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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
精霊溜まりと新たな契約 の巻

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千十三 志七郎、奥義を見て奥義を放つ事

 爆風に乗って飛ぶ様に大地を駆けだした彼女は何の迷いも無く一直線に、四つん這いのまま再び火の吐息(ファイヤーブレス)を放とうと口を開いた竜骨鬼の頭蓋骨へと突っ走って行く。


「奥義! ブラストスラッシャァァァアアア!!」


 間合いに入ると同時にそんな咆哮を上げ、脇に構えた斧槍(ハルバート) を下から上へと振り上げる共に烈風を纏って真上へと舞い上がる。


 竜骨鬼に対して直接攻撃魔法を叩き込んでも効果は無い、しかし彼女は自身に対して発動する魔法を用いる事で、氣を纏えずとも出来る事を為したのだ。


 物理系の耐性が『無効』や『反射』で無いならば、重さ×速さ=威力(運動量)の法則はそのまま適用される為、装甲や外皮の強靭さ故に大きな被害(ダメージ)を与える事出来ずとも質量を押し退ける事自体は不可能では無い。


 竜骨鬼全体をどうこうするには、リネット嬢の体重とソレ以上の重さを誇る防具を合わせても全然足りないが、二重に放った風属性……いや恐らくは風の二重属性である(つむじかぜ)か三重属性の(あらし)の魔法での加速を合わせれば頭蓋を跳ね上げるだけなら事足りる。


 問題はソレだけの速さに彼女の身体が持つとは到底思えないと言う事だろう、彼女はそれだけの覚悟を持って今の一撃を放ったのだ。


「うぉぉぉおおお! ぶっ飛べぇ!」


 女性が放つには少々雄々しい絶叫とは裏腹に、木刀と木刀で打ち合う以上に軽い乾いた木の枝でも叩いた様な音を響かせて竜骨鬼は大きく上へと仰け反った。


 その瞬間、肋骨と其の奥に禍々しい赫に輝く心臓の様な物が俺の目に入る。


 狙うべき場所は間違い無くアレだ!


 意識加速の中では脳と目の負担を軽くする為に『色』を認識するのを諦める事で、暗褐色(セピア色)の世界に身を置く事に成るのだが、その中でもはっきりと解る濃い赫はソレだけ濃密な妖氣の塊が其処に有るという事である。


 氣を一点に集中させた指先を真っ直ぐに其の赫の中心に向け、


「裸漢光殺法!」


 裸身氣昂法奥義の一を撃ち放つ。


 爆氣功で発生する膨大な氣を錬水業で学んだ効率の良い氣の運用で指先から一気に押し出せば、裸の里で学んで居た時以上の太く鋭い氣の光線(ビーム)が螺旋を描いて飛んでいく。


 意識加速の中だからこそ、その軌跡を見極める事が出来るが、通常の早さの中では着弾まで瞬きする程の間すら無い。


「GrrrRRRaaaAAAN!」


 裸漢光殺法は貫通力に優れた技で、氣で被害が通る対象が相手ならば群れに向かって打ち込む事で複数の相手を纏めて貫く事が出来る程の威力を持つ。


 しかしその大技を持ってしても竜骨鬼の(コア)とでも言うべきあの赫い玉は簡単に貫く事は出来なかった。


 其れでも日本を代表するあの怪獣の様な鳴き声を上げ、苦しむ様に首を左右に振る様子を見る限り、俺の放った氣の奔流は間違い無く被害を与えている様子である。


 とは言え奴が首を下ろして核が隠れてしまえば、頭蓋を貫通させて被害を通す事が出来るかどうかは解らない。


 故に俺は意識的に心臓を絞る様な心像(イメージ)で氣を一気に振り絞ると、放出される莫大な氣の勢いで身体が後ろへと吹き飛ばされそうに成るが、体軸と足腰にも氣を回す事で何とか姿勢を維持する。


