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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
精霊溜まりと新たな契約 の巻

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千十 志七郎、精霊溜まりへと至り変化に気がつく事

 変異した兎鬼(とき)の亜種とでも言うべき存在の群れを、火元侍達と地元の魔法戦士ウィザードウォーリアーの活躍で無事に撃破した俺達は、兎鬼達の身に付けていた装備だけは剥ぎ取って精霊溜まりの奥を目指す事に成った。


 兎鬼と言う本来ならば此処に居ない筈の魔物(モンスター)との遭遇戦が有った事を鑑みて一旦引き返すと言う選択肢も有った。


 けれどもあの頭目兎鬼がこの奥から出てきた事を考えると、精霊溜まりに何らかの異常が発生して居ないとも限らない為、最低でもその確認をするべきだと俺を除く引率の魔法使い達が判断した為だ。


「と言う訳で隊列を変える。引率組を前にミスターイノヤマと子供達を最後尾に配置し最悪の場合は彼等を連れて逃げろ。火元のサムライ達が前衛戦力として十分以上の能力(ちから)が有るのは解ったが此処は我等に任せて引いてくれ」


 此処に居る面子で手に負えない様な『最悪』の状況だった場合には、引率の古参(ベテラン)魔法使い達が殿として抑えに残り、俺ともう一人の若手魔法使いが未契約組を連れて脱出すると言う話に成っている。


 ちなみに兎鬼から回収した仮定『ピアサ』の素材から雑に作られた装備品は、四煌戌の鞍に括り付けて有るが、万が一に逃走しなければ成らない状況に成った場合には捨てて逃げる事に成るだろう。


 自分の装備は自分で狩った獲物の素材で作る事が当たり前で、ソレをする事に強い拘りを持つのは火元国特有の文化で、外つ国では必ずしも自分で手に入れる事に拘らず、素材どころか武具自体を買う事も当たり前の事だと言う。


 火元国でも中古武具の市場が無い訳では無いが、ソレに手を出すのは比較的裕福では無い家の子に初陣の為の装備を買い与える為か、自力では装備を誂える事も出来ない癖に良い装備で見栄を張りたい馬鹿、若しくは海外への輸出品として買う商人達位である。


 だが例外として自分で手に入れた素材を使った物では無い装備を使っても後ろ指を指されない方法が一つだけ有る、ソレは倒した魔物が持っていた得物を戦利品として得た場合だ。


 今回俺達が手に入れた変異兎鬼のチョッキ(ベスト)は大きさ的にそのままで使う事は出来ないが、ピアサと言う竜種(ドラゴン)の革と言う強力な素材としての価値は有る。


 そして頭目兎鬼が手にして居たピアサの鱗をふんだんに使った杖は、そのままでも杖術の使い手や槍術の使い手が持てば、十分に強力な武器に成るだろう事は予想が付く。


 なので此れ等は兎鬼の討伐に命を張った侍達なので、先ず彼等の中に欲しがる者が居れば其奴に優先権が有り、誰も欲しがらなければ精霊魔法学会(スペルアカデミー)内で買い取り希望者を募り、更に其処でも全て捌け無ければで冒険者組合(ギルド)に卸す事に成ると言う。


 其の結果次第で前衛に立った者達には少なく無いだろう報酬が出る事に成るらしい、此の儘無事に全てを持ち帰る事が出来れば……だが。


「話は理解したが戦わずに引くと言うのは火元武士としては、出来れば避けたい所で御座るな。だが子供達を逃がす為に貴殿等が殿に立つと言うならば、其の気概に応えるのもまた武士の情けの内か……」


 火元国の武士は基本的に『戦わずに逃げるのは恥』だと考えるが『戦っても絶対勝てない相手』で『後ろに護るべき民が居ない』ならば逃げる事を厭う事は無い。


 今回の場合、初陣も済ませていない子供が精霊と契約を結ぶ為に同行して居た為、逃げる場合にソレを護衛する者が必要だからこそ、彼等も素直に引く事に同意したと言えるだろう。


 火元武士は俺も含めて基本的に血の気が多い生き物だからなぁ……と、そんな事を考えていると、


「良し進むぞ、彼奴等がこの先で何をして居たのかを調べねば成らん」


 古参の魔法使いが先頭に立ちそう言って、精霊溜まりの奥地へと向かい歩を進めて行くのだった。




 西から東へと抜ける大きな谷で有る西風の谷(ゼフュロスバレー)のほぼ中心辺りの脇道の先、地形の関係なのか其れ共精霊と言う存在の所為なのか風が吹き続け幾つもの小さな竜巻が渦巻いている広場へとやって来た。


