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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
精霊溜まりと新たな契約 の巻

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千七 志七郎、竜種を知り作戦を練る事

 ピアサ……ソレは此のワイズマンシティ近隣に出現する魔物(モンスター)の頂点とも言える存在である。


 その体と四本の脚は分厚く堅牢な赤、黒、緑に輝く鱗に覆われ、背中には巨大な翼を持つ竜種(ドラゴン)に分類される物の中では比較的小型で倒しやすい部類に入る存在だと言う。


 とは言え、ソレを狩る事が出来るのは極々一部の上澄みと言っても良い様な実力者だけで、此の周辺に出現する中でも雑魚と言って間違いない兎鬼(ボーパルバニー)如きがマトモに戦って倒せる相手では無い。


 だが……奴等にはその実力差を覆しうる『即死攻撃(首を刎ねる)』と言う特殊能力が有る。


 兎鬼や忍者系の能力者の持つ即死攻撃と言う能力は、俺達の様な剣士が物理的に相手の『首を斬る』のとは違い、首と言う部位に攻撃が通れば『首を刎ねた』と言う結果を押し付ける『因果を逆転』させる超常の異能(ちから)だ。


 故にどんなに優れた冒険者でも奴等を相手にする時に油断すると、実力差なんぞ関係無く命を奪われる可能性は(ゼロ)では無い。


 禿河(とくがわ)幕府次期将軍と言う立場が内定していた武光の父親は、当然相応の実力を持つ武士で有り全うに戦えば江戸州に出現する程度の鬼や妖怪に遅れを取る事は無かった筈だ。


 にも拘らずその生命(いのち)を散らしたのは、兎鬼を雑魚と侮り一人で群れへと突っ込み、物の見事に其の首を刎ねられたと言う訳で有る。


「ピアサは風を含め様々な属性に対する高い抵抗力を持っているが、即死無効の能力は無く、流れのニンジャが首を刎ねて仕留めたと言う話も有った筈だ。ならばボーパルバニーがソレをした可能性が絶対に無いとは言い切れない」


 人里近くに出現する竜種であるピアサは比較的温厚な魔物で、連中の縄張り(テリトリー)に入らない限り自分達から人間を襲う様な事例は殆ど無いらしい。


 討伐して手に入る素材は割と優秀な属性相性を持つ為、討伐需要が全く無い訳では無いが、その強さに見合うかと言えば微妙な所だそうで、一撃で倒す事が出来る高(レベル)のニンジャが時々狙う程度だと言う。


 そして何よりも多くの冒険者が奴を狙わない最大の理由は『肉が不味い』と言う事にある。


 基本的に『強い魔物は美味い』と言うのが此の世界の普遍的な法則なのだが、ソレは『同系統の魔物の中で比較して強い』場合に美味いのであって、竜種としては最弱と言えるピアサは『食おうと思えば食えるが好んで食う物では無い』と言う程度には不味いのだ。


 故に魔物も態々ピアサを狩る様な危険(リスク)の高い真似を普通はする事は無い……筈である。


 にも拘らずあの兎鬼達がピアサを狩ったとしたならば、奴等は自分達の防具を強化すると言う明確な目的を持ってソレを為したと言う事だろう。


「シャーマンかキングかは解らないが、音頭を取って竜種をどうにかする士気を保つ事の出来る統率者が居るのは間違いないな」


 見る限り奴等は革製のちゃんちゃんこ(ベスト)を揃って着ているが、ピアサの特徴で有る三色の鱗を身に着けた個体は見当たらない。


「いや……精霊溜まりの奥から出てきたぞ、杖を持っていると言う事はシャーマンか? だが王笏の様にも見えなくも無いしキングの可能性も有るな、何方にせよピアサを倒した群れなのは間違いないな」


 ワイズマンシティでも上から数えた方が早い格を持つ怪盗(ファントム)であるブライアン氏の言う通り、東側へと通り抜ける道から外れた脇道の奥からピアサの物と思われる三色の鱗をふんだんに使った杖を手にした兎鬼が姿を表した。


「兎鬼の即死攻撃が通るって事はピアサの素材で作った防具は物理系には耐性は付かないって事だよな? なら俺達火元国の者達が切り込み、打った斬って来るってのはどうだい?」


 腰の物に手をやりそんな事をブライアン氏に向かって提案したのは、火元組の中で最も格が高く家格も高い中林殿である。


 他の者達も魔法使いとしては初心者未満の戦闘力しか無いが、武士として武器を持って戦うならば魔法戦士ウィザードウォーリアーのリネット嬢よりも上なのは間違いないだろう。


