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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
精霊溜まりと新たな契約 の巻

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千八 志七郎、想定外を見て戦術論に感心する事

「覇ぁぁぁあああ!」


 先頭に立ち接敵した中林殿が裂帛の気合と共に太刀を振り下ろす。


 抜いた刀は西風の谷(ゼフュロスバレー)に突入する前に自慢していた火属性の物では無く、もう一本の……恐らくは単純に丈夫で鋭い刀の方の様だ。


 兎鬼の優れた聴覚に依る索敵範囲の外から一気に近付いて、仕掛けた不意打ちで見事に手近な敵を一刀両断の唐竹割りに切り裂いた。


 残念ながら奴等の頭目と思しき杖持ちの兎鬼は奥まった位置に居る為、先制攻撃で先ずソレを仕留めると言うのは難しかったのだろう。


 けれども中林殿に続いて切り込んで行った者達の手で、兎鬼は一撃一殺を確実に繰り返し更に返す刀でもう一匹ずつを仕留めて行く。


「なんでぇ! 魔法が効かねぇ可能性が高いってだけで、此奴等普通の兎鬼と変わらねぇじゃねぇか!」


 熟練の魔法使い達が尻込みする状況に切り込む彼等の中には、それ相応の不安が有った筈だ、しかしソレが杞憂だったと感じたらしい侍の一人が笑い声を上げると共にそんな感想を口にする。


「戯け! 気を抜くな! 勝って兜の尾を絞めよ! 残心を忘れれば首を取られるで御座る!」


 勝利が決まった訳でも無いのに気を抜いた様な其の態度に対し、直ぐに中林殿が怒声を上げて叱りつける。


 事実、未だ無事な兎鬼は快哉の声を上げた者の首を狙い手にした刃を振るって居り、中林殿の忠告が無ければ即死攻撃(首を刎ねる)の餌食に成っていた可能性は可也高かった。


「よし! このまま円陣を組んで互いの死角を潰し、少しずつ確実に数を削って行くで御座る! 兎鬼の群れを相手にする基本戦術通りにやれば大丈夫の筈では有るが……あの親玉が妙な動きを見せないか注意を忘れるな!」


 (レベル)が高いと言う事がそのまま強さと等号(イコール)で結ばれる訳では無いが、年齢以上に経験を積んだ証として格の高い者は何処の国でも歴戦の戦士として尊重される。


 中林殿の格百十八と言う数字は長命種だとしても長い時を重ねた結果行き着く程の物で、彼の様に誰もが若くして辿り着く事が出来る程簡単な数値では無い。


 俺の百八だって一体何回死ぬ程の修羅場を潜ったかも解らない様な、死神さんの加護を持つ者であるが故の試練の結果であって、彼の様に『自主的な鬼切りを重ねた結果』で届く者は極々稀だろう。


 なんせ家の兄弟で一番の武闘派で武神の加護を持つ義二郎兄上ですら、その格は百を遥かに下回る八十代だと聞いてる。


 この世界で格と言う物は単純に戦闘を繰り返したからと言って上がる様な簡単な物では無い、逆に実戦を一切経験する事無く稽古を積み重ねるだけでも格は上がったりもするのだ。


 大事なのは『経験』を積み『技術を身に付ける事』だと言う。


 基本的にこの世界に産まれた生き物は、産まれた瞬間は格が零で生きる為に積み重ねる無数の経験だけでも十に届かない位の数値までは達するのだ。


 けれども其処から先は積極的に技術を磨く為の稽古を積み重ねたり、実戦に身を投じる事で『命の危険と言う経験』を積む事で格は高まって行く。


 では何故俺の格は百を越え義二郎兄上が其処まで至らないのかと言えば、兄上は武神の加護として生まれ持った戦闘系の技能と身体能力が異様に高い所為で、生半可な戦場では経験にすら成らないからだと言う。


 要するに『最初の街』周辺で只管『雑魚狩り』をし続けるだけでは、この世界で高い格を得る事は出来ないと言う事だ。


 俺の格が常人よりも遥かに高い数値なのは、界渡りや危険指定妖怪討伐の様な並の者では突破する事すら難しい様な様々な偉業としか言い様の無い『経験』の結果で、そうした下駄とでも言う『特別』無しで俺を超える数字を叩き出して居る中林殿は一種異常と言える。


 火元国から此方へと来る船旅の最中、彼の格の高さを知った多くの者がその秘訣に付いて色々と聞いて居たが、其の答えは唯一つ『出来るだけ多くの様々な鬼や妖怪と戦い経験を積む事だ』との事だった。