 確実に被害は入っているし、このまま時間を掛けて核に光線を照射し続ければ掘削仕切る事は可能だろう。


 だが奴が首を戻せば頭蓋に阻まれて核まで光線を通すのは難しく成ると思われた。


 ゆっくりと流れる加速した視界の端で、奴の首を跳ね上げる事に成功したリネット嬢が受け身も取れずに地に落ちた姿が見える。


 あの状態を見る限り再びあの首を退かすのは不可能だろう。


 と成るとこれ以上時間を掛けるのは悪手だ。


 意識加速を切り、視力の強化も切り、全身の強化も順次切って行き、その分浮いた氣を全て指先から放たれる光線の出力に回す。


 足腰の強化や体幹の強化に使っていた氣も切り捨て、更に出力を上げるとそろそろ身体が振れ始めるが誰が手を添えて俺の背中を支えてくれた。


 振り返る余裕も無いので誰が其れをしてくれたのかを確認する事は出来ないが、吹っ飛ばされる心配が無く成ったならば、全ての氣を奴を貫くのに回す事が出来る。


 瘴気に満ちた土地……即ち精霊溜まりと言う場所は氣の素と成る物も濃い様で、一呼吸毎に肺へと入って来る空気に含まれているソレは普段よりも多く感じられた。


 ソレに気が付いたならば意識して何時もより多くの氣の素を肺や皮膚から取り込めば、光線の出力は更に上がる。


 丸で長距離競走(マラソン)を走り終えた後の様に、心臓の鼓動が激しく成り痛みすら感じるが、今は取り敢えずソレを無視して無理をするべき時だろう。


 螺旋を描いた氣の光線は穿孔機(ドリル)の様に少しずつ確実に核を削り取り穴を穿つ。


「Yeooooooooooooooow!」


 そして……断末魔と思しき苦しげな声を上げ、竜骨鬼の核は赫い輝きを失い燃え滓の様な灰色へと変化すると穿たれた穴を中心に罅が入り粉々に砕け散る。


 すると骨と骨を繋いでいて見えない『何か』も同時に崩れ去り、竜骨鬼を形成していた骨はバラバラに崩れ落ちて行った。


 無事討伐出来た事を目視で確認した俺は氣の放出を止めるが、全身の氣を全力以上の出力で放出した反動か、身体が重篤な風邪を引いた時の様に重怠い感覚を覚え、そのまま座り込む。


「火元国のサムライと言う者は、本当にあれ程の魔物(モンスター)をこの人数で討伐してしまうのか。(フォース)の才能を持つ者は我が祖国では珍しい故に、何処までの事が出来るのか知らなんだがあんな技まで有るとはな……所で貴殿は何故脱いだのだ?」


 そんな言葉に疲れ切った身体に鞭打って振り返ると、俺の背に手を差し伸べて支えてくれたのは、南方大陸からの留学生である騎士だと言う人物だった。


「おっと、疲れている所済まぬ、無理に答えずとも良い。その顔色を見れば貴殿が可也の無理をした事は容易に想像が付く。前衛に立った他のサムライ達も皆無傷とは言えぬ様子だし先ずは皆の手当が先決事項だな」


 南方大陸の騎士と言うとどうしてもイー・ヤン・ミーの様な、差別主義者と言う先入観が先に立つが、どうやら彼はマッカート王国の王子同様に比較的差別的な感覚の薄い方の様だ。


「どうやら蹴りは付いた様だな……他に魔物の気配は無い。リネット! 生きてるか!?」


 一時、目を閉じて周囲の気配を探ったブライアン氏がそう言うと、その場に居る皆の緊張が一気に弛緩した。


 とは言え、リネット嬢や前に出た中林殿達の傷の具合が解らない以上は、完全に安心するのは未だ早いだろう。


「お前様! 大丈夫ですか!?」


 蹴りが付いたと言う言葉を聞いてか、お連が俺の所へと駆け寄って来る。


「お連……大物は討伐出来たとは言え、此処は未だ戦場(いくさば)だ。お前には子供達を守る様に言って居ただろう。完全に安全が確保されるまであの子達の側を離れるんじゃない」


 息も絶え絶えな状態では有るが、一度は人の上で指示を出す立場に成った事が有る身として、お連にも役目を全うする意志を持って貰う為に注意の言葉を口にした。


「あ!? はい! 御免なさい!」


 自分が役目を放り投げてしまったと言う事に言われて気が付いたらしい彼女は、慌てた様子で謝罪の言葉を口にすると子供達の側へと戻って行く。


「あの()は君のフィアンセなんだろう? 君の今の状態を見れば気が気じゃなくなるのは当然の事だ。ソレをあんな風に無下にするのは男として頂けないかな?」


 彼女に聞こえない様に気を使ったのか、囁く様な声で南方大陸の騎士が女性の扱いに対して苦言を呈するが、


「彼女も幼いとは言え為政者側の人間ですからね。護るべき者を背にして居るのにソレを捨て置いて俺の所に来る様では困りますよ」


 騎士と言う貴族階級に有る者ならば理解してくれるであろう理由で其の言葉を否定する。


「成る程、確かにソレならば君の対応で間違って居ないだろう。ただ後からちゃんとフォローしておくんだな、女性ってのは往々にして根に持つ生き物だからな」


 煤けた表情でそう言う彼は、きっと女性で何か痛い目を見た事が有るのだろう。


「糞! こっちの骨は駄目だ、竜種(ドラゴン)の物とは思えない程に脆く成ってやがる」


 と、不意にそんな声を上げたのは、前衛の手当に行った魔法使い達の中であぶれたらしい一人で、竜骨鬼の素材を確かめに行ったらしい。


 文字通りの『骨折り損の草臥れ儲け』と言う様な感じの結果を聞き、只でさえ疲れた身体に更に重しが乗っかって来た様に感じるのだった。

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