔法使いが過去に居なかった訳では無いだろうし、将来に置いても出て来ないとも限らない。


 内情を深く知る者ならばお花さんが存命の内は、例えポテ党が政権を取って学科が此処に居続けるのが難しくなったとしても出ていく際に無体な真似はしないだろうが、彼女は表立って政治的な活動をする気は無いので、ソレを一般の有権者が知らなくても当然である。


 対してポテ党の言う事も完全に間違って居る訳では無い、幾ら万能に近い精霊魔法とは言え無限の資源(リソース)を生み出せる訳で無く、彼等の言う通り精霊魔法を使い続ければ何時かは限界を迎える事も有るだろう。


 そうなった時に割を食う事に成るのは、恐らくは学会のお膝元に住んで居ながら精霊魔法を学ぶ事の出来ない、裕福とは言い難い家に産まれた二級市民(citizen)達なのは目に見えている。


 民主主義国家に置ける政治家の仕事と言うのは、有権者の代弁者として政治を動かす事だが、ポテ党はそうした『今現在有権者では無い地元の者達』の保護し市民(civilian)に格上げする事で新たな票田として発掘しようとして居る訳だ。


 今のワイズマンシティで二級市民としての立場を得るには、単純に市民登録をして人頭税を払うだけで良い。


 だが市民権を得て参政権まで手にしようと思えば、二級市民の倍以上の税を恒常的に納める事が出来るだけの収入と、ソレを維持しながら兵役や労役に志願して街に対して一定の貢献をする必要が有る。


 ソレをポテ党のドナルド マクフライ議員は『移民への市民権付与に制限を設け、ソレで減るであろう市民はワイズマンシティに二代に渡り住んだ者に限って減税措置を取る事で補填する』と言う様な事を街頭演説で言って居た。


 移民に対する市民権付与を制限すると言う事は、学会で教鞭を取る為に移住して来た者だとしても、その当人がどんな貢献をしたとしても二級市民に甘んじるしか無いと言う事に成る。


 市民と二級市民では参政権の有無以外にも、向こう世界の日本に置ける年金や保険に当たる福祉なんかに大きな差が出る為、税を支払う事が出来て兵役や労役を熟す事が出来るならば市民権を得ようとするのは当然の事なのだ。


 ちなみに俺達の様な出ていく事が前提の留学生も、正式な手続きを踏んで来た者であれば、立場としては二級市民として登録されるが、学生として勉学に励んでいる間は人頭税は免除されているらしい。


 只でさえ高い学会の学費に加えて人頭税と成ると、留学生が減ってしまうと言う事で、コレも学会に対するワイズマンシティ政府の配慮の一つと言えるだろう。


 また一時的に此の街に滞在し組合(ギルド)の下で仕事をする冒険者は、二級市民に与えられる様な最低限度の福祉すら受ける事は出来ないが、少なくとも不法滞在者と言う扱いを受ける事は無い。


 ……そう、二級市民に義務付けられて居る人頭税すら払わず真っ当な仕事にも着いて居ない不法滞在者なんて者も此の街には居るのだ。


 此の見世の店主兼料理長オーナーシェフが頭を務めるミェン一家(ファミリー)犯罪組織(ギャング)と見做されては居るが、全員がしっかりと人頭税を払い年嵩の者は軍役や労役を熟し市民権を有して居たりする。


「さて……一寸予想して居ない人との出会いは有ったけど、お連、此の見世の料理はどうだった?」


 市長が自分の席へと戻り、馬尻杏仁豆腐を平らげ最後にもう一杯食後のお茶を啜りながら、俺は目の前に座る彼女にそう問いかけた。


 俺達は飽く迄も一時的に此の街に滞在する留学生に過ぎず、政治に深く関わる様な権利も義務も無い。


 前世(まえ)の日本で此処よりも進んだと言って良いだろう民主主義を見てきた身としては、民主主義と言う物自体がそんなに素晴らしい物だとは思って居らず何方かと言えば否定的だった。


 特に全ての国民に平等に参政権を保障する普通選挙制度の中で、政治家としての資質よりも知名度で当選する所謂『タレント議員』なんて物が横行していたし、『地板』『看板』『鞄』の三バンと呼ばれた物を持つ世襲議員が有利なのも事実だ。


 ソレが通ってしまうのは民主主義が『全ての有権者が君主足り得る知見を持つ』と言う絶対に有り得ない事が前提となっているからだろう。


 俺の頃には中卒で働きに出る者は割と珍しい存在になって居たが、親父の頃には『中卒は金の卵』なんて言われて地方から関東へ集団就職なんて言う事も珍しく無かった。


 そして俺達よりも少し下の世代に成ると、大学は行って当然と言う事になっていたが、大学も一から桐(ピンキリ)で就職予備校と言われる様な所は未だマシで、下手をすると義務教育で理解して無ければならない様な事を講義するなんて所も有ったと言う。


 一応は義務教育過程を卒業して、其処から更に五年も経験を積めば一端の人間としての知見は育つ……と言う前提なのだろうが、正直な所自分も含めて二十歳(はたち)になった時点で社会人として一人前の人間になったと断言出来る人間に成れたとは思えない。


 ある程度人間としてマトモな人材に成れたと思ったのは、大学を卒業した時でも公務員採用試験を突破した時でも警察学校を卒業した時でも無く、交番勤務時代に様々な事件で人間の汚い部分や後ろ暗い部分に触れ続けた後だった。


 中には自分はそうは成らない……と断言出来無い様な、不幸と不幸が重なった結果事件に発展した様な案件も有ったが、その殆は『後先考えない馬鹿』が起こした事件だった様に思う。


 そうした馬鹿にも平等に選挙権が有ると言う時点で、民主主義は何処かに歪みを抱えて居る制度なのだと思えてしまったのだ。


「はい! 凄く美味しかったです! 睦義姉様(おねえさま)の御料理もお母様やお栗小母様の作る物よりニ枚も三枚も上だったと思いますが、今日のコレはソレを更に一枚上手だったと断言出来る物でした」


 と、政治談義とか今の俺には余り性に合わない物を頭から追い出して、眼の前で口福を噛み締めて居るお連の笑顔に癒やされる。


 いや、仮にも大名家の子弟として(まつりごと)に関わる事柄を蔑ろにして良い訳では無いのだが、少なくとも他所の政治に顔を突っ込むのは違うだろう。


 俺一人がどうこうした所で内政干渉と言われる程の大事が出来るとは思わないが、余計な事に首を突っ込んで必要の無い騒動を起こすのも馬鹿らしい。


「すみません、お勘定お願いします」


 そう判断した俺は、さっさと食事代を支払って見世を出ると言う判断を下したのだが……


「兄者! 此の見世に来ていると聞いて居るが、猪河志七郎の兄者は未だ居るか!? 済まん力を貸してくれ!」


 そんな叫び声を上げながら、武光が見世の入り口の戸を激しく開いたのだった。

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