 恐らくソレは嘘では無い、彼は堅実に稼げる鬼や妖怪を狩るのでは無く、未だ戦った事の無い鬼や妖怪を狩ると言う事を積極的にやってきたのだろう。


 そして彼は大名家の子弟では無く幕府重臣家の子の為、江戸州を出ては行けないと言う縛りは無く、他藩に有る高難易度とされている戦場へと出かけて行ったに違いない。


 何処まで行った事が有るのかまでは聞いて居ないが、恐らくは同年代の『若手』と呼ばれる範疇の者達の中では、間違い無く抜群の経験を積んで来た男で有る事は間違いない筈だ。


 きっと彼に任せて置けば不測の事態が置きない限りは兎鬼の群れ程度に誰かが首を取られる様な事は無い……そう思った時だった。


「我等ガ信奉セシ偉大ナルうぇねとヨ……其ノ御身ニ宿セシ祝福ニテ、我ガ同胞(ハラカラ)ヲ救イ給エ……」


 杖を手にした兎鬼が歌う様な口ぶりで、そうした意味合いの言葉と思しき物を口にしたのだ。


 ソレは火元語でも西方大陸(フラウディア)語でも無い俺の知らない言語だったが、そう歌って居るのだと頭の中に直接意味を響かせる様に聞こえたのだ。


 すると……切り倒された筈の兎鬼の大凡半分が、何もなかった彼の様な状態で立ち上がり、手にした刃を火元武士達に向け振りかざした。


「不味い! シャーマンじゃぁ無くてプリーストか!? ボーパルバニーにプリースト個体が居るなんて聞いた事も無いぞ!」


 異世界からこの世界へと攻め入る尖兵である魔物(モンスター)は、例外無く異世界の神の信徒である。


 だが神の奇跡を代行する事が出来る神職に当たる個体が、直接この世界へとやって来る例は極めて稀だと言う。


 火元国や西方大陸だけで無くこの世界のほぼ全ての場所に出現する魔物で、最も数多くの亜種の存在が確認されている小鬼(ゴブリン)ですら聖歌を使う個体の目撃例は殆ど無いのだ。


 ソレは恐らくは異世界の神々にとっても自分達の信徒を導く存在である神職の者は貴重な人材で有り、早々簡単に使い捨ての尖兵にする事は出来ないと言う事なのだと思う。


「知恵を持つ鬼で有る以上は妖術だけで無く精霊魔法を使う個体も居るのだ、ならば神職に就く者が居ても全く不思議は無い。慌てる必要なぞ無いぞ、神職が敵に居る合戦の話は戦国の頃には幾らでも有ったで御座ろう!」


 慌てて声を荒げる古参の(ベテラン)魔法使いと違い、落ち着き払った様子で立ち上がった兎鬼を切り捨てる中林殿。


 彼の言葉通り火元国に無数に残って居る軍記や戦記の類には、同じ火元国の民でありながら信奉する神が違うと言う理由でいくさをしたと言う記録は幾らでも残っている。


 特に戦国と呼ばれた時代には六道天魔とその配下の者達が行使する、異世界の神々の権能(ちから)が猛威を振るったと言う。


 と言う事は当然、其れ等を相手に戦う戦術なんかも残されていると言う事である。


「……敵陣での戦闘心得其の一!?」


『敵陣での戦闘心得』ソレは志学館に通う者ならば誰しもが習う戦場での戦術論の一つだ。


 其の一は確か……


「そうだ! 雑魚に構わず頭領(あたま)を潰せ! 拙者が斬り込み道を作る! 万が一の事が有っても気にせず草攻剣を仕掛け奴を倒せ! そうすれば残りは只の兎鬼の群れに過ぎぬで御座る!」


 円陣を組んで少しずつ削り倒すと言う戦術は瓦解したが、其れで素直に落ちる程火元武士の士気は低く無い。


 自分が犠牲に成る事も覚悟の上で、中林殿は神職兎鬼までの道を切り開くと宣言し、其の後は連携して確実に奴を仕留める様に指示を出す。


 ちなみに草攻剣と言うのは、向こうの世界で幕末に新選組が使ったとされる戦術の一つで、

 死番と呼ばれる先陣を切る者が一人を相手に斬りかかり、仕留め損なったならば間髪入れず次の者が斬りかかり、更に失敗してももう一人……と連続で仕掛けると言う物だ。


 死番の一撃を躱したり受けたり出来ても体制を崩すのは間違いないし、体制を整え直す前に次々と攻撃を仕掛ける事で確実に命を取る、極めて殺意の高い戦術である。


「士道とは信念に死ぬる事と見つけたり!」


 そう雄々しい叫び声を上げながら中林殿は、目に見える程の濃密な氣を迸らせ神職兎鬼の前に立ち塞がる兎鬼達を一撃で薙ぎ払うのだった。

今週末は遠征しなければ成らない用事が有る為、次回更新は26日月曜日深夜以降と相成ります

度々の更新延期を繰り返し申し訳有りませんが、ご理解とご容赦の程よろしくお願い致します

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