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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
狩りと術と子育て の巻

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百 志七郎、名画を眺め哨戒に立つ事

 天守に有った物はこれを写した物だと上様は言っていたが、これは明らかに別物である。


 絵師の腕や画材の差等ではなく、明らかに絵の質自体に差が有るのだ。


 天守に有ったアレが大和絵や浮世絵の様な日本画の風情でディフォルメを効かせて描かれているのに対して、此方の絵は西洋風の写実的なタッチで描かれており、人物一人ひとりがはっきりと描き分けられていた。


 だが、同時にこの絵が何故一般公開されずこうして封印されているのかも理解できた。


 絵の中の事とは言え傷付き苦しんでいる者達の姿があまりにも生々しく鮮明に描かれすぎているのだ。


 そして家安公を呼んだ女神の姿はなまめかしく、つややかで、あでやかに描かれていた。


 その面立ちには見覚えが有った、世界樹で俺に使命を課した『浅間』様に瓜二つに見える。


 身に纏っているのも薄衣一枚っきりなのもあの時見た彼女の姿その物である。


 向こうの絵では学ランらしき服を着ている事から十五、六だと思っていた家安公も、此方の絵では面立ちがはっきりと解るのだが四枚目の絵に描かれている姿は三十路絡みの様だ。


 まぁ俺の記憶が確かならば、学ランは西洋の軍服が大本のモデルだった筈なので、必ずしも若者だけが着る物とは言い切れないと思うのだが、やはりそこは前世まえの世界に置ける先入観があるのだろう。


 その他に気になる差異としては、家安公と共に戦う武士達の一部が人間では無く、犬や猫、猿の容貌をしている事だ。


 これはきっと山犬や猫又と言った一部の妖怪達もが家安公の下で戦いに参じた事を示しているのだと思うが、写し絵では何故わざわざ彼等を人間に描き変えて居るのか疑問が残る。


 彼等妖怪の顔も写真と見紛う程緻密に描かれて居るのだが、鬼気迫る形相で戦う彼等の姿は恐ろしい程だ。


 きっとまだまだ多くの差異があると思う、だが並べて見比べている訳でも無く、空気を入れ替えるために開けた小さな窓から入る光だけでは、これ以上の判別は難しそうだ。


「何を見ているのですか?」


 一人絵に見入っていた俺にそんな言葉が掛けられ、振り返るとそこにはお花さんが居た。


 午前中の作業では俺達同様に体格的な問題から、荷運びでは無く照合作業をするはずだったのだが、あの夜上様が打ち出した『精霊魔法使い育成計画』に絡んで、幕府上層部に呼び出されていたのである。


 どうやらその会合も終わり、此方の手伝いへとやって来たらしい。


「ここの天井に素晴らしい絵が有ると聞いていたので、それを見ていました」


 頭上を指差しながらそう返答を返す。


「家安(くん)の絵ね。話には聞いていたけれど、今はこんな所に押し込められてるのね」


 お花さんが以前この火元国に来たのは百年前、以後二十年間この国に滞在したがその間一度も江戸に立ち入る事は無かったらしい。


 だが彼女の口ぶりは家安公本人を知っている様な物言いだ。


 屋敷の書庫で読んだ歴史書に拠れば、家安公が幕府を開いたのが二百年前、そして彼が没したのは丁度五十年目の節目の年だったとされている。


 それを考えれば彼女が家安公本人と会ってるとは考えづらい。


「家安君って、会ったことでも有るような呼び方ですね……」


「あら? 知らないのかな? 彼が精霊魔法を学んだのは私のお師匠様、同門の姉弟子よ?」


 その話に拠ると、家安公が難喪仙なんもせんに師事していた頃、難喪仙は彼には武芸だけでは無く魔法も必要だと考え、彼を連れて優れた魔法使いを探すために世界中を飛び回っていたのだそうだ。


 そんな中で、まだ修行中だったお花さんとその師が出会った。


 彼はその時既に強い力を持った霊獣を連れており、あっという間に数多くの魔法を使いこなす様になったらしい。


 その中でも特に彼が得意としたのが四属性複合『時』属性の魔法で、それを使いこなしたからこそ火元国を救う事が出来たのだろう、とお花さんは言った。


「女神様の命を受け、彼をこの世界に導いたのがかの霊獣だったそうです。こと『時』属性の魔法に限って言えばドラゴンすらも凌駕する力を持っていました」


 ドラゴンと言えばファンタジー界最強の存在、それを凌駕するとなるとそれは一体どんな化物なのだろうか?