「想定外の遭遇故に引くと言う選択を俺としては押したい所だが……Mr.中林はレベル百十八のサムライだと聞いて居る。そのレベルまで到達した者が切り込むなら、先ず負ける事は無いだろう。抜刀を許可する、パートナーは後ろから微風結界(ブリーズバリアー)で支援だ」


 斥候役としては無用な危険を犯すのを是としたくは無いのだろうが、彼から見ても格上に当たる中林殿の提案は分の悪い賭けとは思えなかった様だ。


「一寸待って! 前衛戦力が必要な状況なら留学生だけに頼る訳には行かない! 私も前に出るからブライアンは私の代わりにこの子を守って上げてくれ!」


 そしてソレに異を唱える……と言う訳では無く、戦士系の職業(クラス)に就く者として後ろで黙って見ているのを良しとしなかったらしいリネット嬢も斬り込み隊への参加を申し出た。


「……拙者等としては構わぬが、斯様な重そうな鎧に身を包んで居て拙者等の脚に付いて来る事が出来るで御座るか? 兎鬼狩りは死角を作らぬ様に皆で陣を組んで仕掛けるのが常道故、余り遅いと困るのだが?」


 火元国の武士は氣を纏う事が出来るのが当たり前で有り、どれ程重装備をして居ても気にする必要が無い程に身体能力を強化して戦う事が出来る。


 対して魔法戦士であるリネット嬢は身体能力と言う点では、只人と変わらず純粋な武芸と魔法を組み合わせる事で戦う者の筈だ。


 彼女が身に纏っているのは全身金属製の板金鎧(プレートメイル)で、氣を纏う事が出来ない女性が身に付けていると考えれば鈍重そうに見えても不思議は無い。


「微風結界を他の者に任せる事が出来る状況だし、風纏いの歩み(ウインドウォーク)で素早さを底上げすれば足手纏いに成る事は無い筈だ」


 風纏いの歩みは『歩み』と名が付いては居る物の、実際には風の精霊を身体(からだ)に纏う事で俊敏性を引き上げる事が出来る魔法で有る。


 身体能力強化系の魔法は基本的に重ね掛する事が出来ず、ソレを自分に掛けている状態では他の魔法を使うのが難しい為、魔法戦士がソレを使うのは余り一般的とは言い難いのだが……彼女は何方かと言えばソレを使って物理で殴る戦闘方法(スタイル)を好むらしい。


 ちなみに得物は背中に背負った斧槍(ハルバート)と腰に下げた幅広の剣(ブロードソード)を状況に応じて使い分けている様で、今回は火元武士に合わせて腰の剣を抜いている。


「俺は今回の仕事では余程の事が無い限り刀を抜いては成らないとお花さんに指示されているので後衛に回りますよ」


 火元組で上から二番目に高い格を誇る俺としては、刀を抜いて突っ込みたい所では有るが、今回はソレをお花さんに禁止されているので、他の魔法使い同様に後ろから微風結界の維持を担当する事を申し出る。


「お前様……(つらね)は前に出て戦って来ても良いですか? 兎鬼は即死攻撃にさえ気を付ければ十分倒せる相手だと聞いて居ますし、何よりも……美味しいんですよねアレ!」


 兎鬼はピアサとは逆に『弱い癖に美味い魔物』の代表格と言っても過言ではない存在で、其の肉は『ぬっぺふほふ』と言う肉塊の魔物程では無いが、産後の肥立ちによく効く精の付く食材の一つとされている。


「いや、今回はお連の参加は認めない。他の者達が皆刀や剣を得物にして居る中で一人だけ鉞じゃぁ陣形維持を困難にさせるからな。それに今狩っても岩礫と同じ様に剥ぎ取りなんかして居る余裕は無いから美味い肉はまた今度な」


 氣を纏う事を覚え運用に関してもある程度教え終わって居る以上、兎鬼相手に遅れを取るとは思わないが、即死攻撃を持つ奴等を相手に油断して良い理由は一つも無い。


 ソレに他の者達がきっちり陣形を組んで互いの死角を殺して挑む以上は、比較的大味な攻撃を多く成る鉞術の使い手で有る彼女は参加させない方が良いだろう。


「……解りました、自重致します。皆様ご武運を」


 少しだけ剥れた風に頬を膨らませてから、一つ溜息を吐いたお連が前衛組にそんな言葉を投げ掛ける。


「良し! 全員抜刀! 切り込むぞ!」


 そんな俺達のやり取りを、微笑ましい物を見たと言わんばかりの生温かい笑みを浮かべて見つめた中林殿は、鯉口を斬ると同時に真剣な表情へと変わり周りの者達に対して号令を下し、


「「「「応!」」」」


 他の侍達+一名が雄々しくそう応え、駆け出して行ったのだった。

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