「妙だな、パッと見た限りでは普段と変わった様子は無いが……いや風の中位精霊(シルフィード)は何処だ?」


 本来ならばこの場には無数の竜巻と戯れる様に、風の中位精霊である少女の姿をした精霊が居る筈なのだと言う。


 自由を司る風の精霊が常に此処に留まって居ると言うのは少々不思議では有るが、その辺は精霊の力が濃いこの場所でしか風の中位精霊が姿を表す事が出来ない為で、此処に出現するのは常に同じ個体と言う訳では無いらしい。


 だが精霊と言う物は基本的に個で有りながら全で有り、同属性の精霊同士は精霊エレメント通信網(ネットワーク)とでも言うべき物を通じて、契約や記憶に情報と言った物を共有して居るのだと言う。


 故に此処に出現する風の中位精霊は、来る度に違う姿の個体と出会う事に成るのだそうだ。


 しかし俺達が踏み込んだ時点で此処に其の姿は無い。


 数えるのも馬鹿らしい程の無数の小さな竜巻が渦巻いて居る事から、此処が風の精霊溜まりである事実は変わらない様だが、風の中位精霊が現界する為に必要な『何か』が可怪しく成っているのだろう。


 その原因はほぼ間違い無く奴等の頭目が何かをしたからなのだと思う。


「奴等、風の中位精霊を討ち取ったとでも言うのか? だが精霊には物理攻撃は効かぬし、イレース系の魔法でも一時的に封じる事は出来ても倒すには至らぬ筈だ。喰われたならば此処はもう精霊溜まりとしての体を為していない筈だし……どうなっているのか」


 その辺はお花さんの授業でも習ったが、精霊と言うのは基本的に不滅の存在で有り、精霊魔法でも神仙の術ですらも消滅させる事は不可能だと言う。


 例外が有るとすれば極々一部の強力な魔物が持つ妖術の類で、其奴等は精霊を喰らう事で其の土地を世界樹の神々の管轄から、自分達の神の管轄へと書き換えるのが目的だと習った覚えがある。


 けれどもあの兎鬼達がソレをした様子は無かった。


 何故そう言い切れるかと言えば、精霊を喰らった魔物は通常の個体よりも遙かに大きく強大な能力ちからを得て、名前持ち(ネームド)と呼ばれる様な存在よりもずっと強力な魔物へと進化するのだ。


 少なくとも彼処で戦った兎鬼の頭目は精霊を喰った者としては其処まで強い存在では無かったし、古参の魔法使いで怪盗(ファントム)職業(ジョブ)を持つブライアン氏の言葉通り、喰われたならば此処の風は弱まって居る筈である。


「……翡翠、何か変な臭いは無いか?」


 ブライアン氏の索敵能力は四煌戌のソレを越えているが、だからと言って彼の嗅覚が犬のソレを越えていると言う訳では無い。


 なので四煌戌の三つ首の中で最も臭いに敏感な翡翠ならば、彼が見落として居る何かを見つける事が出来るかもしれないと思いそう声を掛ける。


「……クンクンクン、ばふ、わうおーん!(臭いある、彼処さっきの兎臭い!)」


 翡翠が鼻先で指し示した先には目立った何かが有る訳では無かったが、氣を目に集中し良く目を凝らして見れば一度地面を掘り返した様な痕跡(あと)が見て取れた。


「ミスターブライアン! 此処、掘り返した痕跡が有ります。そしてウチのが兎鬼の臭いが残ってるとも言っています」


 優れた斥候でも有るブライアン氏が気が付かないのも無理は無い……なんせ其の痕跡は、有ると解った上で思いっきり氣を注ぎ込まなければ、俺も見極める事が出来ない程に綺麗に埋め直されて居たのだ。


 しかも此処は幾つもの竜巻が渦巻く精霊溜まり、見た目だけでコレを見抜くのは無理だと断言しても良い。


「確かに何かを埋めた跡が有るな……掘り返して見る必要が有るが、万が一が有る契約志望者は下がって居てくれ。ミスターイノヤマは何時でも引ける様に微風結界(ブリーズバリア)を絶やすなよ!」


 此処は谷間の様に唐突な突風は吹かないが、万が一にも引かねば成らない状況に成ったならば、谷に戻ってから掛け直す様な余裕も無いだろうし、今の段階で維持して置くのは間違った判断では無い筈だ。


「大地に宿りし黄色の精霊よ……」


 俺が微風結界を張るのを待って、ブライアン氏は土属性の精霊魔法を唱え始めるのだった。

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