「百年前私がこの国に来たのは、嶄龍帝との契約は勿論、その霊獣を探すためでも有ったのですが、残念ながら空振りでした」


 座学では『時』属性はその名の通り『時間』を操る魔法であると同時に『空間』を操る魔法だと習った。


 あの火災の夜、俺達が天守へと移動したのも『時』の魔法の一つ『転移』の魔法だった。


『時』の魔法を使いこなす霊獣だというならば、家安公の死後いつまでもこの火元国に留まり続ける理由は無いだろう、それどころか生前だって必要な時に召喚すれば良いのだから、必ずしも常に一緒に居た保証も無い。


「竜よりも凄い霊獣ですか……。確かこの火元国には竜が居るから他の精霊や霊獣は居着かないのでは?」


「名前的にこの国の霊獣だと思ったんですけどね。もしかしたら東大陸の何処か別の場所の霊獣だったのかも知れませんね。『超時空泰猴ちょうじくうたいこう』殿は本当に何処に居るのでしょう」


 どうやら、あの絵に書かれた猿の武人が家安公と契約した霊獣らしい。




 それからもう暫くして、倉の中の掃除をするからと外へと俺達は追い出された。


 午後からは女性陣を中心に中の掃除をする者と、外で武具の手入れをする者に別れて行動するらしい。


 刀の手入れ位なら俺にも出来ると思ったが、脇差しや短刀ならば兎も角、刀の大部分を占める太刀の手入れをするには少々腕の長さが足りない。


 掃除をするにしてもやはり背の高さが足りず戦力外通告である。


「志七郎は義二郎の代わりに不埒な者が近づかぬ様周りの警戒をしておれ。其方の事じゃから解っておるとは思うが、誰かが来たら大きな声で誰何すいかするのじゃぞ」


 と、任された仕事は見回り番である、必要な仕事だし俺がそれを担う事で他の者が、他の仕事をする余裕が生まれる事も理解できる。


 なので俺は素直に一人、腰に刺した小刀に手を添えたままゆっくりと歩き出した。


 こうしていると前世でまだ制服を着ていた頃、事件の現場に張り巡らされたバリケードテープの前で立ち番をしていた頃を思い出す。


 あの頃はまだマスコミの取材も強引で、テープを潜ったり乗り越えたりと、強行突破してでもスクープをモノにしようとする記者も少なく無かった。


 そしてそういう連中を力尽くで排除しても、殆ど何の咎めも受けないそんな時期も有ったのだ。


 だが年々マスコミの力は強くなり、俺が刑事に成る頃には警察がマスコミに配慮をしなければ成らない時代に成っていた。


 それに比べてこの世界は武士であるというだけで圧倒的に強い立場に立てる、マスコミに当たる瓦版屋も存在しては居るが、彼等は強引な取材もしなければ、武士に取って都合の悪い事を書き立てる様な事も無い。


 下手を打てば、その場でズンバラリンとたたっ斬られて無礼討ちで御座る、で済まされる世の中で有る。


 無論、無礼討ちと言うのはそう簡単に認められる物では無いし、それが認められるには色々な条件が揃わなければ成らない。


 だがそれを知っているのは武士階級の人間だけで、それ以外の者達にそれらを知る機会は殆ど無い、故に一般の者達は武士を恐れるのだ。


 一部の武士を後ろ盾として、活動している瓦版屋が居ない訳でも無い。


 と言うか大半の瓦版屋は、多かれ少なかれどこかの武家の保護下に有ると考えるべきだろう。


 でなければ武家を揶揄する記事なんて危なくて書けたものじゃないはずだ。


 江戸城の宝物庫前と言う、不審人物が近づく可能性など殆ど無い場所での哨戒は、ただひたすらに暇で、俺はそんな事を考えて時間を潰すのだった。

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